これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
今回のテーマは、「人事×事業のキャリア」。ゲストは、GA technologiesのグループ会社であるパートナーズの執行役員CHROで、株式会社事業人では共同代表を務める清家良太さんです。
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新卒人事からCHROになるまで。リアルなキャリア変遷
後藤:清家さんは新卒で人事としてキャリアをスタートした後、4回の転職を経て、現在はCHRO・経営と着実にキャリアアップされていますね。各企業での経験や、学んだことについて詳しく教えてください。
清家:まず新卒入社したAGCでは、約3年間工場の人事として採用・労務・総務を担当し、その後2年は本社で海外人事を担当しました。当時は「清家であれば、助けてみようと思われる存在になるように」という上司の言葉を受けて、現場の方々との良好な信頼関係構築を心がけていました。
その結果、苦境の際に工場現場メンバーから助けを受けたこともあり、「人はロジックではなくハートで動く」という考えを今も大事にしています。
後藤:2社目はアクセンチュアですが、なぜコンサルティングファームに転職されたのですか。
清家:転職のきっかけはAGC時代にリセッションがあり、従業員の解雇を経験したことです。「変化の大きな産業に身を置いて、成長したい」と思うようになりIT業界へ興味を持ちました。
ただ、当時の自分にはいきなりネット業界へ行ける経験がなかったので、IT業界へのステップとして、コンサルティングファームで修行をしようと考えました。
実際に、アクセンチュアでは当時の東証一部上場クラスの企業経営者と直接対峙することが多々あり、彼らの視野や視座、意思決定プロセスを学べました。また、彼らの期待に応えるためにハードに働きましたが、自分の労働時間の限界にも挑戦できたと言えます。
後藤:その後、狙い通りにIT企業であるディー・エヌ・エー(以下、DeNA)へ転職されていますね。DeNAではどんな役割を担っていたのでしょう。
清家:全社の人事制度企画運用という横断的な役割と、事業部に入りこんだHRBPの2点に従事していました。HRBPについては、DeNAが当時買収した事業のPMIから組織立ち上げまでを担当した形です。
後藤:人事としてはかなりチャレンジングな経験に聞こえましたが、なぜビズリーチへの転職を決意したのでしょう。
清家:自分が次のキャリアの壁を超えるには、間違いなく事業の経験が必要だと考えたからです。DeNAでHRBPとして働く中で、事業責任者・事業部長クラスの人材が「経営陣がこれをやりたいと言っている」ことに対して人事領域に具現化することはできても、それを先読みして先手を打つことができなかったのです。
そう考えていたところ、ビズリーチとご縁があり、事業をつくる経験ができそうだと考えてジョインを決めました。ビズリーチでは、ビズリーチ・キャンパスの事業立ち上げ担当として、営業・マーケティング・事業推進といった領域を経験できました。
ここで培った事業づくりの経験を武器にもう一度人事の道でチャレンジしたいと考えて、GA technologiesに関わることになりました。これまでの経験を活かし、CHROとして人事の全責任を担った後、現在はグループ会社のパートナーズのCHROと、自ら立ち上げた株式会社事業人の経営を行っています。
未経験であっても人事ポジションを勝ち取るのは⚪︎⚪︎な人
後藤:ここからは清家さんの経験をもとに、CHROの目指し方を紐解いていきます。まず、人事がCHROを目指していくうえでどのようなステップを踏むのでしょうか。
清家:人事キャリアには4つの壁と言えるステップがあると考えています。具体的には、「人事になるという壁」「業務ファンクションの壁」「事業経験の壁」「経営層と対峙する壁」の4つです。
後藤:それぞれ詳しく教えてください。
清家:まず、そもそも人事になれるかどうかという壁です。私は運よく人事からキャリアをスタートできましたが、実際には人事を志望しても社内でキャリアチェンジできないケースを多く聞きます。
また、転職しようにも未経験人事のポジションは多くありません。人事は会社の事業やカルチャーを熟知した人材が向いているので、外部から採るより社内人材を異動で採ることのほうが一般的だからです。
後藤:そうすると「未経験だけど人事になる」壁はどのように乗り越えればいいのでしょう。
清家:難しいですが、成長企業の場合、未経験者でも人事を募集している可能性があります。これは比較的人数の少ない成長企業においては、事業部のキーマンを簡単に異動させられないからです。さらに人材系企業における営業経験や事業経験があれば、人事への転職に有利です。
後藤:「人事には人が好きというマインドが求められる」と聞くこともありますが、未経験でも人事として活躍し得る人はどんな人でしょう。
清家:簡単に「人が好きです」と言われてしまうと、疑いの目を持ってしまいますね。私もかつては人好きを公言していたのですが、人と本気で対峙することに膨大な愛情とエネルギーが必要となると身に染みて感じてから、簡単には言えなくなったのです。
とはいえ、人に関する感度の高さは重要です。社内でも元気がなさそうな人に気づけたり、声をかけてエネルギーを与えられるかどうか。漫画で例えると、『ONE PIECE』では「見聞色の覇気」、『HUNTER ×HUNTER』では「円」と呼ばれるような高い感度を持っていて、かつ、正のエネルギーが強い人は、人事に向くと思います。
200%達成を1年間継続。圧倒的な成果で業務ファンクションの壁を超えよう
後藤:2つ目の「業務ファンクションの壁」と乗り越え方はいかがですか。
清家:人事になれても、多くの場合ファンクション特化型の業務となります。特に採用に特化している方が非常に多く、労務や企画、組織開発といった異なるファンクションまで業務を広げられるチャンスはなかなか与えられません。
キャリアを広げる方法として、ひとつは「ひとりめ人事・ひとり人事になる(※)」が挙げられます。ただ、ノウハウを教えてくれる人がいないため、スキルセットとして正しいものを得られているかどうかわからないというジレンマを抱える可能性があります。
※ひとり人事のキャリアの詳細はこちらこら
そのため、私がおススメするのは、圧倒的な成果を出すという方法です。圧倒的というのは120%・150%の成果を単発で、ではなく200%の成果を1年間継続できるようなレベルです。
人事に限りませんが、こうした人材に「新しいチャンスが与えられないのであれば、他社に行く」と言われたら、企業としても人材流出は避けようとするはずです。また、そういった人材には社外からチャンスも舞い込むものです。
後藤:ファンクションを超える際に、身につけるスキルのおすすめの順番はありますか?
清家:正解はないので難しいですが、私自身は1社目で労務を経験してすごく良かったと思っています。
採用からスタートすると、人事企画や評価制度運用へステップアップする場合もありますが、その前提には労務知識がマストとなるのでいずれにせよ勉強が必要な領域です。最低限、自身の給与計算ができることや、社会保険関連の手続きなど知っておくと良いでしょう。
理想はPL責任を持つこと。覚悟を持って事業経験を積むことで可能性が広がる
後藤:次の壁は「事業経験の壁」でしたね。これは具体的にはどういうことでしょう。
清家:人事部長を目指すなど、人事だけのキャリアを極めるのであれば関係ありません。ただ、私のようにHRBPとしてステップアップしたり、その先にCHROを目指すうえで、事業の経験は必須と言えます。
私自身、ビズリーチでの事業立ち上げ経験でかなり視野が広がりました。事業サイドと人事サイドの感覚の差分については今までも考えていましたが、事業に自分がどっぷり使ってみると「これは自分の思い違いだったな」ということがたくさんでてきたのです。
また、事業経験といっても、メンバーレイヤーから、マネージャーレイヤー、PL責任を持つ場合など幅が広いですが、PL責任まで持つ経験があれば、CHROにかなり近くなると言えそうです。
後藤:なるほど。とはいえ、事業側にキャリアを振るのは怖いと感じる人も多そうです。
清家:正直に言えば、私も最初は「ゼロから営業やマーケティングをしてくれと言われたらどうしよう」「そもそもできるのか」という不安がありました。それこそ、『ドラゴンクエスト』で僧侶から魔法使いなど、転職するとレベル1になるような感覚と同じです。
しかし「このままいっても人事のスペシャリストでキャリアが終わってしまう」という危機感が最終的に転職のドライバーになりました。このステップでは、それまでの経験を捨て去る恐怖に耐えて本気で次のステップを目指す覚悟が問われると言えます。
人事×事業の知見を掛け合わせ、経営陣に先手を打ったアドバイスをする
後藤:最後が、「経営層と対峙する壁」でしたね。
清家:これは私が実際にDeNA時代にぶち当たって以降、まだ完全に乗り越えきれていない壁です。
何か新しい物事を行う時、経営陣がCHROに期待するのは、HR領域の全てを俯瞰した上で、予期せぬ事態に迅速に対処できるような先手を打っていく役割です。ただ人事の業務範囲でやるべきことの道を作るだけでは足りないのです。
この壁を乗り越えられるかどうかは、人事や事業のスキル・経験を掛け合わせた上で、経営層の視野や視座も備えているかどうかにかかっています。ときには経営層に新たなインプットを与えることも期待されるため、柔軟性を持ちながら幅広い知見を持つことが求められるはずです。
後藤:清家さんはDeNAで初めてHRBPという役職につき、そこから経営層と対峙する機会も増えたとかと思います。どのようにレベルアップしていったのでしょう。
清家:DeNA時代の経験で、HRBPのレベルにもステップがあると考えるようになりました。
まず、スタートラインは事業部長や役員の御用聞きになることで、ステークホルダーとの関係性を構築することです。私自身、買収した企業の方々と信頼関係をつくって「DeNAにM&Aされてよかったという状況を作ること」がひとつの仕事でした。
次のステップは、事業部長と同じ視野・視座を持って、状況によっては代われるぐらいになることです。つまり、人事の仕事をしているが実は事業も任せることができるというレベルになると、事業部長や役員と対等に会話ができます。
その先のステップに、事業部長すら育成できるレベルがあり、これがHRBPの極みですし、場合によってはCHROの機能の一部ともいえます。
後藤:清家さん自身はHRBPとしてステップアップするためにどのようなことを意識していましたか?
清家:「この行動・アクションは事業に貢献しているのか?」というように、意思決定において、事業に資するかどうかということを重視していました。HRBPは、人事として人事領域に強みがあるのは当たり前で、その上で事業に資する存在であると私は考えているからです。
人事に事業経験を掛け算することがCHROへの可能性を広げる
後藤:最後の経営層と対峙する壁は、清家さん自身も乗り越えていないとのことでしたが、理想とするCHRO像などはありますか。
清家:やはり、HRや組織の知見に強みを持ちながら、現在私が担っている数百人規模の組織にとどまらず、数千人規模、数万人規模でもCEOやCOOの代わりができれば、CHROと自負できるのではないかと思います。
後藤:これからCHROを目指す方に向けて、アドバイスはありますか。
清家:人事における採用や労務のスペシャリストは外部から連れてくることもできるため、CHROは彼らの知見を集約しながら人事チームをマネジメントする仕事もあります。それだけに、CHROは事業経験のある人材の方がなりやすいのではないかと感じています。
そして、企業やCEOのスタイルによってCHROに求めるものも変わるものの、様々なことに興味や関心を持ってのめり込んでいけるかどうか、周囲を巻き込めるかどうかという点はいかなる場合でも期待されるはずです。
後藤:最後にユーザーに向けたメッセージをお願いします。
清家:偉そうにお話させていただきましたが、私自身もこれまでは失敗の連続でした。マネジメントでも人事でも数々の失敗をしてきました。
ただ、失敗からどうすれば成長できるのかと考え続けた結果、少しずつ成果を出すフェーズに辿り着きつつあるかと感じています。
今の日本は、閉塞感のある状況に置かれています。そんな苦しいときでも、人事という人材のパフォーマンスの引き上げに貢献できる仕事は、可能性に溢れているのではないかと考えています。
自分だけがよければいい、自社だけがよければいいという考えは捨て去り、いかに各企業の良いところを合わせられるか、いかに日本を盛り上げられるか、という視野や視座を持ってもらえれば嬉しいですね。
ぜひ、みなさんと高め合っていきたいと心から思っています。
後藤:清家さん、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
「キャリナレ!」では、今後も様々な職種の経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。
次回もぜひお楽しみに。
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