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カスタマーサクセスのキャリア選択の着眼点

あらゆるビジネスが成熟し、より高度な課題解決が求められる中で注目されている職種、カスタマーサクセス。


従来の大量生産、大量消費型のビジネスモデルは影を潜め、所有ではなく利用が重視される現在、シェアリング・エコノミーやサブスクリプションモデルとも親和性があるカスタマーサクセスへ転職を考えている人も少なくないでしょう。


また、これまでカスタマーサクセスとしてキャリアを重ねてきた人は、今後のキャリアパスも気になるところ。


ここでは、カスタマーサクセスのキャリアパスの着眼点について解説します。カスタマーサクセスの特徴をより詳しく知りたい方は、前回の記事ご覧ください。


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1.カスタマーサクセスのキャリアパス


ここでは、カスタマーサクセスにおけるキャリアパスの概要や転職事例について紹介します。


カスタマーサクセスーサブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則(英治出版、2018年)によると、カスタマーサクセスには以下の4つのスキルが求められます。


(1)正しい顧客に販売する


「正しい顧客」とは、ここでは利益につながりそうな顧客を指します。カスタマーサクセスは、サブスクリプションといったストック型ビジネスモデルが前提のため、リピート購買につながるかどうかの視点が重要です。


(2)正しい顧客の大成功を描く


正しい顧客を見つけたら、相手の「大成功」をサポートしなければなりません。なぜなら「小さな成功」では相手は気付けないからです。顧客が大成功するためには、長期的な視点で戦略を策定し、それに基づいて課題解決を図るための思考力が求められます。


(3)ハードデータでKPIを作る


顧客の「大成功」とは、抽象的にではなく、数字に落とし込まなければなりません。設定するKPIは、利用状況を測るヘルススコアやCSAT(Customer Satisfaction、顧客満足度)、NPS(Net Promoter Score)などが適切でしょう。


(4)常に顧客の心理状態を察し、一歩先の支援を行う気配り力


サブスクリプションモデルの特徴の一つは、顧客が気に入らなければいつでも解約ができる点です。言い換えれば、顧客が導入からの各ステージで常に価値や心地よさを感じていなければなりません。


例えば、オンボーディングで顧客がサービスやプロダクトの利用につまづく前から配慮が欠かせませんし、契約更新に先立って1〜3カ月前からヒアリングし、活用状況を確認しておく必要があります。


心理状態を察するためには、相手に寄り添った傾聴力や適切な対応力、相手のニーズを把握するための質問力などが求められます。


カスタマーサクセスに求められるスキルは上記のように多岐にわたりますが、この分野に長けた人材は多くなく、未経験者でも転職しやすい職種です。カスタマーサクセスのニーズは高まる一方、「未経験可」で公募している企業も増えています。セールスやコンサルティング、マーケティング分野の経験があれば、積極的に応募してみましょう。


▪︎カスタマーサクセスへの転職





ここでは、カスタマーサクセスへの転職、カスタマーサクセスからの転職の具体的な事例を紹介します。まず、カスタマーサクセスへの転職を分析すると、類似スキルが求められる職種からの転職が目立ちます。


例えば、戦略的思考を使いこなす戦略コンサルタントやコンサルティング営業、SIer、顧客と長期間にわたって取引することに長けているフィールドセールスから転職する人もいます。


さらには、経理財務や教育業界、情報システムや人事など特定分野の業界知見を活かし、SaaSプロダクトを通じて顧客をサポートする側に転職するトレンドも見られます。


具体的な転職事例については以下記事をご参考ください。



▪︎カスタマーサクセスからの転職





カスタマーサクセスからの転職では、カスタマーサクセスとして他社へ行くのが顕著な傾向です。同じSaaSやIT領域へ転職し、より難易度の高い商材やプロダクトの開発速度が速い企業などに挑戦する人もいれば、非IT領域からIT領域へ転職し、キャリアの幅を広げようとする人もいます。


他方、職種チェンジする場合は、ベンチャーから大手IT企業に転職し、異職種でキャリアアップを図るケースもあれば、逆により大きな裁量が与えられる拡大フェーズのスタートアップにやりがいを求めて異業種へ転職する人もいます。


具体的な転職事例については、以下記事をご参考ください。




2.カスタマーサクセスにおける会社選びのポイント


キャリアを選択する上で「やりたいこと」「身に付けたいスキルが含まれているか」は重要な要素です。しかし、それだけでは実際に転職したあと、カスタマーサクセスとして活躍できない可能性があります。ここからは、カスタマーサクセスのキャリアを選択する際に、失敗しないための会社選びのポイントについて解説します。


▪︎パフォーマンスを発揮できるかどうか


パフォーマンスを発揮できるかどうかは本人のやる気と関係しますが、保有スキルや会社のフェーズによっても大きく左右されることを覚えておきましょう。同じスキルを保有していても、シード期のスタートアップと大企業では求められる要素が異なります。以下で必要なスキルを具体的に解説します。


・カスタマーサクセスの経験(業務理解)


ビジネスモデルの転換とともに、カスタマーサクセスのニーズが急増していること、未経験からの転職も目立つことを上述しました。最も、カスタマーサクセスやそれに準じた経験があるに越したことはないでしょう。


カスタマーサクセスは主に、サブスクリプションモデルを採用するSaaSにおいて、契約継続などを通じた収益最大化を目指す職種のため、既存の職種とは異なるKPIやフローを有していることが少なくありません。そのため、すでに業務形態を理解しているなら、間違いなく大きなアドバンテージになるはずです。


・ソフトスキル


コミュニケーション能力、マネジメントスキル、思考力(課題解決能力)、プレゼンテーション、ドキュメンテーション能力など仕事のベースとなるソフトスキルは、カスタマーサクセスに限らずどの職種でも同様に必要です。


顧客と継続的に良好な関係を築き、相手に先んじて課題を見つけて解決し、プロダクトやサービスの価値を感じてもらうためには、いずれかのスキルが決定的に欠けていないことも重要です。


・ハードスキル


特定の専門知識や研修で得られるハードスキルは、入社後のパフォーマンスに大きな影響を与えます。例えばホリゾンタルSaaSでは、業界問わず幅広い知識が必要な場合が多く、専門知識よりも横断的な視点がアドバンテージになります。


それに対してバーティカルSaaSでは、特定の業界に特化した商材やプロダクトが多いため、同業の知見がある場合は大きなアドバンテージになります。一方、未経験の場合はキャッチアップが必要でしょう。


▪︎フェーズ別カスタマーサクセスの役割


カスタマーサクセスとしてパフォーマンスを発揮できるかは、転職先企業のフェーズも大きく関係してきます。


1.シード期(シード~シリーズAでまだPMFしていない段階)


サービスやプロダクトがリリースされる前の段階であり、まだPMF(プロダクトマーケットフィット=サービスやプロダクトが市場に受け入れられている状態)していない状態です。


このフェーズにある企業は、創業者と数名の社員でサービスやプロダクトのリリースのために奮闘している状態で、カスタマーサクセスというポジションすら存在していません。仮に類似の職種があるとしても営業と兼任の状態でしょう。


ただ、このフェーズでもカスタマーサクセスに紐づくスキルは必要です。つまり、顧客とのヒアリングを繰り返してニーズを見極め、それを開発に活かす橋渡しのような役割を果たす人材が求められます。


2.アーリー期(シリーズB~PMF開始後)


シリーズBとは、経営が軌道に乗って従業員も増えはじめ、収益が伸びてくる時期です。ARR(Annual Recuiing Revenue=年間経常収益)はすでに3~5億円程度になっています。そのため、この時期はベンチャーキャピタルからIPO(上場)の見込みがある企業として注目され始めます。


このフェーズにある企業では、専任のカスタマーサクセスが1人おり、2、3人のカスタマーサクセス組織が形成されます。SaaSのスタートアップ企業の理想的な成長モデルである、「T2D3」(サービスをリリースしてからの売上が前年を基準に3倍、3倍、2倍、2倍、2倍になる状態)を達成することがミッションです。


そのためには、自社のプロダクトの質や内容を見極め、顧客に対してどのような支援を行えばよいか、抽象化して再現性のある仕組みづくりができる人材が必要です。マネージャーであれば、その仕組みを採用や組織作りに反映できる経験やスキルが求められます。


3.ミドル期(シリーズC、D、PMF完了)


スタートアップもシリーズCのフェーズに入れば、黒字経営で会社が安定し、IPOやM&Aを具体的に意識し始めます。組織のシステム化や業務設計が進み、顧客セグメントも複数に分かれてきます。


カスタマーサクセスの業務も分業化が進むため、専門性が必要です。また、限られた予算内で提示された数値目標を達成しなければ、トッププレイヤーとしては戦えないでしょう。


4.レイター期(シリーズE、上場後)


企業はすでに社会的信用を獲得しており、資金調達も容易になっています。ベンチャーやスタートアップの時期は抜けたといえるでしょう。


ジェフリー・ムーアが提唱した「イノベーター理論(※)」によると、消費者のタイプはイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードに分けられます。


※イノベーター理論:新製品(商品・サービス)登場後、市場における顧客の商品購入の態度を、購入の早い順に5つに分類したもの。





レイター期では、企業はアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にある「キャズム(深い溝)」を乗り越え、マーケットに広く受け入れられ始めていますが、レイトマジョリティも増えているため、経営戦略の転換が求められます。


カスタマーサクセスには、既存顧客に対して、増えてくるプロダクトや機能のアップデートのフォローに加え、顧客の声を吸い上げ、積極的にプロダクト開発に結びつけるようなチャレンジも求められます。


以下は、カスタマーサクセスに求められる役割を各フェーズごとにまとめたものです。





▪︎身に付けたいスキルや知識を磨けるか?


転職の大きなモチベーションの一つは、培ってきた知識やスキルを磨き、さらに成長できるかどうか。カスタマーサクセスの場合、転職を検討している企業のサービスやプロダクトが顧客へ行っているアプローチによって、磨けるソフトスキルは大きく変わります。


一般的にカスタマーサクセスのアプローチは「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」に分類されます。





・ハイタッチ


一対一のアプローチで、例えば担当による顧客訪問やオンラインでの個別の打合せなどがあります。顧客がサービスやプロダクトを使いこなせるように勉強会や運用提案も行い、ツールに慣れて、定常的な運用サポートを行います。


そのため、プロジェクトマネジメントや業務改善、戦略提案まで求められることも。コミュニケーション能力、マネジメントスキル、課題解決能力、プレゼンテーション、ドキュメンテーションなどのスキルが磨かれやすいでしょう。


・ロータッチ


一対複数のアプローチで、主な目的はプロダクトの利活用方法の理解促進や、顧客同士のつながりのを強化すること。具体的にはセミナーや説明会などがあります。


そのため、クライアントワークスキルより、集客や企画、コンテンツ作成のスキルのほうが磨かれるでしょう。


・テックタッチ


主にITテクノロジーを活用し、複数の顧客にアプローチする方法です。具体的には、WebサイトのコンテンツやFAQ、契約者専用のメルマガ、動画を活用したウェビナーなどが含まれます。こうしたコンテンツの企画・制作プロセスの中で、最小限のコストでプロダクトの価値を最大化するための業務設計のスキルを高めることができます。


自分が身に付けたいハードスキルを磨けるかどうかは、SaaSがホリゾンタルか、バーティカルかによって異なります。


  • ホリゾンタル


ホリゾンタルとは「水平」という意味で、ホリゾンタルSaaSでは業界横断的なスキルを磨けます。例えば、人事領域のSaaSであれば、幅広く人事領域の知見を得ることができるでしょう。


しかし、プロダクトによってはその領域の一部しか対応していないこともあり、注意が必要です。


・バーティカル


バーティカルとは「垂直」という意味で、バーティカルSaaSでは、特定業界において専門的な知見を深められる点が強みです。取り扱っている課題も複雑なものが多く、業界の幅広い理解と課題解決力が求められる場合も多いでしょう。


特定の分野を深掘りしたスキルを身に付けられる一方、扱っている課題がその業界特有であることも多く、汎用性が低いといえます。そのため、キャリアの幅を広げる点では限定的になる恐れもあります。



3.カスタマーサクセスに向いていない人


▪︎数値のプレッシャーに弱い人


「カスタマーサクセス」という名称から、顧客の成功だけを考えられる夢のある仕事だと思い込んでいる人もいます。顧客の「大成功」を目指す点でその通りではあるものの、数値目標を度外視して良いわけではありません。むしろ、カスタマーサクセスのミッションがLTV(顧客生涯価値)を最大化し、企業の収益向上に貢献することが前提ならば、数値は厳しく追わなければならないでしょう。


カスタマーサクセスは数字のプレッシャーと向き合い続けなければならず、それが苦手な人には向いていないといえます。


▪︎課題解決が苦手な人


カスタマーサクセスは顧客の課題を見つけ、解決していかなければなりません。また、社内に対しても、顧客への価値提供の中で最適な業務設計やプロダクト設計を行う必要があります。そのため、物事を分析、構造化し、課題解決が苦手な人にもカスタマーサクセスはおすすめできません。


▪︎顧客折衝が嫌いな人


言うまでもないことですが、カスタマーサクセスはフロントに立って顧客とやりとりする職種であるため、顧客折衝が嫌いな人も向かないでしょう。テックタッチが多い場合も、必ず何らかの形で顧客と向き合うことになるため、顧客との良好なコミュニケーションを保つことが必要不可欠です。



まとめ


一口にカスタマーサクセスといっても、スタートアップか大企業かで立ち位置は大きく異なり、スタートアップでもシードとIPO後で、フェーズごとに期待役割は違います。さらに、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチによっても、求められる経験や知識、磨けるスキルはさまざまです。


カスタマーサクセスとしてのキャリアパスを考えるときには、上記の視点を参考にして情報収集から始めてみてはいかがでしょうか?


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