これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
インサイドセールス編第4回となる今回のゲストは、HubSpot Japanの大橋拓真さん。ランサーズ、HubSpot Japanと内資系企業・外資系企業のいずれもでインサイドセールスを経験した大橋さんに両者の働き方の違いを伺います。
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ただのテレアポでなく、業務改善にも取り組んだインターン時代
石川:まず大橋さんのこれまでのご経歴を教えてください。
大橋:学生時代にクラウドソーシングサービスを運営するランサーズでインターンをしており、2020年4月に同社に新卒入社しました。ランサーズでは、BPO事業のISの立ち上げ、マーケティングツールの活用、子会社統合による業務オペレーションの構築などを経験しました。2022年夏に、HubSpot Japanに入社し、インサイドセールスの業務を担当しています。
石川:ISとの出会いはいつになるのでしょう。
大橋:ランサーズでのインターン時代です。当時私が所属していた事業部は正社員が5名ほどで、営業系役員の直下の部署でした。私の業務は、「商談する機会を作って」と言われてSalesforceにログインをし、自らリストを作成し電話をかけるところから始まりました。
当時はSalesforceに情報を残す文化が無く、過去対応した履歴もない中、「どんな方に連絡をすべきか」「どんな切り口でお電話をするべきか」を非常に悩んだ思い出があります。最初の1週間はリスト作成と電話をかける口実作りに苦戦し、1日1~2件ほどしかコール出来ない日もありました。
石川:そこから約10か月のインターンで、自身に変化はありましたか。
大橋:当時ISという言葉もよくわからなかったので、最初はいわゆるテレアポ業務を実施していたのですが、自主的に関連セミナーやイベントで知識・ノウハウを集めていくうちにISの面白さにどっぷりとハマっていきました。
仕入れた情報をもとに、自分なりに顧客管理や営業支援ツールの入力の仕方を工夫して、インターン全員の業務効率があがるような体制づくりや、新しいインターンが入社した際のオンボーディング体制を整えていきました。
石川:インターン生ながらも、言われたことをやるだけでなく、自身で試行錯誤を繰り返されていたんですね。
勝利から逆算してデータドリブンで動く。野球経験者から見たISの面白さ
石川:新卒としてランサーズに入社した後は、どのような、仕事を担当されたのですか。
大橋:最初はインターン時代の延長で、IS業務がメインでした。具体的には、SDR(Sales Development Representative)と呼ばれる、新規問い合わせに対する営業活動を行なっていました。
「問い合わせから、商談や受注につなげるために、どのようなコミュニケーションが必要か。」「それをいかに再現性をもって進められるか」ということを日々考えていましたね。
石川:顧客とのタッチポイントをアセットとして貯めていく業務をする中で、大橋さんが面白かったポイントは何かありましたか?
大橋:定量的な分析をもとに再現性を追求できることが私にとってISが面白い点です。
もともとは、営業というと「なぜかあの人はめちゃくちゃ売れる」というように、定性的・属人的でブラックボックス化されている印象がありました。しかし、ISは適切にCRM情報を残すことでデータ分析ができ、それをもとに再現性をもって次のアクションを決めることができます。
これは私が学生時代にやっていた野球のキャッチャーポジションの役割とも似ています。
キャッチャーは「勝つ」という目的から逆算して、試合を動かしていく事やピッチャーへ求める配球を決める事を求められるのですが、やはり定量的に逆算思考で試行錯誤するのが面白いポイントだったのです。
石川:キャッチャーとISにはそんな共通点があるんですね。私は野球部のマネージャー経験があるのですが、マネージャーが出したデータ分析の結果をいつもしっかり見てくれるのは確かにキャッチャーでした。(笑)
ツール導入でISの売上を最大化させ、広がった可能性
石川:再現性を高めるための仕組みづくりを学生時代から社会人まで多く経験されたと思いますが、中でも大きな取り組みについてお聞きしたいです。
大橋:代表的なのはランサーズ時代に、SFA・CRMとしてしっかりとSalesforceを活用したことと、HubSpotといったMAツールを掛け合わせて売上を最大化するためのツール活用の業務フローを構築したという点ですね。
石川:企画から、ツール選定、運用体制を構築して、運用にのせるまで、色々ありそうですが、どこが一番大変でしたか?
大橋:ツールの定着化には一番時間がかかりましたね。私自身はツールが好きなので、使い方もすぐに覚えましたが、組織全体でみると、ツールをあまり使わない営業のメンバーや、自分よりかなり年上のメンバーに使ってもらうための働きかけは難しいポイントでした。
ツール活用を促すためには、仕組みに取り入れるなどシステマチックにやる方法もあるのですが、定着するまで「データを入力してください。Slackで入れてください」と直接依頼することが重要でした。
年上の社員の方々にも臆せずに距離感近くお願いできたのは、インターン時代からの付き合いがあったからこそだと考えています。
石川:データドリブンで片付かない領域も多々あったと思いますが、大橋さん自身がモチベーションを保てたのはなぜですか?
大橋:ひとつは、再現性を追求して体制を構築するのが純粋に楽しかったからです。もうひとつは、ISとツールという好きな仕事をふたつを掛け合わせたら、自身のキャリアをもっと強くできるのではという考えもありました。
石川:ここまで順風満帆なキャリアに見えますが、その後転職に至った経緯も教えてください。
大橋:直接のきっかけは、ランサーズ時代の組織体制の変化で自身の役割が変化したことです。所属していた事業部解体にあたり、開発部のエンジニアチームから誘っていただき、一時期はエンジニアとして、全社の業務効率化などに取り組んでいたんです。
石川:ISとしてツールを活用した業務改善・制作体制構築を経験した方が企画職にキャリアチェンジするケース(※)はたまに聞きますが、エンジニアの領域にまで染み出す方は珍しいと感じました。面白いキャリアチェンジですね!
※類似する転職の例(ONE CAREER PLUSの転職体験談より)
大橋:そうですね。その経験自体は非常にありがたかった一方で、社外とのやりとりが減ったことで「営業をやりたい」と気づいたことと、「自身がHubSpotを使って成功できた経験からもっと日本で広めたい」という考えがあり、HubSpot Japanhへの転職を決意しました。
違い1:外資では多種多様な最先端ツールが活用できる
石川:ここからは内資・外資の違いについてお伺いします。実際に外資系企業でインサイドセールスとして働いてみて、内資企業との違いをどう感じましたか?
大橋:ISの業務や役割の根本的な部分に変わりはありません。一方で、働き方については大きく2点の違いがあったように感じています。ひとつは、「使うツールの数」もうひとつは「評価制度」です。
HubSpot Japanに入社して驚いたのは、利用しているビジネスツールの多さです。「こんなこともSaaSでできるんだ」と思うものも多くあり、最先端テクノロジーに触れている感覚があります。
一番驚いたのは、ZoomInfoという、膨大な数の会社情報と個人情報が登録されているデータベースです。海外の会社については名前やメールアドレス、電話番号まですべて登録されていて、最初に見たときはビックリしました。日本では個人情報の観点で利用方法は限られていますが、海外ではZoomInfoを活用しながらアプローチしていますね。
ほかには、LinkedInのLinkedIn Sales Navigatorという、LinkedInへの登録情報を基にフィルタリングをかけ、見込み顧客にDMを送信できる機能や、外勤営業のWeb商談が自動録画できるGongなど、今まで触れたことのない多種多様なツールが使われています。
石川:ツール好きな大橋さんでもキャッチアップは大変だったのでしょうか。
大橋:日本にまだ概念がないようなツールもあるので、「どう使えばいいんだ?」と面食らうこともありました。
ただ、ツール自体を使うかどうかは、決められているわけではないので、最終的な成果を出すためにいかに活用するかは自分の裁量次第です。
石川:ツールをうまく活用すれば、インサイドセールスの幅も大きく広がりそうです。
大橋:そうですね。最先端のツールは今後日本に上陸したり、日本のベンダーがサービスとして展開する可能性もあるため、会話のネタにもなると思います。
違い2:最終指標で評価されるか?プロセスも評価に入るか?
大橋:ふたつめの違いは、評価制度の違いです。よく外資系企業は、成果主義と言われているように、与えられたKPIが達成できるかどうかを非常にシビアに判断すると同時に、管理の仕方がうまく設計されているとも感じます。
石川:KPIのような最終的な指標だけでなく、その前段階から管理されているのでしょうか。
大橋:管理されているのは最終的な指標だけで、プロセスにおける指標や、アプローチ方法については個人の裁量が大きくあります。
内資企業は大きな指針のもとに管理職のマネジメントがありますが、外資は完全な個人プレーとまではいきませんが、個々の独立性や自立心に委ねられている印象です。
みんな最終的な指標を達成するためのプランニングは自立してやっていて、それだけに成果へのコミット力や責任感はものすごいと感じさせられました。
また、内資であれば新卒時代は特にプロセスなども評価に入ることがありますが、少なくとも私の現在のポジションにおいては最後の目標がかなりシビアに評価されます。
石川:転職後に苦労したことはありますか?
大橋:言葉の壁をはじめ、苦労は多かったですね。本社は本国にあり、日本は営業支社という形なので、様々なルールが決まっているものの、日本支社がまだ適応しきれていない部分もあります。そのため、自分なりにルールの範囲内でうまくやり方を模索していきましたが、最初は苦しかった記憶があります。
グローバルで7,000名規模でも日系ベンチャーと変わらない一体感
石川:ここまでの話から、かなり数字を個人で追いかけなければいけないという厳しい印象を受けたのですが、カルチャーや組織の面で違いはありましたか?
大橋:組織の雰囲気やカルチャーについてはランサーズ時代と比べて大きなギャップを感じませんでした。殺伐としているわけではなく、働いている人材も柔らかく、働きやすい環境は整っています。
石川:とにかく個人で目標を追求するというカルチャーではないと。
大橋:採用では、実力のある人材かどうかという点はもちろんのこと、企業のミッションに共感しているかどうかをかなりよく見ているため、働きやすい環境が実現できているのかも知れません。そのため、世界で7000名以上の社員を抱えるのにも関わらず、日系ベンチャーと変わらないほど一体感が強いと感じています。
石川:世界各地の支社とも、やり取りはありますか。
大橋:あります。日本とシンガポールに日本のメンバーがいて、HubSpot Japanとして集まるときはオンラインでのやり取りになります。私の上司も現在はシンガポールにいますが、定期的に来日して交流し、コミュニケーションをとっています。
石川:ナレッジシェアリングもワールドワイドで行われているのでしょうか。
大橋:そうですね。チームごとのトップパフォーマーがミーティングで話した内容がSlackで流れてくることもあれば、Zoomの録画が共有されることもあったりと、キャッチアップできる機会は非常に多いと思います。
石川:外資企業の醍醐味と言えるポイントですね。
大橋:日本ではまだ導入例が少ないケースでも、世界中から集めた活用事例を示すことができるため、顧客に独自の価値提供もできると言えそうです。
外資はスペシャリスト・内資はジェネラリストなキャリア形成に
石川:外資だからこそ得られるスキルや、向き不向きなどについても聞かせてください。
大橋:得られるスキルとしては、より専門的になれることで、尖れるキャリアも築けるのではないでしょうか。営業としてのキャリアを歩むにしても外資には尖った人材が豊富で、スペシャリストとしての手本となる人がたくさんいます。
一方、内資は異動や業務範囲を広げやすいため、ジェネラリストになりやすいという違いはありそうです。向き不向きについては、常に数字に追われる状況になるため、それを受け入れられるかどうかですね。
石川:最後にユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。
大橋:ここまで内資と外資の違いをお話ししてきましたが、私自身どちらも経験してみて、企業選びにおいてはミッション/ビジョン/カルチャーに納得して働けているかどうかが一番重要だと感じています。
自分が今、楽しく働けているのも、転職活動のときに自分の価値観と企業のミッションなどをしっかり照らし合わせて、入社できた結果だと考えています。
内資か外資かを問わず、自分の価値観をもとに会社を選ぶと、その後もよりよいキャリアを歩めるのではないでしょうか。
石川:本日のゲストはHubSpot Japanの大橋さんでした。ありがとうございました。
大橋:ありがとうございました。
石川:さて、皆様いかがでしたでしょうか。「キャリナレ!」では、これからも様々な職種の経験者をゲストにお呼びして、キャリアナレッジを貯めていきます。それでは次回もお楽しみに。
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