2025年7月に実施された参議院選挙では、125名の当選者が生まれた。投票率は58.51%と3年前の参院選挙と比べ6.46ポイント上昇したが、こうした話題を耳にすると「政治は自分とは遠い世界」「国会議員は特別な人だけがなれる職業である」と感じる人もいるかもしれない。
しかし、本当にそうなのだろうか。国会議員になる人はどのようなキャリアを歩んでいるのか。その実態を明らかにするため、今回の参院選の当選者の経歴を徹底的に調査した。見えてきたのは、国会議員への道筋は決して一本道ではなく、多様なキャリアパスが存在するという傾向だ。
1. 国会議員になる前のキャリアは?
まずは、2025年参院選当選者の前職を調べてみた。最も多いのは「政治家」で40名(32%)を占める。次いで業界団体や労働組合などの「団体職員」が17名(14%)、「公務員」が13名(10%)と続く。
この結果だけを見ると「やはり政治経験を積んだ人間だけがなれる特別な職業」と思われるかもしれないが、「政治家」となっている40名の内訳を詳しく見ると、その多くは地方議員などから政界でのキャリアを始めた人で、その前は民間企業で働いていた人も多い。
例えば、栃木選挙区の高橋克法氏(自民党)は参院議員になる前に民間企業、議員秘書、栃木県議会議員、同県高根沢町長を経験している。三重選挙区の小島智子氏(立憲民主党)は学校の教師から県議会議員を経て、今回初当選した。つまり「政治家→国会議員」という経路であっても、さらに遡ると多様な職業経験を持つ人材が国政に参画していることがわかる。
では、ファーストキャリアまで遡った際の国会議員のキャリアパスはどうなるのか。125人の候補者の経歴を元に主な傾向を調べると、以下のような図が完成した。
2. 国会議員へのキャリアパスは主に3パターン
ここからは、先ほどのキャリアルートマップを基に、国会議員へのキャリアパスを解説していく。まず、国会議員へのキャリアパスは、大きく3つのパターンに分類できる。
- キャリアチェンジ型
- ステップアップ型
- 起業型
2-1. キャリアチェンジ型:未経験からの挑戦
政治経験がない人が選挙に挑戦するパターンで、転職に例えるなら「未経験からのキャリアチェンジ」といえる。
前職の経験も生かせる部分はあるだろうが、ゼロからの国政挑戦だとノウハウもないため、どこかの政党の支援を受けるケースが多い。
このルートで最も典型的なのは、著名人・アスリート・アナウンサーからの転身だ。抜群の知名度が強みとなり、特定の政党から出馬オファーを受けるパターンが多い。
具体例を挙げると、東京選挙区で初当選した牛田茉友氏(国民民主党)は元NHKアナウンサーだ。同じく東京選挙区で当選した鈴木大地氏(自民党)は1988年ソウル五輪100m背泳ぎの金メダリストで、スポーツ庁長官を経て参議院議員となった。
宮城選挙区で当選した石垣のりこ氏(立憲民主党)は元エフエム仙台アナウンサー、京都選挙区の新実彰平氏(日本維新の会)は元関西テレビ放送アナウンサーとして活動した実績があり、地元放送局のアナウンサーは国会議員になるチャンスがあるといえる。
一方で、知名度のない人間には道が開かれていないかというと、そうではない。政党によっては選挙の候補者を公募していたり、政治塾を開いて未来の候補者を育てたりしている。
東京選挙区で初当選した奥村祥大氏はKDDI出身で、国民民主党の政治塾を経て同党から出馬した。神奈川選挙区の脇雅昭氏は元総務官僚で、自民党の公募に応募して初当選した。
2-2. ステップアップ型:確立されたルートを着実に
国会議員になるために確立されたステップを1つずつ着実に上っていくパターンで、転職に例えるなら「同業界でのキャリアアップ」といったイメージだろうか。
国会議員へのステップとして経由するキャリアは主に3つある。
地方議員・知事・市長ルート
地方で政治経験を積み、その実績を引き下げて国政に挑むパターン。比較的歴史のある政党だと「地方→中央」のキャリアパスは確立されている。
滋賀選挙区の宮本和宏氏(自民党)は滋賀県守山市の元市長で、地方自治体での実績を積んでから国政に転じた。埼玉選挙区の熊谷裕人氏(立憲民主党)はロッテリアで働いた後に議員秘書、さいたま市議などを経て参院議員になった。
業界団体ルート
日本医師連盟、全国郵便局長会などの組織内で候補を擁立し、自民党公認で選挙戦に挑むパターン。
例えば、比例区の犬童周作氏は全国郵便局長会相談役、釜萢敏氏は日本医師会副会長の経歴を持つ。これらの業界団体は強固な組織基盤を持ち、候補者の当選可能性を高める重要な役割を果たしている。
労働組合ルート
電力総連、自治労といった労働組合の組織内で候補を擁立し、立憲民主党か国民民主党の公認候補となるパターン。比例区の吉川沙織氏はNTT西日本出身で、情報労連の組織内候補だ。同じく比例区の浜野喜史氏は関西電力出身で、電力総連の支援を受ける。
2-3. 起業型:既存政党にとらわれない新しい挑戦
既存政党から出馬するのではなく、自ら政党を立ち上げ、理想とする政治の実現に邁進する、スタートアップの起業に近いパターンだ。
今回の参院選だと「チームみらい」が当てはまる。党首の安野貴博氏は東京大学工学部を卒業後にボストン コンサルティング グループで働き、AIチャットボットの株式会社BEDOREの創業などを経て政界入りした。従来の政治家像とは大きく異なる、テクノロジー業界出身の新しいタイプの政治家といえる。
3. 政治家輩出企業はどこだ? 2025年参院選当選者の出身企業
当選者の主な出身企業は次の通りだ。転職市場でも人気の企業が多いが、マスコミの比率が高いのが特徴だ(以下、敬称略)。
3-1. マスコミ
- NHK:小林さやか、牛田茉友、泉房穂
- TBS:牧山ひろえ
- 青森テレビ:福士珠美
- エフエム仙台:石垣のりこ
- 山形放送:芳賀道也
- テレビ静岡:牧野京夫
- 富山テレビ:庭田幸恵
- 関西テレビ:新実彰平
- 南海放送:永江孝子
- 日本経済新聞:山下雄平
- 産経新聞:北村経夫
- 宮崎日日新聞:山内佳菜子
3-2. 日系大手
- 三井物産:尾辻朋実
- KDDI:奥村祥大
- NTT西日本:吉川沙織
- 関西電力:浜野喜史
- 大和証券:原田秀一
- 日産自動車:礒崎哲史
- 日立製作所:平戸航太
- 野村證券:山中泉
3-3. 外資系企業
- アクセンチュア:山田太郎
- ボストン コンサルティング グループ:安野貴博
- 日本マクドナルド:有村治子
- シティバンク:平木大作
4. キャリアを諦めないためにデータを活用する
今回の分析を通じて明らかになったのは、「国会議員になる」という目標が決して非現実的ではないということだ。今回の参院選に立候補した新人412人のうち当選したのは62人で、当選率は15.0%だった。前回2022年の9.6%から上昇しており、成功する可能性も高まってきている。
政治の世界は風向きが変わりやすいので、キャリアにおける目標を設定し、そこに向けて日々努力していると、思わぬところにチャンスが転がっているのかもしれない。また、キャリアの選択肢は想像以上に多様で、新たな挑戦の可能性は常に存在するともいえる。
これは、個人のキャリアにも通じる点があるのではないだろうか。なりたい職業、転職したい企業があった際「自分には無理」と思うことは簡単だが、今回のようにデータを活用すれば、そこに近づくキャリアパスが見えてくるはずだ。
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