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【2025年プロ野球CS特集】強さの源泉は経営にある? 企業分析の視点で6球団を徹底解剖

企業の強さはどこで決まるのか? 潤沢な資金力か、優れた設備か、それとも優秀な人材か──。この問いに答えるヒントが、プロ野球の世界にあります。


今シーズン、厳しい競争を勝ち抜きクライマックスシリーズ(CS)への切符を手にした6球団は、いわば「業界トップクラスの成果を上げた優良企業」です。その成功の裏には、それぞれ独自の経営戦略が存在します。


ワンキャリア転職がお送りする新企画「野球に学ぶキャリア戦略」は「野球を知れば、キャリアが拓ける」をコンセプトに、野球を通してビジネスやキャリアの本質に迫ります。


初回は、スポーツライターの西尾典文さんに、経営分析の基本フレームワークである「ヒト・モノ・カネ」を用い、CSに進出する6球団を徹底比較してもらいました。


目次



はじめに


10月11日に開幕するプロ野球のクライマックスシリーズ(以下CS)。セ・リーグは阪神、DeNA、巨人、パ・リーグはソフトバンク、日本ハム、オリックスの各3球団が出場を決めているが、球団によって強化戦略は異なっている。


一般的な企業の重要な経営資源は「ヒト(人材)・モノ(物資)・カネ(資金)」と言われており、これはプロ野球の世界にも共通する。この3つに焦点を当てて、強化戦略を比較してみたい。




【カネ】ROI(投資利益率)が高いのは? 6球団の投資哲学


プロ野球における「カネ」で多くを占めるのがやはり選手の年俸である。実績のある選手を獲得するためには高額な年俸が必要となり、また結果を残した実力のある選手の年俸は当然年々高騰していく。


ただ一方で年俸の高い選手を揃えても、既にピークを過ぎていてそれに見合うだけのパフォーマンスを発揮できないケースも多く、そういった選手は“不良債権”と呼ばれることもある。そんな選手の年俸について、6球団を比較したのが次の表だ。




パ・リーグ:資金力のソフトバンク、コスト管理の日本ハム


まず外国人選手や育成選手も含む総年俸で見ると、パ・リーグ優勝のソフトバンクが78.7億円で2位の巨人に15億円以上の差をつけてトップとなっている。オスナとモイネロが10億円、スチュワート・ジュニアが7億円と言われており、外国人選手に対して相当な“投資”をしていることがよく分かるだろう。


しかし今シーズンの成績を見てみると、この3人のうち主力として十分な働きを見せたのはモイネロだけ。日本人選手でも2番目に高額の柳田悠岐(推定年俸4億7000万円)が故障でわずか14試合の出場にとどまっている。こうして見ると、“費用対効果”という面では課題が残ると言えるだろう。


パ・リーグで対照的なのはシーズンを2位で終えた日本ハムだ。総年俸と支配下の日本人選手のみの年俸はいずれも6球団の中で最少となっており、12球団で見ても下位となっている。かつて日本ハムで活躍していた近藤健介、有原航平、上沢直之の3人が揃ってソフトバンクに移籍しているというのも象徴的だ。


近年は他球団で実績のある選手を獲得するケースもあるが、ソフトバンクやオリックスに比べると少なく、それほど総年俸を上げずに結果を残してきた印象は強い。今年CSに進出した6球団の中では最もやりくり上手と言えるのではないだろうか。



セ・リーグ:年俸総額とリーグ順位が逆転


一方のセ・リーグを見ると、昔から“金満球団”と言われることが多い巨人がトップで、DeNA、阪神の順となっており、ペナントレースの順位とは逆の結果となっている。


巨人の個別の選手を見てみると、昨年オフに中日から移籍したマルティネスの12億円がトップで、これはNPB全体でも最高額となっている。マルティネスは開幕から抑えとして見事な投球を見せ、最多セーブ争いを演じていることを考えると、今年に関してはソフトバンクの高額年俸外国人選手と比べると費用対効果は良かったと言えそうだ。


しかし日本人選手では2番目に高額の坂本勇人(推定年俸5億円)が大きく成績を落としている。これはソフトバンクの柳田も同様だが、実績のある選手に対して大型契約を結んだ際にしばしば起こりうることであり、致し方ない部分はあるものの、こういった選手が増えてくると他の選手への“投資”に影響してくることもある。それだけにこのオフ、坂本にどのような条件を提示するかは一つの注目ポイントと言えるだろう。



外国人への投資が顕著なDeNA


巨人以外のセ・リーグ2球団は対照的な結果となった。総年俸ではDeNAが阪神を上回っているが、支配下の日本人選手のみに絞るとDeNAは総年俸の約半分となり、6球団全体でも日本ハムの次に少ない金額となっているのだ。それだけDeNAが外国人選手に対する投資の割合が高いということである。


その多くを占めているのがバウアー(推定年俸9.3億円)とオースティン(推定年俸5.1億円)の2人だ。バウアーは2020年にMLBでサイ・ヤング賞を獲得した大物であり、2023年に来日。昨年はMLB復帰を模索してメキシコでプレーしていたが、今年断念して再びDeNAに入団した。実績を考えるとこれくらいの金額を出さなければ獲得は難しいということもあったが、今年は20試合に先発したものの4勝10敗と大きく負け越しており、年俸に見合うだけの活躍とはならなかった。


一方のオースティンは昨年が3年契約の最終年だったが、首位打者を獲得したこともあって年俸アップで残留。しかし今年は怪我もあって大きく成績を落としている。外国人選手ではこの2人よりも年俸が低いジャクソン(推定年俸2.5億円)、ケイ(推定年俸1.6億円)、ウィック(推定年俸1.5億円)の方がチームへの貢献度は高いだけに、オフに球団がどのような判断を下すかに注目だ。



ぶっちぎりの優勝を生み出した阪神の投資判断力


そして2年ぶりのリーグ優勝を果たした阪神だが、総年俸と支配下の日本人選手のみの金額差は6球団で最も少なく、それだけ外国人選手に投資せずに結果を残したと言えるだろう。日本人選手を見ても高額年俸で結果を残せなかったのは西勇輝(推定年俸3億円)くらいであり、主力の高額年俸選手は軒並み揃って期待通りの結果を残した印象だ。


シーズン途中には阪神出身で、今年アメリカでプレーしていた藤浪晋太郎(現・DeNA)と青柳晃洋(現・ヤクルト)の2人がNPB復帰を決断したが、いずれも阪神は獲得を見送っており、そのあたりも“投資”の判断として適切だった印象を受ける。レギュラーシーズンでは史上最速でのリーグ優勝を決めており、トータルで考えても最も“費用対効果”の良かった球団と言えそうだ。




【モノ】未来への投資が競争力を生む。事業基盤を強化するハード戦略


まずはカネ(年俸)についてまとめたが、他に球団の投資哲学の違いが出るのが「モノ」つまり球場である。特徴的なのは、CS出場6球団はいずれも近年ハード面にも積極的に投資を行ってきたという点だ。各球団の一軍、二軍(ファーム)施設の新設、もしくは大規模改修について表にまとめた。




球場投資の成功例はエスコンフィールドと横浜スタジアム


最もインパクトが強かったのは、やはり2023年に日本ハムが「エスコンフィールドHOKKAIDO」に移転したことである。それまでの本拠地だった札幌ドームは札幌市との取り決めによって収益性が低く、そのことが球団にとっても大きな課題となっていた。条件の改善を求めて交渉したが難航し、札幌市を出て北広島市への移転を決断したのだ。


この決定には懸念の声も多かったが、開場1年目から目標を大幅に上回る売上高と営業利益を達成。そのことによって選手の補強にかけられる金額も大幅にアップしたという。


一軍施設に関しては日本ハムほど大きな変更があった球団はないが、収益面で大きく改善したのはDeNAだ。


2016年1月に本拠地である横浜スタジアムの運営会社を買収。その後、ライト後方とレフト後方にウイング席を新設して収容人数は約5000人多くなり、マーケティングの強化による効果も重なって昨年は過去最高となる観客動員数も記録している。


かつてのガラガラだった横浜スタジアムのスタンドを知るファンから見ると、連日大勢のファンが詰めかける様子には隔世の感があるのではないだろうか。



ファーム(二軍)への先行投資が競争優位性を生み出す


一軍施設以上に各球団の投資が目立つのがファームの施設だ。その先駆けとなったのがソフトバンクが2016年に開場した「HAWKSベースボールパーク筑後」である。


メインスタジアムである「タマホームスタジアム筑後」だけでなく、守備力強化のためにあえて内野を土としているサブグラウンド、ブルペン6か所とバッティングマシン4レーンを揃えた室内練習場も新設。クラブハウスにはトレーニング用のプールも備えられている。


ソフトバンクは育成ドラフト出身の選手が活躍することも多いが、その要因としてファーム施設の充実が大きかったことは確かだろう。


この流れは他球団にも波及。オリックスが2017年、DeNAが2019年にファーム施設を移転すると、巨人と阪神も今年揃って新たな二軍用の球場を開場させた。


今年Bクラスに沈んだ球団の中では西武が三軍制の導入を機にファームの施設や寮を新設しているが、残りの5球団は少し動きが遅い印象は否めない(ヤクルトとロッテはファームの移転を発表)。こういった設備投資という面で意識の高い球団とそうではない球団の差が、今年のペナントレースの結果の一因にもなっているように感じた。





【ヒト】新卒育成か、中途採用か、外部人材か。結果を生むタレントマネジメントとは?


最後に比較したいのが「ヒト」の部分だ。


各球団に所属している選手は新人として入団した生え抜き選手、他球団から移籍してきた外様選手、海外から来日した外国人選手の大きく3種類に分けることができる。一般企業であれば生え抜き選手は新卒採用、外様選手は中途採用というイメージが近いだろう。外国人選手は、特定のスキルを期待されて来日することが多い点から、外部の高度プロフェッショナル人材の獲得と定義すると分かりやすいかもしれない。


では今年CSに進出した6球団は、このどの種類の選手の貢献度が高いのだろうか。各球団、投手ではイニング数の多い先発5人と登板試合数の多い5人、野手は打席数の多い選手をセ・リーグは8人、パ・リーグは指名打者含めて9人ピックアップし、生え抜き、外様、外国人のカテゴリーに分類すると、次の表のような結果となった。




「新卒育成」の理想形。ドラフト1位が主軸に育つ阪神

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スポーツライター

西尾典文

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。現在は年間400試合以上を現場で取材し、各種媒体に記事を寄稿している。2024年4月には侍ジャパンの井端弘和監督との共著で『日本野球の現在地、そして未来』(東京ニュース通信社)を出版。2017年からは毎年CS放送スカイAにおけるドラフト会議中継でも解説を務めている。

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