こんにちは、トイアンナです。
「パワーカップル」という言葉から、皆さんはどのような夫婦を想像しますか?
都心のタワーマンションに住み、週末は『東京カレンダー』でおすすめされたレストランでデート。
スーツはオーダーメイドで、ブランドバッグを通勤にも使いこなす。ベビーカーも高級品で、子供はインターナショナルスクール通い。
夫婦ともに高年収で、仕事もプライベートも充実して……といったイメージが、思い浮かぶかもしれません。
最近では、パワーカップルの定義として「夫婦ともに年収700万円以上の世帯」が使われるようになりました。世帯年収ですと、単純な足し算で1,400万円オーバー。恵まれた人々に思えますが、その実態は、私たちが抱く華やかなイメージとは少し……いや、かなり異なっています。
この記事では、都内に住まうパワーカップルのリアルな現実に迫ってみたいと思います。
(参考)ニッセイ基礎研究所「パワーカップル世帯の動向-コロナ禍でも増加、夫の年収1500万円以上でも妻の約6割は就労」
世帯年収1,400万円でも「豊か」になれない構造的問題
大前提として、日本ではこの25年間で「手取り」が大きく減少しています。たとえば、年収600万円の人の手取りは、社会保険料の上昇や年少扶養控除の廃止といった要因が重なり、約50万円も減少しました。
これは、年収が高い層にとっても深刻な問題です。なにせ、額面の年収がいくら増えても、税金や社会保険料で差し引かれる金額がそれ以上に増え、手元に残るお金は思ったほど増えない……という「豊かになれない」構造が生まれるからです。
夫婦共に年収700万円以上の世帯は倍増しているものの、全体から見ればわずか3%に過ぎない、希少な存在です。では、このトップ3%に属する彼らの暮らしは、一体どのようなものなのでしょうか。
夫婦それぞれが年収700万円の場合、手取りの合計額は年間で約1,050万円〜1,190万円、月々に換算すると約88万円〜98万円となります。これだけあれば、都内でも余裕のある暮らしができそうに思えます。
しかし、ここに「都心で子育てをする」という条件が加わると、状況は一変します。
まず、住居費が増えます。都心で子どもがいる世帯向けの3LDKを探せば、家賃は安くても30万円弱。これだけで、いきなり手取りの3割以上が消えていきます。
次にのしかかるのが、子どもの教育費です。特に、都内における中学受験の過熱ぶりは凄まじいものがあります。2024年の東京都内における私立・国立中学校の受験率は18%に達しました。さらに文京区や中央区といった教育熱心なエリアでは、私立・国立中学校への進学率が50%近くになることも。
都内では、中学受験の名門塾に入るための受験対策まで存在するなど、もはや一部の地域では「中学受験をしない方がマイノリティ」という状況です。自分の子どもが「友達と同じ学校に行きたい」と願ったとき、その想いを叶えるためには、月々数万円から十数万円の塾代を支払うルートに自然と乗ることとなります。こうして家賃、学費、学童や塾代を支払うと、それだけでうんざりするほどの金額になります。
DINKs(子どもがいない共働き夫婦)でない限り、夫婦が自由に使えるお金は、月40万円程度まで目減りするのです。しかも、パワーカップルは共働きで激務である確率も高いため、平日に自炊をする時間はないことも。
そうなれば、ミールキットや外食に頼らざるを得ません。会食や接待が重なれば、食費だけで月10万円近くになることもあります。こうして計算していくと、「あれ、思ったより使えるお金が少ないな?」という現実に突き当たるのです。
(参考)
・年収の「手取り」は年々減り続けている悲しい現実 | タマルWeb | イオン銀行
・「パワーカップル」10年で倍増も3% 消費けん引にはまだ微力 - 日本経済新聞
・令和5年度 公立学校統計調査報告書【公立学校卒業者(令和4年度)の進路状況調査編】
「独身で年収500万の頃が一番余裕だった」という本音
実際に、都内で暮らす世帯年収1,400万円、子ども1人のパワーカップルに話を聞くことができました。
「正直、2人目の子どもを産むことは考えられないです。今の3LDKで2人を育てるのは厳しいですし、4LDKを借りる経済的な余力はないし。
かといって郊外に出るにも、横浜のような便利な人気エリアは都心と変わらないくらい高い。夫婦ともに退勤が24時を回ることも、土日出勤もあるので、これ以上通勤に時間をかけるのは現実的じゃないですね……」
「世帯年収1,400万円というと、毎日Uber Eatsを頼んでいるような生活を想像されるかもしれませんが、とんでもない。せいぜい、仕事帰りにコンビニでお惣菜を買うのが関の山です。
体感としては、独身で年収500万円だった頃の方が、よほど精神的にも金銭的にも余裕があった気がしますね」
それでも東京に住み続ける理由
では、なぜ彼らはそこまでして東京に住み続けるのでしょうか。
それは、金銭的なコストを上回る「東京ならではの価値」を感じているからだ、と彼らは語ります。
「美術展やコンサートが好きなら、東京に住むのが一番です。子どもを連れて『ラ・フォル・ジュルネ』(丸の内エリアで毎年春に行われるクラシック音楽の祭典)へ行って、世界トップクラスの演奏に気軽に触れられる。
こういう文化的な豊かさは、他の都市ではなかなか味わえないですから」
「どこかへ旅行するときも、東京を起点にすれば全国どこへでも鉄道や飛行機が繋がっているので移動が楽です。地方から他の地方へ移動しようとすると、車で何時間も運転する覚悟が必要になることも多いんですよね」
「子どもの教育環境のために、都内にいますね。子どもに学ぶことの楽しさを知ってほしい、最良の教育環境を届けたい、と思ったとき、都内に住む以外の道は考えられませんでした。優秀な講師が都心部に集中するので。
ほかにも、日本へ留学しに来た学生や、母校で開催される子供向け講義といった多種多様な教育のチャンスと出会えるのは、やっぱり東京だと思います。地方もいいとは思うのですが、豊かな自然を楽しむだけなら、もっと年収を上げて休暇中だけ旅行できるようになりたいかな……」
パワーカップルの生存戦略としての「転職」
このように、東京での生活を維持しつつ、さらに子どもへ十分な投資をするため、多くのパワーカップルは「転職による年収アップ」を視野に入れています。ただ、面白いのは、彼らが年収2,000万円、3,000万円を目指しているわけではない、という点です。
さらに・・・





