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KPMGから大手メーカーの経営企画部へ。年収の上下より10年先の市場価値を見据えた一歩|辞めコン実録集 vol.30

コンサルキャリアで最も特筆すべきことは、「ネクストキャリアを見越した入社」の方が多いことでしょう。

そして、コンサルに入社した方の多くが直面するのが、以下のような問いです。


・いつファームを去るべきか

・コンサルを経由したからこそ行けるネクストキャリアはどこか

・年収の増減をどう捉えるか


本シリーズでは、実際にコンサルを卒業してネクストキャリアを歩まれる方々にインタビューをし、ポストコンサルキャリアの実録を集めていきます。




実録:突き破れる人はほんの一握り。だからこそ次の舞台へ



コンサルで高いスキルと専門性を両立した『スーパーマン』になれると思っていました。でも実際は、一握りの人しか突き破れない壁があると気づいたんです


国立大学経済学部を卒業後、新卒でKPMGに入社、約3年間コンサルタントとして活躍したOさん。2024年2月、彼は大手部品メーカーの経営企画部へと転職しました。


一見順風満帆に見えるキャリアの中で、なぜコンサルを離れ、モノづくりの最先端に身を置くことを選んだのか。その背景には、若手コンサルとして直面した限界と、長期的なキャリアビジョンがありました。






新卒でコンサル入社。毎日新しいことを学べる刺激的な環境だった


国立大学経済学部を卒業後、Oさんは新卒でKPMGに入社します。プール制の1年目は業界ではなくソリューション軸で案件を担当しました。



モノづくり関連に希望を出し、結果としてアサイン先はサプライチェーンのユニットでした。正直、最初は業務内容も、適性もよくわからないうちにアサインされました。

最初は出版業界における新工場設立に伴うオペレーション構築支援のプロジェクトでした。そのPJの中で、私は製造実行システム(MES)刷新に携わっていました。クライアントは導入システムを決定済みでしたが、現行システムもサービス終了(EOS)とはなったものの、使用は可能な状態でした。

現状維持も選択肢として取りうる中で、なぜ新システムを導入するかに関する社内稟議書作成と、そのシステムの導入が問題ないかを検証するためのテストケース作成を支援しました。




最初は製造やITの簡単な用語すら分からず、議事録を取るにも半日かかるほど大変でしたが、毎日新しいことを学べることが刺激的で、自分の知らない世界が開けていくことが楽しかったです。


続いて、大手小売チェーン店におけるSaaSシステム導入の要件定義フェーズにおける業務・データ移行方針の策定や、大手金融企業における新規事業開発のアプリリリースに向けたPoCやUAT、ベンダーマネジメントを経験。



UATでは様々なシナリオで検証を行い、合計200件程のバグを見つけました。目立たないが、クライアントから品質の要になっていると評価され、嬉しく思いました


さらにその後は、半導体部品メーカーにおける基幹システム導入と業務再設計、自動車部品メーカーにおける調達部門の業務改革、それに紐づくシステム導入を行いました。






KPMGで掴んだ、問題解決のシンプルな型


様々な案件を経験してOさんが学んだのは、実際に目で見て、情報を集めて整理し、わからないことをとにかく聞くこと。そしてそこから、会社がナレッジとして持っているあるべき姿と照らし合わせることで、クライアントが見えていなかった問題点を洗い出し、複数の解決策を用意して、議論することで、クライアントにも検討に参画してもらい、最終的に納得できる意思決定につなげる。


すなわち「情報収集」「あるべき姿の定義」「問題点抽出」「解決策提示」「施策の意思決定・実行」という問題解決のシンプルな型でした。



シンプルですが、意外と案件で行動として実践できている人は少ないと思います。特に情報収集では、クライアントの現状収集を重要視していました。例えば業務改善をする際には『いま何に困っているか』を現場に聞くだけでなく、必ず目の前で業務を実行してもらうという一次情報の取り方をしました。こうすることで、コンサルタントの業務理解や、クライアントの説明能力に依存しない、業務のムダを見つけられます。




そして現状可視化。発言や実際の作業から、「同じような業務をしている人は何分時間がかかっているか」「作業のやり方は同じか」をヒアリングし、作業レベルまで理解をした上で業務フローを整理します。

役職、経験年数、性格等で業務のやり方や時間は異なるので、そうした切り口で数字を分析し、問題点をあぶり出すことをスタート地点とします。その際、「5分短縮で××円」「在庫1%で○○円」といった財務的な効果まで換算し、上位者に対して、どのような効果があるかの数字を明確にすることが肝要です。



また、「施策の意思決定・実行」フェーズでは、絵にかいた餅にならないように意識していました。あるべき姿と現状で差分のある問題点を抽出し、その中でも業務のやり方や効果等、変化点の大きい部分を重点的に取り上げ、ロジカルに解決策を提示する。

解決策を作り上げる際には、コンサルとしての提案という形ではなく、提案に対して現場の人から事前に意見を伺って、プロジェクトリーダーにぶつけました。こうすることで後で改善案が定着しない、絵に描いた餅になることを防げます。現場の中でもベテラン、反発可能性が高い人に先に当てて地ならしをしてから、合意を取りに行きますね。

結局、現場の背景を分かった上で提案することが一番大事なんです。型はそのサポートに過ぎないのですが、それでも早い段階で動き方がわかったことは、とてもよかったと思っています。







理想と現実の間に。若手コンサルが見た「壁」


入社前のイメージは「スキルと専門性を両立した『スーパーマン』になれる」でしたが、現実はシビアでした。



新卒で業務コンサルをやるとなった際に、最初から知識がある人はゼロです。即答で「他社事例やトレンドを踏まえると、御社にはこれが良い」と言えるのは、事業会社やSIerの現場で鍛えたアソシエイトパートナー以上の人が多かったと思います


印象的だったのは、他社事例をもとに瞬時に適用解を返す先輩の姿です。



「大手競合他社では、ツールありきでの安易なシステム導入によって、逆に残業時間が増えてしまった事例もある。本質的には戦略組織とオペレーション組織の役割分担に課題がある可能性もあるため、まずは業務フローのヒアリングよりも、業務量調査から行うべきだ」

と、その場で具体的な事例を示しながらPJの設計方針まで提案できる。そうした返答ができるのは『知識の量』と『使いこなす知恵』のどちらもレベルが高いからだと感じました


知識と知恵のレベルを上げるためにはたくさんのPJを経験する必要がありますが総合コンサルの場合、管理職未満ではシングルアサインがほとんど。かつPJ期間も1-2年単位の長期システム案件が多いため、引き出しを増やし、使いこなす機会が減少せざるを得ない状況だといいます。



新卒入社6〜9年目でも「ネットで調べたら出てくることや、抽象的で当たり障りないこと」を話して、場をつなぐ人もいました。総合コンサルは各社採用拡大し、リモートワークの拡大や、詰め文化の消失傾向など、ホワイト化が進んでいます。

その結果、先輩に詰められながらも泥臭く最後まで考え抜いて物事を進める機会が減って、理想とするコンサルタントになるのはかなり難しいのではないか、と考えました


自分にその壁を突き破る“センス”があるのか。悩んだ末に、理想とするキャリアを手に入れるには一度事業会社で様々な改革を一気通貫で経験できる立場に立つのがいいのでは、と考え方向転換を決意しました。



課題を洗い出し、示唆を出すまではやれた。でも『実装後の成果責任』まで持たないと、本当の社会人としての実力はつかないし、価値があるといえない、と感じたんです



▼BIG4から事業会社の転職体験談

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ネクストキャリアの決め手は、キャリアの連続性


Oさんの転職時の軸は一貫して「連続性」でした。



金融や人材も検討しましたが、サプライチェーン×システムで積み上げた経験を活かせる場を優先しました


そのため、可能な限り幅広く応募し、大手食品メーカーや、素材メーカーといったメーカーに挑戦しました。ただ、モノづくりは技術職採用が中心であり企画や経営企画の募集枠はそもそも少ないと実感します。



そして最終的に残ったのが現職。「自動車部品という直近PJとの業界親和性、経験できる業務の幅広さ、面接官の優秀さ、業界の変革期により課題が多くあること、を勘案しました」と明かします。


そのうえで、10年先の“市場価値曲線”で判断することが転職の決め手だったと語ります。



「コンサルの型を土台に、若いうちから事業の内側で経営視点や意思決定や実行の難しさを肌で体感する」その両輪を持つ人材はまだ多くない。ここで勝負しようと思いました






経営企画で活きたコンサルの型


現在は経営企画部で、経営方針の再整理、グローバルの事業・機能・地域のガバナンス強化、中計の社内外発信策の検討、全社公式会議体の運営事務局等、幅広い業務を担います。



入社直後は、様々な部署や関係者が時代に応じて策定した方針が乱立しており、どの方針を基に業務を進めていけばわからない、いわば複雑骨折した状態でした。この状態から脱却し、経営方針を再整理することが最初のミッションでした。


今までの方針の背景や目的を整理し、他社をベンチマークしてあるべき姿と問題点を洗い出し、組織に落とす。方針は言葉に魂を入れる仕事だと語りますが、やっていることのプロセスは、驚くほどコンサルに近いと言います。



「こういうアウトプットが欲しい」と最終成果物を定義し、情報を集め、整理して示唆に変える。アウトプット作成に向けて議論すべき点を洗い出しタスクに落とし込み、期限や入力項目を設計し、関係者と合意を取る。型は同じです。


違いは、成果責任の重さと、意思決定者との距離。



部長・課長と議論し、「何をすべきか」「なぜすべきか」「だれを巻き込むべきか」まで自分がやる前提で踏み込む。

意思決定や実行への緊張感、部署や役職・年代が違う人を巻き込む難しさとやりがいは事業会社ならではですね。コンサルで磨いたプロジェクト管理、資料作成、オーナーシップはそのまま武器になりますし、「先にこの人に当てておかないと後で進行が滞ってしまう」ことがわかることは、現場の推進力に直結しています。







年収は“額面”だけでは測れない。可処分所得と将来価値の視点


転職で最も気になるのが収入の変化です。


Oさんも「額面は一度下がりましたが、手残りと将来の選択肢を含めてプラスだと判断しました」と率直に語ります。



KPMG入社当初は提示は480万円前後で、2年目は職位変更で680万円へ。さらに地方常駐の出張手当が非課税で年間100万円前後ついたので、実質の可処分はもう少し高かったです。3年目は残業と年次昇給の積み上げで780万円くらいまでいきました


一方、現職への転職では額面が660万円へ。


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ワンキャリア転職編集部

次のキャリアが見える転職サイト「ワンキャリア転職」の編集・リサーチチームです。 ▼公式X:https://x.com/ocTenshoku

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