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【新トップ就任】ジャフコ三好×北野:スタートアップキャリアとお金の極意



トップベンチャーキャピタリストから見た「スタートアップキャリアとお金の極意」とは。


特集「スタートアップ転職と報酬」。



次のキャリアが見える、転職サイト「ONE CAREER PLUS」がお届けする本特集#4。



ジャフコ グループの新社長である三好啓介氏をゲストに迎える。



三好氏といえば、21年のIPOを通じた利益額がトップ※とも言われる、あのジャフコの新社長に就任された方です。25年以上ベンチャー投資に向き合い続け、トップVCの代表に就任した、いわば「真のトップベンチャーキャピタリスト」の1人とも言えます。


対する聞き手は、20万部以上のベストセラー「転職の思考法」の著者であり、ワンキャリア取締役の北野唯我。


2022年に入り、金融市場は揺れ、上場ベンチャーの市場からの評価は厳しい局面に差し掛かり、上場延期となったスタートアップも数知れず。先行きが不透明な側面もある中、「スタートアップ転職と報酬、キャリア」に対してどんな思考法で挑むべきか。


トップキャピタリスト×キャリアの専門家の白熱する対談は、90分に渡った。


前半はこれまでのスタートアップ市場自体の変遷とこれからの話を、後半はこれからのスタートアップ転職や報酬に対する思考法にまで及んだ二人の激論を余すところなくお届けします。


※出典:日経産業新聞『21年のIPO利益額ランキング、「大物狙い」ジャフコ首位


目次



【前編】 国内スタートアップ市場の変遷


まずは、スタートアップ・ベンチャー市場のこれまでの変遷とこれからを、三好氏に伺った。


4度目のブームで見えた「人の価値観の変化」


三好啓介(みよし けいすけ):ジャフコ グループ株式会社取締役社長

日本合同ファイナンス(現ジャフコ グループ)に入社以降、25年を超えるキャピタリスト経験を有する。2013年以降は国内VC部門の担当役員としてジャフコのVC部門の投資全体に関わり、シンプロジェン、マイクロ波化学を始めとする大学発ベンチャーにも積極的に関与してきた。2022年4月1日より現職。



北野:今スタートアップを取り巻く状況として資金調達額の推移を見てみると、マクロでは前年対比で過去10年ほぼ右肩上がりを示しています。


出典:株式会社ユーザベース「2021年 Japan Startup Finance ~国内スタートアップ資金調達動向決定版~



北野:一説には「これまで日本に3回のベンチャーブームがあった」とされ、今回は遂に大きな変化の局面になる「本物」の4回目が起きつつあると言われています。三好さんの実感として、「第4次ベンチャーブーム」について率直にどう思われますか?


 

三好:率直に日本のスタートアップを見ていたなかで、ようやくここまできたな、と。



北野:確かに、25年以上ベンチャー投資に向き合い続けてきた三好さんからすると、ようやく、ですよね。今回のブームを後押ししてる背景は、投資金額の増加以外にどんな背景があるのでしょうか。

 


三好:決定的な変化を強烈に感じるのは「人の価値観の変化」です。


日本で長く信じられていたビジネスの成功モデルは、優秀とされる人たちが優良企業に入社し、積み重ねて成果を出し続けていく終身雇用制度でした。


ただ、2008年のリーマンショックをはじめ経済が低迷し色々な変化を経て、2012、13年あたりから様々なタイプの起業家が生まれ、急成長する人たちも出現し始めた。さらにそれを見たり関わった人達が、「自分もやってみよう」「関わってみたい」と、スタートアップに足を踏み出すことをリスクと感じなくなるなど波及していった。



まさに「人の価値観がどんどん変化した」ことが非常に大きい。


 

日本企業にとって大小あれども採用は共通の課題だった。この何年間かで価値観が変わってきて、急激に変わったのは、その会社で相応の資金を持った時に、魅力ある人材がどんどん集まり、ビジネスの成長を加速させる。この動きが、企業が短期間でいろんなものを実現することを可能にしました。



北野:整理すると、こんな現象が起きているということですね。



・資金調達の環境がよくなり、ベンチャーが資金を持てるようになった。

 ↓

・そんな時代に、「人の価値観の変化」も加速した。

 ↓

・その結果、「人の流動性」も加速しはじめた。



直近の日本経済新聞社の記事(※)でも話題になった、「大企業とスタートアップとの年収差が縮まった」という話。


これももちろんデータの偏りはありますが、年収1000万円の求人比率は大手を凌ぐ勢いという結果すら上がってきました。大手からスタートアップへの転職者数は2018年度から2021年上期の間に7倍に増え、かつてのスタートアップの「多忙で薄給」のイメージは払拭されつつある点も、「人の価値観の変化」を後押しする要因になっていますよね。


※出典:日本経済新聞社「大企業から新興へ転職者7倍 縮む年収差が追い風


 

多様化するスタートアップと経営者


北野:日本のVC業界の最先端を走ってきた三好さんが手がけられた投資先には錚々たる顔ぶれが並びますね。

 


三好:比較的、最近担当させていただいた投資先をあげていますが、大きく感じるのは「スタートアップのタイプの多様化」そして「経営者、経営陣が変化し続けていること」をまざまざと感じます。


参考:三好氏が担当された近年の投資先(一例)



LayerXの福島社長は東京大学の大学院在学中に同級生とグノシーを創業、上場を果たし、その後にまた新たにLayerXを立ち上げたシリアルアントレプレナー(連続起業家)というタイプです。令和トラベルの篠塚社長、障がい者雇用支援サービスを提供するJSHの野口社長も同様です。

 

一方、ZEALS(ジールス)の清水社長は学生時代の創業ですし、他、大学発ベンチャーと呼ばれる、研究者が中心となったスタートアップが生まれるなど、本当に様々なタイプが台頭してきています。

 


北野:ほとんどの人が資本市場のなかで働いているが、そもそもVCがこのスタートアップ市場に対して果たす役割は?

 


三好:大きく言うと、産業の新陳代謝を促す役割の一部を担っていると考えます。小さく言うと、起業家の方に出資して新しいチャレンジに関わりながら、一緒に事業を作り、成長の伴走をしていく。

 


スタートアップの狙い:すきまから王道へ


北野 唯我(きたの ゆいが):株式会社ワンキャリア 取締役/作家著述家

新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局勤務。米国・台湾留学後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役として戦略・採用・広報部門を統括。2021年10月、同社は東京証券取引所マザーズ市場に上場。作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が20万部、他に『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などで、著者累計40万部。



三好:かつてベンチャーやスタートアップが狙うものは、色々な産業の隙間を捉えるニッチビジネスが中心でしたが、それが今は全く違って、どの起業家も隙間なんて考えていない。


世の中の産業構造を根底から作り変えるようなスタートアップが出現している。スタートアップの概念が変わるのに伴い、雇用のあり方、採用のあり方、あらゆるものの作り変えが起きているのです。

 


北野:国内のスタートアップが狙うものも、すきまから王道へ変化している、ということですね。三好さんのお話から察するに、VCのスタートアップ投資、以下のように出資を決断される対象が変化しているということでしょうか?


【過去の投資対象】

小規模なTAM(実現可能な最大の市場規模)を狙う企業

 ↓

【近年の投資対象】

スケールの大きいTAMを狙う企業

ひいては産業を再構築するような事業を展開するスタートアップ

 


三好:はい、まさにスケールの大きさにつながる投資を実現したいと思っています。日本人の価値観の変化の話と重なりますが、世の中の人が産業を再構築するようなチャレンジや実現ができると信じ始めたことは大きい。


変化の実現に懐疑的な人が多数派ならば起こりえないこと、合理的でないものが変えられる現象を、個人が実例を通じて価値観を変化させたように感じます。

 


揺れた資本市場と始まるゲームチェンジ



北野ここ最近のスタートアップの上場動向について、中長期的な目線からどのように解釈されているかお聞きしたいです。2021年後半までは国の量的緩和策も手伝って、株式市場やマザーズも盛り上がっていたのが第4四半期に突入すると、落ち込みがあったと思いますが。

 


三好:私は全く違和感を感じていない、というのが率直な感想です。株式市場において、上がったり下がったり、マーケットの調整は必然です。



ただ、今起きているのは「全く新しい世界を実現する」という大局の変化です。



この方向に進んでいっていることは間違いないと確信しています。日本のスタートアップの市場規模は米中よりはかなり小さいが、国として持っているものを比較すると、そこまで小さくもない。このギャップは急激な勢いで埋まると思います。人の価値観の変化が追い風になるのはもちろんですが、日本人の性質が果たす役割も大きいと考えます。


最近で言うと、新型コロナウイルスのワクチン接種が分かりやすい例です。


当初は動きの遅い印象でしたが、一度方向性が決まると一気に進むという国民性を象徴しています。日本は、大衆で概ねのコンセンサスが取れたときに物事が動くスピードが速いんです。

 

話をつなげると、これまで違和感があった部分を変えよう、サステイナブルに舵を取ろうというコンセンサスがとれたわけです。日本社会でこの条件が整ったときの変化率は凄まじい。非常に面白い局面を迎えていると思います。

 


北野:なるほど。本質的なゲームチェンジが起こる可能性がありますね。前提条件が整った上で、次に起きるイベントは何が考えられるでしょう?

 


三好:現在進行形で起きている事象で、まずは真の意味で海外から資金流入が増加すること。そして、大手企業からスタートアップへの人材流入がもう一段、二段加速していく。この2つが考えられます。




【後編】 スタートアップキャリアとお金の極意


───ここからは、特集テーマについて、北野が、ONE CAREER PLUSの調査データも交えながら、三好氏に見解を伺う。



全員が年収ダウンする時代は終わった

 

北野:弊社がまとめたデータでは、スタートアップへ転職後に、転職前の年収と比較して年収アップを果たした人は半数(54%)を超える割合となりました。




そして、転職したタイミング、つまり前職退職時の年収とスタートアップ入社時の年収の比較で見ると、報酬が上がった36%の方のうち、〜50万円上がったケースが50%。場合によっては、300〜350万円以上プラスしたケースもあります。





北野:もちろん回答される方の性質上、一定偏るとは思うのですが、割り引いて見ても一昔前にはなかったことなのかと思います。この動向を踏まえて、今年のスタートアップ転職と報酬というテーマについて、三好さんはどんなご意見をお持ちですか?



三好スタートアップを相対的にみた場合に年収が上がっていることは間違いありません。


とはいえ、所謂、上場企業を抜いているかというと、実際はそこまでは及んでいないと思います。



北野:スタートアップ転職を考えている方は、この実態をどう解釈すれば良いでしょうか?



三好:メカニズムとしては、大企業の作り上げられた仕組みは、世の中で増えた多様性にフィットしづらく、ズレが出てきた。そのズレを突いたのがスタートアップです。


スタートアップは報酬制度なども最初はゼロベース。だからこそ、大企業の人事・報酬制度では採用オファーしあぐねる人材に対して、経営者の意思決定次第で、破格の条件提示ができるわけです。こんな現象が多く見られ、トータルでの年収を押し上げている部分もあるのかなと。



北野:ということは、弊社のユーザーに多いU-30のビジネスパーソンからすると、少し遠い話にも思えるのが本音です。



三好:そんなことはないですよ。20代の方も含め、上がる方もいれば、若干下がる方もいて、フラットな結果もある。



この類の話で大切なことは、どの年代で切り取っても「全員が年収ダウンする時代は終わった」というのが正確なところです。



裏を返すと、転職先が大企業かスタートアップかという問題は、年収の点では関係ないレベルまで、市場として進歩したということです。

 


人生100年時代におけるスタートアップ転職の是非




三好:それぞれの個人の「どう生きたいか」の想いと照らし合わせたときに、スタートアップを選択しない人がいていいと思うし、それは個人の自由です。今は、大企業への転職、はたまた違う道か、スタートアップか、個人のキャリア選択に対する概念がフラットな状態になったと思います。

 

スタートアップで数年働くことで得られる経験の濃度は、大企業で10年かけて体験するレベルの業務に匹敵するとも言えます。自分の人生を5年、10年のスパンで分割して考えたときに、一つのサイクルで何を目的にどんな経験を求めるのか、ひいてはどう生きたいのか、という思考の変化にフィットするならばスタートアップが魅力的な選択肢だと思います。

 


北野:人生100年時代において、キャリアにスタートアップで得られるような経験を取り入れることの意味は、深く実感します。


私も20代後半から30代前半のスタートアップでの経験を振り返ると、もはや「青春」だったと思います。もちろん大変なことも多かったけれど、純粋に楽しかった。人生の1サイクルでこんな経験をして本当に良かったと思っています。

 

そもそも現在の日本の人口ピラミッドは典型的な壺型で、第一次と第二次の2つのベビーブームの年代の人口が多く、若い世代はどんどん減っているのに数が多い上の世代を支えなくてはならない。成長の可能性のある事業を抱えていない大企業も同様のことが言えます。


長い目で見たときに、構造的に年収や待遇が上がりづらくなる構造の中で、大企業かスタートアップかという二元論ではない、成長しているところキャリアをポジショニングすることの意味を、数字と理論をベースに自ら見極める力が大切だと思います。

 


知っておきたいストックオプションの捉え方




北野:少しニッチですが、気になるポイントにも触れたいです。それは、ストックオプション(新株予約権:以下、SO)の話。特にアーリー〜ミドルフェーズのスタートアップへの転職では、このポイントをどう理解すればいいのかといった声もあります。



そもそもSOとは、権利付与があり、その後株式上場(イグジット)を経て、定められた権利行使期間を経ると、株式売却が可能になる仕組みです。その際に、権利付与時の行使価格と株式売却時の差額(実現益)を、キャピタルゲインとして得ることができる仕組みであり、米国では1960年代から浸透している。ジャフコさんは、このSOを日本で初めて仕組み化したという背景もあります。そんなジャフコの三好さんから見て、今の日本のSO制度についてどう思われますか?



三好:ものすごいニッチな話になりますね(笑)。昔、SOというものは日本に存在していなかった。新株引受権付社債を、法的にも税制的にもクリアする形で、「疑似ストックオプション」として未上場企業が使える形を作り上げたのがジャフコで、これが日本でのSO制度の先駆けとされています。


最近ではSO制度自体は一般的になりつつあるものの、経営者の方々は自分の会社でどう使いこなすかを考えているのが現状だと思います。もちろんSOを使わない選択もあります。

 

本音でお話しすると、付与される側も、SOの仕組みを導入する企業側も、両者に言えることですが、SO制度のメリット・デメリットを含めてしっかりと知っておく必要性を強く感じます。


そうでないと、会社としては付与したのに、貰った側はSO保有の意義にモチベーションを感じられない、とか。逆も然りです。

 

また、従業員の間での公平感の差も問題です。入社するタイミングによって付与条件が変わるため、不平等感が生まれてしまう。こういった課題を考慮したうえで、SO制度を使いこなせるかがポイントだと思います。


 

北野:なるほど。VCからすると株式という形での報酬は、株主と経営陣、従業員が同じ方向を向くためには有用じゃないですか?


株式を保有していない従業員にとっては、自社株が値上がりしようが値下がりしようが、自分の給与には関係ない。弊社のスタートアップ転職経験者向けアンケートでも、要は「期待はしてもいいが、当てにしないほうがいい」という声も多く寄せられました。


一方で、三者が企業価値をあげるために動くようSO制度をうまく使っているのがGoogle。VC目線では、経営者のSO制度を使いこなす能力は重要なのでしょうか?

 


三好バランスですね。金銭かSOか、どちらも報酬なんです。


このバランスが崩れていると、うまく上場して株式価格が高くなったときに売却して辞めようかとか、株価の高下に一喜一憂して本来の仕事ができていない、とか。下手をするとこういう現象が起きてもおかしくない。


だから経営者が、ベクトルの整合性をどう高めるか、自分の会社に導入するか、個別のテーマになってきます。



キャリア選択に、現代の投資家目線を




北野:実際にスタートアップに転職しようと考える人は自分のキャリアに投資するという思考で、VCと似たものがあると思います。三好さんがスタートアップへの出資を決断するときのポイントをお聞かせできますか。

 


三好「この会社、この事業、この人の何に賭けるのか」「自分は何に賭けるのか」を明確にします


個人の転職先を選ぶ判断も同じだと思っていて、自分のキャリアサイクルや人生を考えたときに、「ここからの何年間にいったい何に賭けて生きるのか」をクリアにするべきです。

 


北野:なるほど。例えば、昨年IPOを果たした、C2Cのスキルマーケットプレイスであるココナラへの投資では、どういう部分に賭けたんですか? 



三好:ココナラは、知識・スキル・経験を売り買いするマッチングビジネスです。マッチングビジネスで重要なのは、出品者か購入者か、軸足をどちらに置くかということ。企業側がニーズを持っていて企業側に軸足を置いているモデルもあるなかで、ココナラは、出品者側に軸足を置いている。私は、この出品者に寄り添う姿勢が大切だと思っていて、そこに共感して出資を決めました。


出典:ココナラのサービスページ


三好正直、一番見ているのは社長の人間性や人となりです。


色んなタイプの方がいるのですが、一貫して尋ねるのは「あなたは何がしたいの?」ということです。


揺るぎない実現したいこと、ビジョンがあれば、多少問題が起きてもビジネスモデルを一緒に修正しながら前進できますしね。


また、今は起業家個人の人間性だけでなく、チームを見る必要があると思います。


昔は一騎当千のような社長が大軍を作り上げるのが日本の成功起業家のモデルだった。こういうタイプもまだいますが、近年はチーム編成に対する理解が広まっています。社長は責任を負うといえど、役割分担の仕方、議論の仕方とか。目指すゴールへの行き方をみんなが考えるようになったんですね。だから立ち上げのボードメンバー、チームこそ重要です。



北野:チームの重要性について、ある方は「ルパン三世チームこそ最強説」と聞いたことがあります。もちろん理想論通りに行かないことが往々にしてある中で、諦めず模索することが重要ですよね。



三好:そうですね。それに、チームのあり方は、年々重要性が増しています。その理由は、何よりも成長スピードが求められるためです。


スケールアップを見据えると、権限委譲も発生するからこそチームのバランスが要になる。競争環境も厳しくなるし、スタートアップ自体も変化し続けなくてはならない。ワンマンの経営者ならば自己完結できる過程を、チームは複数人でディスカッションを重ねる。そのためにはメンバーの役割分担とか共通項を明確化し、それぞれが能動的に自走しなければならない。だからチームはすごく大事ですね。

 


フェーズ毎の違いは、宮本武蔵・織田信長・徳川家康?



北野:今回の関連した特集でも「スタートアップのフェーズごとのキャリアの選び方」として、以下の通り、取り上げました。



北野:個人の実感値としても、フェーズによって活躍する人材像が変わるなと感じます。歴史上の人物に例えて、こんな持論を持っています(笑)


・シード期は、無骨で1対1の戦況を得意とする【宮本武蔵タイプ】

・サービスをグロースさせる段階では、攻めの姿勢の【織田信長タイプ】

・さらに大きくなると、長期的な安泰に向けてシステム構築する手腕がある【徳川家康タイプ】


三好さんが思う、フェーズ別に意識すべきことはありますか?



三好:シード期というのは色々なものが揃っていない、混沌とした状態です。「こんなことがやりたい」という漠然としたビジョンのみでチームが作られているレベル。ありとあらゆることを経験したい人ほどシード期のスタートアップは魅力的。ただ、そんなに甘くはないので、失敗することも多い。このリスクを超えて挑戦したい人がフィットします。

  

続くアーリー、ミドル、レイターと、規模に比例して、社内の仕組みも整備されます。企業成長への道筋ができつつある中で、そのダイナミズムを体験・理解したい人には良い選択です。一方、フェーズが進むに連れて、メンバーのやるべき業務が固まってくる。それが良いと思うか否か、ということですね。



事業が成長する会社なら、必ず人は成長するのか




北野:あと「成長している会社に行きなさい」という主張に対して、あえて疑問をぶつけたいとも思っているんです。



事業が成長している会社で働けば、必ず人は成長するのか、という問いです。



事業の成長と個人の成長の関係性について、三好さんの考えを伺いたいです。



三好:個人の成長においては、「自信」をいかにつけるか?が大事です。


失敗経験から人は学ぶことも沢山あるんですけど、決定的に自信につながるのは「成功体験」です。


この成功体験を得るには、いろんな体験の積み重ねです。事業がうまくいったとか、みんなで目標に達したとか、こんなものが作れた、とか、積み重なると絶対的な自信になる。


人生のサイクルで、全く新しいものに直面したとき、「あれを経験した」と思えることの自信の有無が響く。だからこそ、成長していく会社に身を置いて経験することはものすごく重要だと思います。 


 

北野:個人のキャリアを考えると、カオスなフェーズに身を置くことで得られる経験は、複利で効いて、さらに面白い挑戦につながる。スタートアップへの転職は、まさにキャリアの投資回収というという見方ができると思います。



ミッションへの共感度:VCも震えたグノシーの2つの意思決定




北野:転職するスタートアップのフェーズによって得られる経験が違ってくることは理解しましたが、企業が掲げるミッション(企業理念)やパーパス、コアバリューについてはどの程度見ればいいんでしょうか?

 

三好:個人の転職をVCの投資に置き換えた場合、「投資先のパーパスにどれだけ共感できるか?」は、決断において一二を争う重要なポイントです。


過去に出資したグノシーには、創業初期から昨年まで約9年もの間、会社の成長を支える指針「Gunosy Way(グノシーウェイ)」が運用されていました。「数字は神より正しい」という考えの元、プロダクトが変化したことには非常に驚かされました。企業が掲げるパーパスが製品を変えるパターンに遭遇するのは稀なことです。

 

当時、グノシーの前にはスマートニュースが立ちはだかっていたとはいえ、事業は順調でした。



それなのに、「数字は神より正しい」に則って考えて、既成のグノシーのプロダクトを再構築する決定をした。VCの立場からすれば震え上がる話です(笑)



苦労して作り上げて目標も達成したサービスを自ら壊し、作り変えるに至った理由は、グノシーウェイの理念に基づいた判断だったんですよね。

 

このようにスタートアップでは信じられないようなことが起こり、大きな変換点に対峙する機会もある。なかなか大企業では成し遂げにくいことですが、スタートアップだからこそ変化と成長を実感できる、まさに醍醐味ですよね。

 


もうひとつ、グノシーがテレビCMを打つことを決めた意思決定も忘れられません(笑)



インターネット広告の収益を散々計算し尽くしたアプリサービスが、費用対効果が不明瞭なテレビCMというマーケティング手法に踏み切るというのは、前例がなかった。この時は痺れましたね(笑)。

 


北野:その意思決定にはどんな過程があったんですか?


 

三好:やはり自分たちのサービスが何を実現したいのか、どんなユーザーに使って欲しいのか、この2つを考えた。グノシーが実行できるマーケティング手法の延長線を追求したときに、テレビCMにチャレンジしなければ自分たちが目指す場所へは行けない、と。これもスタートアップでないとなかなか出てこない意思決定でしょう。 



【特別パート】 三好氏からのメッセージ 


───最後に、今回の長きに渡る対談の最後に、ワンキャリアの北野から、今春にジャフコの代表になられた三好氏に決意を伺った。


叶わぬ起業の夢がキャピタリストへの旅路に




北野:最後に、難しい質問ですが、ジャフコの代表として、三好さん自身が「信じられていること」を聞いて終わりにしたいと思います。

 

三好:人っていうのはやっぱり、どこまでいっても、より良いものを求めるものだと思っている。より良いものを求める以上、新しいものを作ろうだとか、変化させようとか、必ず起きる。で、前のものがより効率的になればなるほど、その革新、再構築への欲求は強まる。だから、新陳代謝は必ず起きるし、その時々のニーズに合ったサービスが生まれてくる、というのは強く信じていますね。その瞬間に立ち会える。だからこの仕事は面白い。

 

私は起業家になりたかったんです。ただ1993年にバブルが崩壊し世の中は混沌の真只中。現実問題として起業の夢が叶わない、そういう状況で、自分の目標への最短ルートを考えた時にたまたまベンチャーキャピタルの仕事と出会い、ここまで続けてきました。

 

私自身が一生をキャピタリストとして過ごそうと思っていなかった人間が、業界に入ってみて、明日には世の中が変わっているかもしれない、明日の自分は変わるかもしれない、そんな環境にワクワクする人ならばVC以上の仕事はない。叶わぬ起業の夢のおかげで、ベンチャーキャピタリストとしてのキャリアの旅を続けてこれました。やりたいことが多すぎる人にはうってつけでしょう。これ以上の仕事はない、そう思いますね。




記事特集「スタートアップ転職と報酬」


本特集では、独自調査に加えて、サービスに集まった2,000件以上の転職体験談の生声、ゲストを招いた有識者との対話も交えて、「今のスタートアップを、個人やキャリアや転職、どう解釈するべきか?」という問いに向き合っていく。



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【執筆:川和田愛恵】


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