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【2025ドラフト会議】プロ野球選手輩出企業ランキング。逸材が生まれる理由をクチコミで分析

10月23日に開催されるドラフト会議。前半では社会人野球における「チームの強さ」を分析しましたが、続く後半では、選手の成長の源泉である「企業文化」を深掘りします。

 

なぜトヨタからは次々と逸材が現れるのか。なぜ大阪ガスは高卒選手を育て上げるのが上手いのか。その答えは、ビジネスの現場で培われた独自の組織風土にありました。年間400試合以上のアマチュア野球を観戦し、ドラフト候補を追い続けるスポーツライターの西尾典文さんの分析と、ワンキャリア転職に寄せられた社員クチコミから、そのリアルな姿に迫ります。

 

前編はこちら





プロ野球に最も多くの選手を送り込んでいる企業は?

 

NPBへの選手輩出についてはどうなっているのだろうか。2025年のシーズン開幕時点で、NPB12球団に所属している選手数を社会人チーム別にランキング形式でまとめたところ、以下のような結果となった。




トヨタ自動車:圧倒的な採用力と「カイゼン」がもたらす育成力

 

現役選手で最多はトヨタ自動車の11人。パ・リーグを代表するショートで2023年のWBC優勝にも大きく貢献した源田壮亮(西武)、2020年にドラフト1位で入団していきなりクローザーとして活躍した栗林良吏(広島)などが代表格となっている。

 

ちなみに今年のドラフト会議でも増居翔太、池村健太郎、後藤凌寿(いずれも投手)、熊田任洋(内野手)と4人の選手が有力候補となっており、複数の選手が指名される可能性も十分だ。また今年の新人選手ではいずれも甲子園で活躍し、U18侍ジャパンにも選出された高尾響(広陵出身・投手)、箱山遥人(健大高崎出身・捕手)という大物も入社していることを考えると、スカウティングに強みがあることは確かだろう。

 

その後押しとなっているのはやはり圧倒的な企業規模だ。他の企業チームの採用担当者に話を聞いても、狙っていた選手がトヨタ自動車と争奪戦になるとなかなか勝つのは難しいという。実際に高尾と箱山についても他の企業から話があったそうだが、最終的にはトヨタ自動車に入社となった。

 

ただ、ここで名前を挙げた選手は学生時代から有名ではあったが、プロ志望届を提出しながら指名漏れとなった選手も多い。源田と栗林の2人を見ても、社会人で評価を上げてプロ入りしており、選手が成長する環境も強みと言える。

 

その環境を作っている要因の一つとして企業文化が考えられる。ワンキャリア転職に寄せられたトヨタ自動車の企業文化に関するクチコミには以下のようなものがあった。


 

カイゼンという言葉を全世界に広げただけに、業務改善に全力で取り組む会社。仕事における無駄をできるだけなくし、いかに効率を高めるかが働くうえで重要」(経理・新卒入社

 

「やりたいことは声をあければ、基本的にチャレンジさせてもらえるような風土」(海外営業・新卒入社

 

「なんでもまずは挑戦。何をするにもゴールまでの筋書きが大事。成果をアピールする能力が高い人が多い。学ぶことへの意識が高い」(研究開発/R&Dエンジニア・中途入社


 

“カイゼン”という言葉に象徴されるように、トヨタ自動車は企業として常により良い方法を追求することを重視していると言われている。問題が起こったときに真の原因を探るために「なぜ?」を5回繰り返す手法も有名である。同じような言葉が野球部で使われているかは分からないが、仕事でのカイゼン文化がスポーツの現場でも浸透している部分はあるのではないだろうか。

 

また日本一の企業規模を誇りながらも、チャレンジ、挑戦を大事にしているというのも特徴的だ。2023年のドラフト2位でヤクルトに入団した松本健吾もトヨタ自動車入社後にフォームの見直しを徹底的に行い、ピッチングは大きく“カイゼン”されたという。素材の良い選手を採用するだけでなく、それをしっかり伸ばしていることがNPBへの選手輩出の多さにつながっていると言えるだろう。

 

 


大阪ガス:高卒ルーキーをスターに育てる「風通しの良さ」

 

トヨタ自動車に次ぐ2位は都市対抗優勝回数でトップのENEOSであり、チームの強さがそのまま選手輩出に繋がっていると言えるだろう。

 

そしてトヨタ自動車やENEOSとはまた違った意味で面白いのが3位の大阪ガスだ。

 

2018年に都市対抗優勝を果たしているが、時価総額を見てもそこまで上位ではなく、社名の通り基本的には関西を中心に事業を展開しているところも全国区のトヨタ自動車やENEOSとは異なっている。それでも今年は8人のOBがNPBでプレーしており、近本光司(阪神)、小深田大翔(楽天)、今年ブレイクした岸田行倫(巨人)などチームを代表する選手も名を連ねている。

 

そんな大阪ガスからNPBに進んだ選手で特徴的なのが、高校から入社してきた選手が多いことだ。現役選手では岸田(報徳学園出身)と河野佳(広島・広陵出身)の2人だけだが、ともに昨年現役を引退した岡田雅利(元西武・大阪桐蔭出身)、土肥星也(元ロッテ・尽誠学園出身)、一昨年引退した公文克彦(元巨人など・高知高校出身)、長く阪神とオリックスで活躍した能見篤史(元阪神、オリックス・鳥取城北)も高卒の選手である。

 

高校から社会人に進むと一気にレベルが上がって苦しむケースも多く、そもそも高卒の選手を採用していない企業チームもある中で、大阪ガスのようなチームは貴重である。そしてその要因として考えられる企業文化、社員の特徴をワンキャリア転職のクチコミから見つけたので紹介したい。


 

「企業文化は部署にもよるが、営業や事業開発系の部署はチャレンジングな環境で若手のうちから様々なことに挑戦できる環境がある。上司、同僚との関係性は非常に良好で、上下関係なく積極的にコミュニケーションを図ろうという雰囲気があるため、何事も気軽に相談できることが多い」(新規事業開発/新卒入社

 

「体育会系でお節介な人が多い。関西弁で厳しいこともいわれたりしますが、本気でその人のためを思ってアドバイスをくれますし、一緒に仕事を進めようとしてくれる人が多いです」(エネルギーインフラ/新卒入社


 

若手から挑戦できる環境、上下関係なくコミュニケーションを図る雰囲気、本気でその人のためを思ったアドバイス。こうした言葉を見ても、職場としての風通しがよく、若手を育てる雰囲気を感じ取れる。そういった企業としての特徴が、高校から入ってきた若手野球部員を育てることに繋がっている部分も大きいはずだ。

 




今年のドラフト会議は「企業努力」にも注目

 

こうした事例を見ても単純な企業規模ではなく、企業としての風土や社員の特色が野球部員の育成にも影響していることが見えてくる。

 

今年の候補選手では、非上場で企業規模もそこまで大きくない鷺宮製作所でプレーしている竹丸和幸(投手)が社会人ナンバーワン投手として高い注目を集めている。また、2023年のドラフト会議では新興チームのロキテクノ富山から沢柳亮太郎が5位でソフトバンクに指名されており、こういった例を見てもチームとしてのやり方、つまり企業努力次第でNPBに選手を輩出できることは確かだろう。

 

前回の記事でも触れたようにチーム数も再び増加傾向にあるだけに、また新たな特色を持った企業チームから有望選手が飛び出してくることを期待したい。


「野球に学ぶキャリア戦略」シリーズ



スポーツライター

西尾典文

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。現在は年間400試合以上を現場で取材し、各種媒体に記事を寄稿している。2024年4月には侍ジャパンの井端弘和監督との共著で『日本野球の現在地、そして未来』(東京ニュース通信社)を出版。2017年からは毎年CS放送スカイAにおけるドラフト会議中継でも解説を務めている。

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