コンサルキャリアで最も特筆すべきことは、「ネクストキャリアを見越した入社」の方が多いことでしょう。
そして、コンサルに入社した方の多くが直面するのが、以下のような問いです。
- いつファームを去るべきか
- コンサルを経由したからこそ行けるネクストキャリアはどこか
- 年収の増減をどう捉えるか
本シリーズでは、実際にコンサルを卒業してネクストキャリアを歩まれる方々にインタビューをし、ポストコンサルキャリアの実録を集めていきます。
実録:事業支援から事業創出へ。6社を経て見つけた自分の軸
製造業×ITを軸に、6社を渡り歩いてきたJさん。様々な業種での経験を経て、いつしか「自分の力で価値を生み出したい」という思いが強くなっていったといいます。
製造業の経理としてキャリアを始め、金融機関で営業を経験。その後、アビームコンサルティングでIT×業務の領域に踏み出し、中国常駐も経験しました。
「キャリアを山登りではなく川下りで考えたい」と語る彼が、なぜコンサルからSaaSという新しい世界へと進んでいったのか。その背景には、確かな信念と、自分の成長を止めないための決意がありました。
ポータブルスキルを求めたアビームへの転職
Jさんのキャリアは、製造業と金融という異なる2つの業界を経て、コンサルティングの世界へと舵を切るところから大きく動き出しました。製造業で経理として数字を扱い、金融機関では営業として人と向き合う。まったく異なる環境を経験したからこそ、「どんな業界でも通用するポータブルなスキルを身につけたい」という思いが強くなっていきました。
金融の世界にいたときは、見込み顧客をつくるのに本当に苦労していました。うまく立ち上がらず、成果が給与に直結する報酬体系だったため、収入的に焦りを感じていたんです
20代半ば、仕事への手応えを得られない苦しみのなかで、将来に対する危機感が募っていく。そんな時に出会ったのがアビームコンサルティングでした。
当時、大手ファームで一番教育体制が整っていて、入社後に成長できそうだと感じました。スキルをきちんと身につけられる場所を探していたんです
アビーム入社後は、SAP ERPの基幹システム導入プロジェクトに参画。販売管理や仕入管理など、サプライチェーンの業務プロセスを改革するITコンサルとして経験を積みました。
ドキュメンテーション、ファシリテーション、ロジカルシンキング、プレゼンテーションなど当時身に着けたスキルはいまでも役立っています。入社当初は日本語の『てにをは』から指摘をいただく状況でしたが上司や諸先輩の厳しくも的確なご指導もあり、プロジェクトの進め方やお作法も体に染みついていきました
そう語るように、アビームでの経験は彼の社会人としての基礎を形成していきました。
中国駐在で学んだ「異文化」と「プロジェクトマネジメントの本質」
アビームコンサルティングでのキャリアを重ねるなかで、Jさんは5年超にわたり、SAP ERP導入プロジェクトの最前線に立ち続けました。クライアントは国内大手メーカー。クライアントに常駐する体制のため、月曜から新幹線で現地へ向かい、金曜に帰宅する生活を続けていました。
転機となったのは、中国拠点への導入を任された時のことです。テンプレートを日本で構築し、海外展開として中国に導入。現地でのアフターフォローまでを一貫して担いました。
「パイロット拠点として中国を選び、実際に現地で導入・定着までを支援しました。中国人スタッフと一緒に働くなかで、文化も考え方もまったく違うと実感しました」と振り返ります。
SAPはグローバル共通で専門性が高く、わかりやすいハードスキルとして評価されます。特に中国では『何ができるか』という専門スキルが重視されるため、報酬や転職にも直結する経験をメンバーは重要視します
実際、一緒に働いた現地スタッフはピープルマネジメントを新たに習得する機会より自らの専門性を生かせるタスクを好む傾向が強くありました。
現地のスタッフへ別の現地スタッフ間のピープルマネジメントを依頼すると嫌がられるんです。スタッフ自身も、専門スキルは高かったですが、人を束ねるタイプではなかった。一方で、日本では『人をマネジメントできること』がより重視されるため、こうした事象は起こりませんでした。文化が真逆なんです
現地では、フォーメーションを意識した采配で成果を最大化するようにマネジメントスタイルが変化してきました。
誰をどこに配置するか、スキルが少ない人を誰が支えるか。組織全体のパフォーマンスを上げるには、タスク分解と采配がすべてです。タフな局面も多々ありましたが、そうした時は各自が最も効果的に働ける役割を割り当て、個人の能力を最大限活用するように考え方が変化していきました
そうした配置の思考は、のちのベンチャーでチームを率いる際にも活かされたといいます。
長期プロジェクトへの葛藤と、製造業支援への原点回帰
アビームでのキャリアが5年を過ぎたころ、Jさんは、自身のキャリアの方向性を見つめ直す期間を持ちます。きっかけは、自分が長く関わってきたSAP導入プロジェクトの特性にありました。
一社の基幹システム導入を約5年間担当しました。案件の規模も大きく、やりがいもありましたが、次のプロジェクトに入るとまた2〜3年はキャリアがロックされる。これでは自分の成長サイクルを自分でコントロールできないと感じたんです
プロジェクトマネジメントやシステム導入のスキルは確実に積み上がっていく一方で、「この先も同じように、この仕事を続けていきたいのか」という疑問が膨らんでいきました。そうした中で思い出したのが、社会人の初期から徐々に強くなっていた「製造業の課題を解決したい」という想いでした。
アビームでは大企業中心の支援が多く、仕事の手触り感に欠ける実感もありました。今度は中堅・中小企業に対してもっと事業成果に直結する経営改善に関わりたいと思ったんです。そして、最も思い入れのある製造業のお客様に対して価値を提供したい、と考えました
長期案件のもどかしさと、自分の手で変化を起こしたいという思い。その両方が、Jさんを次のステージへと突き動かしました。
転職先に選んだのは、中堅・中小企業の経営コンサルティングファームでした。同社に転職した後は、ITコンサルからビジネスコンサルタントへと役割を変えることに。在庫削減やKPI設計、コスト構造改革といった経営課題に直接向き合い、社長や経営層と日々議論を交わす日々が始まります。
提案から最終報告まで自分で完結できる距離感が新鮮でした。お客様の反応を間近で感じられるのが、何よりのやりがいでした
▼コンサルティングファームからSaaS業界への転職体験談
事業を動かす側を目指して。SaaS業界への転身
ビジネスコンサルタントとして中堅・中小企業の経営改善に携わるなかで、次第にJさんは「支援するだけではなく、事業そのものを動かしたい」という思いが芽生え始めます。
「コンサルタントとしてお客様をご支援することは崇高でやりがいもありました。でも、業界全体をよくしていくには時間がかかる。自分で事業を動かす側に回りたいという気持ちを抑えられなくなっていった」と語ります。
彼が関心を寄せたのは、SaaSを活用した製造業支援の領域でした。製造業に根ざしたキャリアを持ち、かつシステムと業務の両面を理解する自分だからこそ、貢献できる領域があると考えたのです。
さらに・・・





