1.広がる波紋。巨人が下した「出社回帰」の号令
「2025年6月より週5日の出社を全社的に義務化する」
3月28日にHRから全社員宛に送付された1本のメールにより、アクセンチュア社内はざわめきに包まれた。
これまで週3日の出社を推奨していた同社は、6月より週5日の出社を必須とする。
「出社できないなら傷病休暇を取得するように言われる」「今までリモートで仕事ができていたのにどうして縛られないといけないの」──。社内では様々な声が上がっている。
同社は2022年8月から「ロケーションフレキシビリティ制度」を導入し、柔軟な働き方を積極的に訴求してきた。4月26日現在では採用ホームページ上に「リモートワークで全国どこからでも、日本中のさまざまな業界のお客様の案件に携わることができます。」と記載されたままだ。
コロナ禍を経てリモートワークが一般化し、働き方の多様性が広がったとされる今、コンサル業界の巨人による出社回帰という決断は、業界内外に波紋を広げている。
ONE CAREER PLUSでは、大胆な方針転換に揺れる社内の声、コンサルティングファーム他社の実態を緊急調査した。
また、同社に限らず出社回帰の波が訪れる中で、フレキシビリティを重視する世代のキャリア形成についても一考を添えたい。
(参考) アクセンチュアが6月から全社員に週5日のフル出社を要求、オフィス回帰の波到来か
2.二分化するアクセンチュア社内の反応。猶予2カ月の現実
アクセンチュア社内での受け止め方は様々だ。中途入社したばかりの30代社員は「転職時にリモートのプロジェクトを選ぶ前提で入社した。家族の関係で働き方を重視していた」と語る。
「対面で仕事をした方が効率が良く、妥当な判断」という声も多く、「負担がかかる人がいたり突然の移行に一定のハードルがあったりはしつつ、粛々と準備を進めている印象」と話す社員も複数いた。
20代の社員の中には「出社してからの方が効率よかったので、ストレスなく移行できた」という声もあるが、若手層の反応は概して厳しい。
「リモートワークが無理なら転職しようかなという人も周囲に一定数いるし、自分もマイナスに受け止めている。今できていることができなくなるということに抵抗を感じる」と2021年に新卒入社した社員は語る。
また、出社回帰に肯定的な声を寄せる社員であっても、移行期間2カ月という短さに驚きの声が上がっている。
全国にクライアント先があり様々な場所に社員が住んでいるので、出社場所の確保にマネジメント層が追われている。客先出社をするにしても100人規模のプロジェクトなどもあり、客先の座席の確保が必要になる。
本移行は6/1だが、4/1から可能な人は先んじてフル出社に移行するようアナウンスがされており、すでに自分のチームも週5出社を始めている (2023年中途入社/アナリスト)
メール内では、クライアントとのミーティングも対面で行うことを推奨されている。そもそもクライアントが出社をしていないケースも多々あるし、複数プロジェクトを掛け持ちしている場合はクライアントサイト間の移動はかなりのロスになる。時間の使い方/働き方の常識を見直さざるを得ない (2020年新卒入社/アソシエイトマネージャー)
引っ越しが必要になるケースや、育休明けで小さい子さんがいらっしゃってリモートメインで働こうと思っていた方は、親御さんや奥さんと調整をしないといけないと話していた。(2020年新卒入社/アソシエイトマネージャー)
3.各社の現状――ベイカレント以外はハイブリッド前提
3-1:コンサルファームの働き方比較表
有名ファーム複数社の働き方指針を比較してみると、各社のスタンスの違いが鮮明に浮かび上がる。
最も出社寄りの方針を示しているのはベイカレント社で、原則出社を「推奨」している。
戦略コンサル3社 (マッキンゼー、BCG、ベイン)は強制的な出社ルールは存在せず、個人の裁量に広く委ねられている。
3-2:各社における働き方の詳細
3-2-1:デロイト トーマツ コンサルティング
デロイト トーマツ コンサルティングの公式HPによると、現在は週2回の出社を原則としたハイブリッド型の勤務体系となっている。
ただし、同社では国内遠隔地居住制度 (※) を導入しており、全社的にフレキシブルな働き方を支援する環境が整っている。(※細則あり。業務上、出社や常駐が必要とされる場合の対応は社内規程に準拠)
2024〜2025年の間にONE CAREER PLUSに投稿された現役社員のクチコミを見る限りでは、クライアントやプロジェクトによる違いはあるものの、週の大半をリモートワークで対応できているケースも見受けられた。
最近までフルリモートであったが、最近になり、週一回の出社が推奨される様になった。但し、プロジェクトによってはクライアントオフィスへの出社等もあり、全てプロジェクト次第なところもある。(回答日2024/02/11 在籍年数3〜5年(現職) 戦略コンサルタント)
クライアントミーティングの日以外はリモートワーク。仕事も休憩も好きな時間にできる。仕事さえきちんとしていれば昼に予定を入れることも可能。(回答日2025/01/20 在籍年数5〜10年(現職) 戦略コンサルタント)
▼参考:ONE CAREER PLUSに投稿された社員クチコミ▼
3-2-2:PwCコンサルティング
PwCコンサルティングの公式HPによると、自宅(在宅勤務)とオフィスを組み合わせたハイブリッドワークが推奨されている。また、介護や配偶者の赴任帯同などを理由とした「出社義務のないフルリモートワーク」や、「居住地を限定しない遠隔地リモートワーク(ただし国内に限る)」も可能な制度が整備されている。
実際、2024年以降にONE CAREER PLUSに投稿されたクチコミによると、プロジェクトによって異なるものの、リモートワーク併用(週に決まった日数の出社)や、フルリモートで勤務している方も確認できた。
▼参考:ONE CAREER PLUSに投稿された社員クチコミ▼
3-2-3:ベイカレント コンサルティング
ベイカレント・コンサルティングに関する社員のクチコミを見ると、会社としては原則出社を求めているという声が多く確認されている。一方で、クライアントの状況や本社オフィスのキャパシティの観点から、リモートワークが可能なプロジェクトも存在するようだ。
リモートワークについて:全社的にはリモートワークは減らしていく方針がある。一方、クライアントや本社のキャパシティーの問題もあり、リモートワークを継続してるプロジェクトもある。(回答日2024/02/05 在籍年数3年未満(現職) システムコンサルタント)
リモートワークについて:基本的には出社が推奨されているが、クライアントの勤務状況に準ずるため、在宅勤務が適用されることもある(回答日2024/05/23 3年未満(現職) 戦略コンサルタント)
▼参考:ONE CAREER PLUSに投稿された社員クチコミ▼
4.「人と人とのつながりをもとにスキルと能力の向上を」――他ファームの追随も待ったなしか
上述した通り、ONE CAREER PLUSの独自調査の結果、アクセンチュア以外に週5日の出社を義務付けるコンサルティングファームは見当たらない。
各社濃淡はあれど、業界に先駆けた出社方針の打ち出しであったことが分かる。
本ニュースを受けて某大手ファームの関係者からは「うちもゆくゆくは…」という声も漏れ聞こえる。
3月28日にアクセンチュア全社員に送付されたメール内では、週5出社に踏み切った背景について「対面でのつながりを強化し、人と人とのつながりをもとにスキルと能力を向上させる」と示している。
実際に、6月を待たず先んじて出社に移行した結果、働きやすさが増したという声も上がっていた。
フルリモートで社会人が始まったが、出社してみて非常にやりやすいと感じる。出社してからの方が効率よく仕事ができる (2020年新卒入社)
一方で、本制度により目的が果たされるのか疑問を投じる声もある。
一つのプロジェクトにコンサルタントが全国から参画している。各自自宅に近いアクセンチュアオフィスに出社することになるため、出社してもチームメンバーと顔を合わせることは実質ない。プロジェクトメンバーの拠点がばらばらというパターンは、体感値だがアクセンチュア全体の3~4割はある印象 (2021年中途入社/コンサルタント)
5. アフターコロナ世代の反応に見る、キャリア世相の違い
人に応じて捉え方は様々な一方で、2020年卒以降に社会人となった世代においては、ネガティブな反応が目立つ。
就活サイトONE CAREERの独自調査によると、アクセンチュア社の2020卒の内定者数は企業全体で600名程度で、翌年以降も継続的に積極的な新卒採用が行われていることに鑑みると、同社における「リモート前提世代」の勢力は大きい。
2021年に入社した若手社員は「フル出社の働き方を入社以来一度も経験したことがなく、適応ができるのか不安」と懸念を示す。
また、同世代で特徴的なもう一つの特徴は、「心の病」の経験者数である。
公益財団法人日本生産性本部の2023年の調査によると、「心の病」が最も多い年齢層について、10~20代との回答が43.9%に急増し、過去最多となった。
同調査内ではその理由を「コロナ禍で入社した若手層がテレワーク等で対人関係や仕事のスキルを十分に積み上げることが出来ない中で、「5類」移行に伴う出社回帰の変化が大きなストレスになったとも考えられる」としている。
ONE CAREER PLUSの独自調査においても、「精神的に毎日出社することが苦痛だという方もいる。業務量も多いので、そもそも勤務だけでもハードなことに加え、リモートならまだ働ける状態の人が週5出社を強いられる」状況に不安を感じる声が同世代からあがっている。
「4月以降先んじてフル出社に移行してからプロジェクトに来なくなったメンバーがいる。出社できないなら休むように言われるが、仕事が減るわけでもないし、カバーする体制を取られていないので実質休めない。精神的に負担に感じる」と続けた。
これを機にキャリアを考え直す。同じ給料で働き方を強制されない場所に移ることを考える人は周りに一定数いる。特に入社5年目で、転職のきっかけになる人は多いタイミング (2021年新卒入社/アソシエイトマネージャー)
自分も周囲も、「さすがに週5である必要はなくないか」という反応。出社の方が効率がいい部分があることは同意している一方で、本制度では体調不良によるリモート勤務なども認められない。(2023年中途入社/アナリスト)
2020年以降に新卒入社した層は、フルリモートの状態で社会人人生をスタートさせている。
ONE CAREERの調査においては、26卒学生の就職活動時の志望企業を決める軸は、「ワークライフバランスの確保」が最多であり、働き方に対する関心が高いことが見て取れる。
(参考)
第11回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果概要 (公益財団法人日本生産性本部)
【2026年卒 就活実態調査】給与・成長よりも「働きやすさ」を重視する傾向が明らかに (株式会社ワンキャリア)
6. 総合・ITコンサルからのキャリアパス――働き方の改善は他ファームへの転職で実現?
では、働き方を強制されることに戸惑いがあるコンサルタントのキャリアには、どういった選択肢があるのか。
ONE CAREER PLUSに寄せられた転職体験談を分析した結果、総合・ITコンサル在籍者が転職を考えるきっかけは下記3つの傾向が見て取れた。
・自分がより興味のある案件に携わりたい
・給与 / 待遇を改善したい
・事業を実際に作る側に回りたい
具体的にはONE CAREER PLUSの転職体験談に以下のような声が集まっている。
セキュリティコンサルタントとして、規程づくりやペンテストのような具体的な対策実施を支援するだけではなく、中長期的なセキュリティ戦略の策定や、次世代の脅威を踏まえたグランドデザイン構想に関わりたいと思い、グローバル案件・上流案件が多い会社に転職を志しました。(アクセンチュア/女性/社会人5~10年)
自社に長くとどまるよりも、転職を重ねることで、自分の市場価値を上げながら、自らの生涯年収の最大化をしたいと考えてました。1年間の前職への在籍を経て、良いオファーをもらえたので転職しました。(アビームコンサルティング/男性/3年未満)
コンサルタントとして身に着けたスキル/経験をもとに、社会に対してインパクトのある事業を、主体者として作り上げる仕事をしたいと思ったため。(シグマクシス・ホールディングス/男性/5~10年)
総合・ITコンサルからの転職には大きく5つのキャリアパターンが見受けられる。
働き方の観点においては、激務からの解放を求めて、他のコンサルティングファームに転職をする事例も複数見られた。
激務で体調が悪くなったことがきっかけ。元々、短距離走的に経験を早く積みたいと考え仕事を選んだが、自分のキャパを超えたことを感じて環境を変えることを決めた。(戦略コンサルタント/30代)
激務であった。入社した時に3年目で転職を考えていたが、2年目で一通り経験ができ、3年目は同じことの繰り返しだと感じたため (システムコンサルタント/男性/20代)
総合・ITコンサルからの転職の全貌は、以下記事を参照されたい。
また、以下記事では、働き方を変えるための転職パターンをまとめている。
7. 変わる常識、求められるキャリア観のアップデート
アクセンチュアの週5出社方針は、単なる働き方の問題ではなく、キャリア観の問いかけでもある。
同社による特定の働き方の「要求」は、昨今のキャリアトレンドであるタイパ思考に代表されるような、激務を避けつつある程度の待遇を得るという、自由と待遇の双方を求めるキャリア観に対する黄色信号とも捉えうる。
数十年にわたるキャリアの中で、我々がキャリア観のアップデートを要求される場面は案外多い。
2019年に社会人人生をスタートさせた筆者も、2020年のコロナ渦における働き方や社内関係構築方法のアップデート、2023年の外資IT企業の相次ぐ退職勧奨(実質的なレイオフ)など、従来抱いてきたキャリアの常識転換を短期間で求められる経験が複数思い当たる。
キャリア選択はつまるところ、働く場所や労働時間・報酬・やりがいなど複数の要素の最も自分らしいバランスがどこで、それが企業が提供しうるバランスと合致するかの調整である。
コロナ渦という働く前提がイレギュラーだった期間を経て、「柔軟」サイドに傾いていた企業がより筋肉質な組織へと帯を締めなおす事例は少なくない。
キャリアの常識変容が短いスパンで行われる今の時代だからこそ、柔軟にキャリア観をアップデートしつつ、芯として据える自身の確固たる意思決定軸を見つめなおしたい。
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