10月23日に行われたプロ野球のドラフト会議。今年は支配下で73人、育成で43人の合計116人が指名されたが、やはり注目度が高いのはドラフト1位の選手である。入団時の契約金や年俸など目に見える数字はもちろん、球団の上層部や現場の首脳陣の期待も高い分、与えられるチャンスも多くなるというのは野球界ではよく聞く話である。
一方でプレッシャーも相当なものがあり、その重圧に苦しんで才能が開花しないまま球界を去る選手も少なくない。そんな野球界のエリートとも言えるドラフト1位選手はどのような傾向があるのか。経歴、プロ入り前に所属していたチームのカテゴリー、リーグ、ポジションなどあらゆる切り口からそのキャリアパスを探ってみたいと思う。
- ドラフト1位の出身カテゴリーからわかる、キャリア初期の勝ち筋
- 高校→大学→社会人で“入りやすさ”が変わる理由
- 大学・社会人で失速する“怪我のリスク”と“成長カーブの鈍化”
- 甲子園という強力なトラックレコードが市場価値を押し上げる
- 圧倒的な注目度とブランド力
- 大舞台での実績は、評価を跳ね上げる「見える成果」
- ファン層という資産が市場価値を押し上げる
- ドラフト1位の約3分の2は投手ーー市場が求めるのは即戦力×専門性
- 日本野球が守備重視だから、投手は最優秀人材になりやすい
- 即戦力になれるかどうかが評価の分岐点
- 捕手・外野手はなぜ不利なのか?市場価値の構造で読み解く
- 「環境選び×タイミング×市場性」キャリア成功の普遍ルール
ドラフト1位の出身カテゴリーからわかる、キャリア初期の勝ち筋
高校→大学→社会人で“入りやすさ”が変わる理由
まず過去10年のドラフト会議において1位で指名された選手を高校生、大学生、社会人というカテゴリー別に分けたのが以下の表1だ。
最も多いのは大学生の64人で、次いで多いのが高校生の42人、最も少ないのは社会人の14人(高校卒が6人、大学卒が8人)という結果となった。
ドラフト候補となる選手でよく聞かれるのが、高校から直接プロ入りするのではなく、大学や社会人に進んで力をつけて、より好条件でドラフト指名を受けた方が有利という話である。
実際、今年もプロ志望であれば上位指名の可能性が高いと言われていた芹澤大地(高蔵寺・投手)、新井瑛太(滝川・投手兼外野手)、阿部葉太(横浜・外野手)などはプロ志望届を提出することなく大学や社会人に進むと言われている。
ただこの結果を見ると高校生よりも大学生でプロ入りしている人数は多いが、社会人になると一気に減少しており、ハードルが高くなっていることがよく分かるだろう。
大学・社会人で失速する“怪我のリスク”と“成長カーブの鈍化”
カテゴリーが進むにつれて単純にチーム数や競技人口が減るということはもちろんあるが、理由はそれだけではないはずだ。
その一つとしてよく挙げられるのが、怪我を負うリスクである。投手の場合は一度の怪我が致命傷になるケースもあり、実際高校時代は素晴らしい活躍をしていたにもかかわらず、大学や社会人でその輝きを失ってしまうという選手も少なくない。
特に大学野球の場合は力のある投手が入部すると下級生の頃から多くの試合に登板し、そのことによる疲労が重なって故障に繋がるというケースも目立つ。
以前から高校野球では甲子園大会での連投などが問題視され、球数制限の導入や休養日の設定など徐々に改善が進んでいるが、大学野球についてはそこまで一般的な注目度が高くないこともあって、いまだにエースと言われる投手への負担が大きくなっているチームも多いのだ。
一般企業であれば、キャリアを積むために最初に入社した会社がいわゆる“ブラック企業”で、その環境によって逆に自らの心身が病んでしまうようなことに置き換えられるのではないだろうか。そういう意味でも、ただ大学に進めば良いというわけではなく、自身の実力や体の状態などから照らし合わせて、本当に成長できる環境かということを見極めることが重要と言えそうだ。
大学生から社会人に進むとドラフト1位となる選手が減る要因として、もう一つ考えられるのが成長スピードの鈍化だ。野球はスポーツであり、当然身体的な成長がそのパフォーマンスに大きく影響してくる。
多くの選手が10代後半で身長が止まって骨が強くなり、そこから筋肉がつきやすい大人の体になることで負荷の高いトレーニングを積むことで、一気にパフォーマンスが向上するケースが多い。
近年大学からドラフト1位で指名された選手を見ても曽谷龍平(2022年オリックス1位)や草加勝(2023年中日1位)などは高校時代には控え投手だった選手であり、大学で劇的な成長を遂げているのだ。しかし多くの選手はある程度筋肉量が増えると、成長スピードは緩やかになっていくことは確かである。
中にはいわゆる晩成タイプで、大学を卒業してから一気に成長するという選手もいないわけではないが、割合的にはやはり少ないのが現実である。
環境選びがキャリアを左右するのは、野球もビジネスも同じ
大学を卒業して大学院に進学して過剰に年齢を重ねることや、また希望の職種や会社にこだわって就職浪人が長くなると逆にマイナスになるケースがあることと重なる部分と言えるのではないだろうか。それを考えると野球選手も一般企業に就職する学生も、自分が最も高く評価されるためのキャリアやそのタイミングを正確に判断するということも重要と言えるだろう。
甲子園という強力なトラックレコードが市場価値を押し上げる
圧倒的な注目度とブランド力
また日本の野球界においてキャリアという意味で大きな勲章と言えるのが高校時代に甲子園大会に出場するということだ。春と夏の甲子園大会はその全試合をNHKが全国放送しており、その注目度と知名度は学生スポーツの中でも圧倒的に高い。プロ野球選手のデータをまとめた選手名鑑にも、その選手が甲子園出場歴があるかということは必ず明記されていることも、その存在の大きさをよく物語っていると言えるだろう。
そして過去10年のドラフト1位指名選手の甲子園出場経験の有無も表1にまとめてあるが、その数は120人中63人と半数以上となっている。これを見ても、甲子園出場経験があるということは、ドラフト1位でプロ入りするためにプラスとなっていることは確かだろう。
大舞台での実績は、評価を跳ね上げる「見える成果」
その理由としてまず考えられるのが、自分の実力を多くの人にアピールできるという点である。先述した通り、甲子園大会の注目度はアマチュア野球の中でも群を抜いて高く、プロのスカウト陣もその大半が視察に訪れるのが通例となっている。注目度が高く、プレッシャーのかかる場面で結果を残せるというのは一つの大きな判断材料であり、そこで力を発揮すれば一気に評価が上がることも多いのだ。
近年では中村奨成(2018年広島1位)が3年夏に出場した甲子園大会で、一大会最多となる6本のホームランを放って一気に評価を上げ、2球団が競合するまでになっている。また中村ほどの活躍ではなかったが、浅野翔吾(2022年巨人1位)も2年夏、3年夏と2年連続で甲子園に出場し、3年夏には3本のホームランを放って評価を上げた。
ファン層という資産が市場価値を押し上げる
また甲子園出場がプラスになるもう一つの大きな理由が人気面だ。甲子園で大活躍をすると、その人気はプロ野球選手以上になることも珍しくない。
過去にも荒木大輔、桑田真澄と清原和博の“K・Kコンビ”、松井秀喜、松坂大輔などが甲子園のスターとなり、ドラフト1位でプロ入りしている。特に甲子園で春夏連覇を達成して1998年のドラフト1位で西武に入団した時の松坂に対するフィーバーぶりは相当なものがあり、前年まで観客の数が少なかった西武のキャンプにはファンが殺到。西武球団が松坂がスムーズに移動できるように、他の選手を“影武者”としてファンの目を欺こうとしたことも話題となった。
それだけファンが殺到すれば当然観客動員やグッズの売上的にも球団としてはプラスの面が大きくなり、プレー以外の付加価値がついてくることは確かだ。
近年では2018年の夏の甲子園で“カナノウフィーバー”を巻き起こした吉田輝星(2018年日本ハム1位)の人気はかなりのもので、日本ハム球団としてもそのあたりを評価したということもあったのではないだろうか。
一般企業の就職においても、近年は学生時代にあらゆる繋がりを持っていることがプラスになることもあると言われているが、野球選手においては学生時代から多くのファンがいるということが武器になることもあるのだ。
ドラフト1位の約3分の2は投手ーー市場が求めるのは即戦力×専門性
日本野球が守備重視だから、投手は最優秀人材になりやすい
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