コンサルキャリアで最も特筆すべきことは、「ネクストキャリアを見越した入社」の方が多いことでしょう。
そして、コンサルに入社した方の多くが直面するのが、以下のような問いです。
・いつファームを去るべきか
・コンサルを経由したからこそ行けるネクストキャリアはどこか
・年収の増減をどう捉えるか
本シリーズでは、実際にコンサルを卒業してネクストキャリアを歩まれる方々にインタビューをし、ポストコンサルキャリアの実録を集めていきます。
今回の実録:ベインから幼稚園経営
今回お話を伺ったのは、幼稚園児から大学生まで幅広い層への教育事業の経営をしている白川稔さん。
東京大学大学院を卒業後、新卒でベイン・アンド・カンパニー(以下ベイン)に入社。国内外最大手企業や、自身の関心があった教育NPO・サッカークラブの経営戦略立案に従事。
2024年より、幼稚園・こども園を有する学校法人芸南学園、新卒/中途向けキャリア支援・紹介を行う一般社団法人Edgeyならびに株式会社CaReealizeの経営を行っています。
戦略コンサルから幼児教育という大きなキャリアチェンジを経験した白川さんが、どのような軸で意思決定をして、なぜ幼児教育というネクストキャリアを選択したかに迫ります。
Will・Can・Doが合致した世界を創りたい
白川さんのやりたいことが芽生えたきっかけは、大学生時の留学先であるスタンフォード大学での出来事でした。
友人がある日、目を血走らせながら『昨日20時間勉強したんだ』と笑顔で話しかけてきました。
なぜ彼が笑顔なのか私には不思議だったのですが、彼曰く『俺には明確に人生の理念・目標があって、そこに到達する道筋も見えている。今日勉強した20時間によって目標までの道筋を一歩進んだことが目に見えているから、とても楽しい』と言われて衝撃を受けました。
一方で日本に帰国してから大学院の友人と話しても、優秀だけれどもキャリアを真剣に考えている人は多くないし、今できることの延長線上でキャリアを選ぶ方が多いと感じます。
留学先と大学院の友人を比較した時に、Will・Can・Doが合致していないことは日本の大きな課題だと気づいたんです
もう一つ、白川さんのその後の人生に大きな影響を与えた経験は、中高生に対するキャリア教育を行うNPOでの出来事でした。
100校以上の学校を回りワークショップを開催する中で、「自分の人生で何をやりたいか。その実現に向けて明日から何をやるか」という問いに対して自己効力感が高い子と低い子の次のアクションに大きな差があると気づきます。
自己効力感が低い子は「私はどうせ出来ないから」と諦める一方で、自己効力感が高い子は過去の成功体験から挑戦を成長機会と捉えられていました。
スタンフォード大学での経験と併せて、白川さんはWill・Can・Doを一致させて自分が好きな領域で挑戦し続ける、その結果人々が幸福を感じることのできる世界を創るために、自己効力感を高めることがキーになると確信します。
学生時代の強烈な経験からやりたいことが明確になった白川さんは、その後の人生をやりたいことから逆算して考え始めるようになります。
自己効力感は幼児期に形成される、という科学的根拠から白川さんは幼児教育事業に興味を持ちますが、幼児教育に新たな風を吹かせるのであれば他業界での経験やスキルアップは必須と考え、新卒では一般企業に入社しようと決めていました。
「自己効力感を向上させる幼児教育を実現する」という夢に向けて、白川さんの新卒就職活動が始まります。
幼児教育を変えるにはコンサルの課題解決力が必要だった
幼児教育業界で新たな取り組みを模索していた白川さんは、三つの力が当時の自分に必要だと考えました。
一つ目は、未知の問題に立ち向かう課題解決力。
教育の理想像が一定定められている公教育に対して、新たな教育の理想像を掲げて推進するには、抽象的な問いに向き合う思考力と課題を解決するまで推進する力が必要です。
二つ目は、他業界の当たり前を知ること。
当時は出退勤システムすらも導入されていなかった幼稚園に、他業界の当たり前や先進事例を導入するだけでも大きなインパクトになると考えます。
そして三つ目は、身に着けた課題解決力・他業界の当たり前が教育業界での活躍に十分か検証する機会。
教育業界での課題解決の実績も積みながら、自身の挑戦する分野で確度高く業界変革ができるか、を検証できる機会が必要と考えます。
これら三つの力を得ることができる戦略コンサルティングファームがやりたいことに最も近づくと考えました。
白川さんは、その中でも国内外の最大手企業の全社戦略を扱い、教育NPOの無償コンサルティングに強みを持ち、かつ温かい家族のようなカルチャーを持つベインに新卒入社することを決めます。
ベインでは実際に全社ポートフォリオ戦略・組織戦略・実行支援・DDと一通り経験しながらも、教育NPO成長支援戦略の案件を担当することができました。
教育業界を切り開く変革者を目指す中で、ベインはその実現に向けて身に着けたスキルが十分か否かのPDCAを回すことができる最良の環境でした。
自己効力感を育む教育が教育業界に大きなインパクトを与えるという仮説は学生時代からありながらも、教育について体系的な理論・方法論を学んだことがない自分は、それが社会に対して良いことなのか、抜け落ちている点がないのか不安を感じていました。
ベインでは、成長の打席を数多く得ることができ、そしてPDチャットと呼ばれる1on1コーチングにて自身のキャリア全体を踏まえた成長ポイントの振り返り・次の打席の設定を行う機会があるため、自身のキャリアに沿った事業家としてのスキルを身に着けることができました。
また、教育NPOのコンサルティングを通じて、自身の持つ教育業界への課題仮説および解決策が解像度高くブラッシュアップされました
自分がやるべきは突き抜けて優秀な人材のマネジメントではない
ベインを卒業することを考え始めるきっかけとなったのは、昇格して次の職位を目指し始めるタイミングでの違和感でした。
この先のシニアマネージャー・パートナーというポジションは、確かに価値があるロールだと感じました。
ベインにはパートナーとして教育NPOやソーシャルファンドのボードメンバーとして、戦略面から貢献している方も多くいらっしゃいました。
ただ、自分が業界全体の変革者として事業を推進することを目指すことを踏まえると、今後はベインの突き抜けて優秀な人材をマネジメントする力ではなく、自身で教育事業を経営し、その中で様々な価値観・バックグラウンドの方々と成果を出す力が必要であると考えました。
その他、身内の健康問題や、身に着けた課題解決力への一定の自信から、自分自身のゴールを目指すためには、今が事業家として人生を通して解きたい課題解決に挑戦するタイミングだと判断して卒業を決めました
ベイン入社時点からキャリアのゴールが明確で、必要なスキルと必要ではないスキルがはっきりしていたからこそ、白川さんは客観的にコンサルを出るという判断をすることができました。
卒業を決意してから実際に経営者になるまでの2ヶ月間、次なる一手を探す期間が始まります。
初期仮説として持っていた、母親が運営している幼稚園で課題解決の第一歩を行うことが自分の人生目標達成に最適か、を改めて考え直して、以下3つの選択肢から進路を選択しました。
・事業会社として幼児教育課題解決に関わる
・ソーシャルファンドとして資本を提供する形で幼児教育課題解決に関わる
・教育機関にて幼児教育課題解決に関わる
選択肢の中から意思決定をするにあたっては、20年後に自分が一番インパクトを与えられる選択肢がどれかを意識したと白川さんは語ります。
ソーシャルファンドは最近お金が集まってきている、かつ自分は感謝を直接頂くことがモチベーションになる性格なので、自分が与えられるインパクトは少ない。
事業会社として価値を提供しても、新しいものを導入するのに障壁がある教育機関の現場では、教育機関での成功事例がないと導入が進まない。
一方で、人材育成の根幹であり幼児の大半が入る幼稚園・保育園・こども園は自己効力感育成につながる確立された成功モデルが存在せず、各園が教育内容や経営への危機感を持っている中、一つでも成功事例ができれば広く普及する。
同じ目線で園経営をしている人が成功モデルを生み出すことができればそれは広く普及して業界全体に大きなインパクトを与えることができる、かつ現場の最前線にも立ちながら𠮟咤激励を頂きながら高速でPDCAを回せる。
そういった点から、私は幼児教育機関の経営者として幼児課題解決に挑戦することを選びました
前例がない幼児教育の新たな取り組みに、白川さんは大きな可能性を感じています。
今は人口を増やしたいので出生数を増やすことに国の予算が集中していますが、人口減少を食い止めることができないという結論が出ると、人の量ではなく質に重点が置かれる時代が近いうちに必ず来る。
その時に自分が最適な幼児教育モデルを提示できれば、必ず国も後押しをして大きなインパクトが生まれると白川さんは考えます。
また、別観点で、辛い時に面白いと思えるかもキャリアの意思決定をする上で重要とのことです。
そもそも子供が好きという点、保護者からの感謝があった方がやりがいを感じるという点からも、教育機関に関わることが最善の選択でした。
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求められる「やり切る力」の違い
幼児教育の現場に教育機関の経営者として足を踏み入れることになった白川さんは、母親が運営する幼稚園を含む学校法人の経営者となり、既にメディアからも注目を浴びる園に成長させます。
その過程で、幼児教育の現場とコンサルで求められるスキルには「やりきる力」が大きな差分だったと話します。
数字を作るだったり、やりたい教育を実現しきる、戦略を書いて終わりじゃない現場はコンサルと大きなギャップを感じました。
個人的に良い戦略を描いても、上手く伝えることができず、結果、1+1=1.2になってしまうことも実際に起きました。
自治体等にあるべき教育の姿を提案しても、『そんなことは無理でしょ』と押し潰されることもありました。
コンサルでも論理だけでなく情理は必要ですが、現場では情理:論理=8:2ぐらいで人を巻き込みながら進めていくという点は、コンサルの時と同じスタンスでは難しかった部分です
出退勤システムぐらいのITシステムでもなかなか受け入れてもらえない幼児教育の現場は新しいものを導入するのに大きな障壁があり、旧態依然とした組織風土が残ります。
安定・仕事は最小限の努力、という価値観をお持ちの方が多い、幼児教育のプレイヤーの皆さんが、中長期的な視点から新しい取り組みを提案する白川さんについて来てくれるか、不安がありました。
そんな中、大きな課題を分解し、検証アプローチを設計し、検証結果から示唆を統合するコンサルで培った課題解決力は、大きな力を発揮しました。
コンサルタントとして未知の課題に粘り強く向き合う働き方は、幼児教育の現場での働き方と通ずる部分もあったようです。
他には、コンサル時代に得た広い人脈も大きな助けとなり、公的組織の方をベインの上司に紹介いただくといったこともありました。
また、コンサルとのギャップという面でいうと話題に挙がりがちな年収変化については、影響がほとんどなかったと白川さんは口にします。
事業所得はコンサル時代と比べると30%ほど落ちています。
しかしながら、実所得に変化はありません。
後々に備えてお金は蓄えておかなければならないという思いで、コンサル時代にお金を増やす見込みは立ててポートフォリオを組んでいたからです。
投資やマンション購入などをしていたおかげで、今年の年収は増加の見込みです
年収の問題に関しても、事前の準備や仮説検証された精度の高い事業計画を創ることで、対応できることを白川さんは教えてくれました。
コンサルの職務経験を自分ごとに紐付ける
自分のやりたいことを実現するためにコンサルという環境に飛び込んだ白川さんでしたが、コンサルはその後の人生の選択に大きな影響を与えうる場だと語ります。
コンサルは色々な人や課題に接することができるとても恵まれた環境だと考えます。
現に私は今もベインが大好きですし、間違いなく新卒に戻ったらベインを選ぶと断言できます。
ただ、他ファームの方含め、コンサルで働いている方を見ると、たくさん人生のヒントが散らばっているのにも関わらず、忙しさを主要因に自分の人生について考える機会を設けておらず、非常に勿体ないなと思っています。
一方で、きちんと内省をすることができれば良いインプットがたくさんあるのがコンサルという環境です。
例えば組織戦略を考える上でクライアントの従業員からヒアリングした業界の課題は、自分の人生目標になりうるものかもしれません。
たまたまアサインされた案件の業界は、コンサルを卒業してでも本当に自分がやりたかったことかもしれません。
論点の要素分解について上司からもらったフィードバックは、自らのやりたいことからキャリアを逆算する過程でも有用かもしれません。
日々の気づきを明日の業務に生かすだけでなく、長期的な自分のキャリアにどう活かすことができるか短時間でも振り返る。
振り返る上で自分は何をしたいのか考える習慣をつけておけば、目先のスキル成長だけでなく、コンサルでの仕事の学びをキャリアに結びつけることができると思います
実際に白川さんも多くの異なるバックグラウンドを持つクライアントと向き合った経験をもとに、事業会社・ファンド・教育機関のどの立場から教育課題に関わるかを意思決定しました。
コンサルとして各業界の成功モデルが市場を大きく変えてきた様子を目の当たりにしてきたことで、幼児教育業界にも教科書のような成功モデルを作り上げて、より広く事業展開をしていきたいと考えています。
株式会社CaReealizeのCEOにも就任し、幼児教育のみならず新卒/中途向けにもキャリア事業を展開して教育・人材業界を変革していく白川さん。
今後は小学生・中学生・高校生と対象範囲を広げて自己効力感を育む教育を行なっていきたいと展望を話します。
正直コンサル時代と比較しても、今の方が圧倒的に忙しいです。
ただ自分で人生をかけて勝負すると決めた領域なので、ライフとワークの線引きがない状態で楽しく過ごしています。
今後は、幼稚園で自己効力感が育まれた方を野放しにするのではなく、中学・高校で実際にやりたいことを見つけて磨き込む過程を手助けする環境を創っていきたいです。
今は探求学習が義務教育課程にも組み込まれているため、提携含めそのチャンスは広がっていると思っています
Will・Can・Doが合致した世界を創るための白川さんの挑戦は、これからも続きます。
コンサルからのキャリアについて、プロに相談する
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