顧客ニーズの多様化、働き方改革といった社会的要因を背景に、現在、どの会社の営業組織でも、大きな変革が必要とされています。そこで注目を集めているのが、営業組織の強化・最適化を行う「セールスイネーブルメント」。
ONE CAREER PLUSと株式会社LIFULLがお届けする「キャリナレ!セールス特集」第一回のゲストは、株式会社LIFULLでセールスイネーブルメントを推進する田中 真英氏と、株式会社ナレッジワークの桐原 理有氏。
近年注目を浴びるセールスイネーブルメントとは何か、セールスイネーブルメントによって組織はどう変わるのかを、お二人の話から紐解きます。
🎙「キャリナレ!」はPodcastでも連載配信を行っています。音声版を楽しみたい方はこちらから!🎙
登壇者①
株式会社LIFULL 田中 真英氏
2007年に新卒でLIFULL(旧 ネクスト)に入社。賃貸/売買事業それぞれの既存顧客/新規顧客の営業責任者を歴任後、不動産業務支援サービスを展開するレンターズ(2017年に事業統合)の執行役員に就任。2020年から、現職の営業DX推進ユニット長に就任。営業現場のデータやナレッジの集約と活用を行い、営業メンバーの成果や活動プロセスの生産性向上に努める。
登壇者②
株式会社ナレッジワーク 桐原 理有氏
2004年ワークスアプリケーションズ入社。大手法人営業に14年間従事し、売上合計金額・顧客単価において、当時の同社史上最高額を記録。スタートアップ2社にて執行役員を務めた後、2022年にセールスイネーブルメントクラウドを提供するナレッジワークに入社。現在は専門役員、Principal、フィールドセールスを務める。
登壇者③
ONE CAREER PLUS キャリアアナリスト 佐賀 駿一郎
2016年ビズリーチ入社。転職サービス営業、新卒採用人事を担当。その後2019年、ワンキャリアへ入社。キャリアアドバイザー、イベント企画や司会を経て、現在はONE CAREER PLUS事業開発を担当。
セールスイネーブルメントの定義と、今注目される理由
佐賀:まずはナレッジワークで様々な会社のセールスイネーブルメントに関わってきた桐原さんから、そもそもセールスイネーブルメントとは何なのかをご説明いただけますか?
桐原:端的に言えば、営業メンバー全員が成果を出せる環境づくりを行うことです。
ナレッジワークでは、セールスイネーブルメントに必要な要素を「ナレッジ領域」「ラーニング領域」「ワーク領域」「ピープル領域」の4つだと定義しています。
- ナレッジ領域:営業資料やノウハウといった、営業活動の武器となるナレッジを共有すること
- ラーニング領域:営業に必要な学習プログラムを組織内で提供すること
- ピープル領域:営業メンバーのスキルやパフォーマンスを可視化し、その情報を活かすこと
- ワーク領域:営業活動のプロセスを組織内で標準化すること
研修や学習コンテンツを提供するベンダーは既にたくさん存在するので、それらのソリューションをいかにコーディネートして形にしていくかが、セールスイネーブルメント担当者の仕事です。もちろんコンテンツを自社で内製する方法もあります。
佐賀:セールスイネーブルメントは、なぜ今こんなにも注目を集めているのでしょう。
桐原:気合いと根性で頑張れ!とりあえず現場に行け!という昔ながらのスタンスが現代社会にはフィットしなくなり、再現性を持って組織的に人を育成することが求められるようになったという時代背景が、最大の理由だと思います。
加えて転職が当たり前になったことで、成長しづらい・達成感を得づらい環境だとすぐに人が辞めてしまうようになったことや、人の入れ替わりにも耐えうる組織をつくる必要性が高まっていることも背景にあります。
佐賀:セールスイネーブルメントは外資系企業やSaaS系ベンチャーを中心に普及している印象がありますが、現在はどのような業界・規模感の企業で広まっているのでしょうか?
桐原:外資系企業やベンチャー企業に限らず、SIer、メーカー、食品など、業界を問わず様々な大手企業でも取り組みが始まっています。近頃は大手企業の方が人の出入りが激しくなっているため、環境を整えることに対する課題感はベンチャーよりも大手の方が切実になっている印象がありますね。
セールスイネーブルメントに注力する会社を選ぶメリット
佐賀:セールスイネーブルメントに注力している会社に入るメリットや魅力についても教えてください。
桐原:営業として活躍できるかどうかはこれまで、運の要素が非常に強かったと思うんです。配属先で良い上司に当たれば成果が出るし、逆の場合は成果が出せない。そんなケースがほとんどだったのではないでしょうか。
佐賀:たしかに私も、日々転職相談に乗るなかで「配属ガチャ」「上司ガチャ」という言葉をよく耳にします。
桐原:一方で再現性のある学習環境を提供している会社では、誰が入社し、どの上司についても、力をつけやすいんです。
あえてセールスイネーブルメントと題して取り組んでいる会社は、そうした環境を整えようとする意識が高い会社です。正直、そうした会社に入った方は、そうでない会社に入った方よりもよほど幸せだと思います。なぜなら現場に出るタイミングも、成果が上がるタイミングもより早くなり、さらには安定して成果を出すことができるからです。
LIFULLのセールスイネーブルメントの全体像
佐賀:ここからはLIFULLさんの事例をもとに、 セールスイネーブルメントで実際に営業組織がどう変化するのかを紐解いていきたいと思います。そもそもLIFULLさんでは、どうしてセールスイネーブルメントに取り組むことになったのでしょうか。
田中:LIFULLは以前までマーケット別事業部制組織を取り入れており、営業は様々な事業部に分かれて配属されていました。そのためSalesforce(※1)での商談管理や行動管理も事業部ごとの仕様になっており、データの管理・活用方法が営業全体で統一されていなかったんです。
しかし5年前、マーケット別事業部制組織から職能別組織へと組織の再編が行われました。そのタイミングで、セールスイネーブルメントを目的とした営業組織のDXがスタートしたんです。
LIFULLの営業組織にはそれまで、「営業活動が可視化されていない」「組織がBPR(※2)されていない」「組織内での人材育成が整備されていない」という3つの課題がありました。
課題の背景にある営業活動のデータやメンバーの育成方法が属人的・定性的に管理されている状態を改善し、定量的な課題特定や人材育成を行える環境をつくるために行ったのが営業DX、すなわちセールスイネーブルメントでした。
佐賀:具体的には、どのように取り組みを進めていったんですか?
田中:主に取り組んだのは、オンボーディングとナレッジマネジメントの2つです。
オンボーディングは、営業に必要な知識やスキルの習得を目的に、新人社員を対象に行っているものです。学習コンテンツや理解度テストを受けてもらった上で、上長などとのロープレを行い、1〜2か月かけて育成をして、卒業ロープレに合格すると晴れて1人立ち、という形で進めています。
ナレッジマネジメントは、個々人の活動量や売上額の底上げを目的に、マネージャーも含めた営業全員を対象に行っている取り組みです。具体的には、大小合わせて約400の学習コンテンツを内製し、必要に応じて受講してもらっています。
LIFULLでは約2年前から個人の営業活動データの可視化に取り組んでおり、ハイパフォーマーの成果やプロセスが定量的に分析できるようになってきました。これによりハイパフォーマーに共通する要素の特定やハイパフォーマーからのナレッジ収集が進み、内製しているノウハウ系の学習コンテンツのレベルも向上しています。
※1 Salesforce
顧客管理、営業支援、商談・案件管理、見積管理、社内情報共有SNS、B2Bマーケティング、売上予測など様々な機能を搭載した、クラウド型の営業支援(SFA)・顧客管理(CRM)システム。
※2 BPR
「ビジネスプロセス・リエンジニアリング(Business Process Re-engineering)」の略で、プロセスの観点から業務フローや組織構造、情報システムなどを再構築し、業務改革を行うこと。
成功の秘訣(1)トップコミットメント
佐賀:現場のメンバーが長年慣れ親しんできた方法を一変させるのは非常に難易度が高いと思いますが、そうした取り組みがうまくいった背景にはどんなポイントがあったのでしょうか。
田中:大きなポイントは、「トップコミットメント」「営業データの分析」「学習文化の醸成」の3つだったと思います。
1つ目の「トップコミットメント」は、端的に言えば、社長に直訴してプロジェクトオーナーになってもらい、営業DXの推進にコミットしてもらったということです。
最初、(営業DXやセールスイネーブルメントの)実績がそんなに無い中で、営業現場のスタイルを変えるのが本当に大変でした。その中で、社長がプロジェクトオーナーとなって営業改革に取り組んでくれたのは、とてもありがたかったですね。
佐賀:トップコミットというやり方について、桐原さんからもコメントをお願いします。
桐原:営業組織は意外と縦割りや横割りが激しく、レイヤーごとに強い意志を持っているので、部門長クラスでは組織を改革しきれないことも多いんですよね。そのため、社長がコミットするのはとても意味があると思います。
他社様の例を見ても、うまくいっている会社では、営業組織に対して最も影響力を持っている人がイネーブルメントを推進している印象があります。
ある大手企業様では、常務・専務クラスの方がわざわざ地方まで足を運び、現地の営業メンバーに取り組みの意義を口頭で伝えていました。はるばる現地に赴くなんて古臭いと感じるかもしれませんが、営業というのはどこまでいっても人との関わりが好きな組織でもあるので、そうしたコミュニケーションも重要になると感じています。
成功の秘訣(2)営業データの分析
佐賀:続いて「営業データの分析」についても教えてください。
田中:先ほどもお伝えした通り、LIFULLでは約2年前から個人の営業活動データの可視化に取り組んでいます。その際、特に効果的だったと感じているのが、既存営業の成果データの収集方法を工夫したことです。
新規営業の場合は、失注かアップセルしかないので、非常にわかりやすいですよね。一方で既存営業の場合は、アップセルしたケース、ダウンセルしたケース、契約の組み合わせを変更した結果、金額は変わらなかったステイのケースが混在しているんです。
これまではそうした受注の内訳が分からないまま、まるっと受注率や受注単価が管理されていました。そうした管理方法を改め、個々の受注データをTableau(タブロー)(※3)を使って整理し、申込書ごとにアップ・ダウン・ステイを可視化するようにしたんです。
これにより、ハイパフォーマーの成果の背景にある要素や、ローパフォーマーのボトルネックが数値化されるようになり、定量的なハイパフォーマー分析が可能になりました。
佐賀:申込書単位で分析しようと決めたのには、どんな背景があったのでしょうか。
田中:営業メンバーに「誰がハイパフォーマーか?」とヒアリングすると、だいたい大型受注をした人の名前が挙がるんです。
しかし実際は、高単価な1件の受注をしてトップになった人や、細かい受注を積み重ねてトップになった人、あるいはダウンセルが他の人よりも少なく、抑止活動を頑張った結果トップになった人など、様々なケースが考えられます。
今までは、どんな営業活動の結果によってトップセールスになったのかがブラックボックスになっていました。要は、他の人からの紹介でしかトップパフォーマーを見つけ出すことができなかったんです。その状況を改善し、定量的に分析してハイパフォーマーを特定したいと思ったのが一番の理由でした。
佐賀:桐原さんから見て、この取り組みはいかがでしょうか。
桐原:田中さんの仰るように、普通は大型受注をした人に目がいってしまいます。でも実際は、地道な成果を積み上げて、かつキャンセルにもなりにくい契約を取っている人もいれば、額は大きくてもすぐにキャンセルされてしまう契約を取っている人もいる。
そうしたデータを正確に捉えてくれるのは、すなわちフラットな評価をしてくれる会社ということなので、働く環境として魅力的ですよね。
残念ながらSalesforceなどのSFA・CRMシステムを導入してデータの集積はしていても、それをうまく活用できている会社はほとんどありません。そこに組織として取り組み、現場の支援に活かせているというのは、実は当たり前ではないんですよね。
佐賀:データの分析と活用ができるか否かの分かれ道は、どのような点にあるのでしょう?
桐原:そもそもそうしたツールを使うことを提案し、推進しているのは誰なのか?が重要だと思います。
システム部門の方々が介在して推進している場合は、あまり現場の声が届かず、形骸的な取り組みになってしまう場合があります。一方で、営業サイドが自ら必要性を唱え、推進した場合は、一定の成果が期待できると思います。
また、会社の評価基準と照らし合わせ、ツールを活用することが評価につながる設計にできているかどうかも重要なポイントです。
※3 タブロー
企業に蓄積された膨大なデータをシンプルな操作で収集・分析・加工できるBI(Business Intelligence)ツール。
成功の秘訣(3)学習文化の醸成
佐賀:最後に3点目「学習文化の醸成」についても教えてください。
田中:学習する側が飽きない状態をつくるためにもコンテンツの制作には力を入れており、週1回程度は必ず新たなコンテンツをリリースしています。扱うナレッジやノウハウについても、本当に価値あるものを提供すべく、先ほどお伝えした分析のもとハイパフォーマーを特定し、取材して情報を収集しています。
特に新商材・新サービスが出る際、コンテンツを活用してもらうことで事前に学習を促進できるのは大きなポイントだと感じています。新商材の情報をしっかりインプットし、収録されたハイパフォーマーのロープレを見て、売れるイメージを事前に持っておくという体制が、営業全体で構築できているんです。
ちなみにLIFULLでは学習コンテンツを必修にしており、理解度テストの合格履歴や動画の視聴回数など、学習状況をスコア化して、誰がどのぐらい学習したかを定点観測しながら、セールスイネーブルメントを推進しています。
佐賀:ベンダーによる既存コンテンツを利用するのではなく、自社でコンテンツを内製しているんですね。
田中:そうですね。最初は手探りで制作を進めていましたが、約400のコンテンツを生み出すなかで、制作スキルも向上してきました。
例えば10分を超える動画はあまり見られないというデータが出たら、10分未満の短い動画をつくるよう意識するなど、様々な試行錯誤を繰り返しながらやってきましたね。
※コンテンツの一例
佐賀:様々な会社を見てきた桐原さんにお聞きしたいのですが、このようにセールスイネーブルメントに関するコンテンツを内製している会社は多いのでしょうか?
桐原:LIFULLさんと同じレベルで自社でコンテンツを整えている会社は、なかなかないと思います。
最近は若い人たちを中心に、YouTubeなどを活用して自習を行う人が増えていますよね。そのため新商材が出た際、自習ができる動画教材があるのは、現場の営業の人にとってすごくありがたいと思います。自分が普段から慣れ親しんだ方法で、優れた内容をインプットできる環境があるのは、すごく恵まれていると思いますね。
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最後に:営業DXが進むLIFULLで働く魅力
佐賀:この一連の営業組織の変革には、どれぐらいの時間をかけたのでしょうか。
田中:まだ完全に理想形に到達したわけではありませんが、取り組みが始まって4年になります。
データ収集の事前準備が大変だったので、 1年間は助走期間でした。その後3年間やってきて、今では多くのデータが蓄積され、様々な分析ができるようになっています。
佐賀:4年前と比較した時に、どんな変化を感じますか?
田中:セールスイネーブルメントに前のめりになる人、協力してくれる人が増えたのは、非常に大きな変化だと思います。最初の頃はどうしても、今までのやり方を変えることへの抵抗があったり、セールスイネーブルメントの意義を理解してもらえなかったりして、苦労しました。
しかし自分が提供したノウハウが学習コンテンツになり、再生数やいいね数が増えていくと、ノウハウを提供したメンバーもとてもポジティブな気持ちになってくれたんです。それを積み重ねるなかでどんどん仲間が増え、前のめりに取り組んでくれる人が増えてきたのは、とても嬉しい変化ですね。
佐賀:最後に田中さんから一言、読者にメッセージをお願いします。
田中:LIFULLでは入社された方が「LIFULL HOME'Sの営業に携われてよかった」「スキルアップができた」と思える環境がつくれるよう、引き続き営業DXやセールスイネーブルメントを推進していきたいと思っています。
また、私と同様のミッションを持って仕事をしている方がいれば、ぜひお気軽にお声かけください。LIFULLの社是は利他主義です。何か私にご協力できることがあれば、できる限りお力になりたいと思っていますので、よろしくお願いします!
佐賀:桐原さん、田中さん、ありがとうございました。キャリナレ!セールス特集では、この後も様々な角度からセールスパーソンのキャリアアップのための情報をお届けしていきます。次回もお楽しみに。
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