AIがビジネスの基盤として定着し、「論理的思考」や「リサーチ力」といった、コンサルタントの基礎スキルの価値が揺らぎつつある。
これまでの「分かりやすいキャリアアップの道」が通用しなくなっている現代において、高い志を持って働く若手プロフェッショナルたちは、いかにして自らの介在価値を証明し、キャリアを築いていけばよいのか。
今回、その問いをぶつける相手は、欧州発の経営コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーの日本代表を務める大橋譲氏。インタビュアーは、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社したワンキャリアの石川広華が務める。
一般的に「論理的合理性」に基づくコンサルティングが強みとされる米国のファームに対して、欧州的価値観を根底とした「多様性と起業家精神」をDNAに持ち、腰を据えてクライアントと対峙するローランド・ベルガー。
一見相反するルーツを持つ二人の対話から浮かび上がったのは、AI全盛期においてコンサルタントが直面する現実と、その中で人間にしか生み出せない「型破り」な介在価値だった。
大橋 譲
ローランド・ベルガー/日本法人代表取締役、シニアパートナー
カリフォルニア大学サンディエゴ校情報工学部卒業。外資IT企業を経てローランド・ベルガーに参画。米系戦略コンサルティングファームを経て現職。製造業・ハイテク、石油・化学、IT企業等、幅広いクライアントに対して、欧米と日本の文化を交えた企業改革や事業再生、クロスボーダーを伴う成長戦略や企業買収の検討・統合など異文化が大きな壁となるさまざまな経営課題の解決・事業変革で多くの支援実績を有する。
石川 広華
ワンキャリア/中途キャリア支援部 シニアマネージャー
新潟県出身。京都大学法学部卒業。新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして入社。小売・製造・エネルギー・官公庁・金融・通信など多岐にわたるプロジェクトに従事し、プロジェクト外の組織活動のリード経験も多数。現在は、株式会社ワンキャリアの中途事業「ワンキャリア転職」にて、事業開発/シニアマネージャーとしてコンテンツ・メディア領域をリード。
1.コンサルが提供してきた「インスタント・サティスファクション」の罪と終焉
石川:本日はよろしくお願いします。私自身、前職では、論理的合理性を追求しながらコンサルテーションをしてきた感覚があります。しかし、AIが台頭する今の時代、そうした「論理的で正しい答え」の価値は急速にコモディティ化しています。
論理だけでは生き残れない時代において、大橋さんが一貫して重視されている「エンパシー(共感)」や「起業家精神」というキーワードが、一つの生存戦略になるのではないかと考えています。
大橋:今の時代、論点の整理や論理展開はAIが大半を代替できます。そして、コンサルティング業界がここ10年、15年で大きく成長してきた背景には、実はAIに代替されやすい「作業」を大量にこなしてきたという側面があるんです。
石川:それは、具体的にどのような業務でしょうか。
大橋:私が「インスタント・サティスファクション(即物的な満足)」と呼んでいるものです。
例えば、ITソリューションやDXを導入すれば業務が効率化されると提案し、実行する。あるいは、大規模なプロジェクトのPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)として管理業務を回す。これらは確かに売上を作りますが、作業が大半を占めるため、AIに置き換わっていく部分です。
石川:確かにクライアントからすれば、足元での投資回収がしやすいインスタント・サティスファクションへの投資は、意思決定として楽ですよね。しかし、それでは長期的で本質的な企業変革には繋がりません。
大橋:実際に、経済産業省の調査などでも、DXの9割は失敗し、成果が出ていないと言われていますよね。結局、DXもAIも、経営者が判断を下すための材料に過ぎません。システムは経営判断をしてくれませんし、組織を動かしてもくれない。だからこそ、我々は「バック・トゥ・ザ・ベーシック」、コンサルティングの原点・本質に立ち返るべきなんです。
石川:コンサルティングの「ベーシック」ですか。
大橋:そうです。日本の経営層、特に55歳から65歳くらいの方々は、バブル経済とその後の右肩上がりの時代に入社した世代です。何もしなくても企業が成長していく時代を経験したため、自らリスクを取って経営判断を下すことに慣れていない方が多い。
本来のリーダーとは「自己利益を優先するのではなく、周りの組織やチームがメリットを享受できるようにする」存在だと私は定義しています。自分がすべてのメリットを享受するのではなく、リスクを負ってでも組織が大きくなる道を選ぶ。
経営者がリスクを取り、決断し、そして組織が自律的に「動く」状況を作り出すこと。これが我々コンサルティングファームが担うべき最大の役割であり、AIには絶対にできない領域です。
2.「グローバルベストプラクティス」という劇薬。論理だけでは産業は動かない
石川:これまでのコンサルティングファームは「グローバルベストプラクティス(世界的な最良の成功事例)」を型化して、クライアントに提供することで価値を発揮していました。
ただ、複雑性が増す現代においては、それが弱点、シングル・ポイント・オブ・フェイラー(※)にもなると考えています。全員が同じ「グローバル標準」に従い画一的に最適化されると、想定外の変化が起きても対応できる余白がなく、共倒れになってしまうからです。
(※)単一障害点。システム用語で「そこが壊れるとシステム全体が止まってしまう一箇所」
大橋:おっしゃる通りです。コンサルティング業界全般が反省しなければならないのは、グローバルベストプラクティスをそのまま導入しようとして、日本企業を失敗させてしまったケースが多々あるということです。
日本は非常に複雑なエコシステムを持つ国です。例えば自動車産業。「来年からエンジンをモーターに変えてEV(電気自動車)にしよう」と論理的に言ったところで、500万人もの人々が働く自動車産業の仕組みは、そう簡単に置き換わりません。
それを理解せず、無理やりエンジンをモーターに変えるような提案は、一見分かりやすい「インスタント・サティスファクション」ですが、企業にとって毒になりかねません。トヨタの豊田章男さんなどがすごいのは、その500万人の産業をどう変えていくかという本質をきちんと分かって進めようとされている点です。
石川:ローランド・ベルガーは、そうした安易なソリューション導入に頼らないコンサルティングスタイルを取られています。
大橋:はい。論理展開をして綺麗なチャートを作っても、経営者や現場は動かないんです。現場の方々は現場を見ているので、正論は分かっています。でも、リスクを取れない、動けない理由がある。
そこに対して、我々は「膝詰め」で議論します。時には「あなたがやらないなら、私がやりますよ」と経営者に迫ることもあります。お怒りになられることもありますが、その真剣な対峙、情理やその企業独自の「倫理観」を含めたところで戦わないと、最終的にお客さまは動かないんです。
石川:外部のコンサルタントがそこまで踏み込むのですね。
大橋:我々がよく使う言葉は、我々が「動かす」のではなく、お客さまが自然と「動く」です。
社長から「ローランド・ベルガーさん、何をしたの? なぜかうちのチームが自発的に動いているんだけど」と言われる状況を作り出す。大量の資料を作ったからではなく、我々の熱意と本質的な問いが火をつける。これこそが、論理的思考を超えた我々の介在価値です。
3.「欧州のDNA」が突き動かす、規模拡大と異なる道
石川:ここまでお話を伺って、私がいたような米系ファームと、ローランド・ベルガーのような欧州系ファームの違いが明確になってきた気がします。
大橋:よく「米系と何が違うのか」と聞かれますが、根本的に扱っている対象はお客さまの事業ですから、そこへの差はありません。しかし、ヨーロッパという地域の成り立ちを考えてみてください。我々はドイツで生まれたファームですが、ドイツとフランスは同じEUにいても、歴史を振り返れば戦争ばかりで、言語もいまだに違います。
アメリカのように「ワンカントリー、ワンルール」で効率的に進められれば楽ですが、ヨーロッパはそれができない。だからこそ、お互いの違いを認め合い、時にはぶつかり合いながらも、共通の目標(ヨーロッパの未来)のために「インテグレーション(統合)」していく道を選んだ。それがEUであり、ローランド・ベルガーの根底にある発想です。
石川:効率性だけを追求するなら、言語も通貨も一つにしてしまった方が合理的ですが、あえて複雑性を残し、対話によって乗り越えていくのですね。
大橋:ええ。だからこそ、我々にはずっと変わらない「3つのE」というコアバリューがあります。
Entrepreneurship(起業家精神)、Excellence(卓越性)、Empathy(共感)です。
特にアントレプレナーシップとは、社内起業することではなく、「誰も見たことがない一歩先を示すこと」。調べて答えが出るものはAIに任せればいい。正解がない、成功するかも分からない領域に挑戦し続ける姿勢です。
そしてエンパシー。これは単なる同情ではなく「一緒にやること」です。正しいフレームワークを提示するだけでなく、お客さまと一緒に真剣に将来を悩み、伴走する。それがお客さまの心を開き、組織を動かす力になります。
石川:なるほど。規模を拡大し、ITシステム導入やPMO案件を大量にさばく「大手の総合化」が進むコンサル業界の中で、あえて本質的な戦略と実行にこだわり続ける。だからこそ、ローランド・ベルガーはプロフェッショナルが300名規模というサイズ感を理想としているのですね。
大橋:そうです。意味のある改革をしていくための適正規模として300名という数字があります。これ以上大きくなると分業制が進み、我々のDNAが維持できなくなる。
若手であっても作業だけをやらされるのではなく、入社直後から「経営参謀」としての役割を期待され、フラットな環境で議論を戦わせる。上の人間が偉いわけではなく、世の中のためになるなら若手からどんどん意見をぶつける。それが我々のファームです。
インスタント・サティスファクションを提供すれば我々も急拡大できるのですが、提供しない。あえてそのジレンマを抱えながら本質を追求する道を選んでいます。
4.「何者か」になるな。型を極めた先の「型破り」であれ
石川:最後に、読者である20代、30代の若手・中堅ビジネスパーソンに向けたメッセージをお願いします。変化が激しく、AIに代替される不安を抱える中で、「自分は何者かにならなければ」と焦燥感に駆られている人も多いです。
大橋:「何者か」になんて、ならなくていいと思いますよ。
親世代の苦労を見ている若者は、失敗を恐れて結果を急ぎがちです。しかし、分かりやすいラベル(例えば「プロ経営者」や「〇〇の専門家」など)を自分に貼り付けてしまうと、それは自らの可能性のオプションを狭めることになります。
インスタント・サティスファクションを求めてはいけません。稲盛和夫さんや優れた経営者たちが「プロ経営者として認識されたい」と思って経営していたかというと、そうではないはずです。社会のために何ができるかを考え続けた結果に過ぎません。
石川:オプションを狭めないために、若手のうちにどのような経験(修羅場)を積むべきでしょうか。
大橋:日常的な「ディベート」と「小さな仮説検証」を繰り返すことです。
正解がないテーマについて、なぜ自分は賛成で相手は反対なのかを議論する。人格否定ではなく、論点の違いを理解し、すり合わせる(インテグレーションする)訓練です。
また、仮説検証は仕事以外でもできます。私はコーヒーが大好きなのですが、コーヒーを淹れるのも化学反応であり、仮説検証です。「なぜこの豆をこう淹れるとこの味になるのか」を深掘りしていくと、やがてコーヒー産業の構造や2050年問題といったマクロな視点に繋がり、実際の消費財プロジェクトでも役立つ知見になります。
石川:基礎的な思考訓練を怠らないということですね。
大橋:ええ。そして最後に伝えたいのは「型破り」であれということです。
スポーツや音楽で結果を出しているトップランナーとそうでない人との違いは、技術ではなく、その人にしか出せない個性です。
コンサルタントでも同じです。圧倒的な基礎(型)を長年学び、極めた上で、どうしても個性が滲み出て「型を破る」瞬間がある。これが本当の「型破り」です。基礎もないのに適当にやるのは、ただの「はちゃめちゃ」です。
AIは「型」を量産することは得意ですが、「型破り」な価値を生み出すことはできません。論理的思考という型を身につけた上で、それを突き破る人間臭い魅力や熱量、自らリスクを取る勇気を持ったコンサルタントこそが、これからの時代にお客さまの心を動かし、ビジネスを牽引していくのだと信じています。
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