これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
「キャリナレ!人事編」の第5回のテーマは、「LayerXの新卒採用責任者に聞く、事業成長を支える採用の秘訣」。ゲストは、パーソル、Speeeを経て、コンパウンドスタートアップとして注目を集めるLayerXで新卒採用責任者をつとめる一ノ宮翔さんです。
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営業→事業開発→スタートアップ人事のキャリアへ
佐賀:まずはじめに、一ノ宮さんの経歴について教えてください。新卒入社したパーソルキャリアで営業・事業開発を経験したあと、Speee、LayerXと小規模な組織に挑戦されてきたと思います。意思決定背景を含めこれまでのキャリアの変遷を教えてください。
一ノ宮:新卒でパーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に入社し、法人営業として顧客の採用支援をしたのがキャリアのスタートです。パーソルキャリア時代は、個人のプレイヤーとして高い成果を追求する働き方だったように思います。
常に売上や数字を意識していたこともあり、何度も表彰していただきました。最初はとても嬉しかったのですが、徐々に「これは何のためにやっているんだろう」とモチベーションを感じられなくなりました。
次第に「組織にレバレッジをかけて会社全体で大きな挑戦をしてみたい」と考えるようになり、当時上場準備中でエキサイティングなフェーズだったSpeeeの社長室に参画しました。純粋な採用人事ではなく「組織と事業の成長のために何でもする独立遊軍的な存在」というオファーに魅力を感じたためです。
Speeeでは、上場準備中ならではの「健全な焦燥感」を感じつつ、エキサイティングな時間を過ごさせていただきました。結果として事業も組織も伸び、目指していたIPOが叶ったのですが、正直に言ってしまうと「努力が報われた」というよりも「何のためにこれをやっていたんだろう」という気持ちの方が大きかったんです。
実際に仕事はエキサイティングだったし、数字も順調に伸びたし、客観的には文句のつけようのない期間だったのですが、心のどこかに「しこり」がある状態でした。
そのため、SpeeeからLayerXに転職するときは、「何のためにやる事業なのか」「なぜ組織を強化するのか」という根っこの部分に心から共感できる会社、「心のしこり」がない状態だけを大切にして選びました。
当時の事業や組織の状況などに関するファクトは完全に度外視して、根底にある価値観を大切にしたんです。当日のLayerXは事業Pivot直後で事業・組織ともに再編中だったこともありファクトはあまりない状態でしたが、全く気になりませんでした。ないものは自分たちで作ればいいと考えていたためです。
採用にウルトラCはない。差別化するためのシンプルな方法
斉藤:ここからは「事業成長に貢献する採用」をテーマにお話しを聞いていきます。人材の獲得競争が激しくなる中、貴社の採用は順調に進んでいるように見えます。数多スタートアップがある中で、どのように他社と差別化しているのでしょう?
一ノ宮:採用に「飛び道具」はありません。そのため、「やった方が良いこと」「(候補者の立場で)やってもらえたら嬉しいこと」を、一挙手一投足においてどれだけ高い水準で行えるかにこだわりを持っています。
例えば、スカウトや選考プロセス中の案内メール1通にしても、送る側からすれば毎日何百通も送っているかもしれませんが、「自分がかけてもらったら嬉しい言葉ってなんだろう」「相手だったらどう感じるだろう」という意識を大事にしています。
斉藤:採用以外の業務もあり多忙な中、「やるべきことをやりきる」ことに課題を抱えているスタートアップ人事の声もよく聞きます。一ノ宮さんはどのように乗り越えているのでしょう。
一ノ宮:組織への情熱が自分を突き動かしているのだと思います。おっしゃる通り、採用担当は毎日やることが山ほどありますが、それを言い訳にしていても前に進まないし、CXも改善されません。
さまざまなツールを使い倒して効率化する前提で、どうしても及ばない場合は時間担保というパワープレイで乗り切ることもあります。なによりも大事なのは、求職者やパートナー様とのコミュニケーションに「魂を込める」ことです。
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地続きと飛び地のハイブリッド。アーリーフェーズにおける採用のポイント
斉藤:企業のフェーズに合わせて採用手法や、採用チャネルの優先度も変わると思いますが、どのように使い分けてこられましたか?
一ノ宮:まず従業員数十名のアーリーフェーズでは、リファラル=地続きの採用に注力することがスタートでした。
LayerXの求心力になっている両代表(CEO福島、CTO松本)をはじめとする経営陣には「競争優位の源泉は人である。いい会社、いい事業を作るにはいい人を集めなければいけない」という考え方が根底にあり、その思想に共感した方が集まってきました。
一方で、「地続きの採用」だけだとメンバーの強みや思想が似通ってしまいがちです。そこで、新しい機能や新しい組織を作るために、異なるバックボーンをもった方をダイレクトスカウトなどを駆使して「飛び地の採用」にも意識的に着手していました。
佐賀:グロースフェーズ以降になってくるとどのような違いが生まれるのでしょう。
一ノ宮:グロースフェーズでも、引き続きリファラル採用はとても有効です。社員数の増加に比例して「地続きの道」が広がっていくためです。社員のつながり同士で声をかけるだけでも、大きな組織作りになるため注力ポイントだと思います。
一方で、アーリーフェーズと明確に違うのは、パートナーと協働しリーチを広げる必要がある点です。自社で完結できるチャネルでは声かけできる範囲が限定的になってしまいます。信頼できるパートナーを見つけ、ファンになっていただきながら一緒に採用活動を進めることに挑戦する段階と言えますね。
データドリブンだけどKPI採用はしない?数と質を両立するための考え方
斉藤:LayerXでは2025年度には500名規模を目指しているとのことですが、「採用数を増やす中で質をいかに担保するか?」が難しい点のように思います。どのようなことに気をつけていますか?
一ノ宮:大前提として、数のために質を妥協すべきでないと考えいます。スタートアップの場合、いかに組織が一枚岩になれるかが大事であり、それを無視して大量採用するのは本末転倒だからです。
とはいえ、人数に比例して事業も成長していく側面もありますから、気にしないわけにもいきません。ここでLayerXが大事にしてきたことは「KPI採用をしない」ということです。
各選考フェーズごとに数値目標をたてている企業も多いですが、そこに囚われすぎてしまうと数字を達成する「ための」採用活動になってしまい、目的と手段が逆転してしまう危険性があります。
佐賀:採用担当は営業出身で数字を追うことに強みを持つ方も多いですが、その採用が「KPIを持たない」と聞くと驚きです。具体的に何を目指したら良いのでしょう?
一ノ宮:本当に売れるセールスパーソンは、最優先事項に数字ではなく、お客様への価値提供を挙げます。同じように、採用活動においては組織の成長、事業の成長などの目的を最優先事項にもってくると良いのではないでしょうか。
もちろん、私たちも数字を度外視している訳ではありません。ダッシュボードで定期的に数字をモニタリングするなどデータドリブンに取り組んでいますが、データを最優先にはしません。数字は現状を定量的に把握するための健康診断みたいなものとして活用し、あくまで活動の本質ではないという考え方です。
そのため、私たちはパートナーの方々に「今月何人紹介してください」といったコミュニケーションはとりません。「こういう事業を作るために、こんな組織が必要で、いつまでにこんな人を採用したい」という話から入るということを意識しています。
直近のPLを作る中途採用、数年後のBSを作る新卒採用
佐賀:ここからは採用担当者としての視座についてお聞きします。一ノ宮さんは新卒採用責任者になって見える景色は変わりましたか?
一ノ宮:自分が担う役割が数年後の組織基盤に大きく関わる、という良い意味で「ヒリヒリ感」を感じています。
今手がけているのは2026年度入社の採用なので、入社後の活躍まで考えると「答え合わせ」はおそらく5年後くらいになります。先が見えない中で情熱を持ってやっていける重要性を最近感じるようになりました。
よくビジネスとディベロップメントの対比で、「ビジネスはPLを、ディベロップメントはBSを作っている」と言われますが、新卒採用にはそれに似た感覚をもっています。PLを作る中途採用に対して、新卒採用は数年後の組織基盤、BSを作っている感覚です。
佐賀:LayerXの採用で「これはやらない」と決めていることはありますか?
一ノ宮:やらないと決めているのは「意図を持たない施策」です。「とりあえず母集団を集めるために合同説明会にでる」「とりあえず認知を採るために媒体に露出する」といった明確な意図がない施策はやらないようにしています。
佐賀:なるほど。一方で自社が採用したいターゲットに会うためのチャネルの見極めは非常に難易度が高いように感じるのですが、どのように考えているのでしょう。
一ノ宮:まず、パートナーさんについては、「マーケットに真摯に向き合っているか」という観点でご一緒させていただくかどうかを判断しています。
また、サービスや体制が不完全であっても、真摯に向き合う意志があれば一緒にピースを埋めていきたいという話をさせていただいております。なにより、我々も不完全ですからね(笑)。
また、意志ある学生さんに選んでもらうためという観点では、就活が始まってしまうと情報が錯綜してしまうため、できるだけ前倒してフラットな視点での情報提供をを心がけています。
自分でコミットすることで納得のいく意思決定ができる
斉藤:一ノ宮さんは中途採用を経験したあと、新卒採用の領域に映っていますが、新卒採用ならではの難しさについてはどのようにお考えですか?
一ノ宮:新卒採用領域に足を踏み入れて1年半程度ですが、このマーケットならではの課題として、ベンチャー/スタートアップ企業がマーケットに情報を発信しきれていないと思うことはよくあります。
個人的に違和感があるのは、ポジショントークが過ぎることがあるという点です。もちろん、自分たちの会社を好きになってほしい気持ちはよく分かりますが、情報の非対称性がある中で、「まくし立てて」しまうのはフェアじゃないと思ってしまうシーンがあるのです。
そうした現状を打破するためにもフラットに情報提供をしていく必要がありますし、少しでもこのブラックボックス化されたベンチャー/スタートアップ就活のマーケットに風穴をあけたいという気持ちでやっています。
佐賀:一ノ宮さんから見て、今マーケットでどんな採用担当者が求められているのか、お聞かせいただけますか?
一ノ宮:私の立場からはあまり偉そうなことは言えませんが、自分が所属する組織の未来に対して、高い解像度と情熱を持つべきだと思います。。そして、誰かから借りた言葉ではなく、自分の言葉で伝えることだと考えています。
佐賀:最後にリスナーの方に一言メッセージをお願いします。
一ノ宮:採用活動では、短期的には「勝ち負け」が生まれるように感じることがあるかもしれません。時に採用競合になることはあっても、未来を共に作っていく仲間なので、一緒にマーケットを盛り上げていきたいです。
いかがでしたでしょうか?
キャリナレ!では、今後も様々な職種を経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。
次回もぜひお楽しみに。
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