近年スタートアップ市場の盛り上がりとともに注目を集めている「事業開発」。中でも「事業開発セールス」という職種は、これまで営業のキャリアを歩んできた人のネクストステップとして興味を持っている人も多いのではないでしょうか。
一方で、「具体的な行き方が分からない」「事業開発といっても求人によって求められるものがさまざまであり、選び方を知らない」などまだまだ謎や誤解が多い仕事でもあります。今回は、事業開発セールスにまつわる3つの誤解を、営業と事業開発のスペシャリストであるモノグサ株式会社CEOの竹内孝太朗氏と一緒に紐解きます。
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モノグサ株式会社 代表取締役 CEO 竹内 孝太朗:2010年に株式会社リクルートに入社。中古車領域での広告営業に従事し、2011年に中古車領域初および最年少で営業部門の全社表彰を受賞。2013年からは「スタディサプリ」にて高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストの開発、オンラインコーチングサービスの開発を行う。その後、Monoxerを創業。
ONE CAREER PLUS キャリアアナリスト 佐賀 駿一郎:2016年ビズリーチ入社。転職サービス営業、新卒採用人事を担当。その後2019年にONE CAREERへ入社。キャリアアドバイザー、イベント企画や司会を経て、現在はONE CAREER PLUS事業開発を担当。
※事業開発キャリアへの転職相談はこちらから可能です。
営業のネクストキャリアとしての事業開発
佐賀:現在、営業職で次のキャリアを考えるときに、下図が示すとおり、メンバーからリーダー、マネージャーになる「縦のキャリア」しか見えないことが多いように思います。頭では広がりのあるキャリア、他職種への挑戦ができると思ってはいるものの、どうしたら良いのか分からない、という方もいます。

ONE CAREER PLUSに掲載された、営業から他職種への転職体験談を大きく分けると4つに分類されます。
1.営業to営業/CS
2.営業toコンサル
3.営業toマーケター
4.営業toその他(事業開発/企画、人事)

今回、特に取り上げたいのが(4)の中でも「営業to事業開発」です。この分野は決してスタートアップの事業開発だけではなく、大企業での事業開発でも求められている職種です。

そこで、今回は
・事業開発とはそもそもどのような職種なのか?
・なぜ営業から事業開発にキャリアを拡げられるのか?
など、営業のネクストキャリアとして事業開発へ挑戦する際に理解しておきたい点を、よくある誤解と真実を解明するかたちでお伝えしていきます。
お話を伺うのは、モノグサ株式会社のCEOの竹内孝太朗さん。竹内さんは「営業力を付けて、30歳で起業したい」という意思を持って新卒でリクルートに入社後、中古車領域の広告営業で最年少で全社表彰を受賞。その後「スタディサプリ」の立ち上げを経験し、2017年に解いて覚える記憶アプリ 「Monoxer」を提供するモノグサを創業しました。
まさに「営業と事業開発のスペシャリスト」である竹内さんとともに、事業開発セールスの誤解と真実について解説していきます。
事業開発セールス 3つの誤解と真実

誤解1 事業開発した人=一番売り上げを作った人
佐賀:1つ目の誤解は、「事業開発した人=一番売り上げを作った人」です。私自身、前職では立ち上げ2、3年目の新規事業で営業をやっていて、プロダクトも改善を続けているフェーズだったため、事業開発セールスと言えるはずなのですが、私が開発していたのはプロダクトではなくトークでした。同部署でも売り上げを作ったハイパフォーマーは思い当たりますが、事業開発とはちょっと違う印象でした。


竹内:前提として、モノが良くなくても人は買ってしまうんです。ただ、「その人だから買う」だとプロダクトの開発にはつながりません。つまり、プロダクトの価値から独立して物が売れてしまっている状態は事業開発といえません。
佐賀:「自分にしか売れない」は、セールスパーソンの一つの強みに見られる節はあり、それで良いと考える人もいますよね。
竹内:おっしゃる通りです。もちろん、事業開発の営業であっても短期的に売り上げを作る必要があるときに、プロダクトとは関係ないところで信頼関係を構築し、お客さまの課題を長期的に解決するパートナーとして認めてもらう必要があるため、そうした「自分だから売れる」営業スキルが求められることはあります。ただ、事業開発の営業としてみると、「コア」のスキルではないと考えるべきでしょう。
佐賀:竹内さんは、事業開発セールスとその他の営業をどのように分類していますか?
竹内:そもそも、業界や商材には、事業開発セールスが向いているものとそうでないものがあると考えています。下図に示す通り、顧客数の多さや商品の弾力性によって営業スタイルは変化します。
まず商品の弾力性が低い場合、プロダクトから独立した価値で売るしかないため、事業開発との相性はあまり良くないといえます。一方、SaaSなどのソフトウェアであれば商品の弾力性が高く、事業開発セールスとの相性が良いです。

次は顧客数に注目します。顧客数が多ければ多いほど、どこからどのように営業すれば良いのかを分析することが必要になります。それはもはや営業スキルというより、マーケティングスキルと言って良いでしょう。見込み客が多ければ多いほど、事業開発セールスとの相性はやや悪くなります。
逆に顧客数が少ないとどうでしょうか。この場合、すでに長期的な信頼関係が築かれていることが前提で、顧客はプロダクトを変える必要を感じていないことが多いです。新しい価値を生み出すというよりは、プロダクトをカスタマイズするなどして相手の細やかなニーズに答えることが求められ、御用聞き営業のようなスタイルに近くなります。

以上をまとめると次のようになります。

佐賀:上図のコンサルティング営業と事業開発セールスの違いをさらにお尋ねしたいです。ソリューション営業やコンサルティング営業と呼ばれる営業スタイルは、転職市場でも評価されやすい経験のように思います。事業開発とコンサルティング営業の違いを竹内さんは、どのように整理していますか?
竹内:まず第一に、コンサルティング営業の本質は、自分の課題解決能力を付加価値として使い、プロダクトの価値にコンサルフィーを上乗せする点です。それがプロダクトと密接につながっている場合は、上図の「御用聞き営業」に近づきます。
コンサルティング営業の例として、私の経験をご紹介します。私はリクルート時代、中古車領域の広告営業を担当していたのですが、やっていたことは物流改革の提案でした。中古車業者は下取りした中古車をオークションを通じてマーケットに放出するのが習慣化していたのですが、この方法だとオークション会場に持っていくのにレッカー車などのコストがかかります。そこで私は車の移動をやめて、仕入れた場所に置き続けて売る提案をしていました。つまり、私が顧客に売ったのは「ソリューション」だったということです。
それに対して、事業開発セールスは自分の課題解決能力をプロダクトの価値向上に使います。「自分でなくても売れるプロダクトにした」結果、コンサルティング営業とは異なり、自分が営業しなくても売れる状態になります。
キャリアを考えるうえで、10年後、20年後に「あなただからこそ売れるんですよ」と言われつづけたいのか、「あなたではなくても、プロダクトが良いから売れるようになりましたね」と言われたいのか、が分岐になります。
そのため、数字面でもコンサルティング営業をやっている人は売り上げのトップラインを意識しますが、事業開発の営業はCVRを最も意識します。違いをまとめると以下のようになります。

佐賀:自分たちのプロダクトの価値と価格が見合っていないときに、プロダクトの価値を向上させようとするのが事業開発セールスで、自身の付加価値で何とかしようとするのがコンサルティング営業ということですね。
竹内:おっしゃる通りです。もちろんコンサルティング営業の価値も素晴らしいですし、コンサルティング営業ができる人を求める会社はたくさんありますが、営業のキャリアパスとして事業開発セールスという選択肢についても知ってもらいたいですね。
佐賀:1つ目の誤解に関して、「真実」をまとめると次のようになります。

※事業開発キャリアへの転職相談はこちらから可能です。
誤解2 営業≠事業開発・企画
2つ目の誤解に移ります。「誤解(2)営業≠事業開発・企画」です。事業開発の業務と必要なスキルをまとめたのが下図です。

これだけ見ていると、営業は一番左の「顧客ニーズを知る」だけのような気がするのですが、具体的にどのようなスキルが求められるのかお尋ねしたいです。


竹内:それをお伝えするうえで私がリクルートで営業から事業開発に異動したときの話をさせてください。当時、モノグサの共同創業者である畔柳にそれについてを報告しに行ったところ、彼は「事業開発で何をするの?」と聞いてきたのです。なんでもコーディングできる天才エンジニアに対峙したときに、事業開発という肩書きはあるものの、私は自分の経験をひどく弱く感じました。いくら市場調査などをしても本質的な事業開発はできないような気がしたんです。
悩んだ私の結論は、お客さまの一次情報をどのくらい知っているか、ということに到達しました。一次情報の中でも特に重要なのは、お客さまが「買うか買わないか」のラインに触れているかどうかです。課題を解決したときに、お客さまがそれに対してお金を払うかどうかはやってみないと分からないんです。「その課題がどのくらいペインなのか」売ってみたことがある人にしか分からないということです。
事業開発に関わるなら、エンジニアになるのが一番だと思います。ただ、もしコーディングや工学的な能力がないにも関わらず事業開発をしたいなら、いかにお客さまの一次情報を拾うかが重要です。「買うか買わないか」のラインでお客さまとやりとりするポジションを失ったら事業開発はできないと思います。
佐賀:得るべきお客さまの一次情報とはどんなものでしょうか?
竹内:いくつかのベクトルがあると思います。主に価値の総和としてのクオリティとコストです。その軸で市場におけるポジションを考えたときに、「高くて品質が悪い」と売れません。ただ、事業開発セールスにはプロダクトを安くする権利はないと考えるべきです。我々が頑張ってプロダクトを安く提供できることはありません。そのため、一次情報を拾うときにもっと安くすることを考えているとうまくいきません。プロダクトを安くするのは営業ではなく、エンジニアなんです。
我々がやりがちなのは、競合に付いている機能を自社のプロダクトにも付けようとすることです。これは無駄でないですが、ベクトルが値引きに向かっているため、根本的には価値がありません。
では、我々ができることとは何でしょうか? それは「お客さまがまだ解決できていないこと」を拾う一次情報が重要です。そして、それは1社のみに当てはまる困りごとではなく、市場全体の困りごとです。
ここで言いたいのは、値段を下げることで事業開発をしていないか、ということです。我々が考えるべきなのは、商品の価値はどうしたら上がるのか、それはまだ解決できていない課題がどうしたら解決できるのか、それはお金を払うに値するのか、そこにこだわるべきです。

佐賀:それをまとめたスキルセットが下図です。

竹内:ただこのスキルセットを身に付けても会社にその気がないと無理だと思います。会社もプロダクトの価値を増幅するために、営業からの意見を聞こうとする姿勢が必要です。転職時にはそのポイントも押さえていただきたいと思います。
下図は当社のフローを示したものですが、モノグサでは営業には開発チームに提案する権利があると考えています。

佐賀:2つ目の誤解に対する真実は以下の通りです。

誤解3 スタートアップなら事業開発ができる
3つ目の誤解にも迫っていきたいと思います。それは「スタートアップなら事業開発ができる」というものです。

スタートアップで事業開発できる代表的な2つのケースは以下の通りです。


竹内:ベンチャーって、正直いって資金面でも余裕がない会社は多いんです。そのため、「ベンチャーだから事業開発しやすい」という理屈は全くありません。一方で、特定のベンチャーは非常に事業開発を求めているともいえます。その特定のベンチャーというのが、伸びているベンチャー企業です。
佐賀:事業開発スキルをどうやって習得していくのか、モノグサではそれを体系化しているということでした。もう少し教えていただけますか?
竹内:これまでの営業の素養を事業開発に活かしたいと思うなら、我々自身もよりスキルの解像度を上げていく必要があると思っています。モノグサでは「営業検定」を作り、事業開発セールスに必要なスキルをレベル0からレベル3で定義しています。

モノグサでは、「知ってさえいれば出せること」を「知識」、「分かってはいるけどできないこと」を「スキル」と定義しています。
押さえておきたい点は、事業開発セールスのスキルにもレベルがある、ということです。レベル0は「マナーがあれば売れる状態」、レベル1は「お客さまに伝え、情報の非対称性を埋められる状態」です。
事業開発セールスが最も重要なのがレベル2で、「ニーズを顕在化させ、課題解決の提案ができる状態」です。そのためにヒアリングすることが大切です。レベル3はコンサルティング営業の方が駆使しているスキルに近いです。それは「課題を作り出し、お客さまと長期的に目標を握り、課題解決に伴走する」スキルを指します。

自分はどのようなスキルを有していて、どのフェーズだから使っているかをいえるようにしておくことが大切です。
佐賀:誤解(3)「スタートアップなら事業開発できる」に対する真実は、下図の通りです。

会社存続の根源に関わるのが事業開発セールス
佐賀:ここまでで、モノグサの事例をもとに事業開発セールスの役割や魅力についてお伝えしてきました。最後に、竹内さんが事業開発セールスにこだわる理由も教えていただけますか。
竹内:そもそも私は、営業という仕事は、会社存続の根源に関わるような情報を持っている非常に重要な存在だと考えています。多くの企業が潰れてしまう理由は、ミッション・ビジョンが間違っているのではなく、市場から認められなかった、つまりお客さまが買ってくれないからということに尽きます。
営業はこの「お客さまが買うか否か」の最前線に立ち、会社存続のための根源を担い、重要な役割を担っている素晴らしい仕事です。しかし、実態としては持っている情報をちゃんとプロダクトの価値に接続できていない状態に置かれている方が非常に多く、あまり評価されていなかったり、充実感が得られなかったりしている人が多くいらっしゃいます。これはもったいないことだと思いますし、全ての営業という仕事が事業開発セールスである方が会社としても得だと思っています。
我々モノグサが掲げているミッション・ビジョンも実現するには10〜15年はかかると考えている中で、まだお手伝いできないお客さまもたくさんいるような状況です。これを10〜15年かけてプロダクトの価値を向上させてミッション・ビジョンを実現するためにも、事業開発セールスは欠かせない存在です。
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