2025年は外資IT企業での大規模なレイオフが相次いだ。マイクロソフトでは約1万5,000人、アマゾンでは約1万4,000人の人員削減が計画されるなど、その勢いは止まらない。これまではパンデミック期の「過剰雇用の修正」が主因であったが、2025年以降は「AIによる業務代替」を目的とした組織再編へと質を変えている。
この「AIリストラ」の流れは2026年も続くのか。そして日本にはどのような影響があるのか。最新データと「ワンキャリア転職」に寄せられた現場のクチコミを基に予測してみた。
1. データで見る:リストラの質が変わった。外資ITは「人員整理」から「AI再編」へ
まず、過去3年間の人員削減の変遷を整理する。以下の表は、主要テック企業の動きをまとめたものである。2023年の「守りのリストラ」から、2025年の「攻めのリストラ」へと、その理由が明確にシフトしていることが見て取れる。
(参考)
米アマゾン、本社部門で最大3万人削減へ 28日開始=関係筋 | ロイター
Update on Meta’s Year of Efficiency
米IT大手のメタ、1万人削減 昨年11月に続く大規模リストラ:朝日新聞
A difficult decision to set us up for the future | Google
Salesforce turmoil continues into new year, as recent layoffs attest | TechCrunch
Googleなど米IT、1月1万人削減 組織スリム化でAI集中 - 日本経済新聞
Microsoft、全社員4%の9000人解雇 巨大テックがリストラ加速 - 日本経済新聞
Staying nimble and continuing to strengthen our organizations | Amazon
米企業95万人削減、迫る「AIリストラ」の現実 雇用なき成長探る - 日本経済新聞
米IBM、数千人規模の人員を削減 IT企業でリストラ相次ぐ - 日本経済新聞
2025年に入り、米国では「AIの導入」が人員削減の理由として急浮上している。中でもアマゾンやマイクロソフトは過去最高益を更新する一方で、大規模人員削減を決めた。企業は記録的な利益を上げながらも、AIという新たな競争軸にリソースを全集中させるため、既存の組織を「破壊と再生」のプロセスに置いている。
2. AIリストラの日本への影響は
グローバルで吹き荒れる嵐に対し、日本法人はこれまで、比較的穏やかな状態にあった。しかし、クチコミや元社員の声を紐解くと、確実な変化が起きていることがわかる。
2-1. 日本ならではのカルチャーとレイオフ事情
多くの外資系日本法人は、本国のドライな論理と、日本のウェットな雇用慣行の間でバランスを取ってきた。「ワンキャリア転職」のクチコミからも、日本独自のカルチャーが定着してきた様子が伺える。
- 日本オラクル
「外資だが日本企業。学生時代に海外で生活、または前職で英語を使った仕事をしていた中途社員は一部のみ」(新卒入社 / アプリケーションテクノロジーコンサルタント)
- セールスフォース・ジャパン
「外資系であるためドライな人間関係かと思っていたが、人間関係は日本企業のように温かく、ドライな印象は無くなった」(中途入社 / 法人営業)
「外資系の割には非常にドライ、というわけでもなく一定助け合う文化なども存在しており日系企業みたいな雰囲気は感じました」(中途入社 / インサイドセールス)
- デル・テクノロジーズ
「外資系特有の変化に対するスピード感と、日系の安定的思考を持ち合わせているような感じで、外資と日系が入り混じっている文化」(新卒入社 /情報システムエンジニア)
「実力主義をイメージしていたが、中身は日系企業である。上司に気に入られれば良いアカウントがアサインされる。若手の出入りは多いが、マネージャー級のベテランは在籍が長い」(中途入社 / インサイドセールス)
- 日本IBM
「所属部門やプロジェクト部門にもよるが、外資系企業と日本企業の間のような環境(新卒入社 / プロジェクトマネージャー)
「事業部によって大きく異なる。インダストリー組織の社員は比較的社歴が長い社員が多いことから昔ながらの日系企業的な雰囲気の印象を受ける」(新卒入社 / マーケティングコンサルタント)
日本では労働基準法などで解雇規制が設けられており、外資系企業でも簡単にレイオフができない。そのため、自主退職を促す形(退職勧奨)で人員を整理してきたこともあり、レイオフの影響が見えづらかった。加えて、クチコミにある「日本的カルチャー」により、従業員が長く働ける環境が整えられていた面もグローバルとの違いだろう。
2-2. 「出社回帰」という踏み絵
しかし、法的に解雇が難しい日本において、企業側は別のアプローチで人員適正化を進め始めている。その象徴が出社回帰の加速だ。
2025年、アマゾンは「週5日出社」を義務化した。これは単なる勤務形態の変更ではなく、フルリモートを前提としていた社員や、遠隔地に居住する社員にとっては、事実上の「退職勧奨」として機能し得る。
実際にアマゾンに勤務していた30代男性は、「出社になるかもしれない」という噂を耳にし、即座に転職活動を開始した。彼は、コロナ禍での大量採用後の成長鈍化と人員余剰の噂から、この出社回帰を「レイオフ(解雇)ではなく、『自主退職』を促すための実質的な人員削減策ではないか」と推察していた。
また、クチコミを見ると、M&Aやグローバルポリシーの変更によって、かつての「自由で働きやすい環境」が一夜にして塗り替えられるケースもある。AIによる組織再編が、このような形で現れることも考えられるだろう。
買収により、取り扱う製品ラインナップが縮小。雇用条件なども変わり全くの別会社となった印象のため退職を検討。(VMware(ヴイエムウェア)/代理店営業・アライアンス/中途入社)
結局買収されるということ。そこが事前にわかっていれば、入社はしなかったと思う。また、買収されても、組織変更はすぐさま起こらないと人事に言われていたものの、それは完全に嘘だった(ツイッター/法人営業/中途入社)
3. 2026年予測:グローバルのAIリストラの波は、日本にどう波及するか
今年の外資ITの流れを見ると、2026年はグローバル本社からの「AIによる人員整理圧力」がさらに強まることが予測される。日本市場にはどのような影響があるのか、3つの観点から予測する。
1. 外資日本法人の「日系カルチャー」の薄まり
これまで多くの外資系日本法人では、本国のドライな方針と日本のウェットな慣習を調和させる「緩衝材」として、独自のカルチャーを築いてきた。クチコミに見られる「外資だが日本企業的」「家族的な雰囲気」は、このバランスの上に成り立っていた。
ただ、AI導入によるグローバル規模での人員削減や組織改変が進めば、日本独自のカルチャーも軌道修正を余儀なくされる場合もあるだろう。
2. 出社回帰のさらなる加速
マイクロソフトは2026年から週3日の出社を義務化することを発表しており、出社回帰の流れは来年も続きそうだ。対面で仕事をする前提にすることで業務の効率化を図る狙いもあるだろうが、AIリストラを推進するために出社回帰へと向かう企業も増えるかもしれない。
3. 特定職種の人材移動
AIによる人員整理は、特定の職種から起こる可能性もある。セールスフォースの マーク・ベニオフCEOは、AIエージェントの導入によりカスタマーサポート部門の人員を9000人から5000人程度に減らすことに成功したと公表している。
他にもアマゾンの1万4000人規模のリストラは、管理部門を中心に行う方針が示されている。AIリストラの波は特定の職種・ポジションから起きる可能性が高い。
ただ、外資ITで働いた経験は他の企業でも評価されるケースが多いため、退職後も新しいキャリアを手に入れるチャンスは十分にある。その点では、外資ITのレイオフをきっかけに、特定職種において人材移動が起きることも予想できる。
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(参考)AIのおかげで4000人のカスタマーサポート要員を削減できたとSalesforceのCEOが語る | GIGAZINE
Amazon、AIが促すホワイトカラーのリストラ 1万4000人削減を発表 - 日本経済新聞
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