「おめでとう。でも、君たちは不幸な時代に入ったね」
昨年の内定式で、山田コンサルティンググループ社長の増田慶作氏は新入社員にそう語りかけた。
AIにより業務が大幅に効率化し、働き方改革で長時間労働も消えた。一見恵まれた時代が、なぜ「不幸」なのか。
新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社したワンキャリアの石川広華がコンサルファームのトップに構想を問う連載『From the Summit ─ トップの構想をたどる』。
今回は金融危機下の事業再生の最前線からキャリアを歩んできた増田氏に、AI時代のコンサルタントの価値と、若手が持つべき覚悟を聞いた。
増田 慶作
山田コンサルティンググループ株式会社代表取締役社長
1961年宮崎県生まれ。中央大学法学部卒業。税理士。1991年、公認会計士・税理士山田淳一郎事務所(現 税理士法人山田&パートナーズ)に入所。2000年よりティーエフピー経営コンサルティング株式会社(現 山田コンサルティンググループ株式会社)代表取締役に就任。2016年より現職。
石川 広華
ワンキャリア/中途キャリア支援部 シニアマネージャー
新潟県出身。京都大学法学部卒業。新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして入社。小売・製造・エネルギー・官公庁・金融・通信など多岐にわたるプロジェクトに従事し、プロジェクト外の組織活動のリード経験も多数。現在は、株式会社ワンキャリアの中途事業「ワンキャリア転職」にて、事業開発/シニアマネージャーとしてコンテンツ・マーケ・経営企画領域をリード。
「不幸な時代に入社した」の真意
石川:昨年の内定式で、内定者の方々に「君たちは不幸な時代に入った」と語られたと伺いました。どういう真意だったのでしょうか。
増田:昔は、徹夜で資料をつくって、目の前でビリビリ破られて、また作り直して。地獄の100本ノックで、強制的に成長させられたんです。大変だったけれど、苦労した分は確実に力になりました。今、その100本ノックがない時代に、どう成長するかを自分で考えなければなりません。見方によっては厳しい時代です。
だから「おめでとう。でも、君たちは不幸な時代に入ったね」と。みんなザワザワしていましたね(笑)。
石川:背景には、2つの大きな変化があるように思います。1つはAIの進化、もう1つは業界の「ホワイト化」です。
増田:まずAIは、本当にすごい。うちのトップコンサルタントが「2時間半でこのレポートをつくりました」と持ってきたけれど、「これが2時間半なの?」という精度です。ペーパーワークそのものには、もう価値を見出せなくなる。若手が最初に鍛えられてきたリサーチや資料作成という「修行の場」が、AIに置き換わっていくわけです。
もう1つのホワイト化は、我が社自身が経験してきたことです。金融危機の頃に事業再生を数多く手がけて、銀行も企業も生き残りに必死。「明日の朝までに資金繰り表を作ってきてくれ」と言われる世界で、土日もありませんでした。
それを改善しようと、2016年頃から2年かけて残業を徹底的に潰しました。いまでは土日に出社する人はほとんどいないし、男性社員も約1カ月の育休を普通に取ります。安心して働ける組織を本気でつくってきました。
石川:AIが下積みの仕事を奪い、ホワイト化が「強制的な修羅場」をなくす。放っておけば、成長機会そのものがなくなってしまいます。
増田:そういうことです。昔は、組織に乗っているだけで鍛えられた。いまは、ぬるま湯に浸かろうと思えばいくらでも浸かれる。成長機会は「与えられるもの」から「自分で取りに行くもの」に変わったんです。これが「不幸な時代」の正体です。
ただし、誤解しないでほしいのは、我が社は緩い組織にするためにホワイト化したんじゃない。安心して働ける土台の上で、どれだけ自分を鍛えられるか。そこを問うています。
AIに仕事を奪われる時代に、AIを使う理由
石川:御社はコンサルタント全員にClaudeを導入されるそうですね。
増田:なぜ入れるか。資料作成やデータ分析を担うメンバーに実際に使ってもらって、「いま自分がやっている仕事は、なくなるんだ」ということに、まず気づいてもらうためです。
これまで自分が飯を食ってきた仕事では、もう食えなくなる。それを肌で実感した上で、じゃあ自分はどう行動変容すべきなのかを考えてもらう。我が社は一人ひとりに10年計画をつくってもらっています。10年後には、AIができる業務はより広がり、高度化しているでしょう。機械の能力を体感した上で、10年かけてどういうプロになるのか、自分で描いてほしいんです。
石川:では、AIに代替されない価値は、どこに残るのでしょうか。
増田:情報の整理や分析は、AIが代替してくれるでしょう。残るのは、仮説の設定、仮説の検証、そして実行支援です。
その先にあるのが、ファーストコールです。我が社のメンバーにいつも聞くんです。「経営者と話ができる顧客企業が何社ありますか。その社長から、困った時に最初に電話がかかってきますか」と。困ったなと思った時に、顔が浮かぶか、浮かばないか。AIがいくら賢くなっても、「あなただからお願いしたい」と言われる存在は代替されません。
石川:増田さんご自身も日々経営者と対峙していらっしゃいますよね。その経営者たちが直面している環境も含めて、日本経済をマクロでどうご覧になっていますか。
増田:地域によって、見える姿は随分変わってきましたよね。東京は好景気で、オフィス賃料は高騰し、インバウンド向けビジネスも活況です。
ところが地方に行くと、全く風景が違う。働き手がいない、需要が減っている。戦後7,200万人ほどだった人口は1億2,800万人まで増え、いま減り始めている。人口が減りながらの時代を経験するのは、実は日本が初めてなんです。
東京はまだ「令和」だけれど、人口動態で見れば大正時代の水準まで人が減っている地域もある。どこから切るかによって、この国はいろんな顔をしている。その中で中小企業がいかに生きるか。給料を上げられない。給料を上げたって、人が来ない。非常に残酷な時代が来ていると思いますよ。
石川:私の出身地の新潟県では、事業者の垣根を超えて、産業団体・行政・教育などと連携して産業を守っていこうという動きがあります。既存の枠組みを越境していかないと地域経済の課題解決は難しいと感じています。
増田:組織の合従連衡をもっと進めて、効率化した形で、病院、スーパー、建設業といった地域のインフラ事業を再構築するような、大きな「うねり」が出てくるはずです。そして、それはある程度の強制力を持って、粛々と計画的にやらないと成功しない。自然のなりゆきに任せてしまうと、結構な混乱が起きると思っています。
だからこそ、事業の「やめ時」も含めて、経営者に寄り添える存在が要る。本当は事業価値が残っているうちに手を打った方が、結果としてその経営者はハッピーになる。でも、分かっちゃいるけど、やめられないのが人間です。
経営者は、最後までやりたいものなんですよ。本当は事業価値が残っているうちに手を打った方がいいのに、ギリギリまでやってしまう。だからこそ「こんなはずじゃなかった」と言われるのが一番つらい。そうならないように、いかにギャップをなくすか。経営者に寄り添いながらやっていくことです。
石川:経営者に「やめ時」を伝えることも、コンサルタントの仕事だ、と。
増田:私は事業再生からキャリアが始まったから、特に思う。資金繰りが厳しくなるようなシビアな局面を経営者と共有すると、本当の信頼関係になる。当時のお客様とは、いまでもお付き合いがありますから。それは私自身の大きな財産だし、メンバーにもそうなってほしい。
厳しい時代の地方の中堅・中小企業にとって、最初に顔が浮かぶ存在になれるか。そこにコンサルタントの価値が残るんです。
石川:ファーストコールがかかる人と、かからない人。何が分かれ目なのでしょうか。
増田:経営者との距離が近くて、耳の痛いことも自分の言葉でしっかり言えるメンバーは、頼りにされている。その会社のことを真剣に考えて、社長とその会社の未来について、自分の言葉で議論しているかどうか。
そのために必要なのは、いかに現場に降りていくか。現場に足を運んで事業や組織風土を理解し、提案を設計しないと、社長からの信頼は得られません。
石川:経営者を取り巻く環境が複雑になっているからこそ、一次情報を足で取りに行かないと、コンサルタントは本質的な提案ができない時代になっているのですね。
増田:表層の情報をAIに入れて出てきたものでは、経営者とは議論できません。経営者は、その事業をずっとやってきた人なんだから。そこが唯一無二のコンサルタントになれるかの分かれ目です。
AIには奪われない「感性」と、自分の強みの見つけ方
石川:経営者から信頼されるコンサルタントになるためには、現場に足を運ぶ以外に何が必須でしょうか。
増田:地道に努力しきれることです。コンサルタントはアウトプットする仕事でしょう。ということは、インプットし続けなければいけない。
我が社では毎月、外部講師を招いた勉強会をやっています。テーマはイラン情勢や中国の農村について等々。一見ビジネスと無関係そうに見えますが、経営学だけ分かっていても、経営は分からない。世の中はマクロがミクロに大きく影響するんだから、大きく捉えないといけません。他にも、幹部には、業務時間のうち年間100時間を自分の能力向上に使うプログラムも課しています。
スペシャリティは、地道に取りに行くしかない。それをAIに代替してもらえるわけがない。同じAIを使っても、使う側の力量で出来上がりは全く違うんだから。
気をつけるべきは、AIは思考を奪うということです。困ったなと思ったら、すぐAIに聞くでしょう? 答えが出ちゃうから、どんどん思考力が衰える。だから、あえてAIから離れて、自分の頭で考え続ける訓練をしないといけない。それから、感性。様々なことに知的好奇心を持って吸収して、感性を磨く。
石川:感性や個性は確実にAIに代替されない部分だから、そこに自分の強みを置いて育てていくのは、戦略として正しいかもしれませんね。
増田:そうだと思いますよ。しかも、AIは今のレベルが前提じゃない。この先刻々と進化する。だからこそ、代替されない部分に自分の強みを置いて、磨き続けるしかない。AIの進化をキャッチアップしながら、「人間には何が求められるのか」を日々考え続けることです。
石川:私自身、新卒でマッキンゼーに入って得た一番大きなものは、スキル以上に「自分の強み・資質の発見」でした。ワンキャリアに転職したのも、事業会社の方が向いていると考えたためです。
自分のセンターピンを見つけて、そこに勝負を懸ける。それができれば理想ですが、一番難しいのは、その見つけ方ではないでしょうか。
増田:それは、いっぱい話を聞くことじゃないかな。それも、いいことだけを言う人ではなく、現役の社員や先輩に、本音ベースで話してもらう。会社のプレゼンは「選んでもらうため」のプレゼンだから、良い情報ばかりが入っているかもしれない(笑)。
我が社は逆に、あえて厳しい話をします。自ら情報を取りに行かないと、本当の情報は取れない。自分の人生の話なんだから、そこは手を抜かない方がいいと思いますね。
石川:ミスマッチをなくすため、最大限の努力をするべきだ、と。売り手市場では、良い情報だけを見せて採用数を確保したい誘惑が企業側に働きます。それを断ち切り、本当の姿を見せる覚悟があるかどうか。企業側の姿勢も問われますね。
増田:その通りです。我が社は入社後のギャップをいかになくすかに注力しています。「こんなはずじゃなかった」が、お互いにとって一番つらいから。その上で若手メンバーが、AIと共存しながら成長できる道筋をしっかりつくらないといけない。若手の育ち方が根本から変わる転換点にいると思います。
最後に問われるのは、覚悟
石川:自分の資質が生かせる企業を探し、そこで強みを磨く努力をする。そのような個人の姿勢の差がそのままキャリアの差になる時代かもしれませんね。
実際、「ゆるブラック」という言葉に表されるように「前職が緩すぎて、成長できているのか不安で転職しました」という声が出てきています。危機感を持って動ける人にとっては、むしろチャンスが回ってきやすい時代なのではないでしょうか。
増田:そう思いますよ。全体が緩くなっているんだから、自分の仕事を自分でつくりに行って、取りに行って、覚悟を持ってやるポジションを取った人が際立つ。逆に言えば、環境を変えたからといって、成長機会が自動的に手に入るとは限らない。機会は環境についてくるのではなく、自分で取りに行く姿勢についてくるものだから。
石川:その道中の「きつさ」とは、どう向き合えばいいでしょうか。
増田:きついなと思ったら、「あ、いま成長しているんだ」と思えばいい。楽だなと思ったら、「成長が止まっているぞ」と。成長し続けるというのは、山を登り続けるということです。登っている時は、きついに決まっている。でも登れば、見える風景が変わってくる。そこからまた次の景色が見えて、目指す山が変わる。それができるか、できないか、ということです。
石川:とはいえ、SNSで同世代の活躍が見えやすく、「早く結果を出さなければ」と焦る若手も多いです。
増田:「最近の若者は」という言葉は、平安時代の書物にも書いてあるそうです。つまり、いつの世も若者は焦り、惑い、年長者に言われてきた。時代のせいにしても仕方がない。だからこそ、自分をしっかり見て、自分に投資し続けることです。
そもそも、焦る必要はないんです。「70歳まで働く時代」と言われてきたけど、君たちは75歳まで働くんだよと。ビジネス人生は70代まで続く、長い登山です。40歳からだって、あと35年ある。いま焦って結論を出すんじゃなくて、もっと考えて、地力をつけろと。長いレンジで見て、地道にやり続けた人だけが、シニアになった時に本当に自由に自分の仕事を選べるようになる。
私は50代の幹部が「僕はもう年寄りですから」と言おうものなら、ふざけるなと言います(笑)。死ぬまで進化するんだぞと。
石川:実際に、シニアで活躍されている方が社内にいらっしゃるそうですね。
増田:60歳を過ぎて、メーカーを定年退職してから入ってきた方が何人もいます。彼らは過去の肩書きやスキルで勝負するのではなく、いままで磨いてきたノウハウをさらに磨いて、新しい知識も取り入れて、若手と交わりながら働いている。すると、息を吹き返すんですよ。70歳を過ぎても本当に元気で、朝5時からメールが飛び交っていますから(笑)。退職後もずっと業界研究を続けて、講演会に登壇している方もいます。
我が社の会長の西口泰夫は今年83歳になりますが、経営の一線を退いた後、大学院に入り直しました。もう一度学生として研究して、また別の会社の経営を託され、上場まで導きました。いまはAIについて一生懸命語っていますよ。
80歳を過ぎても、常に新しいことにチャレンジしている。そういう心持ちであれば、いつからでもそうなれる。20代なら、なおさらでしょう。自分次第じゃないですか。
石川:これからの若手は、そうした70代でも元気に走り続ける方々と、同じ土壌で戦っていくことになるんですね。キャリアの「長さ」を前提にすると、目先の環境で一喜一憂することの意味が変わってきます。
増田:そう。キャリアは長いんだから、切らさないことが何より大事です。出産や育児で時短になっても、成長スピードが少し緩むだけで、止まるわけじゃない。我が社では子どもが小学6年生になるまで時短を認めていますが、細くてもいいから学びを切らさなかった人は、必ず戻ってこられるし、その先で自由になれる。
石川:最後に、この記事を読む若手の読者へ、メッセージをお願いします。
増田:言い訳しないことかな。自分に言い訳してもしょうがないよね。自分との約束を守ろう、ということです。一番難しいのは、自分との約束なんですよ。「今日からこれをやろう」と決めて、やり続ける人と、やり続けない人で、結果が全く違う。やり切った人が、やっぱり勝っている。やり切るとは、自分との約束を守るということ。そうすれば、必ずおのずと結果が出てきます。
だからこそ、自分を信じてほしい。自己信頼の低い人は、なかなか一歩を踏み出せないから。そして、3カ月に一回でも半年に一回でも、振り返って「こういうことができるようになったな」と、自分を褒めてあげてください。自分が、自分の一番の応援者なんだから。きついと思った時、人は、山を登っているんだから。
コンサルからのキャリアについて、プロに相談する
ワンキャリア転職のキャリア面談では、60,000件以上のキャリアデータを知るキャリアアナリストが、次の次のキャリアまで見据えたキャリアパスをご提案します。短期的な選考対策・転職支援から中長期のキャリア相談まで幅広くご対応が可能です。面談は下記フォームよりご予約ください。
▼特集『From the Summit ─ トップの構想をたどる』の他の記事を読む










.png)




