転職活動をしていると思い通りにいかないこともあります。中には、不採用が続き「もう後がない」と思っている人もいるかもしれません。
そんな「崖っぷち」に立たされている人が、今まさにプロ野球界にもいます。
それが、球団から戦力外通告を受け、現役を続けるラストチャンスともいえる「12球団合同トライアウト」に挑む選手たちです。
シリーズ「野球に学ぶキャリア戦略」。今回は2回にわたり、戦力外という厳しい現実と向き合う選手たちの「再就職事情」と「セカンドキャリア」に迫ります。執筆は、プロ・アマ問わず選手のキャリアを追い続けるスポーツライターの西尾典文さんです。
合格率5%。「トライアウト」という名の"狭き門"
ソフトバンクの5年ぶり12度目となる日本一で幕を閉じた今年のプロ野球。11月からは補強の話題も多くなるが、その一方で気になるのが来シーズンの契約を結ばない、いわゆる“戦力外通告”を受けた選手たちだ。
戦力外となった選手が現役続行を希望する場合は、一般的な社会人の再就職のように広く機会が開かれているわけではない。基本的に球団側からの連絡を待ちながらトレーニングを続けることになる。そんな中で唯一大々的にアピールできる場が『12球団合同トライアウト』だ。
トライアウトはNPBが主催して2001年にスタートし、2014年までは1年に2度、2015年以降は1度行われている。当初はその年に戦力外となった選手が参加していたが、その後国内の独立リーグ球団が増えたこともあり、その年にNPBにプレーしていなかった元NPB選手の受験も増加。そのため2019年からは同一選手の参加回数が上限2回までと制限が設けられた。
ただ12球団合同トライアウトは、再就職の機会を得る場としてはかなり厳しいものとなっているのが現状だ。昨年までにトライアウトを受験して、NPB球団の契約を勝ち取った人数をまとめると、以下のようになっている。
2004年には9人、2014年には10人の合格者数があったものの、過去24年の平均合格者数は4人以下となっている。特に近年はコロナ禍で二軍の試合数が少なかった2020年は6人と比較的多かったが、それ以外は3人前後で推移している。毎年50~60人程度の参加者数がいることを考えると合格率は5パーセント程度であり、いかにトライアウト経由の“再就職が”狭き門かがよく分かるだろう。
スカウトが明かす、戦力外選手への残酷な評価
狭き門となる理由はどこにあるのだろうか。以前、ある球団の編成担当者に話を聞いたところ、こんな答えが返ってきた。
「NPBの球団はアマチュアの選手を視察するスカウト以外に、他球団の選手を調査する“プロスカウト”と言われる担当者が必ずいます。視察するのは二軍の試合で、トレードで獲得できる可能性のある選手を探すのが主な仕事です。
シーズンを通して試合を見ますから、戦力外になった選手の力量は既にある程度把握しており、仮に合同トライアウトで結果を残しても評価が大きく変わることはありません。
また戦力として計算できそうな選手には、早めに接触する球団も多く、トライアウトに参加せずに契約となります。実際、トライアウトでのプレーを見ていても全力を出し切ってアピールするというよりも、最後にユニフォーム姿を家族に見せる場という意味合いが強くなっていると思いますね」
戦力外となった選手の再就職を難しくしているのがNPBのルールにある支配下登録選手の上限が70人という枠だ。各球団、毎年10月に行われるドラフト会議では支配下の枠で5~9人程度の選手を獲得しており、それに押し出される形で戦力外の選手が生まれる。
またシーズンが始まってもけが人が出た時の緊急補強や、現在育成契約となっている選手を昇格させるための枠もある程度空けておく必要もある。球団によっては選手の年俸総額の上限を厳しく設定しているケースもあり、実績があっても高額年俸の選手が戦力外になる背景にはそういった事情も関係している。
近年は育成選手を多く抱える球団が増えたことで支配下の枠をめぐる争いはより厳しくなっている。実際に、2021年以降の4年間でトライアウトに合格した10人のうち、実に9人が育成選手での契約となっている。
2022年のオフからは出場機会に恵まれない選手の“飼い殺し”を防ぐことを目的に現役ドラフトもスタートした。選手の球団間の流動性、一般社会に例えるなら転職市場が活発になっており、その中で戦力外になった選手にとってはより再就職が厳しい状況なのは確かだろう。
選手の間でもトライアウトが開催されるまでに再契約の話がなければNPBでのプレー続行は厳しいという認識は広まっており、参加者数も減少傾向にある。そういった事情もあってNPBは2024年限りで開催を見合わせたい旨を選手会側に通告。ただ選手会側は継続を希望し、今年からは協賛スポンサーを募って選手会主導で継続されることとなった。
崖っぷちから合格する5%の選手たち。彼らが持つ「明確な市場価値」とは?
それでも狭き門を突破して合格を勝ち取った選手は確かに存在している。彼らには何か共通点があるのだろうか。過去の合格者の顔ぶれを見て一つ気がついたのは市場的に“希少価値”の高い選手が多いということだ。
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