三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅は、幅広い商品やサービスを取り扱う商社ビジネスを牽引する企業ですが、事業構造や社風には違いが存在します。「五大商社」として比較されますが、実際のところ、どのような特色があるのでしょうか。
本記事では、2025年度1Q(第一四半期、4〜6月期)の最新決算とワンキャリア転職に寄せられた多数のクチコミから、数字と転職理由を徹底的に比較。転職を考えるあなたが「どの会社が自分に合っているのか」を見極めるための判断材料を提供します。
1:数字で見る、総合商社の「今」──三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅2025年最新決算の比較
まず、各社の経営状況を客観的な数字から比較します。事業の成長性や収益構造、未来への投資姿勢から、それぞれの「今」の姿を明らかにします。
1-1:三井物産・三菱商事・伊藤忠商事・丸紅・住友商事|総合商社の連結純利益ランキングに異変?
五大商社 連結純利益の推移(億円)
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事業全体の収益力を測る指標である「連結純利益」で各社の業績を比較します。上図のように、ここ数年は、三菱商事と三井物産が資源ビジネスの好況を追い風にトップの座を争ってきました。
しかし、今年に入って、ランキングに大きな変化が起きています。2025年5月に発表された24年度決算では、資源価格の下落を背景として、三菱商事・三井物産が前年比から減益。最新決算の25年度末の見通しではさらなる減益を見込み、連結純利益は三菱商事、三井物産ともに過去5年で最小額を見込んでいます。
そんな中で勢いを見せているのが、伊藤忠商事です。コロナ禍でも手堅くトップ3の座を守ってきた同社は、前年度決算で過去最高益を更新しました。今年の通期見通しは、前年を上回る純利益9,000億円を見込んでおり、達成できれば五大商社の純利益トップに躍り出ます。
1-2:三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅|総合商社の資源比率に見る利益構造の違い
五大商社 25年第1四半期の当期純利益と資源比率
(※)三菱商事では、金属資源・地球環境エネルギー・マテリアルソリューション・電力ソリューションの各セグメントを「資源事業」と定義。三井物産では、金属資源・エネルギー・鉄鋼製品の各セグメントを「資源事業」と定義。伊藤忠商事では、エネルギー・化学品セグメント内「エネルギー」「電力・環境ソリューション」を「資源事業」と定義。住友商事、丸紅では、各社の決算説明資料の定義に準ずる
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そんな伊藤忠商事は、今期第1四半期の決算も絶好調で、この四半期も過去最高益。好調の背景には、利益構造の違いがあります。上の表に示したように、五大商社の純利益に占める資源事業の比率、すなわち「資源ビジネスへの依存度」は大きく異なります。
資源ビジネスへの依存度が高い三菱商事・三井物産は資源価格の影響を受けやすく、急激な利益変動のリスクがあります。一方、ファミリーマートを筆頭に、食料や日用品などの非資源事業に強みを持つ伊藤忠商事は、安定した収益基盤で利益を伸ばしています。
今年度の決算は、非資源に強い伊藤忠がこのまま三菱商事・三井物産との「三つ巴の争い」から抜け出し、五大商社トップの座を勝ち取れるかどうかが見どころになりそうです。
1-3:三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅|トランプ関税の総合商社への影響は?
トランプ大統領が掲げる大胆な関税政策が市場で注目を集めており、輸入ビジネスを担う日本の総合商社にも影響が懸念されています。実際に、住友商事は関税コストの増加を想定し、400億円規模の損失リスクを織り込んでいると報じられており(※1)、他社も同様に保守的な業績見通しを示しています。
こうした情勢下で関税の影響を避けながらビジネスを継続するため、三菱商事はアメリカの銅鉱山の権益を取得することで資源の安定供給を目指しています(※2)。他社でもアメリカ国内で完結するビジネスに注力することが予想され、商社各社がリスクに備えた経営姿勢にシフトしていることがうかがえます。
それでも、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイは「投資方針を変えるつもりはない」「今後50年は売却を考えないだろう」と五大商社株の保有継続を表明しており(※3)、総合商社の事業価値に与える影響は限定的という見方が強そうです。
(※1)ロイター「住商の26年3月期、1.4%増の最高益予想 米関税などのリスク400億円」
(※2)NHK「三菱商事 米で銅鉱山の権益取得へ 高関税の銅の安定供給ねらい」
(※3)ロイター「バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株『50年』保有へ」
1-4:三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅|総合商社の「次の一手」
このような足元の資源価格変動や貿易リスクに対応するため、各社で資源依存からの脱却を進めています。
三菱商事は、AIやバイオテクノロジー分野を中心に投資する500億円規模のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設立し、次世代成長領域への投資を加速しています(※1)。
三井物産はチリで鉱山や建設向けのカーリースやレンタカーを手掛ける企業を完全子会社化、丸紅はアジアの調味料企業やアフリカの医薬品流通プラットフォームに出資するなど、需要地を起点とした非資源ビジネスを進めています(※2)。住友商事も、得意とする不動産などの非資源事業が寄与し、2025年度第1四半期の業績を大きく伸ばしました。
そして非資源ビジネスの雄である伊藤忠商事は、より生活者に近い金融領域を強化すべく、セブン銀行やタイのプレミアグループとの資本・業務提携によって飛躍を目指しています(※3)。
かつては「総合商社といえば資源分野が花形」とも言われましたが、時代は大きく変わりました。商社各社が新たな成長の地平を見据えた戦略転換を進めていることが見てとれます。
(※1)日経新聞「三菱商事、500億円のCVCファンド設立 生成AI・バイオ分野へ」
(※2)三井物産プレスリリース、丸紅プレスリリース(1、2)
2:クチコミで見る、総合商社の「内側」──三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅で働く人の声から見えたの違い
決算データから見えてきた事業戦略の違いは、働く環境やカルチャーにどう反映されているのでしょうか。また、時折耳にする「辞め商社」――つまり、総合商社のキャリアを捨てて新たな挑戦をする人たちは、どうして退職を選び、どこで活躍しているのでしょうか。ここからは、ワンキャリア転職に寄せられたクチコミから実態を探っていきます。
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