これまで数多くの人が経験してきたにも関わらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。
「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルをキャリアナレッジとして集めていきます。
今回のテーマは、「インサイドセールス(以下、IS)」。ゲストは、IS業界最大級のコミュニティである「Inside Insight」共同代表兼コミュニティマネージャーで、ビズリーチOB・OGのアラムナイコミュニティの会長も務める額賀智史さんです。
🎙「キャリナレ!」はPodcastでも連載配信を行っています。音声版を楽しみたい方はこちらから!🎙
※1to1での転職・キャリア相談を希望の方はこちらから
さまざまな職種を経て、ISを選んだ理由
石川:まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
額賀:はじめまして、額賀と申します。新卒で日系のヘッドハンティング会社に入社し、ヘッドハンティングの候補者へのアウトバウンドコールで、ビジネスの基礎を身につけました。そこから、当時創業4年目で50人程度だったビズリーチに入社をしました。
ビズリーチではIS部門の立ち上げ、日系大手企業の新規開拓営業やカスタマーサクセス、新規事業のセールス組織やオンラインセールス組織の立ち上げなど、いろいろなことにチャレンジさせていただきました。そのような20代でのさまざまな経験を経て、30代で専門性を磨くために、ISとしてセールスフォースに入社をしました。
同社では大手企業開拓のBDRとして、1,000〜2,000人規模の企業の新規開拓や、既存のお客さまの深耕営業をフィールドセールスと二人三脚で行い、クロスセルなどで1社あたりの売り上げを最大化することをミッションに、業務に従事しています。
それ以外では、5年前から運営するISコミュニティ「Inside Insight」を2023年に法人化し、IS経験者のキャリア支援を行っています。
石川:額賀さんはIS以外にもさまざまな職種や企業のフェーズを経験されていますが、ISの業務をはじめて経験されたのはいつ頃だったのでしょうか。
額賀:新卒で入社した日系のヘッドハンティング会社で配属された部署が、ヘッドハンティングのアウトバウンドを専門に行うチームでした。当時はISという言葉は存在していませんでしたが、ISの業務のひとつである架電を、朝7時から夜11時まで計200件も行っていましたね。今同じ経験をしろと言われてもできないです。
当時は「早くフィールドセールス部門に異動したい」と思ってましたが、振り返ると毎日の優秀なビジネスパーソンとの会話から、ISの基礎を培うことができました。貴重な経験でしたね。
石川:業界的に、ISという職種はどのように認知されていったのでしょうか。
額賀:ビズリーチに転職した2013年に、私ははじめてISという言葉を知りました。業界的にも、そこから徐々にISが認知されていったように感じます。
我々がISコミュニティを立ち上げたのが2018年で、そこから(株式会社ビズリーチ IS部 元部長の)茂野明彦さんが2020年にISをテーマにした本『インサイドセールス 訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド』を出版して広まっていきました。
まだ名前が付いて5〜6年ぐらいの新しい職種なので、発展途上の部分もありますが、たくさんの魅力がある職種です。
経験者だから話せる、ISの知られざる3つの魅力
石川:ISと聞くと、一番最初に思い浮かぶのは「架電」です。ただ、実際に業務を経験するとやりがいを持たれる方も多く、書籍や記事も多く出ているので、私が思ってる以上に奥深い職種だと見ています。額賀さんが思うISの魅力を教えていただけますでしょうか。
額賀:大きく下記の3つだと考えています。
石川:まず、1つ目の「キャリアの柔軟性と拡張性が高いこと」について詳しく教えてください。
額賀:私自身がセールスフォースで感じていることなのですが、The Modelとよばれる4つの職種のうち未経験者にも門戸が開かれている、且つ、他職種領域にキャリアを広げることができます。
実際に、セールスフォース社内では「The Model キャリア」という言葉が多用されており、これは、「ISからキャリアをスタートさせ、マーケティングやフィールドセールス、カスタマーサクセスなどへ職種領域をずらしながらキャリアを作っていく」という意味が込められています。実際に、IT業界やセールスが未経験でもISのポジションで採用された後、当たり前のようにフィードセールスやカスタマーサクセスへ、ときにはマーケティング部門に行く方を何人も見ています。その意味で、非常にキャリアの柔軟性と拡張性が高い職種だと思いますね。
石川:2つ目の「働き方の柔軟性が高い」ですが、確かにISは働く場所や服装を選ばないイメージがあります。近年のSaaSの台頭や、コロナ禍によるリモートワークで加速した部分もあるのでしょうか。
額賀:コロナ前は、リモートワークのISは一部外資系のみでしたが、コロナ以降、SaaS界隈ではフルリモートが当たり前になりました。
GMOさんやサイバーエージェントさんなどの一部企業では、原則出社に戻している企業もありますが、私が知る限りSaaS界隈でそのような企業はなく、週1〜2日出社が多いです。
特に、ISを採用してる企業は、フルリモートないしは週1回程度の出社が多く、働く場所も服装も自由な印象です。
石川:転職や新しい職種に挑戦しようと思ったとき、フル出社や毎日スーツだと身構えてしまうので、それは働く環境として魅力的ですね。
3つ目は、「短期間で多くの企業とコミュニケーションを取れるので、日々の成長を実感できる」。つまり、短期間でさまざまなクライアントとプロジェクトを推進するために、PDCAサイクルをチューニングする機会が多く、営業スキルが早く身につくという意味でしょうか。
額賀:おっしゃる通りです。ビズリーチでは、「成長のために多くバッターボックスに立って、多くのバットを振れ」とよく言われてました。
未経験でも毎日社内外15〜20人とコミュニケーションを取って、PDCAサイクルを回す機会があります。フィールドセールスやカスタマーサクセスよりもお客さまとの接点回数が多いので、しっかりと改善活動を行えば、確実に成長を実感できる職種だと思いますね。
意識すべきは「The Model キャリア」。中長期目線で、ISを選ぶメリットとは
石川:ここまでで、ISとして働く魅力をお話いただきましたが、それでは中長期的にISをキャリアに組み込むメリットは、どういうところにあるのでしょうか。
額賀:メリットとしては大きく下記の3つがあります。
石川:1つ目の、「未経験でもIT・SaaS業界などで働ける可能性がある」ですが、額賀さんとしては「未経験からのISへのチャレンジ」はおすすめのキャリアパスだそうですね。
額賀:そうですね、これまでお話ししてきた魅力・キャリアメリットの観点からおすすめですし、求職者の方の関心も高まっていると思います。実際に、カジュアル面談サービス「Meety」を通じて、年間20人近い方から「未経験からISに挑戦するためにはどうしたらいいですか」と相談されます。また2年前から、異業種の人材をSaaSのISとして教育・研修して活躍させるといったビジネスモデルの企業も出てきているなど、IS職種の市場ニーズも高まっています。
石川:ISは今、そんなに求められている職種なんですね。
2つ目の「仮説構築力が付く」という点、私は戦略コンサル出身なので、すごくピンときました。コンサルは仮説を立てる機会は多いですが、企業に戦略を提出して実行し、その結果が出てくるのは2〜3年後といった時間軸です。一方で、ISなら数時間・数日単位で仮説を検証できると思います。短期間でPDCAサイクルが回せるのはすごく魅力的ですね。
3つ目に、「ISをやりながら、マーケティングや営業の一部を経験できる」とありますが、そのためにはどのようなことを意識すれば良いのでしょうか。
額賀:ISはマーケティングとフィールドセールスの中間的な役割なので、ISの業務のみ行うだけでなく、The Modelを意識して、他職種の業務領域に「染み出す」ことが重要ですね。
例えばマーケティングの文脈だと、お客さまへのマーケティングメールのフィードバックを自ら取りに行き、より良いものにブラッシュアップしていく。展示会で獲得したリードに対してフィードバックをしたり、マーケティングが作ったホワイトペーパーなどの資料に対してお客さまの声を元にフィードバックする。
このように、ISの職務領域に閉じずに少し染み出していくことで、どんどん他職種の経験ができると思います。
石川:確かに、お客さまと話す機会が多い職種なので、一次情報をたくさん持っていますし、その情報を他部署に渡せたら重宝されそうですね。
よくある誤解「IS=テレアポ」?両者の違いとは
石川:「ISってテレアポと同じことですよね」という声を聞くこともありますが、ISとテレアポはどのように違うのでしょうか。
額賀:誤解をされている方が多いのですが、それぞれ全く別物です。テレアポは流れていくフローのようなイメージで、刹那的で成果が積み上げにくいもの、もしくは積み上がらないものです。その一方で、ISの活動は蓄積されるストック型で、継続的にお客さまに対してアクションし、成果が積み上がっていきます。
石川:なるほど、フローかストックかですね。この積み上がりは、アポイントとして成立していく積み上がりもそうです。そもそも、接点を持ったお客さまに対して、継続的なコミュニケーションがストックの要素に入るのでしょうか。
額賀:それは入ります。例えば、SalesforceやHubSpotのようなCRM(顧客管理)ツールにお客さま情報を残し、お客さまの現在地やビジョンなどの情報を蓄積することで、継続的にアクションし、成果につながるようなコミュニケーションを取ります。
結果的にそこから商談が起こり、受注が生まれるという、継続的に成果が出るような仕組みのなかで活動しているのがISです。
「”1分”で大枠の合意を取る」究極のISスキル
石川:ISのスキル・スキルレベルについても、詳しく教えてください。
額賀:スキルを分類すると、大体7分類にできると思ってます。
1つが、要約してお客さまに訴求できるエレベーターピッチのようなスキル。2つ目は、お客さまのビジネスを理解するスキル。3つ目が、自社製品の理解とそれをお客さまに訴求するスキル。4つ目が、ヒアリングスキル。5つ目がCRMを活用するスキル。6つ目が、連携するマーケティングや営業など他部署への情報連携スキル。7つ目が、忍耐力や粘り強さです。
それぞれを初級・中級・上級と段階に分けてスキルを磨いていくイメージです。
石川:それぞれのスキルがトップレベルの方は、どこまでできるのでしょうか。
例えば、1つ目のエレベーターピッチだと、「1分間お時間いただけますか」と言って多くの情報を伝えられるとか、そういったことなんでしょうか。
額賀:1分で全てを伝えることはなかなか難しいですよね。要約力を極めると、最初に結論を伝えて、1分間の間に、大枠で商談の合意を取るところまで行える方もいらっしゃると思います。
石川:話を伝えるだけでなく、次の展開まで約束をしてしまうと。それはすごいですね。2つ目は、顧客のビジネスについての知識。どれほど理解できていたら、上級レベルなのでしょうか。
額賀:セールスフォース時代によく言われたのですが、お客さまの3Cの情報プラス、お客さまのお客さまの理解、つまり4つのCを理解して、お客さまの信頼を勝ち得えることが重要です。
そして3つ目の、自社の製品理解とつなげて、お客さまの売り上げを上げるための戦略を事例とともに伝え、お客さまから商談をいただくといった流れです。
石川:3つ目の自社商品の理解は何となくイメージが付きますが、4つ目のヒアリングスキルは、初級と上級でどのような違いがありますか。
額賀:初級だと、自分たちが決めたヒアリング項目を聞き切ること。トップレベルの人は、例えばお客さまが決済に至るまでにどういうルートをたどって、誰が影響力を持って決済を判断するのかを聞けるとか、BANT情報プラスαの情報を網羅してる状態が最強だと思いますね。
石川:あとは、5つ目の顧客管理ツール運用のスキルはあまり優劣が付くイメージがないですが、どのような違いがあるのでしょうか。
額賀:初級は、通常のオペレーションを回せるレベルです。上級にいくと、例えば自社でCRMを構築したり、自社でISの立ち上げのオペレーションを組むだとか、MarketoやPardotなどのMAツールを使いこなせるみたいなところですかね。
他には、SalesforceやMarketoなどは資格があるので、それらの資格を取るとか。そこまで行くとSalesforceの構築ができるレベルに到達しています。なので、そういった資格取得も上級レベルの一つの定義に入れてもいいんじゃないかなと思います。
石川:6つ目の情報連携もイメージが付きます。 初級は雑なメモを送る程度ですが、上級になると、相手に意味のある情報を抽出して伝えられるか、といったところですよね。
額賀:おっしゃる通りです。
石川:あと7つ目の忍耐力や粘り強さ。これは個人的に、スタートアップやSaaS企業において、隠れた必須スキルなんじゃないかと思っていて。粘り強さの度合いによって、アクション数などの数字に差分が出そうですよね。
額賀:セールスフォースでの経験から、お客さまが営業本部長や経営者だったので、1〜2回のアプローチでつながることはできません。5〜6回と行う粘り強さや、ヒアリングで情報をきちんと聞き切るところも求められます。
上級レベルになると、業界やプロダクトが変わっても、ポータブルスキルとして活きてくる部分だと思いますね。
ISを極めるには、ISだけをやっていてもだめ
石川:よく「ISを極めるために何をしたらいいのか」という質問をされることがありますが、額賀さんはこれについて、どのようにお考えですか?
額賀:ビズリーチ時代に、IS関連の著者である茂野さんから教えていただいたキャリアの考え方で「ISを極めるには、ISだけやっていてもだめ」というのがありました。
これは「VSOPキャリア」というキャリアの考え方で、VSOPは、バイタリティのV、スペシャリティのS、オリジナリティのOで、パーソナリティのPの頭文字を合わせた造語です。
大きくいうと、20代はバイタリティを持っていろんなことにチャレンジをしてキャリアを広げることを重要視すべき。30代になって20代で活かしたバイタリティを使ってスペシャリティを持ち、ポジションを高めていく。40代以降は今まで得た経験を型としてオリジナリティを出し、50代はより個人としてのパーソナリティが求められる。
「VSOPキャリア」を知り、私自身も振り返って、7年間在籍してたビズリーチ時代は、ISの業務は全体業務の半分もありませんでした。
いろんな業務を経験したことで、「事業の立ち上げにおけるIS」が自身のキャリアの強みになったので、30代でそのスペシャリティを高めるために、セールスフォースへ転職しました。
20代でIS以外にもチャレンジしたことで、ISの良さもより分かりましたし、逆に自分の得意・不得意も見えてきたので、この考え方はすごく大事にしたいです。
石川:20代でさまざまな経験をされた額賀さんは、バイタリティにあふれていますね。また、30代でのスペシャリティはもちろん、オリジナリティやパーソナリティも前借りして詰め込まれてるようで、感心しながらお話を伺ってました。
後半では、未経験からISになるためのキャリアパスや企業選びのポイント、より有意義なキャリアにするためのコツなどを伺います。
【後編はこちら】
【インサイドセールスに関連する記事はこちら】