「コンサルは潰しがきくキャリア」という定説が揺らぎつつある。コンサルで身に付くスキルの一部はAIで代替可能となり、IGPIグループの冨山和彦会長からは「パートナー未満は潜在的リストラ対象」との発言も飛び出した。
では、激変する時代において、真に「替えがきかない人材」となるためには、私たちはどのようなキャリアを目指すべきなのだろうか。
その答えの一つとして「プロフェッショナル経営参謀」を提唱するのが、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の元日本代表の杉田浩章氏だ。
30年以上にわたり経営コンサルティングの最前線で数々の企業変革をリードし、スタートアップのアドバイザーも務める杉田氏は、社会にインパクトを生み出す上で3つの本質的な力の重要性を説く。
マッキンゼーを経て、現在ワンキャリアで事業開発を務める石川がファームトップの思考に迫る特集『From the Summit ─ トップの構想をたどる』。今回は杉田氏に代替不可能なプロフェッショナルになるためのキャリアの歩み方を聞いた。
杉田 浩章
ボストン コンサルティング グループ シニアアドバイザー/早稲田大学ビジネススクール教授
東京工業大学工学部卒。慶應義塾大学経営学修士(MBA)。株式会社日本交通公社(JTB)を経て1994年にBCG入社。2006〜2013年BCG日本支社長、2016年〜2020年同日本代表、2023年より同シニアアドバイザー。2021年より早稲田大学ビジネススクール教授。BCGでは様々な企業の再成長に向けたトランスフォーメーション、事業ポートフォリオの変革、新規事業開発、組織・ガバナンス改革、マーケティング・営業戦略などのコンサルティングを数多く手掛けた。現在は複数の大企業、スタートアップ、VCなどの社外取締役、顧問を務める。主な著書に『スタートアップの技法 新規ビジネスをスケールさせる「7つの視点」』『プロフェッショナル経営参謀』『10年変革シナリオ』(いずれも日本経済新聞出版)など。
石川 広華
ワンキャリア ONE CAREER PLUS事業部 シニアマネージャー
新潟県出身。京都大学法学部卒業。新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして入社。小売・製造・エネルギー・官公庁・金融・通信など多岐にわたるプロジェクトに従事し、プロジェクト外の組織活動のリード経験も多数。現在は、株式会社ワンキャリアの中途事業 ONE CAREER PLUSにて、事業開発 / シニアマネージャーとしてコンテンツ・メディア領域をリード。
インパクトなきコンサルは意味がない
石川:杉田さんは、BCGの元日本代表というご経歴を持ちながら、現在はアカデミアやスタートアップ支援など、多岐にわたる活動をされています。そのような時間の使い方をするシニアアドバイザーは珍しいと思うのですが、根底にはどのようなライフミッションがあるのでしょうか。
杉田:私が他のコンサルタントよりもずっと意識してきたことは、結果として何かが具体的に変わること、目に見えるインパクトが生まれることを、昔から何よりも重視してきた点です。コンサルタント人生における矜持とも言えますね。
「コンサルタントは第三者であることが最大の価値だ」という意見もありますが、私はBCGに入社した頃から「そう思わない」と言っていました。自分がこの会社を変えていくんだというマインドやコミットメントでインパクトを出すべきだと考えていました。第三者の役割で終わるのは嫌だという考えをずっと貫いてきました。
石川:経営トップの意思決定に関与し、当事者意識を持って企業を動かしていく。まさに経営参謀の役割を果たしてこられたのですね。
杉田:どれだけ美しい戦略を描いても、現実に何も変化が起きなければ意味がないと考えています。
どのような仕事をするにしても「最終的にインパクトに繋がるのかどうか」という一点を常に問い続け、そこに繋がらなければ「やっている意味がない」とまで考えて仕事に取り組んできました。
逆の言い方をすると、いくらお金を払ってくれようとも、変化が起きない企業には自分の時間を使いたくありません。だから、本当に変えていく気があり、変えられるだけのポテンシャルがある企業や組織とだけ付き合ってきました。
石川:関わり方は違うにせよ、全ての活動は「カウンターパートと共に、具体的な変化を起こせるかどうか」にかかっているのですね。
「専門性」が武器のコンサルは淘汰される
石川:杉田さんのように社会にインパクトを与える人材になりたいと、コンサルを目指す若手もいます。
一方で、業界としては採用人数が増えて産業化が進み、実態として若手は「定義された問い」だけを効率的に解く仕事を行っている印象も受けます。経営参謀として働ける機会は、今のコンサル業界にあるのでしょうか。
杉田:企業全体を変えていくような本質的な経営課題に向き合える機会は、昔と比べて圧倒的に増えています。
私がBCGに入った1994年当時、コンサルは企業の積年の課題解決や中期経営計画の策定といったオケージョナル(一時的)な関わり方が主流でした。それが2000年頃から年間契約を結んで、企業と伴走しながら変革に取り組む形になりました。
その流れは加速しており、今ではスピード感を持って企業のポートフォリオを変えていく、組織のケイパビリティを革新していくといった支援が主流になりました。かつては一つの企業において10年に一度くらい大きな問いに向き合えばよかったのが、今はそうした営みを常に続けなければならない時代です。
石川:変化が激しい分、解くべき経営課題自体はむしろ増えている、と。
杉田:そうです。ただ、経営課題に向き合う機会をつかめるかは、個人差があります。目の前の業務について「全体の流れの中で、どのような意味を持つのか」と常に自分の仕事の価値を考えるのか。もしくは、自分のスキル・時間への対価を得るものと捉え、なるべく効率的に生産性高くやろうとするのか。
これは個人のスタンスの違いですが、後者のように自分が持っている専門性を提供することをコンサルティングと定義すると、その人たちは生きにくい世の中になっていくでしょう。
石川:どういうことでしょうか?
杉田:例えば、AIを活用するプロジェクトで、専門性が高い人材がクライアントにはない知見を提供し、支援をするケース。コンサルティングとも言えるかもしれませんが、その人の専門性で企業に足りないピースを補うという点で、本質的にはアウトソースに近いです。
今は高度な専門性を持っていたとしても、時代と共に劣化していきますし、AIやテクノロジーが進化したら置き換わってしまいます。事業環境が目まぐるしく変化し、解くべき経営課題も多様化・複雑化する中で、今ある専門性だけに頼って生きていくのは難しいでしょう。
替えがきかない「プロフェッショナル経営参謀」の3つの力
石川:では、スポット的なアウトソースではない「本質的なコンサルティングの力」とは、どのようなものでしょうか?
杉田:「長期ビジョンを構想する力」「組織を動かす力」「インパクトを生み出す力」の3つです。
まず一つ目は、「その企業が今、本当に解くべき課題は何か?」を見極め、定義できること。そして、その課題を解決するために、組織のどこに焦点を当て、何をどのような手順で変えていくべきかまでを構想し、体系立てて組み立てる力です。
二つ目は、組み立てたビジョンを実現するために組織の中を動かし、現実に変化を起こしていく力です。
いわば組織を「モビライズできる力」。組織を動かす上で誰にどんなテーマを与えるべきか、あるいは組織の特性や状況を見極め、最適な方法で動かしていく。そうした知恵や実行力が問われます。
三つ目は、社内外の知恵を結集して様々な困難を乗り越え、最終的にインパクトを出して、実際の成果につなげる力です。
この3つの要素をどれだけリードできるか、もしくはサポートとして大きく貢献できるか。それこそがコンサルタントとして、またコンサルティングそのものとして、本質的に必要とされる能力だと思います。
石川:言い換えるなら、替えがきかない「プロフェッショナル経営参謀」にも必要な力と言えそうですね。
杉田:そうですね。特に近年は「コンサル営業」や「社内コンサル」などコンサルティングを行う仕事はコンサルタントに限らなくなりました。
これは、あらゆる職業において、今までの延長線上で課題を解くのではなく、これから起こり得る変化も見据えながら今の課題に答えを出していくソリューションを提供することが求められているということです。
石川:あらゆる職業において、専門性だけでは淘汰される時代が訪れる、と。これから経営参謀のスキルセットを身に付けたい若手ビジネスパーソンは、何を意識するべきでしょうか。
杉田:現代のように不確実で先が見通せない時代、あるいはテクノロジーがどこまで進化して社会にどのような影響を与えるのかを正確に読み切ることが難しい時代においては、問いをどんどん進化させる必要があります。
石川:「問いを進化させる」ですか?
杉田:「もしこうなったら、社会や我々のビジネスはどうなるだろうか」と、複数のシナリオを描き、自分自身の見立てを他者の視点とぶつけ合い、考えを深め、進化させていく。この能力が重要です。
そして進化させながらも解決のプランを組み立て、それを実際に回してみる。もちろん、最初から計画通りに進むわけではないので、試行錯誤を繰り返し、粘り強く組織の中に変革を根付かせていく。この実装力も重要です。これらの力を身に付ける場所や機会をどう生み出せるかが、経営参謀になるためには重要です。
越境を繰り返し、学びと実践のサイクルを回す
石川:こうした力は一つの場や機会で一気に身に付くものではない気がします。若手はどのように中長期のキャリアを考えていくのがよいでしょうか?
杉田:まだ完全に一般的になったとは言えませんが、コンサルティングファームと事業会社、スタートアップといった組織間のバウンダリー(境界)は、以前よりだいぶ低くなってきたと感じます。だからこそ、企業・組織・産業の境界を超えていき、学びと実践を繰り返すことが重要です。
例えば、コンサルで課題設定力やインパクトを出す力を知識として学ぶだけでは不十分で、自分で実際にやってみることが不可欠です。実践できる場として分かりやすい例が、スタートアップ。トップに近いポジションで自らリードし、新しい仕組みをデザインしてチームを動かす経験ができます。
そこから学びを得れば、より社会的なインパクトを生み出す場で働くことが選択肢の1つになります。そうした経験を経て、またコンサルティングファームに戻りもう一段シニアなポジションで企業変革を主導したり、大企業の経営に携わったり…。キャリアの進み方は人それぞれです。
いずれにせよ、「今の自分がどこで何をすれば価値を発揮できるか。能力を伸ばせるか」を常に自分の中で考え、時には他者の助言にも耳を傾けながら、柔軟にキャリアを描いていくことが重要だと思います。
▼コンサルから事業会社・スタートアップへの転職事例
▼事業会社・スタートアップからコンサルへの転職事例
石川:実際にケースに取り組んで自分で体感し、さらに他分野へとアナロジーをきかせて成長していく。その過程で、自分が何によってインパクトを出せるのかを見極めていくわけですね。
杉田:その通りです。実際に自分自身でやってみて、初めて「自分がどこまでやれるか」「本当にインパクトを生み出せるのか」が分かる。
学びと実践の繰り返しで、課題設定と解決に優れた人材、それも若いうちからそういうスキルを使える人が増えれば、どの業界や組織でも価値を発揮できますし、企業側・個人側どちらにとってもWin-Winなモデルが広がっていくのだと思います。
キャリアの分岐点:アセットの「売却」か「再投資」か
石川:企業という観点だと、キャリアの幅を広げようとするときに受け入れてくれる組織があるかが重要だと思います。例えば、実地でインパクトを出したものの、その経験を抽象化して他のケースに応用したことのない方を、コンサルが受け入れられるのか。
ONE CAREER PLUSに集まった転職体験談を見ると、他の戦略系コンサルティングファームでは官公庁や総合商社、他ファームからの転職者が多い印象ですが、BCGの場合は、銀行の個人営業やメーカーの法人営業、SIerなど多様なバックグラウンドを持つ人が働いています。
BCGは、コンサルとは全く違う分野で経験を積んできた人にも「学びを提供する場」として機能しているのだと思います。これが可能な理由は何でしょうか?
▼BCGへの転職事例
杉田:「自社にない新しい知見や経験を持った人材をいかに受け入れるか」は非常に大事にしています。
例えば、金融業界を変えたいときに金融の内部しか知らない人よりも、他業種でDXを推進した経験のある人のほうが、これまでとは違った発想やアナロジーでブレイクスルーを生み出す可能性があります。
石川:違う分野にいた人の知見や専門性を活かす組織になっているのですね。
杉田:一方、入ってくる人の立場で見ると、「自分の持つ知見や専門性をより高く評価してほしい」といった発想にとどまっていると、実はフィットしづらい部分もあります。
もちろん今の専門性で貢献することも重要ですが、その知見もいずれは世の中やテクノロジーの進化によって陳腐化します。だからこそ、自分の経験を活かしながらも、時代や環境の変化に適応できるポータブルな能力を身に付けていくことが大切です。新しいことにチャレンジしたい、もっと幅広い課題解決力を身に付けたいという姿勢を持った人は、間違いなくフィットします。
この両方の視点がうまく噛み合うことで、魅力的な多様性のあるチームが成り立ちます。一人ひとりが自分の経験や知見を生かしつつも、それにとどまらず、新しい能力や視点を獲得しようと学び合う。そうした前提があるからこそ、多様性のあるチームが本当に機能し、大きな成果を出せるのだと思います。
石川:キャリアの考え方としては、積み上げてきたアセットを売りに出すのか、投資に回すのかの違いだと考えました。
たとえば、5年かけて特定業界の深い知識やスキルを身に付けたとき「もうこのアセットだけでやっていこう」と考えれば、同じ業界内のより良い条件の企業に転職するでしょう。
そうではなく、そのアセットをさらに「次の投資材料」として、新たな分野や領域に踏み出してみる。この場合、一時的な痛みや不確実性を伴うことも多いですが、そこで得られるリターンがさらに大きなアセットとなって自分に返ってくるのだと思います。
杉田:新たな領域に踏み出すときに自分がやってきた専門性を捨てる必要はありません。むしろそれらを活かしつつ、さらに周辺の新しい能力や知識を掛け合わせることで、元々の強みがより活きてくると思います。
「最初の一歩」に正解はない。二歩目、三歩目で広がるキャリアの可能性
石川:越境が当たり前になる時代、コンサルに入るか事業会社に入るかのような二元論は意味をなさないと思っています。ただ、最初にコンサルで学んでから実地で経験を積みたいタイプと、事業会社で手触り感を得たものを「あれは結局何だったんだろう」と考えるタイプは志向性が異なる気がします。
杉田さんは、一歩目はコンサルが向いている人はどのようなタイプだと考えますか?
杉田:これはなかなか難しい問いですね。別の観点から言うと、結局は目の前にある「機会」をどう感じるか、これに尽きるのだと思います。それは、仕事の内容かもしれないし、「この場所(会社・プロジェクト)にいると面白そうだ」「この人たちと一緒にやってみたい」といった直感かもしれません。
そうなると「このタイプは先に事業会社に行った方がいい」「このタイプはまずコンサルだ」「スタートアップから始めるべき」といったセオリーに従う意味はあまりないんじゃないかと思うんです。むしろ「二歩目、三歩目でどのような経験や能力が身に付くと面白いかな」とイメージを持ち続けることの方が大事です。
だからこそ、最初から「正解」にこだわるのではなく、今の自分の目の前にある「これ、面白そうだ」「ワクワクする」という直感に従って、飛び込んでみるのが一番いいと思います。
個人的には、機会そのものは多くの人の前を同じように通り過ぎており、ピンとくるセンスが大切だと考えます。やりたいことが分からなくても、「何かありそう」「面白いことにつながる気がする」と思える機会にまずは手を挙げてみる。そんな姿勢が、長い目でキャリアの可能性を大きく広げてくれると思います。
Insights from the summit -編集後記-
この10年ほどのトレンドとして、コンサル業界ではDXや業務改善などパッケージ化しやすいソリューションのニーズが高かった。裏を返せば業務が定型化されやすいということでもあり「今のコンサルで面白い仕事ができるのか?」という疑問があった。
その疑問に対し、杉田さんは「本質的な経営課題に向き合える機会は圧倒的に増えている」と答えた。目の前の事象を近視眼的に捉えるのか、俯瞰して本質を見抜き、その面白さに気が付くのか。インタビューで語られた視座の違いを体感すると同時に、トップが見ている景色を垣間見た瞬間だった。
本質的な経営課題を解くチャンスが豊富な現代は、ビジネスパーソンにとって面白い時代といえる。一方で、常に新しい問いと向き合い続けなければならないため、時代と共に陳腐化する専門性だけでは生き残れない厳しさも併せ持つ。
杉田さんのように社会に大きなインパクトを残す人材になるためには、キャリアの現在地に安住するのではなく、新たな環境へと飛び込む「越境」がキーになってくるだろう。
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