メディアでもてはやされた会社が、後に不祥事を起こして消えていく。スタートアップ界隈ではよくある話ですが、2025年を騒がせた株式会社オルツの事件は、その規模と悪質さにおいて一線を画していました。
メディアの寵児となっていたAIスタートアップで不正会計が発覚し、上場廃止、旧経営陣の逮捕という、あまりにもお粗末な結末でした。
なぜ、名だたるVCや監査法人、そして優秀な人材までもが、この「実態のない虚像」に騙されてしまったのか? 本記事では、オルツ事件をウォッチしてきた私、マスクド・アナライズの視点から、単なる不祥事として消費するのではなく、あなたのキャリアを守るための「生きた教材」として解剖します。
1. オルツ事件の概要:100億円を溶かした「AIポエム」の末路
「全人類にパーソナルAI(P.A.I.)を」—そんな崇高な理想(ポエム)を掲げ、投資家から累計100億円もの資金を集めた彼らですが、その実態はあまりにお粗末なものでした。
- 技術の不在: AIの研究開発実績は皆無に等しく、実体は既存技術を流用しただけの「会議の議事録作成アプリ」販売会社でした。
- 数字の嘘: 売上の最大9割が不正(循環取引)によって作られた架空のものでした。
- 経営者の実像: 社長はメディアで高尚な未来を語っていましたが、実際はAIの技術的知見を持たない文系大学中退者。過去に経営していた会社のクチコミではハラスメントを指摘する声もあり、オルツでは技術責任者(CTO)である実兄さえも退任しています。
結果として、オルツは上場廃止となり、創業者の元社長を含む旧経営陣は逮捕。将来性に惹かれて(正確には騙されて)入社した多くの優秀な人材は、キャリアに傷を負うことになりました。
(参考)オルツの社長はなぜ100億円を集めて逮捕されたのか|マスクド・アナライズ
2. なぜ、優秀な人もオルツに騙されたのか?
事件になる前から、AIに詳しい人間はオルツの「怪しさ」に薄々気づいていました。しかし、多くの投資家やハイクラス人材が騙されました。なぜでしょうか?
それは彼らが、実態のなさを隠すために「すごそうな雰囲気」を作ることに注力したからです。
怪しいスタートアップには、明確な共通点があります。
- 業績の「急成長」だけを強調する: 中身(事業の競合優位性)ではなく、見せかけのトップライン(売上高)をアピールする。
- 社長のタレント性だけで人気を得る: 事業の実績ではなく、人間性や過激な言動で注目を集め、一部の界隈で熱狂的な支持を集めている。
- 「最先端」のベールを被る: 今回なら「生成AI」、以前なら「Web3」など、素人が検証しにくい技術ワードを乱用する。
いわば「よくわからないけど、すごそうな会社」という空気感を醸成しているのです。実際に、オルツも創業者がメディアに積極的に登場し、AIブームを追い風に資金調達に成功していました。
こうした将来性に惹かれて(正確には騙されて)入社した人材が短期間で退職した事例も報道されています。
(参考)
オルツ、黙殺された内部告発 「これはクロ」上場前に警告した元部長 - 日本経済新聞
「上場前に数億円つくれ」 オルツ経営陣、実績づくりに虚勢 - 日本経済新聞
3. 「ハリボテ」の内側:もしも「怪しいAIスタートアップ」に入社してしまったら
では、その「すごそうな会社」に入社すると、あなたを待っているのはどのような現実でしょうか。ここからは、私が見聞きしてきたオルツ以外の悪徳スタートアップの事例も踏まえて解説します。
華やかなプレスリリースの裏側にあるのは、倫理観の欠如した現場です。
1.ビジネスモデルが不明瞭
怪しいAIスタートアップのHPには「AIソリューション」「DXコンサルティング」といった文言がよく書かれていますが、実態は違います。
よくわからないITツールを強引に売る、謎の仮想通貨を扱う、あるいは中身が空っぽの「純国産AI(実は外国製のガワ変え)」を情弱な顧客に売りつける……。
オルツが議事録アプリ一本足打法だったように、彼らの商材は参入障壁が低く、模倣されやすいものばかりです。だからこそ、販売不振からの不正会計(循環取引)に手を染めざるを得ないのです。
2.犠牲になるのは顧客と社員
強引な営業を行う場合、ターゲットはリテラシーの低い個人になりがちです。クレームが起きても、契約書を盾に泣き寝入りさせたり、無視を決め込んだりします。
そして人材の扱いも同様です。「組織拡大につき積極採用」という言葉は、「退職者が多すぎて仕事が回らない」の裏返し。教育マニュアルも相談相手もないまま、社員は手探りで数字に追われた末に、使い捨てられます。
結果、まともな神経の持ち主はすぐに辞め、残るのはブラック企業出身の猛者か、思考停止したイエスマンだけになります。
こうした問題を抱える会社であっても存続しているのは、真っ当な会社や法律を知らない学生や若手ビジネスパーソンを集めて、「苦労して大変なのが当たり前である」と洗脳するためです。「急成長のスタートアップ」「話題のスゴイ社長」という印象に騙されてはいけません。
4. 怪しいスタートアップを見抜く「6つのチェックポイント」
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