これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
「キャリナレ!コミュニケーション編」のテーマは、「専門家こそキャリアを横展開せよ。コミュニケーション×ビジネスで市場価値を高めたCCOに学ぶ」。
ゲストは、サイバーエージェントで広告営業や子会社経営を経験し、大手広告代理店の電通を経て、2018年に株式会社GA technologiesに入社、現在は同社執行役員をつとめる川村佳央さんです。


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「産業を作りたい」という思いでサイバーエージェントへ
石川:早速ですが、川村さんのご経歴を含め、自己紹介をお願いいたします。
川村:2005年に新卒でサイバーエージェントに営業職として入社しました。在籍していた6年間に社内の新規事業コンテストに優勝し、グループ会社を立ち上げて経営も経験しました。
2011年に電通に転職し、コミュニケーションデザインセンター(当時)という部署で顧客課題に多方面からソリューションを提案する業務をし、デジタルと事業の両面から課題に寄り添うことを続ける中、この複合領域に大きな可能性を感じていました。
その後、たまたまご縁があって、2018年7月にGA technologiesにコミュニケーション領域の責任者として入社しました。
石川:サイバーエージェントから電通への転職には、どんな背景があったのでしょうか?
川村:もともとなぜサイバーエージェントに入社したのかというところからお話しすると、「新しい産業を作りたい」という思いが強かったんです。高校1年生のころ、初めてインターネットに出会って、これから企業や個人がインターネットを使うと未来はどう変わるのかと考えて、「インターネット産業」の可能性に賭けてみようと思ったんです。
サイバーエージェントに入って、新しい産業を生み出す喜びに触れられたのは自分の人生において非常に重要な転換点でしたね。
そういう環境で何の不自由もなくビジネスパーソン人生をスタートさせたのですが、一方で「まだ見ていない『大陸』があるんじゃないか、より大きなチャレンジができるのでは」という衝動が高まっていました。
やってきたことを生かして、日本を代表するような大企業で自分の力を試してみたいという思いが強くなり、デジタルに精通している点を評価していただき、電通に入社しました。
当初の「産業を作りたい」というモチベーションからは少しブレたのですが、これはこれで良かったと思います。
支援会社側では根本の上流の問いを解くことはできない
石川:電通ではどんな経緯でコミュニケーションデザインセンターに配属されたんですか?
川村:当時の電通は中途をほとんど採らないカルチャーだったんですが、コミュニケーションデザインセンターは外からの人材も多く集まり、クライアントのあらゆる課題に対応しようというチームでした。
広告業界はクライアントの広告宣伝費で最大効果を出すために、カッコいいポスターを作ったり、面白いCMの企画を考えたりします。
しかし、本質は広告宣伝費をどう有効に使うかではなく、顧客の事業計画の実現やビジネスで結果を出すことなんです。そうした上流部分に関わることで、顧客の直接的な要望に応えるだけではなく自ら目的のためのベストな手段を考えるべきだということを体感できたのは大きな衝撃でした。
石川:私の前職は戦略コンサルなんですが、同じように定められた予算の範疇を超えることはできない難しさがありました。メンバーレイヤーだと、そもそも論としてプロジェクトで何を解くかの問いを立てる議論には加われないため、私の場合、問いを立てる側に回りたいと思ったのが転職のきっかけになったんです。
川村さんがGA technologiesに転職しようと思ったきっかけについても教えていただけますか?
川村:実は僕はもともとGA technologiesの顧客だったんですが、縁があって代表の樋口と話すうちに意気投合していったんです。戦後日本では製造業が活躍してきたのに対し、ソフトウェア産業やIT産業で成功した会社が多くないため挑戦したいという壮大なビジョンを樋口から聞いて、勝手ながらこちらからもいろんな提案をしていたら、「ウチに来て、やってください」って言われまして。
当時は電通でも大きなプロジェクトを抱えていたのですぐに辞めるのは無理だと思っていたんですが、樋口と話せば話すほどGA technologiesの面白さや人の魅力を感じ、2018年7月に入社することを決意しました。

コミュニケーションの6つの類型
石川:ここからは「事業に効く」コミュニケーションをどのようにイメージしたら良いのか認識合わせをさせていただきたいと思います。
コミュニケーションと聞いて私がパッと思いつくのは、キャッチコピーやデザインなどの「クリエイティブ」と、話し方・聴き方を含めた「ビジネススキル」くらいなのですが、川村さんはコミュニケーションをどのように捉えておられますか?
川村:僕は企業のコミュニケーションは6つに類型化されると思っています。

石川さんがおっしゃった1つ目の文脈でのコミュニケーションは、広告宣伝領域に当たると思います。BtoBにしろ、BtoCにしろ、会社の販促やブランディングのために行うコミュニケーション活動であり、ほとんどの方が企業のコミュニケーションとしてイメージする分野だと思います。
どのコミュニケーションでも伝え方が重要です。例えば、企業が何か情報発信するときに事実だけをポンと出すのと、そこに連なるバックグラウンドやストーリーを伝えるのとでは受け取る人の印象は大きく異なります。
同じことを言っていても、伝え方やシチュエーションによって全然変わるんです。これがまさに僕が携わっていた「コミュニケーションデザイン」で、コミュニケーションのあり方そのものを設計する試みです。
当時、チームのボスが話してくれた例えなのですが、今までの広告業界がやっていたのは、最高の素材を集め、最高の料理人をインドから呼び寄せて、見たこともない調味料を200種類くらい集めて作ったカレーを作って食べていただき、「どうですか?」と問いかけることだった、と。
しかし、相手がそのカレーを美味しいと言うかは分かりません。仮に相手が1年間カレーを食べたくてもどうしても食べられなかった人だとしたら、400円の学食のカレーでも比べものにならないくらい美味しいはずです。
この例えから分かるのは、最高品質のものが常に良いわけではなく、文脈や状況によってものの価値や情報の価値は変わるということです。
さらに、言うだけではなくて、その言葉が信頼に足るのか、企業が掲げているミッションやビジョン、従業員の行動まで含めて言行一致しているのかということも企業は考えていくべきだと思っています。
今ご説明した全てが、コミュニケーションという領域の中に含まれます。
石川:私もONE CAREER PLUSというメディアの制作に携わっていますが、かなり重なる部分があると感じました。
例えば、クオリティの高いコンテンツや記事をつくることに自信があっても、メディア全体の中でどういうストーリーを展開するのか、どうブランディングしていくのかとセットであり、記事やコンテンツは単体だと成立しないですよね。
お話を伺っていると、どの企業や事業にとってもコミュニケーションは非常に大事ですが、経営者がその重要性を分かっている企業を選ばないとポテンシャルを発揮できないこともありそうです。
川村:自分のケースに基づいてお話しすると、やはり経営者が社外向けだけでなく、社内向けも含めた企業のコミュニケーション活動についてどう考えているのかがとても大事だと思います。
また、実際にパフォーマンスを発揮するためには社内の風通しが良いかどうかも大きく影響します。特に大企業だとキーパーソンとスピーディーに連携できないケースもありますし、会社の土壌としてはうまくコミュニケーションができそうに見えても、実際に取り組み始めたときに見えないハードルを感じることもありますね。
CCOのミッションは社内の文化統合にまで及ぶ
石川:お話を伺って、事業や経営におけるコミュニケーションの解像度が上がってきました。次に川村さんがGA technologiesに入られて、具体的にどんなお仕事をされているのか伺ってもよろしいでしょうか?
川村:現在はチーフコミュニケーションオフィサーとしてコミュニケーション領域の責任者をつとめています。スタッフは20名弱で、あらゆるソリューションが可能なチームです。チームの半分はPRスタッフ、もう半分はクリエイティブのスタッフで構成されています。
今、GA technologiesは創業11期目でグループ会社が21社(※2024年5月時点)、6つの国と地域に事業を展開しており、発表物が非常に多いのですが、情報発信をPRチームが担当しています。
それに対して、アートディレクターを筆頭にしたクリエイティブチームはあらゆる方法での発信を実現するためにデジタル、グラフィック、ムービー、イベント、空間に至るまでデザインします。
このチームで社内外に向けたコミュニケーション全体の総指揮を担っています。社外向けについては、上場して5年半の間にM&Aによって増えたグループ会社がGAの成長において果たす役割や意味を大きなストーリーの中に位置づけ、発信しています。
また、グループが増えると仲間も増えます。僕が2018年に入社したときは120名だったメンバーが今や約1,100名(非正規を含めると約1,300名)の大きなチームになっているため、社内向けポータルサイトや社内報サイトの企画・運営をしたり、社史を会社の設立記念日に更新したりすることで、メンバー同士のコミュニケーションを活発化し、エンゲージメントを高めるようにしています。
特に貴重な経験だと思うのは、M&Aでこれまで全く別の会社だった方々を仲間に引き入れる際のコミュニケーションです。
GA technologiesは「Our Ambition」として「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を生む世界のトップ企業を創る」という「Our Ambition」を掲げ、「GA GROUP SPIRIT」で行動規範や指針が規定されていますので、グループ会社の方にも共感していただけるようにコミュニケーションします。
しかし、それ以外の部分はそれぞれの会社がこれまで培ってきた文化があるため、敬意を持って接し、尊重するようにしています。
GA technologiesのブランドを見直したり、新しく加わったグループ会社も含めたコミュニケーションのブラッシュアップのお手伝いや、文化的統合や共感と実務にフルに取り組んでいくことが醍醐味かなと思っています。

広告代理店出身者の独立以外のネクストキャリア
石川:広告の専門家から事業経営やCxOのキャリアはあまり事例が多くないように感じるのですが、川村さんはどう考えておられますか?
川村:広告業界、特にクリエイティブな職種にいるかなりの人は強い専門性をもっていることは確かです。それゆえに、その専門性だけが自分の強みだと思っている人が多いのかなと個人的に感じています。
しかし、広告代理店出身者が全く畑違いな領域に越境していくことで爆発的な可能性が広がります。人がやっていないことと自分が持っているものをかけ算することで完全にオリジナルになっていくんです。
それには今まで自分が興味がなかった経営の領域や、P/LやB/Sなど財務に興味を持つことなども含め、少しだけ自己改革をしていく必要がありますが、できる人は「引く手あまた」になる可能性が高いです。
石川:最終的にどうなるか見えないけれども、それでも人がやっていないことをやろうとするためには好奇心が大事なのでしょうか?
川村:そうですね。好奇心は僕の人生のキーワードの一つでもあって、直接現場に出かけていろんなことを面白がってみる力は大事だと思っています。
また、僕自身は、広告の仕事を通じて培ったスタンダードは他領域で非常に重宝されると信じています。お題をもらって答える、といういわば「ビジネス大喜利」的な仕事の中で、そもそものお題を疑ってみる好奇心や、2つ目の答えまで提案してしまうホスピタリティは、広告業界の人間であれば息をするようにできていることです。
僕は5年半前に電通を出て、GA technologiesに転職しました。特に急成長フェーズにあるスタートアップやベンチャー企業は文化の柔軟性や組織の受け皿も広いため、新しいチャレンジをする場としては面白いのではないでしょうか。
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専門家こそ、キャリアを横展開しよう
石川:ありがとうございます。最後にリスナーにメッセージをお願いします。
川村:自分の持っている専門性とは別の、同職の他の人がやっていないものを掛け算してさらに上のレイヤーを目指すのは、どんな職種にも汎用化できる考え方だと思います。僕は二度転職していますが、転職にはいろんなかたちがあると思っています。
好奇心を持って、自分の専門に専門領域ではない分野を掛け算する転職は、自分だけでなく、同じ業界で働く人や後輩にも可能性を見せることになります。
コミュニケーションのスペシャリストたちが事業会社やベンチャー企業に転職して活躍する人たちが増えていったら、日本のスタートアップやベンチャー界隈はもっと盛り上がるはずです。広告専門家の中にキャリアの横展開にチャレンジする人たちがこれからもたくさん現れることを楽しみにしています。
いかがでしたでしょうか?
キャリナレ!では、今後も様々な職種を経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。
次回もぜひお楽しみに。
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