これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
「キャリナレ!インサイドセールス(以下、IS)編」の第3弾となる今回のテーマは「組織の立ち上げ」。ゲストは、IS組織の立ち上げを複数回経験した株式会社WAKUWAKUの齋藤美紀さんです。
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【フェーズ・役割別】組織が立ち上がる3つのパターン
喜多:まずはこれまでのご経歴を教えてください。
齋藤:私はこれまで不動産とITの2つの業界で、5社を経験しています。ISの仕事に初めて出会ったのは3社目の株式会社manebiでした。そこで日本人社員第一号として、IS組織の立ち上げを行い、フィールドセールス、カスタマーサクセスまで一気通貫で経験しました。その後、4社目のRevcommという営業支援ツールのセールスを経て、「toCのISもやってみたい」という思いから、「リノベ不動産」を運営するWAKUWAKU社に入社しました。
WAKUWAKU社では、希望通りtoCサービスのISチームの立ち上げに携わったあと、toBのフランチャイズ事業のISを担当しました。兼任で、営業組織開発や営業プロセス策定といった営業企画の業務も担ったあと、現在は事業企画として仕事をしています。
喜多:複数の組織立ち上げを経験されたそうですが、プロダクトやフェーズなどによるISの組織立ち上げの違いを知りたいです。
齋藤:組織立ち上げをどのような経緯でどんな役割で担うかによって、フローや必要なマインドが違いますが、私は自身の経験上、3つのパターンがあると考えています。1つ目は「上司からの推薦をうけ、リーダーとして立ち上げる」。2つ目が「自ら起案し、リーダーとして立ち上げる」。3つ目が「組織立ち上げのプロジェクトにメンバーとして巻き込まれる」です。
1つ目では、まず上司と目的や課題のすり合わせをすることが第一です。次に巻き込む人材の選定をし、その人材に上司とすり合わせた内容をシェアして、役割分担を行います。ここにおいては、「やりたい」というよりも、「自分ができると思えるかどうか」というマインドが重要です。
2つ目のパターンは、マーケティングや営業における課題を知り、解決のための仮説を立てることからはじまります。その仮説を上司に提案して了承を得られた場合、組織立ち上げに動き出すことになります。このパターンでは、ひとりでやることが多いので、「やりたい」や「できる」にかかわらず、「ねばならない」という使命感を持たないと物事が前に進みません。
最後の3つ目は、自分の意志よりも巻き込んできた相手によってするべきことが決まるため、流れに身を任せることが重要です。マインドは「やりたい」「自分ならできる」「やらなければならない」のどれでも構いません。
最もスムーズなのは、上司が最初から味方についてくれて、問題がおこってもフォローしてくれる1つ目のパターンです。
反対に難しいのが「自らの起案」で、課題や問題があると考えているのは自分だけの場合が多く、提案のハードルも高くなります。その上で、上司の了承を得て、何かあればフォローしてもらう必要もあるため、人間関係も必須になります。
IS未経験から、組織立ち上げのベテランになるまで
喜多:ここからは、齋藤さんの実体験を詳しく教えてください。IS未経験の状態から、組織立ち上げを行ったとのことですが、どのようにキャッチアップしたのでしょう。
齋藤:振り返ると「人とのご縁のおかげでなんとかなった」という形です。特に、当時会社で導入をしていたセールスフォースの担当者は、私にとってはコンサルタントのような存在で、とても助けてもらいました。
その方自身、ISの経験があり、過去に苦労したこと、困ったこと、つまずいたこと、結果が出ない理由などを包み隠さず教えてもらったのです。機能の使い方やその効果だけでなく、送信するメールの添削までも助けてもらいました。
当時は社内での立ち上げメンバーは私1人でしたが、結果の出し方を熟知した人材が近くにいる安心感はものすごく大きいものでした。
喜多:この時は、3ヶ月というかなりの短期間で立ち上げまでこぎつけたそうですね。
齋藤:はい、とにかくガムシャラに取り組みました。ただ、3か月で結果を出すために必死に取り組んだおかげで、プロジェクトの推進力は養えたと感じます。自分含め、社内で誰も経験のない業務だとしても、設定された目標に向けて効率よく進んでいける力があるのだと自信になりました。
喜多:なるほど。4社目での立ち上げ経験についても聞かせてください。
齋藤:4社目ではメンバーのひとりとして、営業プロセスやCSの構築を担当していました。組織立ち上げにはメンバーとして「巻き込まれる」パターンで参加しましたが、この経験のおかげで視野が広がりました。
この会社では、ISの業務範囲が商談機会の獲得からクロージングまでだったこともあり、同じ悩みを持つ顧客でも解決策はそれぞれで違うことや、そもそも自分たちの提供プロダクトが適切かどうかは最終的に顧客にしかわからないといったことが学べました。
喜多:その後、現職でBtoC領域のIS組織を立ち上げたんですね。
齋藤:具体的には、不動産購入を検討している顧客向けのセールスになります。入社時は10人の営業がいたものの、なかなか売り上げが立たなかった時期でした。
そもそもアポイントを取る時間がなく、顧客と会う機会が少ないという課題があり、その解決策として私と新卒社員の2人でISを立ち上げることになりました。その時も、リストを精査し、いつどんなタイミングで電話をすれば良いのかをデータをとりながら仮説検証していきました。
「toCなので土日の方が電話が繋がりやすい」というイメージを持たれやすいのですが、そうした通説にも疑問をもって、平日と土日の結果を見比べたり、電話のデータからお客さんの行動や心情を考え、「どうやったら伝わるか」を細かく分析していきました。そうした地道な努力もあり、5ヶ月で粗利を2倍にすることができました。
定量と定性を組み合わせた仮説検証で勝ちパターンを見出す
喜多:組織立ち上げにおいて、企業フェーズやプロダクトに依らず、共通して重要なことはありますか。
齋藤:まずは定量的に自分たちの行動を把握することです。基本的にISの仕事は、数字に落とし込むことができるので、記録したデータをもとに、顧客の心の動きの仮説をたて、検証を繰り返します。
例えば、顧客と電話がつながりやすい曜日や時間帯から、顧客にかける第一声、送るメールの内容、実際の顧客の反応などをすべて定量データとして記録し、データを記録できない場合は内省をしていました。
喜多:「顧客の心の動き」などは定性的な要素ですが、どのように把握していくのでしょう。
齋藤:おっしゃる通り実際の心の動きを聞くのは難しいため、仮説を立てる際には「自分ならどう感じるか」という考え方が重要になってきます。
もしも電話越しに不機嫌そうな声が聞こえてくれば、「なんで不機嫌なんだろう」と想像し、「予算がない」と言われれば、その言葉にはどのような心の状態が表れているかを考える。ほかにも、商材のターゲットに近い社内人材にヒアリングしてみるのも効果的です。
そして、それらをもとに顧客の反応ごとに伝える情報を変えるなどパターンを作り、仮説を検証していきます。
このように定量と定性を掛け合わせてパターンをつくっていくと、そのうち自分の勝ちパターンが見えてきます。私であれば、はじめは電話でコミュニケーションを取り、メールでのやりとりに移行することが、商談機会を獲得する勝ちパターンでした。
自分の勝ちパターンを見つけられれば、顧客とのやり取りで波に乗る瞬間もわかるため、あとはパターン通りにコミュニケーションを取っていけば問題ありません。
喜多:面白いですね。プレーヤーとして立ち上げる際は、その仮説検証をひとりで行うと思います。マネージャーの立場になると、メンバーにやってもらうことも増えるためポイントが変わりそうですね。
齋藤:そうですね。5回目の立ち上げの際は、実際の架電を外部のBPO会社にお願いしていたのですが、仮説検証は一緒に考えるようにしていました。トークスクリプトを全部用意して、相手に「どのように進めているのか」「どうやったらうまく行ったのか」を細かく聴きながらチューニングを行うイメージです。また、顧客のリアルな反応を把握しているのは委託先になるため、仮説のもととなるデータについてもすべて共有してもらうようにしていました。
【ビジネスモデル・プロダクト別】ISが成果を出すためのポイント
喜多:会社が扱うプロダクト毎に、IS業務のポイントも異なると思います。例えばtoB向けとtoC向けで何か違いはありますか?
齋藤:ISとしての業務の本質や、具体的にやることはあまり変わりません。ただ、相手の見方を変えることは必要になります。
個人のお客様の場合は、意思決定において感情が大事ですし、買うものや金額にかかわらず「相手の人生にとって何かしらの変化を及ぼす購買行動」のきっかけを作るという責任の重さがあります。
一方で、法人の意思決定は「その会社の事業成長に自分たちが貢献できるか」という観点が論理的に伝わることが重要です。また、組織で動くので電話越しの相手との関係性だけで決まるわけではないところが難しい点です。
喜多:なるほど。では、自社の企業規模やプロダクトの知名度についてはいかがでしょう。
齋藤:実は高い認知度があれば、必ずうまくいくというわけでもありません。
たとえばSaaSを提供していた3社目では、入社時は導入企業が170社ほどでした。当時は認知度も高くないため、常にプロダクト自体の説明は欠かせません。ところが、導入企業が800社ほどにまで伸びた数年後には、認知度も高くなった故に相手も情報を知っている状態で、私たちが提案する幅はかなり狭まってしまいました。
「ああ、あのプロダクトね」という一言で、判断をされてしまうことも少なくありません。そうなると、インターネットでいくら調べても出てこないようなカスタマイズした情報で、いかに顧客の事業に貢献できるかという、「Why You Now(なぜ、あなたに、いま?)」を伝えられるかどうかがカギとなります。
ただ、最大手となれば伝え方にも自信がみなぎってくるだけに、「ナンバーワン」と言えるかどうかでも大きな違いが出てきますね。
喜多:プロダクトの認知度によって勝ちパターンも変わりそうですね。
齋藤:とはいえ、顧客の問題と課題に合わなければ購入は見送られることに変わりはありません。
ISの本質は、定量と定性で自分の行動を把握できるかどうかと、自分ひとりの力だけでやろうとせずに、素直に周りに相談をして話を聞けるかどうか。その当たり前のことを徹底できるかどうかで、差が生まれると考えています。
調整力・マネジメント力が企画の仕事へのステップに
喜多:組織の立ち上げ経験が、どのようにご自身のキャリアに影響を与えているかについても教えてください。
齋藤:ただメンバーとしてセールスに携わるのと、組織を立ち上げるのとでは、関わる人の人数、それぞれの人の価値観や必要な知識の幅が全く違います。組織立ち上げ経験を通じて、ビジネスパーソンとして視座が上がったことが、その後のキャリアの全てに生きています。
事業企画となれば、ISや営業、マーケティング、CS、事務、経理、管理と、関わるセクションも増えます。ISでも俯瞰して全体を見ることを常に意識し、自分なりの仮説を持って取り組んだことが、今に繋がっていますね。
喜多:ISの仕事から、具体的にはどのようにして、視座を広げていけばいいのでしょう。
齋藤:スタートは、誰が何をやっているのかを知ることです。組織には多くの人材がいて、ISだけでなく多種多様な職種があります。周囲の力を借りるという前提に立ったとき、誰にどんな力になってもらえるかがわかれば、必要なときに必要な人材と関わることができます。もちろん、相手が困っていること、やろうとしていることを知ることで相手の力にもなれます。
営業企画や事業企画となれば、関わる部門や人員も格段に増えるものですが、規模こそ違うものの、やるべきことはISの組織立ち上げと変わりません。役割、年齢、性別、価値観の違う多種多様な人たちをプロジェクト単位で動かしていくことが必要で、「関わるステークホルダーをいかに気持ちよく業務遂行に導けるかどうか」の視点は周囲をよく観察することから少しずつ得ていけるはずです。
喜多:どの職種に限らず本質的に求められることだと感じました。 最後に、ユーザーやキャリアに悩まれている方々にアドバイスをお願いします。
齋藤:誰もが無限大の可能性を持っていて、いかなる組織や環境でも当たり前のことを徹底的にやり抜けるかどうかがカギとなってきます。そして、それは自分次第です。どうせやるなら、嫌々ではなく、楽しくやる。やったことがないなら、やってみたらいいんじゃないと。
この話聞いている方はおそらく転職を検討されてると思いますが、生きるって仕事だけが全てじゃないから、自分の人生どうしたいのかっていうのを、もっと大きい視野で1度考えた上で、自分が本当にやりたいこととかできることとか、好きなこと嫌いなことを考えてみるって、逆にそういう機会になったら嬉しいなと思います。
喜多:ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
キャリナレ!では、今後も様々な職種を経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。
次回もぜひお楽しみに。
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