これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、なにかとブラックボックスの多い「キャリア」。
ONE CAREER PLUSがお送りする「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からない職種のリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
インサイドセールス(以下、IS)編第6回のゲストは派谷翔太さん。デル、セールスフォースといったトラディショナルカンパニーで10年以上ISを経験した後、現在は国内スタートアップで事業開発に従事する派谷さんのキャリアから、IS経験が他職種にどう活きるのかを紐解きます。


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コールセンターと勘違いして落胆?ISとの出会い
石川:派谷(はたちや)さんのこれまでのキャリアを簡単に教えてください。
派谷:新卒では大手SIer企業に入社し、4年間営業を経験しました。その後2011年にデルに転職し、ISの仕事と出会います。デルでは約7年間、ISやITコンサルに近い業務も経験した後に、キャリアアップを考え2018年にセールスフォースに入社しました。
セールスフォースにてISのBDRに3年間従事した後、仕組みづくり・組織づくりに携わりたいという想いから、2021年に現職のセーフィーに入社しました。現在はフィールドセールスと新規事業開発を行っています。
石川:ISとの出会いはデル時代とのことですが、当時はISを意図して転職したのですか?
派谷:全く意識していませんでした。実をいうと入社初日は、インカムをつけた社員がずらっと並んで喋る光景を目にして、「コールセンターに来てしまった」と後悔したほど、ISをよく知らない状態でした。(笑)のちに7年間かけて、ISの活動やバリューの出し方を学び、その価値観はひっくり返されていきました。
石川:デルからセールスフォースへの転職理由についても教えてください。
派谷:ソフトウェアの世界に身を置いて学び直したいという考えがあったからです。
デルのインサイドセールスは、問い合わせ対応から、提案、クロージング、PCやサーバーの納品といったことまで一気通貫で担当しますが、私は途中でITコーディネーターの資格を取得してお客様にコンサルティング業務も行うようになりました。
お客様の経営課題に対峙するようになると、「ハードウェアメーカーであるデルでは、提案がどうしても自社製品に限られてしまい、お客様の期待に応えることができない」というポジティブな気づきがあったのです。
ソフトウェアの中でもセールスフォースに入社したのは、営業経験が長い身として企業の売上向上に貢献できるバックオフィスツールを考えていた際に、ご縁をいただいたからです。
仕組みの中で働く側から、仕組みを作る側へ。スタートアップへの挑戦
石川:その後セーフィーに転職を決めたのは、どのような経緯があったのでしょう。
派谷:SIerやセールスフォース、デルでは、完成した仕組みの中で働いていました。しかし、ここ数年スタートアップ市場が盛り上がっている中で、「自分が実際に仕組みをつくる」方に携わりたいという思いが強くなったのです。
スタートアップの中でもセーフィーを選んだのは、目指す世界観への共感したことと、私の過去の経験を活かして事業成長に貢献できそうと感じられたからです。セーフィーの第一印象はいい意味で「全く完成していない会社」で、例えばマーケティング、IS、FSの機能が明確に分かれておらず体制構築もまだこれからという状態でした。
私のIS10年間の知見と、マーケティングやフィールドセールス、カスタマーサクセスを繋いでいった経験を活かして、組織作りで貢献できるのではないかと考えたのです。
石川:入社後はどのような業務に携わってこられたのでしょう。
派谷:最初の1ヶ月ISを経験したあとは、半年間マーケターとしてリードマネジメントの仕組みづくりを行った後、現在はフィールドセールスと新規事業の立ち上げに携わっています。
新規事業の事業開発セールスとして日々顧客と向き合う
石川:セーフィーにジョインして、ISからキャリアの幅が大きく広がっている印象です。現在携わっている新規事業についても教えてください。
派谷:セーフィーは、「映像から未来を創る」をミッションに、映像データをクラウド上でAI分析できるプラットフォームを提供していますが、新しく顔認証事業をリニューアルしています。私はその顔認証事業の専任で、唯一の営業担当として企画立案、追加導入の営業活動などを行っています。
石川:これから世に出るプロダクトのセールスとしての難しさや醍醐味はいかがですか?
派谷:「お客様が欲しいと思っていること」と、「私たちがこれがあったらいいなと思うこと」が合致する瞬間を味わえるのはとてもワクワクしますし、醍醐味のひとつです。
ただ気を付ける必要があるのは、お客様のニーズを考え抜いてしっかりと捉えないと新規事業は成り立たちません。ヒアリングの際はこの点を特に注意しています。
石川:セールス担当は派谷さんおひとりということもあり、お客様に対して壁打ちをする部分も、それをプロダクト側にフィードバックする部分も含めて、派谷さんが担われていると。実際はほぼ「事業開発セールス」といってもよいのでしょうか。
派谷:そう思います。そういった意味でも、個人的にはやりたかった夢が叶ったと言えますね。

デルのオンラインセールスとセールスフォースのBDRの違い
石川:ここからは企業ごとにISに求められるスキル・役割はどう違うのかを伺います。まず、デルとセールスフォースではどのような違いがありますか?
派谷:ISの職種は大きく「SDR」と「BDR」と「オンラインセールス」の3つに大別されるので、この分類に沿ってご説明していきますね。

まず、デルのISはオンラインセールスに近い形でした。オンラインセールスは、一般的には、電話や手紙・メールといった非対面の手法で商談の機会を発掘・クロージングし、カスタムケアまで担当します。
オンラインセールスの最大の魅力は、お客様に最後まで寄り添える点です。しかし、デルではISが担える商談のアポに制限があり中小規模の案件しか携わることができません。その代わり、技術営業のチームと組みながら大規模企業にアプローチするためのハブになる役割も担います。
中小規模の案件をクロージングしながら、大規模なお客様には時間をかけて「司令塔」としての役割を担うのがデル式のオンラインセールスといえます。
一方、セールスフォースのBDRでは、生きた商談の機会を発掘・創出することをミッションとし、商談のクロージングやデリバリー、納品サポートにはタッチしません。明確に分業化されているだけでなく、お客様の業界、会社、部署や人までしっかりとターゲティングした上で活動する点が特徴です。
デルのオンラインセールスでは見込み顧客が無数に存在していたのに対し、セールスフォースのBDRは、これまでタッチしていないお客様に対してアウトバウンドを中心とした活動、かつメールのアプローチであるため活動できる領域・回数が制限されています。
「このアプローチに失敗したら、向こう1~2年はこのお客様にアプローチができないかもしれない。」といったプレッシャーの中で、お客様にささる言葉や、提案の価値を認めてもらいやすいアプローチを考え抜く必要があります。
お手紙一通であっても、お客様の情報を下調べし尽くして、お客様よりもお客様に詳しい状態を目指すところが、BDRの大きな責務であり成功の秘訣です。
石川:商材がハードかソフトかによって違いはありますか?
派谷:お客様に対する分析の仕方や仮説構築の重要性は大きく異なると思います。例えばデルでは、お客様から持ち運べるタイプのパソコンをくださいといわれて、真っ先に思い浮かぶのはノートパソコンやタブレットです。営業として、目の前のお客様の裏事情を深掘りする必要がありません。
一方でセールスフォースでは「お客様がなぜそれを必要なのか」「どんなイメージをして最終的に何になりたいのか」もしくは「今どんなことが起こって何を解決したいのか」まで聞かないと製品の答えが見えません。お客様自身も何がやりたいのか形にならない状態で、ご相談をいただいているので、それを営業が仮説をたてて提案する必要がありましたね。
オンラインセールス/SDR/BDRに向いている人は?
石川:オンラインセールス、SDR、BDRとISの3分類について教えていただきましたが、それぞれどんな方におすすめですか。

派谷:まず、第二新卒の若手や営業初挑戦など、営業としての経験を加速度的に積み上げたい人には、ぜひオンラインセールスやSDRを経験いただきたいです。
面でのアプローチや見込みからお客様のフォローアップをメインとするオンラインセールスやSDRでは、踏める場数が多く、短期間で経験値をあげることができるからです。お客様に直接会うことはありませんが、電話やバーチャルでの商談機会は1日に30〜40件はできます。
一方でBDRに向いているのは、情熱を絶やさず粘り強くアプローチできる方です。アプローチができる数が限られる中、お客様の業界、企業、部署、担当者のことを考えに考え抜いて何度もアタックし続ける気概を持っているとBDRで成果も出しやすいでしょう。
また、すでにISのほか職種を経験している方や、THE MODEL分業におけるフィールドセールスやマーケティングを経験している方にも一度キャリアの中でBDRを挟むことはおすすめです。なぜならBDRを経験することで、「マーケティングはどんなリードを生み出すべきか」「どんなふうに温めればフォローアップがしやすくなるのか」ということが想像しやすくなるからです。

BDRでお客様のことを考え抜く経験が、ターゲティングに活きる
石川:オンラインセールス、BDRも含めたこれまでの経験が、セーフィー入社後のマーケティングやフィールドセールスにどんな形で生かされてきたか、もう少し教えてください。
派谷:まずマーケティング職種を担えたのは、セールスフォースで経験したBDRのターゲティングのおかげだと思います。お客様に合わせて、どんな仕掛けで問い合わせをゲットできるのか、あるいはすべきなのか。仮説構築はもちろんですが、どんなお客さん、どの職業の方々に私たちのどのような発信が効くのかといった考え方が活きています。
「メールを送る」単純な作業のように思えるかもしれませんが、いつどんなタイミングだったらこの職種の方々はメールを開くのか。メールを開かない場合はどうするのかまで考えが及ぶのは、リードを受け取ったISの立場だったからこそ想像できたのだと思います。
実際に自社では、「このサービスはどんな人のなんの課題を解決するのか?」「これを喜んで買ってくれる方はどんな人か」を想像してターゲティングをまず決める。ターゲティングができたらあとは手法を決める、というように仕組みを作っていきました。
石川:toBのマーケティングですと、ターゲティングより先にチャネルが第一想起されるイメージがあったのですが、確かに「誰にどんな感情を抱いてもらうか」を先に明確にすれば、チャネル選択も容易になりそうです。
心の傾聴力を鍛えた結果、フィールドセールスがより効率的に
派谷:他にも、ISの経験が活きたのはフィールドセールスでの商談の際です。私自身はISを経験したことが、フィールドセールスでの生産性向上に寄与していると感じています。
石川:どういうことでしょう?
派谷:IS時代は基本的にお客様の姿が見えない中でのコンタクトだったため、しゃべり方ひとつとっても「この第一声でラポール構築をしなければ」ということを10年ほどずっと意識していたのです。
対して、フィールドセールスでは対面でお客様と対峙するので視覚情報も加わります。「自分の提案が相手にささっていそうか」「本音でしゃべっているのか」といったことをお客様の様子を見ながら理解できるので、よりお客様の心情を捉えやすくなったのです。そうすると、お客様のリアクションを加味した先回りの提案ができるので、スピードが生まれます。
石川:耳からの情報だけでアポ獲得に励んでいたからこそ、フィールドセールスで情報量が増えたことでスムーズになったんですね。ISはよくフィールドセールスへの登竜門として位置付けられますが、今のお話しを伺うと、逆にISにはお客様の心をつかむ難しさがあるように感じました。
派谷:おっしゃる通り、ISはお客様との会話の中で、話の「裏側」をきちんと読み取らないと成績が出せない難しさがあります。ただ限られた耳からの情報だけで、お客様の本音を理解しようとする、「心の傾聴力」はフィールドセールスで活躍する際に必ず役に立つはずです。心の傾聴を鍛えられるという意味でも登竜門といえると思いますね。
石川:なるほど、ありがとうございます。最後に、ユーザーの皆さんへメッセージをお願いいたします。
派谷:ここまでお話した通り、私自身10年に及ぶIS経験からキャリアを広げることができたので、ISを経験することは非常におすすめです。
ネクストキャリアの間口が他職種に比べて広くなりますし、ビジネスの勘所およびそのビジネスの基本的なマナーを一から学べるところもやはり登竜門であり、特にセールス未経験者には有効なキャリアパスです。
一方で、ある程度セールス経験を積まれた方にも、あえてこのISに飛び込んでいただきたいなと思っています。ビジネスシーンの中でマーケティングや営業、フィールドセールス、カスタマーサクセスまで全て一貫してISが関わっています。全体を俯瞰して見ることができるISをぜひ体験して、それからまた次のキャリアへというのも個人的におすすめです。
ぜひISの良いところ、わくわくする部分を皆さんにも味わっていただきたいなと思います。
石川:派谷さん、ありがとうございました!
キャリナレ!では、今後も様々な職種を経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。
次回もぜひお楽しみに。
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