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図解:事業を作れる人材になる 〜クラウドサイン責任者に聞いた事業作りの思考法〜

特集「図解:20代成長キャリア」。


新卒・中途サービスを展開するワンキャリアが、20代成長キャリアを歩むための思考法やキャリアパターンの特徴を解説する本特集。


今回、インタビューしたのは、弁護士ドットコム株式会社取締役の橘 大地氏。


「重要なのはモメンタムを起こすセレンディピティ。マーケティングや財務のスキルではない」

「渋谷を歩いて何回意思決定できるか? が、事業家の能力につながる」


2015年にリリースされ、その後、電子契約サービスとして圧倒的な成長を続けるクラウドサインを率いる橘氏へのインタビューから、「事業作りに関わるキャリアに必要な思考法」を紐解く。




「当たり前」への怒りから生まれたクラウドサイン



橘 大地氏/東京大学法科大学院修了。最高裁判所司法研修所修了。株式会社サイバーエージェント入社、スマートフォンゲーム事業、契約交渉業務および管理業務等の契約法務、株主総会および株式関係実務に従事。2014年GVA法律事務所入所、資金調達支援、資本政策アドバイス、ベンチャー企業に対する契約アドバイス、上場準備支援などを担当。2015年11月当社入社、2018年4月より執行役員に就任、2019年6月より取締役に就任。



──今回のテーマは、「事業作りに関わるキャリアに必要な思考法」。そもそも、「20代の成長キャリア」については、弊社ワンキャリアの取締役 北野の著書『転職の思考法』で分かりやすく説明しています。


業界・企業規模に限らず「伸びる市場・事業に身を置く意味」というメッセージを一貫して伝えており、クラウドサインの成長もこの事例に当てはまると感じています。まずはクラウドサイン事業の今までの変遷についてお話いただけますでしょうか。





:クラウドサインは、2015年の10月のリリースから、2022年8月時点で、導入社数130万社以上の企業さまに利用いただき、累計送信件数1,000万を超えました。


とはいえ、初めから電子契約の考えが受け入れられた訳ではありません。リリース当初はハンコ社会を変えなければいけないという思いのもと、ハンコと比較した偽造可能性の低さの立証など、研究論文を専門雑誌に載せたりすることによって、その必要性を叫び続けました。


その結果、在宅勤務の社会的必要性が高まったことも相まって、2020年5月に内閣の主催する「規制改革推進会議」に招致してもらい、「電子署名法」「商業登記法」の2つが国の電子化を阻むものである、というアプローチを聞き入れてもらいました。


2021年2月には、総務省・法務省・経済産業省・財務省より、事業者署名型電子契約サービスとして日本で初めて、クラウドサインが電子署名法上の電子署名に該当することが確認されました。これにより、電子契約をめぐる法律上のインフラが整ったと考えています。


そもそも、ハンコと紙の商慣習は約150年続いてきたものです。クラウドサインは電子契約という新しい商慣習を作ろうと事業を始め、やっと文化として根づき始めています。今後は、ハンコと同じく1億人が利用するようなSaaSを目指して事業を進めています。





──1億人が電子契約サービスを使う意義、そして実現できる世界とはどのようなものになるのでしょうか?


:「ハンコを1億人が持つ」というのは、150年前、明治維新の志士たちが政治家となりなし得た大偉業だと考えています。私もクラウドサインという事業を推進していくにあたり、ハンコの歴史はかなり学んできましたが、彼らが成し遂げたかったものは「ハンコ」そのものにこだわるということではなく、「国民が安心・安全に契約をする、という社会を作ること」です。


それは我々も同じ気持ちで、その意思を受け継いでクラウドサインが国民的なツールになることが、彼らへの恩返しになると考えています。


逆にクラウドサインが1億人が使うツールにならなければ、ハンコが残り、日本の契約行為は二分されるという分断が生まれてしまいます。彼らの意思をきちんと受け継ぐためには、1億人が使うサービスにならなければいけないのです。


──電子契約サービスは確かに便利ですが、紙とハンコの文化において現在どのようなことが起こっているのでしょうか


:実は、紙の時代の契約は目が見えない方が紙に書かれた契約文言を識別できなかったり、外国出身の方が漢字が読めなかったり、一部のマイノリティの方が契約できない・しづらいものでした。


一方、クラウドサインが国民的なサービスになればPDFに記載された契約文言をAIが読み上げてくれたり、場合によっては翻訳してくれたり、今まで契約が結べなかった方々にも等しく契約という行為が提供できるサービスになり得ます。


また、最新技術が進むにつれ、物理のハンコの偽造も可能になってきました。先人たちが叶えたかった「安心・安全に契約ができる」ということを実現するためには今の時代に即した技術・ツールが必要なのです。


本当はみんなハンコが時代に合わなくなってきたことや、マイノリティの方々に対して親切じゃないことに気づいていた、でも声を上げる人がいなかった・見て見ぬふりをしていた。そんな状況に「怒り」を抱き、冒頭に話したようにその必要性を訴え続けてきたのです。


今も、社会で当たり前になっていることへの「怒り」が事業を作る源泉になっています。





事業作りに関わるキャリアに必要な4つの視点


──いまや「当たり前」になりつつある電子契約ですが、当時の「当たり前」に抱いた「怒り」が、事業作りの原動力になっていた、と。まさに今回お伺いしたいのが、「事業作り」に関わるキャリアを作る際に必要な思考法についてです。


最近、20代若手の方から「事業や経営の上流から携わりたい」という事業を作る人材を目指したいというニーズを聞きます。


20代未経験で事業作りに関わるには、次の2つのパターンがあると考えていますが、実際、経営されている橘さんから見ていかがですか?


(1)ドメイン知見を活かした挑戦

(2)複数プロダクトを生み出す仕組みやカルチャーがある企業での挑戦

 

:おおむね賛同できますし、クラウドサイン事業本部にも当てはまると思います。加えて、さらに以下の2つの観点があると考えています。


(3)多くの意思決定の機会があり、適切なフィードバックを受けられるか

(4)セレンディピティを向上させられるか





契約データが描くビジネス:領域は法務に留まらない





──1つずつ解説いただけますか。


:「(1)ドメイン知見」はNice to Haveですね。弊社の場合は必要条件ではない。これからのクラウドサイン事業は、「(2)複数プロダクトが生み出されるフェーズ」に当てはまります。


クラウドサインの強みは、契約にまつわるリアルタイムデータを有していることです。このデータを活用してサービス範囲を拡げ、「1億人が使うプラットフォーム」を目指していきます。


──具体的にはどのようなサービスを考えていますか。


:AIOCRなどの技術を用いて契約書に記載された「契約期限」「契約金額」「自動更新条項の有無」などを自動で読み取る機能や、弁護士法による範囲内で契約改定の際に文言変更すべき箇所などをAIがレコメンドする「AIリスク管理サービス」など、自然言語処理技術を用いたAI×SaaS事業ドメインを考えています。


他にも、まだまだ構想段階ですが、契約の本来的な価値の最大化に興味を抱いています。契約は当然ながら契約の相手方が約束を守らなかった際に、裁判所を通して約束を実行してもらうための証書です。


契約は約束を守ってもらうために存在する。その価値をクラウドサインを通して最大化させる実行戦略があります。契約は人類の叡智で、裁判所を通して実行することの「司法制度」に行き着きました。そのため契約書は裁判官が読みやすいような言語体系になっています。


ゆえに法律を学んでいない者にとってはとても読みにくく、契約を締結した後の約束の履行には適していない。約束を履行できるためには、AIを用いて契約書に記載された約束を、事業部側が実行できるように変換してあげる必要があります。契約はまだ本来の価値を発揮できていないと考えています。





──クラウドサインという単一事業の成長だけではない領域が広がっていく。


:もちろん、クラウドサインの成長は引き続き非常に重要です。行政とのやりとりなど、「契約」が生活にも根ざしているからこそ、「1億人が使う国民的SaaS」になれる可能性を秘めていると思っています。


ただ、弊社は先駆者として、SaaSの先の「新しい社会の付加価値」を模索する時期に来たと考えています。


自然言語処理技術を活用したAI×SaaSの新規事業を立ち上げていきますし、当然ながら、事業を率いるポジションも生まれます。年次関係なく、どんどん抜擢していこうと考えていますし、すでにその実績も複数あります。


実際、リクルート社と共同で進めている規約管理SaaS「termhub(タームハブ)」では、20代の営業だった社員を抜擢しました。



「渋谷を歩いて意思決定できる回数」が事業家のセンスを磨く





──3つ目の「意思決定の機会」についても、解説いただけますか。


事業作りの本質は意思決定にある、といっても過言ではありません。指示された作業を正確にこなせるようになっても、「事業家」にはなれません。


重要なのは、「自分で意思決定し、それに対する適切なフィードバックを受けられるか」です。


事業を作るセンスは、意思決定の回数によってしか磨かれません。だからこそ、私はよく「渋谷を歩いて、何を学んでどんな意思決定ができるのか」という例を社員に話しています。


渋谷という街では、ストリートカルチャーが根付き、街ゆく人が新しいトレンドを創っています。


渋谷の街を歩いている人の、「COVID-19前後の服装の移り変わり」「食べ歩きしているものの変化と、その変化がなぜ生まれているのかの理由」「街で流れている音楽とTikTok・Spotifyの関係性」など、街ゆく人のトレンドには必ず背景とテクノロジーが関連しています。渋谷を歩くだけでも、必ず学びと仮説検証・意思決定の連続があります。


他の人よりも圧倒的な回数の仮説検証・意思決定を行うことが、事業を作るセンスを磨く上で大切です。


──となると、会社選びでも、自分自身が意思決定できるチャンスを多く得られる環境を選ぶことが重要だと。


:そうです。ただ、結局いくら意思決定しても、そこに対する反応がないと正しい意思決定だったかの検証がないので、フィードバックをもらえる環境があるか? は意識すべきです。


私の場合、事業を通して、日本を代表する企業である三井住友フィナンシャルグループの役員や、SaaSを代表するメガ企業のSalseforceやMicrosoftの方々とのパートナーシップ、他にも国会議員の方々との対話などを通して、多角的なフィードバックをもらいながら事業家として成長してこれたのだと思います。


やはり全く違う視座をどの人も持たれていて、話しているとものすごく学びの連続です。


──クラウドサインにジョインしたら、橘さんからフィードバックがもらえるわけですね。


:私ももちろんフィードバックをします。加えて、創業者である元榮(もとえ)を始め、これまで弁護士ドットコムの成功モデルを体現してきた経営陣と近い距離で働くことも、クラウドサインで働く魅力の一つです。



「Luck」を引き寄せるセレンディピティが事業を成長させる





──「事業を作る」となると、マーケティングスキルや財務分析、市場調査などのスキルが重要なのではないか、と考えてしまいます。


マーケティングスキルやパワポ作成スキルなどの手先の能力を身に付けても、事業家にはなれません。もちろん事業計画は作れる方がいいです。ただ、それは基礎力でしかなくて、それだけで事業は作れません。


私が一番重要だと思うのは、「(4)セレンディピティを向上させること」です。





:VUCAといわれる時代に細かい戦略を描いても世の中は変わらないですし、未来を見通すことのできない時代に「教科書通りの綺麗な戦略がうまくいった」なんて事例は、ほとんどありません。


大事なのは、いかに「Luck」に巡り合えるかです。思いがけない「Luck」が転がってきて、うまく掴めた結果、想像だにしない非線形な事業成長が実現される。


そんな「Luck」を引き寄せる力がセレンディピティです。シリコンバレーの経営者の間でも重要性が認知されています。優れた経営者はROIでなく、「ROL=Return of Lucky」を意識していると。


──「運」というとどうしようもないように聞こえてしまいますが、身に付けられるものなのでしょうか。


:セレンディピティは後天的な能力として向上させることができる、と考えています。


重要なのは、謙虚になり「生の声を聞くこと」「さまざまな人に会ってみること」。私自身が巡り合えた「Luck」は、さまざまな方と謙虚に学ぶ姿勢を持って接することで自分自身のものとして獲得していったものです。


だからこそ、リクルートとの共同事業「termhub」に抜擢した20代の社員にも、もっと友人、同僚、お客さまと話して「社内外の応援者」を作るようにと伝えています。それっぽい事業計画や戦略を考え、戦略コンサルのような綺麗なパワポで説明するのは得意だったのですが、事業家としてはそれではだめで。


──セレンディピティの重要性をフィードバックされたのですか。


:そうです。やはり、いくら頭で考えても機会に恵まれないと意味がありません。「面白い事業をやっているな」周囲にそう思ってもらい、社内外にモメンタムを作っていく。そのためには、頭を動かすことよりも足を運ぶことが重要なんです。


──とても面白いです。「Luck」に巡り合えるかは、文字通り運次第ですが、とにかく人とのつながり、ユーザーとの接点を増やすことで、その出現回数を増やす。


:巡り合った「Luck」に恵まれるためには、謙虚な気持ちと恩義、日々、意思決定能力を磨く圧倒的努力が必要です。尊敬する見城徹氏の言葉で、「これほどの努力を人は運と言う」という言葉がありますが、その通りだと思います。



「日本初」の新規事業へのこだわり:規制産業にこそ取り組む意義がある





──ここまで、「事業作り」に関わるキャリアを作る際に必要な思考法を聞いてきて、いま気になっているのが、「弁護士ドットコムならではの事業作りの思考法」です。いざ事業を作るとなった際の哲学などはあるのでしょうか。


:意識している点は当社にとっての「新規事業」ではなく、「日本初の新規事業」であることです。


祖業の法律相談ポータルサイトの弁護士ドットコムも、クラウドサインもそうでした。今までの「当たり前」を疑い、あるべき姿に向けて事業を作り続ける。


弁護士の世界も、当時は「一見さんお断り」の世界で、その当たり前を創業者の元榮は変えていった。さまざまな困難もつきまといますが、それをなんとしても実現していく。従来の商習慣を変革するような事業を粘り強くやり続ける、ここにこだわっています。


──それ故に新規事業の多くは「日本初」になるのですね。


:重視しているのは、世の中に変革を起こすことができるのか? です。


ハードルが高くて挑戦を尻込みしてしまう、そんな市場であればなおさら我々が挑戦する意義があると思っています。こうした挑戦は、弁護士が多く在籍し、企業理念の強い弁護士ドットコムだからこそ実現できます。


──法改正が必要な事業となると、なかなかスタートアップでは挑戦が難しい領域になりますよね。逆に、弁護士ドットコムだからこそ取り組める。


:そうだと思います。クラウドサインは400万社1億2千万人が使うプラットフォームを目指しています。国民的なインフラとなり、お客さまにとっての価値を追求し続けます。


そして、さらにその先はAIを活かした新しい事業に挑戦していきます。他にも「医療」「相続」などの分野も参入余地があるかもしれません。関わる人が多く、生じている負も大きい。しかし、ハードルが高いが故に課題解決が進みづらい。そんな「無謀」に、今後も挑戦していきたいと考えています。


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