これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
「キャリナレ!経営企画編 #01」のテーマは、「コトに向かった先に、究極の自由が待っている。経営企画の市場価値を考える」。ゲストは、現在マイベストでCSOをつとめる岸本裕史さんです。
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一番の関心ごとは「企業の成長性」
石川:早速ですが、岸本さんのこれまでのご経歴についてお伺いさせてください。
岸本:新卒でディー・エヌ・エーに入社し、経営企画とは全く関係なくゲームのプロデューサーをやっていました。
ゲーム業界に入りたいと思って就活していたわけではなく、私の父親がボストンコンサルティンググループの初期、創業者であるブルース・ヘンダーソンさんに採用された日本人で、「コーポレートディレクション」という会社の立ち上げメンバーの1人でした。私はその父親の影響を強く受けており、GDP対比で伸びている産業上位を上から順番に応募していったんです。結果的に2011年当時すごく伸びていたディー・エヌ・エーに入社しました。
石川:事業内容というより、これからの成長性を重視して選ばれたんですね。
岸本:そうですね。入社時はゲームはむしろ嫌だなって思っていたくらいです。でも、実はソーシャルゲームは伸びていると知り、であればゲームをやりたいと思うような、ビジネス好きな人間でした。
また、私が経営企画に移ったのは2014年~2015年くらいでしたが、この時期、ディー・エヌ・エーも一つのプロダクトではなく、ビジネスを多角化する時期で、M&Aや事業ポートフォリオマネジメントなども手がけられそうで、面白そうだったというのもあります。
経営企画に異動してからは、子会社管理を担当していましたが、中でも手がけた大きなプロジェクトには、横浜スタジアムの買収があります。あと、M&Aしたメディア系子会社のPMIや、第三者委員会報告書作成の現場リーダーをすることもあり、攻めも守りも全部やらせていただきました。
石川:ディー・エヌ・エーから転職した2社目はどんな会社だったんですか?
岸本:メディカルノートという医療系ベンチャーです。ディー・エヌ・エー規模の経営企画では、全社を見るわけではなくどこかのパートを担当にとどまることが多いので、まだファイナンスやM&Aの専門家とは言えないような状態でした。
その中で、まだ事業をやってみたいという気持ちもあり、経営企画も事業もどちらもできることを期待して当時30人くらいのメディカルノートに事業責任者として入社させていただきました。その後、最終的には執行役員になり、全社を見るようにもなりました。メディカルノートには2年くらい在籍していました。
石川:その後はどちらに移られたんでしょうか?
岸本:ミダスキャピタルの発行体であるイングリウッドという会社に経営企画として入社し、事業と経営を半分ずつ行ってました。新規事業の立案を経営企画内でやっていたので、事業立ち上げから収益化、全社数値の管理、M&Aの検討まで幅広く担当していました。
マイベストに感じた面白み
石川:マイベストに移られたのはどういうきっかけだったんですか?
岸本:ファンドに興味を持ったのは経営企画をやる上でファイナンスのスキルが欲しいと思ったからで、ファンドに自分の身をずっと置きたいとは思っていませんでした。
それに対して、マイベストがグローバルにto Cのプロダクトを展開しているのを知り、ディー・エヌ・エーに入社した時と同じように、伸びているサービス・事業に関わりたいと思ったんです。
石川:マイベストの魅力を教えてください。
岸本:一番面白いと思ったのは、多くのファンドがSaaSなどのB向けのビジネスに投資をしている時代に、マイベストがtoCで戦っており、かつ創業直後からグローバルに展開していたことです。
また、資金調達ではなく、ユーザーからの売上すなわち運用収益だけでグロースしているという点も魅力的でした。
コンサル出身者と事業会社出身者の違いとは?
石川:ここからは経営企画へのキャリアパスをお聞きできればと思います。岸本さんは経営企画職のメンバーを採用する立場でもあると思いますが、コンサル出身の方と、事業会社出身の方とで活躍の仕方の違いを感じることはありますか?
岸本:ありますね。コンサル出身の方は事業計画をエクセルで作るなど、プランニング力が高いです。そのうえで、実現のために人を動かすことができるか、事業の勘、自分が最後の責任を取れるかというコミットメントなどが見極めたいポイントです。
また、コンサル出身者は能力の高い方と一緒に仕事をしている方が多いため、そうでない場合でも組織にフィットできるかも問われるかなと思います。
逆に事業会社出身の方は事業責任者を経験していないと事業計画を作ったことがある方はなかなかいらっしゃらないので、どれだけのスキルを持っているかをチェックするようにしています。
経営企画未経験でも、「どんなロールでも事業視点をちゃんと持ちたい」「経営企画のスキルをキャッチアップしたい」という意識が強い方はとても魅力的です。
石川:私は前職がコンサルなのですが、コンサルはプロジェクト単位で、限られた範囲の問いを解決するのがメインです。それに対して、事業会社では自分が取り組んでいる問いに関連する構造を理解し、意識しながら解く必要があります。事業会社の方がより複雑ですが、それが醍醐味だと感じています。
経営企画みたいに見る問いの範囲が広い職種だと最終的に自分でコミットメントラインまで持っていけるかだけでなく、問いの複雑性を許容して思考できるかも大事な素養かなと勝手に思っていたのですが、そのあたりはいかがですか?
岸本:まさにそこが本質的な部分で、究極的に経営企画は問いさえ立てられれば良いんです。経営企画が立てた問いを言われた側が気づいて実行できるのが理想的で、実行まで経営企画がやるのは最後の手段だと思っています。
1人でできることに限界があるから経営企画が必要なのであって、自分たちが立てる問いを通じて経営陣や事業を推進するメンバーに新しい気付きを与え、事業や組織にレバレッジをかけることが大切だと考えています。
石川:一人で実行までやり切るよりオーケストレートの役割の方がレバレッジがかかりやすい、たしかに。
大事なのは「コトに向かうこと」
石川:岸本さんは事業会社から経営企画に移ったことで、どんな経験や資質が活きていると思われますか。
岸本:ワンキャリさんの記事でも「企画力」「コミュニケーション力」「プロジェクトマネジメント力」の3つが挙げられていましたが、すごく良いポイントだと思っています。
「企画」というとプランニングばかりに目が行きがちですが、実行目線で言うと「コミュニケーション力」「プロジェクトマネジメント力」が重要です。
ディー・エヌ・エーでは「コトに向かう」というフレーズがあるのですが、誰かを説得したり、絵を描いたりするだけでなく、「コトがどう動くか」で判断することが重要です。「人に向かって」も経営企画という仕事はできますが、本当に大事なのは「コトに向かって」、事業が大きくなっていくのか、つまり、事業価値が高まり、良くなっているのかという視点です。
石川:まだ責任範囲が経営企画のように大きくないフェーズからどんなことを意識すれば、より大きな問いを解決できるようになるのでしょうか?
岸本:目指す事業領域が自分の価値観や経験の延長線上にある時はそんなに意識する必要はないと思います。
ただ、価値観や業種が異なる組織を目指すのであれば、意図的に俯瞰する能力や異なる組織と一緒に仕事をする経験も大事になってくると思います。例えば、大きな会社であれば子会社出向に手を挙げたり、異業種への転職をしたりする経験も活きてくるのではないでしょうか。
経営企画の「攻め」と「守り」
石川:ここからは経営企画の仕事内容、攻めの部分と守りの部分、あとは「経営企画のこういうポジションに就けたら楽しいと思うよ」といった部分を伺えたらと思います。
岸本:マイベストでもよく「攻めは経営企画」「守りは経営管理」という分類を使いますが、もう少しかみ砕くと、「守り」は計画を作ったり、計画を実行した際の実績を収集したりする業務を含み、「攻め」にはM&Aの検討などがあります。
もし経営企画を目指すなら多少なりともファイナンスの知識を身に着けると頭の整理もできますし、世の中で発信されている情報をすっきりと分類できるはずです。
ただ、分厚いコーポレートファイナンスに関する教科書を読んで知識をつけるというより、自分なりにどの仕事が「攻め」にあたり、「守り」にあたるのかを理解して、経営陣と話せるかが重要です。もっといえばファイナンスの専門家に自分の仮説をぶつけられれば良いわけです。
また、経営企画の最終ゴールは企業価値や時価総額の向上だといわれますが、これは2つのアプローチが可能です。一つは利益を増やすために売上を上げていくこと、二つ目は予実管理の精緻化などを通して資本コストを最小化することです。
そう考えると、攻めも守りもどちらも大事で、この2つをバランスよく、時には2つの両取りを見据えながら、自分で自由に考えて仕事を選べるとすごく楽しくなります。
経営企画の仕事内容は、自ら能動的に定義していく必要があるとも言えますね。
石川:大きく言えば企業価値の向上を目指す、とはいえ、企業のスタイルや経営企画部署に求めることによって、できることの範囲が大きく異なる職種だと思います。ここについては、どのように企業を選んだらよいでしょうか?
岸本:攻めと守りのどちらに重きを置くかは、企業やフェーズによって様々です。
究極的には、「その企業のすべてを頭に入れてあらゆるアプローチで企業価値を上げるという難題に挑みたいかどうか」によると思います。
特に、自分の業務がどういうロジックで企業価値向上に紐づくかを説明できるようになろうとすると、思考しきる必要があるためです。
本当に「やりたい、あるとよい」と思う事業であるときの方が、余すことなく考えつくせます。
石川:例えばコンサルから経営企画職に転職する場合、事業会社に入ったとしてパワポやエクセルを作るだけの仕事はいやだと思う方は多いと思いますが、小さくまとまらないようにするためにはどうしたら良いでしょうか?
岸本:前提として、パワポやエクセルという作業も経営者が求めていることであれば事業価値があると割り切ってやるべきだと思います。ただ、それ以上の価値があることを自分から経営者に提案したり、気付かせたりするのが経営企画の仕事です。
「同じことばかりやらされている」というのは「コトに向かって」いないので、企業価値を上げたいのであれば、パワポであろうとエクセルであろうとまず受け止めてやった上で、「もっとこうした方が良いのでは」「こうすれば価値が上がりますよ」と「コトに向かっていく」なかで経営者に気づきを与えることが必要で、その順番を間違えないことが大切かなと思います。
石川:経営企画になったから今日から仕事が急に変わり、パワポを触らなくなるわけではなく、事業成長や企業成長の先に付随してキャリア成長や自己成長があるんですね。
岸本:おっしゃる通りです。もちろん、パワポを一切触らせないポリシーの会社を選ぶのも一つの手かもしれませんが、思考が「コトに向かって」いなかったら、結局どこかで不満が生まれてしまうと思います。
石川:それは経営企画だけではなく、事業計画でもセールスでもそうですし、事業や企業の成長が自分の目の前のキャリアとどう関係するのかを整理することが、仕事に向かうスタンスや次の選択に大きく影響を与えそうですね。
岸本:まさにおっしゃる通りです。ただ、経営企画が他の職種と一番異なるのは、企業の成長の状態を見極めたら、それをちゃんと伝えないといけないという点です。これが職種のスキルとしても重要で、だからこそ自由に自分の仕事や待遇も決められます。
経営企画は未来を企画し、作らなくちゃいけないので、今の仕事だけを見て就職してしまうともったいないのかなと思いますね。
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「経営企画の市場価値」は言語化できない
石川:企画職の悩みは、いろいろ手を出しすぎて自分が何ができる人材なのかよく分からないところかなと感じるのですが、岸本さんは「経営企画」の市場価値をどのように言語化しますか?
岸本:誰もが悩むと思いますが、悩み続けるのが正しいのかなと思っています。どういうことかと言うと、ファイナンスの構造や会社の特徴を理解し、自分が企業価値や事業価値の向上にどのように貢献できたのかをすべて言語化し説明できるのは究極形態なので、皆その途上にいてしかるべきです。
どの会社でも通用する戦略なんて説得力がありませんし、スキルを一般化できないという意味でどうしても市場価値やキャリアとのギャップや矛盾が生まれるため、悩んでいるのが正しいはず、と自分で納得するようにしています。
石川:経営企画にしても事業企画にしても、企画職って自分が向き合っているものが成果として出てくるまでのリードタイムって結構長いため、キャリアの中でケーススタディとして経験できる数が限られていると思います。そのあたりはどう考えたら良いのでしょうか?
岸本:1つは事業サイクルで経験できる数が決まってしまう業界はあると思います。例えば製薬会社でパテント(特許権)を取得してからの事業モデルは数年単位で決まっていて、全社を見る視点を持ちたいと思ったら何年もかかるのが当たり前です。
それに対して、ベンチャーなどの小さな会社だったら事業サイクルは非常に短いわけですよね。まだ自分が経営企画未経験でイメージできないのであれば、サイクルが短い方が「実は違った」という状況は避けやすいと思います。
もう1つは、経営企画を体系的に理解しており、説明できる上司が在籍している会社に入ると、企業価値を上げられている経営企画がどういうものなのかを言語化して教えてもらったり、気づかせてもらったりできるのかなと思います。
経営企画からは何にでもなれる
石川:市場価値という形で一般化できないことを前提にしつつ、経営企画という業務を続けていった先にどういうキャリアが広がっているのか、最後にお伺いしたいと思います。
岸本:いろんな会社で経営企画をやってきた人たちを見てきましたが、本当にさまざまで、その自由度が他の職種と違う点かなと思っています。
経営企画で培った俯瞰的な視点があれば、会社全体のコストや売上の解像度が非常に高い人間として、どんな職種であっても相手は「この人を採っていけば売上が上がるはず」という気持ちになるのではないでしょうか。
経営企画のスキルさえ磨いておけば、その会社に入ってどんな役割をしたいかを決めた後にプレゼンができるはずなので、経営企画の先のキャリアには変にとらわれなくても良いと思います。
石川:最後にラジオを聞いているユーザーの方々にメッセージをお願いします。
岸本:僕が常々言うのは、「変に悩んだり経営企画を特別視したりせずに、やってみよう」ということです。今日お話ししたように経営企画を本当にできるようになったら、やるべきことを追求しながら、とても自由に仕事ができます。
逆に言うと、自由って私たちを不自由にすることもあったり、常に新しいことをやらないといけなかったりするので、自由を楽しめるかどうかは人によると思います。もし、経営企画に興味があれば相談にも乗りますので、是非ご連絡ください。
いかがでしたでしょうか?
キャリナレ!では、今後も様々な職種を経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。
次回もぜひお楽しみに。
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