「服装自由の会社の転職初日にスーツを着たら、逆に浮いてしまった」
「ネクタイやシャツの柄が派手すぎる、と同僚から指摘を受けた」
みなさんにもこんな経験はないだろうか。働き方の多様化が進む今、ビジネスファッションの在り方も自由になった。一方、基準のないなかでの服選びが、かえって難しくなったという声もある。
今回は、オーダーメイドのビジネスウェアを手がけるFABRIC TOKYOの鈴木日出海さんにインタビュー。聞き手は、自身もビジカジに悩むONE CAREER PLUSの寺口浩大が務める。ビジネスファッションの専門家である鈴木さんが導き出す、令和のビジカジスタイルの正解とは。
働く社会人255人に聞いた!仕事着へのリアルな悩み
今回、ビジネスパーソン255人へ働く服装に関するアンケートを実施。
お悩みとして最も多かったのは「どこまでカジュアルにしていいかわからない」という声だった。
「おしゃれになりたい」「自分らしくいたい」というよりも、「相手からよく思われるには?」「その場に馴染むには?」という悩みが多いのがビジネスパーソン。なぜなら、服装がその日の成果に影響する場合もあるからだ。
たとえば営業職の場合、自身の外見の印象が、大事な契約を左右することもある。またコンサルタントであれば、経営者などのハイレイヤーと会う時に服装が乱れていると「この人で大丈夫だろうか」と不安を与えてしまうこともある。このような近年の「ビジカジ」をどう定めればよいのか、鈴木さんが解説する。
FABRIC TOKYOに聞く、ビジネスカジュアル徹底解説
鈴木:まず用語の整理をしておくと、社内業務にふさわしい服装を指す「オフィスカジュアル」に対し、「ビジネスカジュアル」とは社外の方に会うときにふさわしい服装を指す言葉です。
いうまでもなく、最もフォーマルなビジネススタイルは「スーツ(ネクタイあり)」なのですが、ビジネスカジュアルは「スーツからどのくらい引き算をするか」で考えるとわかりやすいかと思います。
今回は、このことを軸にしたマッピングを用意してきました。右上がビジネスカジュアルの中では最もフォーマル寄りで、スーツから少しだけ引き算をしたスタイルです。ここをイメージした上で、「自分の職場ではどこまでいけるだろう?」と考えてもらえればと思います。
鈴木:上の図は、ビジネスカジュアルマップと、各スタイルの詳細です。フォーマル(服装規定が特に厳しい職場)↔︎カジュアル(服装が自由な職場)、オケージョン(商談や会食がある)↔︎デイリー(商談や会食がない)を軸とし、その度合いによってふさわしいビジカジを考えるヒントにしてください。
マッピングの中央ゾーンが、基本のコーディネートとなります。アイテムとして特に汎用性が高いのはネイビー無地やグレー無地など、ビジネススーツでも定番の色を使ったジャケットやパンツです。「A. 最もフォーマル」や「B. 初心者おすすめ」スタイルなどは、どこに出ても安心です。
⚫️ ジャケパンの素材は「ウール」がベスト!
ウールが上下どちらか入っていると◎。上質で見栄えもいい素材ですが、シワになりやすく、価格もやや高いため、機能性やコストも重視したい方でしたら、ウールとポリエステルの混紡も検討しましょう。
⚫️ 基本のインナーは「シャツ」
スーツスタイルと同じくシャツが基本ですが、ノーネクタイの場合は、襟に芯のないやわらかめの襟型を選ぶのがおすすめです。
その他クールビズの期間であればポロシャツも可。秋冬であればタートルネック、職場によってはTシャツも許容されます。Tシャツの場合は、首周りが開きすぎていないものを選ぶように注意しましょう。
⚫️ 靴は「ベーシックな革靴」がおすすめ
基本は革靴がおすすめですが、スーツで使用する内羽根タイプですとやや堅い印象になるため、外羽根のタイプやローファーを選ぶと、ほどよくカジュアルな印象になりおすすめです。ちなみに画像などもございますので、よろしければ、こちらの記事の「靴はどうする?」のパートをご確認ください。
もしスニーカーが履きたいなら、すっきりした形で、色味の暗いレザースニーカーでしたらビジネススタイルにも合わせやすいですよ。
寺口:なるほど、「引き算をする」という考え方は面白いですね。では、さらに「こなれ感」を出すにはどうすればよいでしょう?
鈴木:おすすめなのは、「ビジネスの定番色(グレー、ネイビー、チャコール)以外の色を1点だけ取り入れてみること。ジャケットとパンツの色は、ある程度差があった方がこなれて見えるので、ベージュやカーキ系のチノパンを取り入れるだけでもこなれた雰囲気が出ます。ビジネスカジュアルマップの左上を参考にしてみてください。さらに靴や鞄など小物を茶色に変えるのも手です。
寺口:なるほど…。では逆に「これをやってはいけない」ということはありますか。
鈴木:着こなしの話とは異なりますが、スーツジャケットを単品で使おうとすることは、基本的に推奨しません。スーツジャケットは肩パッドや毛芯(中に入れる副資材)があるため、とても構築的な作りとなっています。絶対NGではないのですが、かなり堅い印象になってしまうため、カジュアルジャケットを持つことをおすすめします。
また、シャツの裾は基本的に中にインしましょう。オフィスカジュアルの場合は裾を出すことも許容されますが、ビジネスカジュアルにおいては避けた方が無難です。あと、職場によってOKなケースもあるものの、下記のアイテムは避けた方が安心です。
- ゆるすぎ、タイトすぎのサイズ感
- ヴィヴィッドな色や、派手な柄のもの
- プリントTシャツ
- VネックのTシャツ
- ボリュームのある靴
寺口:きちんと見えるにはそれなりの理由があるのですね。
鈴木:こうしたフォーマル・カジュアルの印象を左右する要素は「シルエット」「デザイン」「生地」「色/柄」「インナー」「靴」「カバン」の7つにまとめることができます。
各項目におけるフォーマル・カジュアルの度合いを下記の図にまとめたのでコーディネートの参考にしてください。
寺口:まとめると、自分のなかでビジネスカジュアルの最もフォーマルなスタイルを決めたうえで、カジュアルダウンのマップを持っておくと安心、ということ。これでビジカジの正しいファーストステップがわかりました。
会食の日、転職初日...シーン別のお悩みを、ビジカジのプロが解決!
今回実施したアンケートでは、具体的に服装に悩むシーンについても調査を行った。顧客への訪問時や転職初日などのシーンでは、約4割のビジネスパーソンが服装に悩むと回答している。
既出のビジネスカジュアルマップをおさらいすると、要素には「フォーマル」↔︎「カジュアル」の軸と、「デイリー」↔︎「オケージョン」の軸がある。この二軸でできたマップをもとに、その時のTPOがどこに当てはまるかを考えれば、正解にも近づきやすいという。この考え方をもとに、早速、ユーザーの悩みに回答していく。
Q.初対面の取引先に会うとき、先方に好印象を与えられる服装はありますか?
寺口:前提として、全体的に多かったお悩みは、客先訪問、転勤初日、会食などのシーン別の課題でした。まず一つ目が、「会社の服装規定がないが故に、堅めの企業とお打ち合わせをする際にラフに見られすぎていないか心配」「クライアントに印象の良い服装とカジュアルのバランスが難しい」というお悩みです。
鈴木:初めて商談するときですね。まずビジカジの基本的な考え方は、「相手に合わせること」です。その上で、初対面のシーンでは、全体的なカラーは暗めにしてネクタイが必要かどうかを考える、というくらいのさじ加減が良いでしょう。
また、もう少しラフにしたい場合、下をチノパンにしてもアクティブさが出ます。カラーはベージュよりもグレー寄りなものにすれば、意外とフォーマルにまとまりますよ。
寺口:基本的にはダークトーンで揃えるのが間違いないですね。
Q.転職後の入社初日にふさわしい服装は? 会社や社員の雰囲気もまだわかりません…
寺口:「転職初日や異動初日など、組織の雰囲気がわからないときに悩みます」「服装規定が自由な会社への転職初日、なにを着ればいいか分かりません」というお悩みです。この場合、どういう服装がよいのでしょうか。
鈴木:この場合、同じく暗めのトーンの基本スタイルがよいでしょう。ネクタイの有無もその会社に合わせつつ、さらに「ジャケパン」か「セットアップ」のスタイルも選択肢に入れるくらいがおすすめです。初日を終えて、もう少し崩したいと思った時には、おいおい広げていけばよいので。
寺口:たしかに、入社初日にカジュアルの度が過ぎて悪目立ちするのは避けたいです。フォーマル寄りのスタイルを基本として、そこからやや崩しつつ、上下がきちんと揃って見えることが大切ですね。
Q.取引先との会食があるのですが、どのような服装が好ましいですか?
寺口:会食のシーンのお悩みです。「会食などの経験がなく、どんな服装で行ったらいいかわからない」というユーザーもいました。
鈴木:これは食事の場所によりますが、考え方は同じです。お相手の服装を想定した上で、ネクタイのありなしが選べるようにしておくこと。場に馴染むかどうかですね。居酒屋であれば、下をベージュのチノパンにしてノーネクタイでもバランスがいいでしょう。高級レストランなどの場合は最もフォーマルなスタイルで行くのが安心で、事前にお店にドレスコードを聞いておけばさらに間違いありません。
寺口:ありがとうございます。食事の場とはいえ相手は取引先なので、普段のスタイルは守っておくのが安心ということですね。
Q.新卒2年目のコンサルです。取引先に「幼い(頼りない)」と見られないためにはどのようなコーディネートにすれば良いでしょうか?
寺口:次は、コンサルや営業職には特に多い悩みですね。商談相手が経営者や経営企画であることが多く、年齢やタイトルが自分より上の方と接するときにはありがちな悩みです。
鈴木:まず、コーディネートで気をつける点としては、明るい色や柄ものを使いすぎないことです。明るい色や柄のアイテムはカジュアルさを想起させるので、総じて幼く見えがちです。
そして、ここでお伝えしておきたいのが、実はコーディネート以上に「サイズ」が大事ということです。ある一定のエグゼクティブ層になると、オーダーウェアが当たり前だったりするので、「見る人」は見ています。実際のところ、生地やデザインを見る方はそんなに多くはないので、きちんと自分に合ったサイズを着ることが重要なのです。
寺口:なるほど、若ければ若いほど、少し高くても「背伸びの一着」を持つのは良さそうですね。
Q.仕事用の洋服にあまりお金をかけたくありません… 買い物のコツがあれば教えてください。
寺口:お悩みには「お金がかかること」も挙がっていました。「日常的にスーツを着ることがないので、スーツ着用が必要なタイミングで適切なものを持っていません。購入にあたっても、どの程度の金額をかけるべきか悩みます」という声もあります。
鈴木:そうですよね。一着にかかる洋服代も気になると思いますが、長期的に見ると、着回しができるかどうかを考えて購入することをおすすめします。コスパが良いのは、マッピングの中央にあるコーディネート。なかでも「ネイビーのセットアップ」と「グレーのチノパン」があれば、どれもさまざまなアイテムと馴染むので、初めて揃えるアイテムにおすすめです。
寺口:色で悩んだらネイビーですね。あとコスパの観点でいうと、耐久性も気になります。
鈴木:耐久性という観点だけでいうと、ポリエステルなどの化学繊維のアイテムが、価格的にも買いやすくておすすめです。ただ一方で、化学繊維の生地は、ウールに比べると見栄えとしては劣り、さらに毛玉になりやすいという特徴があります。長期の使用には向かないので、基本的には消耗品としてガシガシ使うイメージを持っていただけると良いかと思います。
反対に、ウールは耐久性という点では劣るものの、上質な艶と風合いで毛玉にもなりにくく、きちんとケアをすれば10年選手の勝負服としても使えます。価格は高いものの、長期的なコストパフォーマンスとしては良いと思います。結論、これらを考慮して、ご自身にあったものを探すと良いと思います。
寺口:一着の価格ではなく、「良いものを長く使う」がコスパの良さに繋がりますね。参考になりました!
ONE CAREER PLUS寺口のコーデは何点?!
寺口:最後に、僕の今日のコーディネートにアドバイスをいただけませんか?今日はビジネスカジュアル初心者の僕が着てみたのですが、ずばりこの格好に点数をつけるとしたら何点でしょうか?
鈴木:そうですね、Goodな点とMoreな点が半分ずつで50点というところでしょうか(笑)!
【Good】
- ジャケットは、ポリエステルでもウールにも見える高級感がありますね。色も暗めのネイビーなので、ビジネスでの着用にぴったりです。中に着ているカットソーも首元の高さがあり、きちんとして見えて◎です。
- カットソーはジャケットと同色で◎ですが、たとえば明るいサックスブルーの襟付きシャツにしたり、ポロシャツにすると、さらに爽やかな印象になります。
【More】
- ジャケットのサイズは全体的にやや緩めなので、もう少し体にフィットしたものがおすすめです。特に袖口はシャツがほんのり見えるくらいがベストです。
- スニーカーなら、ハイカットのスポーティーなものでなく、すっきりとしたローカットのスニーカー(無地)を選びましょう。
- ビジネスカジュアルの場合、ジーンズは選ばない方が無難です。ジーンズにする場 合には、ダークインディゴなど今より濃い色を選んだほうがカジュアルさを抑えられます。
結論、インナーとスニーカーの趣向を変えれば、より「洗練見え」します!
寺口:なるほど、確かに鈴木さんのコーデと僕のコーデでは全く印象が違います…。
今日の鈴木さんのコーデ。「ビジネスで定番のチャコールグレーのジャケットに、ややカジュアルな印象のあるベージュのチノパンを合わせました。ビジネスカジュアルマップでいうと、左上くらいに位置するスタイルです。茶色の革靴は黒に比べて適度にくだけた印象になるので、ビジネスカジュアルで使いやすくおすすめです」
寺口:ありがとうございました。その他、いただいたユーザーのお悩みを読むと「これではフォーマルすぎるかも」「カジュアルすぎるかも」「派手すぎるかも」など、ご自身のなかでの迷いが多いように見受けます。ただ、どんなシーンでも基本のスタイルに忠実にすれば、堂々としたスタイルが完成するとわかりました。
ちなみに、今回は主にメンズのビジネスカジュアルについてお伺いしましたが、FABRIC TOKYOさんではレディースのビジネスウェアは取り扱われているんですか?
鈴木:実は2023年6月から、レディース向けのラインナップの取り扱いを開始しました。主にオーダーメイドのレディーススーツをご提供しています。これから、ますますラインナップを増やそうと考えていますので、ご期待ください…!
寺口:女性も、男性以上にさまざまな選択肢があって悩むと思うので、ぜひベストなアイテムを作っていただきたいです。その時にはまたコーディネートのレクチャーをお願いします!
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FABRIC TOKYOとは
“Fit Your Life.”をブランドコンセプトに、体型だけでなく、お客さま一人一人の価値観やライフスタイルにフィットする、オーダーメイドのビジネスウェアを提供するブランドです。
一度、ご来店いただき、店舗で採寸した体型データがクラウドに保存されることで、以降はオンラインからオーダーメイドの1着を気軽に注文することができます。リアル店舗も自社で展開し、関東・関⻄・名古屋・福岡の合計10店舗を運営中。
2023年6月より、女性のお客さま向けに「WOMEN’S ライン」をスタート。
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