これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
今回のテーマは、「パートナーセールスのキャリア徹底解説」。ゲストは、パートナーサクセス株式会社の佐々木千穂さんです。
パートナービジネスのコンサルタントとして活動する佐々木さんに、パートナーセールスの仕事の醍醐味からキャリアパス、あるある課題の対処法まで、徹底解説していただきます。
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長年のエンプラセールス経験を経て、パートナーセールスへ
佐賀:はじめに、佐々木さんのこれまでのご経歴を教えてください。
佐々木:私は最初、通信建設会社でインフラエンジニアとしてキャリアをスタートしました。その後、社内でプリセールスやエンタープライズセールス(以下、エンプラセールス)を経験し、2社目はSIer、3社目は日本マイクロソフトで、引き続きエンプラセールスとしてキャリアを積み重ねました。
パートナーセールスに携わるようになったのは4社目からです。パートナービジネスの立ち上げと深耕を担当し、パートナー企業の発掘から提携商談、座組づくりまでを一通り経験しました。現在はパートナーサクセスという会社で、大手企業様向けのパートナービジネスのコンサルティングをしています。
佐賀:4社目でエンプラセールスからパートナーセールスにキャリアを転換をしたのは、どうしてだったのでしょう?
佐々木:社内でパートナービジネスが立ち上がるタイミングで、「佐々木が適任じゃないか」と白羽の矢を立ててもらったのがきっかけです。なので実は、自ら希望してパートナーセールスをやり始めたわけではないんですよ。
佐賀:その後、現在に至るまでパートナーセールスに関わり続けているのはどうしてなのでしょうか。
佐々木:他社さんと一丸となって、「この地域を良くしていこう」「この業界を盛り上げていこう」といった自社だけでは成し遂げられない大きな目標を一緒に実現できることに、大きなやりがいを感じたんです。
また、業務範囲が非常に幅広い点も魅力的でした。営業を軸に、事業開発やセールスイネーブルメント、カスタマーサクセス、オペレーション構築など、様々な業務を経験でき、多様なスキルを身につけられる、総合格闘技のようなポジションだと感じています。
「パートナーセールス」「パートナー企業」の定義
佐賀:そもそも「パートナーセールスとは何なのか」を、改めて佐々木さんからご説明いただけますか?
佐々木:端的に言えば、パートナー企業と協力して、自社のプロダクトやサービスを販売する法人営業の手法です。「代理店営業」「アライアンス営業」と呼ばれることもあります。
自社商品の拡販だけでなく、パートナー企業の事業も伸ばし、その先のお客様にもより大きな価値を届けるには?というビジョナリーなニュアンスが加わった「パートナーサクセス」という言葉も、最近はよく使われますね。
佐賀:パートナー企業とは、具体的にはどのような業種や業態の企業を指すのでしょうか。
佐々木:パートナー企業=営業代理店や金融機関と思われがちなのですが、パートナー企業の範囲は現在、業種・業態を問わず広がっています。
近年は顧客ニーズの多様化により、自社+αの商材をつくってお客様にデリバリーする企業が増えてきました。そのため、自社の顧客が求める商材を持っていたり、自社ではアプローチできない顧客を抱えていたりと、連携することで売上拡大が期待できる企業全般をパートナー企業と捉えていいと思います。
例えばバックオフィス支援を行うIT企業とIPO支援を行うコンサル企業がパートナーとなり、IPOを目指すスタートアップに会計ソフトを販売している事例もあります。
パートナーセールスを重視する会社が増えている理由
佐賀:パートナーセールスは、なぜ今こんなにも注目を集めているのでしょう。
佐々木:前提として、パートナーセールスは古くから存在している日本の商習慣で、例えば富士ゼロックスさんやリコーさんは、ずっと代理店営業をしてきています。
ここ最近注目を集めている理由としては、直販営業の手法の一つであるThe Modelを取り入れたSaaS企業において、「直販で当たれる顧客には当たりきってしまった」という企業が増えてきたことが挙げられると思います。そこで新たな顧客セグメントにアプローチする手法として、多くのSaaS企業がパートナービジネスに取り組み始めたんです。
実際、国内のARRランキング上位企業の約8割はパートナービジネスに取り組んでいるというデータもあります。
佐賀:たしかに最近、地方銀行とパートナー契約を結んで販売エリアを拡大するSaaS企業が増えている印象があります。
佐々木:SaaSの場合、地方のお客様だと「手取り足取り教えてほしい」というニーズがあるので、地方銀行や地域に根ざしたIT企業をパートナーにし、カスタマーサクセスでも連携するケースが多いですね。
また、地方銀行側はマッチングフィーの獲得に加え、他社商材と組み合わせてお客様に付加価値の高い提案を行い、信頼関係を構築することで、自社サービスの提案機会創出も目指している場合が多いです。
このように、自社だけではカバーできない部分をカバーする、複合的な利益を出してLTVを上げる、自社だけではアプローチできないセグメントの顧客を獲得する、という目的で、パートナービジネスに取り組む企業が増えています。
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パートナービジネス成功の秘訣
佐賀:続いては佐々木さんの考える、パートナービジネスを成功させる秘訣について教えてください。
佐々木:パートナービジネスを始めたばかりのお客様から最もよくいただくのが、「パートナー企業は増えたものの、全く成果がでない」という相談です。その原因は、主に4つに分けられます。
1つ目は、適切なパートナー企業に当たれていないこと。2つ目は、パートナー企業に十分な価値訴求ができておらず、売りたいと思ってもらえていないこと。3つ目は、パートナー企業が売る方法を理解できていないこと。4つ目は、成果を急ぎすぎていることです。
佐賀:適切なパートナーを開拓するには、どうすればいいのでしょう。
佐々木:無闇にパートナーを増やすのではなく、どんな企業がパートナーとして適切かを事前に設計することが大切です。
その企業の先に自社の求めるターゲット顧客がいるのか、ターゲット顧客と商談をする場合、経営層と会えるのか、現場メンバーにしか会えないのか。自社、パートナー、お客様の三方よしの状態がつくれそうか。
そうした情報を事前に調べた上でパートナーになるメリットについて仮説を立て、商談をする中で事実情報を確かめながら、パートナー契約をつくっていくことが重要になります。
私が前職でパートナービジネスを立ち上げた際は、地方銀行とメガバンク、計20行ほどと商談をしました。その中で自社のターゲットとなる顧客を抱えており、同じ志を持って動けそうな2〜3割の企業に絞ったうえで、その後も約1年間かけて関係性を深めていきましたね。
佐賀:パートナーセールスの広がりに伴い、パートナー企業側では複数の競合製品を取り扱うケースも増えていると思います。そうした状況のなかで、パートナー企業から「売りたい」と思ってもらうには、どうすればいいのでしょうか?
佐々木:それに関しては、株式会社才流(サイル)が、「代理店側が注力する、または頻繁に販売する製品・サービスを選ぶ理由」を調査したデータを公開しており、1位は「メーカーとコミュニケーションしやすい・連携が取れている」ことでした。つまり肝となるのはコミュニケーションで、実は製品の機能やインセンティブ設計などは、それよりも優先度が低いんです。
私の経験でも、「なぜあなたと一緒にパートナービジネスを進めたいか」というビジョンのすり合わせがしっかりできているパートナーからは、自発的にお客様をご紹介いただくことが多かったですね。
佐賀:そういう意味では、パートナーセールスに誰をアサインするかがとても重要になりますよね。
佐々木:その通りです。直販で成果が出なかった人をパートナーセールスにアサインしようとする企業には、「絶対にやめてください」とよくお伝えしています。むしろ、パートナーセールスにはエースを配置するべきなんです。
佐賀:パートナー企業と良好な関係性を築くために重要なポイントについても教えてください。
佐々木:パートナー企業が掲げている成長戦略や、担当者の個人目標、組織内での評価基準を把握することが大切です。
例えば、パートナー企業の今年の売上目標が100億円で、現時点で見えてるのが40億円だと分かっていたら、「残り60億円を売るために、一緒にやればこれくらいの売上をつくれるんじゃないか」という提案ができますよね。
このように、パートナー企業や担当者の目標を共に達成するために、私たちには何ができるのか?というマインドを持って取り組んではじめて、パートナーから「売りたい」「一緒に動きたい」と思ってもらえるようになると思います。
佐賀:パートナー企業の方々を動かす施策として、商材の売り方の勉強会を開催する、フィーアップなどのインセンティブ設計をする、表彰制度を設ける、といったHowの話をこれまでよく耳にしてきましたが、実際は、もっと本質的な部分が大切になるんですね。
佐々木:もちろんHowも大切なのですが、それだけでは人は動きません。相手が本当に欲しているものを明らかにし、それを一緒に達成するスタンスを示してはじめて人は動いてくれるんだなと、私もパートナーセールスに取り組むなかで実感しています。パートナー企業にとっては、報酬の大きさよりも、自身の担当する企業様に喜んでもらえるのか、この人と一緒に仕事がしたいのかといった内面的な動機の方が重要です。連絡をしっかり取っている、約束を守る、評判が良い、といった基本的な要素がパートナー企業からの信頼獲得につながります。
パートナーセールスの市場価値は、今後ますます高まる
佐賀:今後、パートナーセールスの市場価値はどのように推移していくと思いますか?
佐々木:パートナーセールスは、需要の高まりに対してできる人が圧倒的に足りていないので、今後はますます人材獲得競争が激化していくと思います。
私のもとにも「パートナーセールスができる人を知らないか?」という連絡が毎日のように来ますし、国内のSaaS企業ではパートナーセールスの求人がどんどん増加しています。
佐賀:パートナーセールスを突き詰めた先には、どんなキャリアが考えられるのでしょうか。
佐々木:その点は、一般的な営業とあまり変わりません。パートナーセールスチームのマネージャーになる、他社のコンサルティングをする、個人で業務委託を受ける、などのケースが考えられると思います。
佐賀:パートナーセールスとして活躍できる人の特徴について、佐々木さんのご意見を教えてください。
佐々木:虫の目・鳥の目・魚の目といった様々な角度から「どうすれば人や組織が動くのか」を見極め、中長期的にアクションをし続けられる人だと思います。その先に待っている大きな成果や喜びを見据えながら、複雑性と難易度が高い仕事にも年単位のスパンで取り組み続けられる人が、成果を出している印象がありますね。
また、利他的なマインドを持ち、どうしたらパートナー企業やその先のお客様に喜んでもらえるか?という視点を持っている人の方が、パートナー企業との信頼関係をうまく構築でき、大きな成果を出せると思います。
パートナーセールスは、大きなやりがいと夢のある仕事
佐賀:最後に佐々木さんから一言、パートナーセールスに関わっている人や、これからパートナーセールスに挑戦したいと考えている人たちにメッセージをお願いします。
佐々木:パートナーセールスは、自社以外の会社や人々を巻き込んで大きな成果を創出できる、大きなやりがいと夢のある仕事です。特にパートナー企業の開拓期に携わると、自分の活動次第で会社の売上をどんどん大きくすることができます。私も自社のパートナービジネスの立ち上げに関わり、1年半で約3億円の売上をつくることができました。
パートナーセールスは、多様な能力と経験が得られ、かつ多くの方々と喜びを分かち合える仕事です。何かあれば私にご連絡いただいても構いませんので、一緒に業界を盛り上げていけたら嬉しいです!
佐賀:佐々木さん、ありがとうございました!
「キャリナレ!」では、これからもさまざまな職種を経験された方をお呼びして、経験者にしか分からないキャリアのナレッジをたくさん伺っていきます。次回もぜひお楽しみに。
ライター:高野 優海
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