これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。
ONE CAREER PLUSがお送りする「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
事業開発編の第1回のテーマは、「CxOにつながる事業開発のキャリアパス」。ゲストは、ラクスル上級執行役員の渡邊建さんとノバセル代表取締役社長の田部正樹さん。事業家輩出企業の呼び声高いラクスルの経営陣である二人に、CxOへの道を徹底解説いただきました。
※本記事は2024年1月23日公開の「【徹底解説】事業家輩出企業ラクスルに聞く、CxO・事業家の道」を元に編集しました。ぜひ動画版もご覧ください※
営業からの事業開発:突き詰めた受注・失注分析が、事業開発の種に
佐賀:CxOにつながる職種として想起されるのが「事業開発職」ですが、まずは事業開発として活躍するための論点を整理していきましょう。
ひとつめは営業からの事業開発です。最近増えているケースである一方、「経験がないので自分にはチャレンジが難しい」と考える方もいます。どのような営業経験者であれば事業開発で活躍できるのでしょう。
渡邊:事業開発において、営業はサービスやプロダクトの価値を顧客に知ってもらって売上につなげる、いわばグロースドライバーを担う重要な役割です。顧客のニーズを捉え、価値訴求するコミュニケーションづくりに長ける方は、その経験を事業開発でも活かせるはずです。
一方、価値のないものを売っても選んでもらえないので、「ゼロから価値を創出する」点にハードルを感じている方が多いのではないでしょうか。
田部:私は営業は事業開発にとても近い仕事だと考えています。特に、法人営業をやっていれば目の前でその会社の事業やサービスが売れた・売れなかったというケースがたまるはず。ただ漫然と「売れなかった」で終わらせず「この失注を10%改善できたら、これだけ売り上げが伸びるだろう」と常に考えていれば、それが事業開発の種になります。
実際に、BtoB系の創業者は大企業で法人営業を経験した人が多いです。営業をやりながら「ここを改善したらもっと良くなるけど、この会社ではできない。だから自分たちで事業を立ち上げよう」というケース。失注や受注の理由を考え抜き、自分なりの答えを見つけていく。これがいわば営業職から事業開発への道ではないでしょうか。
佐賀:法人営業では完成されたプロダクトを売りますが、既存事業の営業だけをやってきた人が、立ち上げたばかりの事業フェーズに飛び込んで通用するのでしょうか?
田部:事業開発というと「ゼロ→イチ」を想起する人が多いですが、要は最終的に事業のPLに効く何かをやる人であり、決して事業をゼロから作るだけが役割ではありません。
例えば、ラクスルの事業開発には事業を作る人、事業の型を作る人、オペレーションを磨き抜いて顧客満足度を上げる人など多様なメンバーがいますが、全員立派な事業開発と捉えています。
マーケからの事業開発:Howに逃げるな。PL責任を持って原理原則をつかむべし
佐賀:次はマーケティングからの事業開発です。これは挑戦しやすいイメージもあるのですが、マーケからのキャリアチェンジで乗り越えなければいけない壁はありますか?
田部:一言でマーケティングといっても、4P(プロダクト、プレイス、プライス、プロモーション)というように、意味は広義にわたります。多くの企業はプロモーション、つまりデジタルマーケティングのみをやっていることが多いですが、これだけだと事業開発からは少し距離があります。
本来マーケティングとは、顧客に対する理解を深め、顧客のニーズや課題を発見し、それを解決することで売り上げを伸ばす仕組みを作ることです。ただ業界全体として、Howの部分にあたるデジタルマーケティングの腕を磨こうという風潮になりがちです。これも素晴らしいことではありますが、事業づくりからは離れてしまいます。
したがって、マーケターから事業開発を歩む人にとって重要なのは、「HowはHowで大事にしつつ、Howに逃げずに顧客に向き合う」ことです。日々のマーケターとしての仕事を通して、顧客解像度を上げ続けている人は事業開発でも活躍できます。
佐賀:田部さんはマーケターとしてtoCの経験が長いと思いますが、ノバセルに来てtoBに知見を広げる必要があったと思います。その際に大きなギャップがあったのか、toCで培ったスキルが転用できたのかについてはいかがでしょう。
田部:Howに長けているだけの人であれば転用しにくいです。マーケティングの原理原則である「顧客のニーズを理解する」とか「顧客が諦めている課題を発見する」といった、重要なスキルセットを磨いておけばtoCもtoBも変わりません。
佐賀:「マーケの原理原則をしっかり学ぶには例えばP&Gのような企業が最適である」と考えている方は多いのですが、田部さんはキャリアの中でどのようにして原理原則を積み上げたのでしょう。
田部:P&G出身の方が優秀なのは、若いうちからPL責任を持っているからだと私は思います。マーケターが原理原則をつかみ、CxOに近づく一番の最短ルートはPL責任を早く持つことです。
プロモーション費用を使って売上を伸ばす人から、「お金の使い道が正しかったのかという最終的な営業利益で物事を判断できる人」や「プロモーションコストを削減して人件費を増やすべきだというレバーを持つ人」など、ミニ経営者の視点を持たないといつまでも経営者や事業家と会話が成立しません。
コンサルからの事業開発:スタンスをとって、責任ある意思決定の数を増やす
佐賀:続いて、コンサルからの事業開発です。挑戦しやすい印象があり、さらには「総合より戦略の方がいい」というイメージを持っている方も多いですが、どうでしょう。
渡邊:まず戦略コンサル出身者は、全社的な視座からビジネスを遂行する機会が多く、広い視野を持っています。そのため、事業を伸ばすためには自分がどこで戦うべきかがわかりやすいという利点があるでしょう。ただし、そこで勝てるかどうかはまた別の話です。
一方、総合・ITコンサルの場合は、戦略コンサルに比べて専門性が特化しています。それゆえに適切なフィールド選びが重要になります。「自分の強み・専門性はこの会社の成長につながるか?または顧客への価値の根幹になるか?」を検討して会社選びをするのが良いでしょう。
佐賀:他にもコンサル出身の方がよく言うのは「事業の中で意思決定をしたことがなくて不安」というものです。ラクスルにいらっしゃるコンサル出身の方は、この壁をどうやって乗り越えていかれたのでしょうか。
渡邊:当社では敢えて、「裁量を渡すので、この事業はお任せします。自走して、事業を成長させてください」という任せ方をしています。そうすると、おのずと自分で意思決定をする経験を積んでいくことになります。「スタンスをとる」とよく社内ではいうのですが、自らがリスクをとって結果に責任をもつ。そのために考え抜いて、事業遂行をすることが、事業を伸ばすためには不可欠です。それを繰り返すうちに自然と事業を作れる人へと成長していくのです。
Case1:圧倒的なオーナーシップを持って新たなキャリアを切り拓く
佐賀:ここからは、おふたりが実際にどのように事業開発からCxOへの道を切り拓いてきたのか、どんな壁を乗り越えてきたのか伺います。まずは、渡邊さんからお願いします。
渡邊:私はトヨタでのオペレーション経験を経て、2017年にラクスルに入社しました。BizDevから入り、SCM(サプライチェーンマネジメント)のオペレーション担当としてパートナーの開拓やサプライチェーンのネットワーク構築を担った後、機能部長とSCM部長になります。
事業家を目指すうえでは、この機能部長から事業部長へのキャリアチェンジに大きなハードルがありました。事業部長になるには、プロダクトやマーケティングといった全く経験のない領域も見る必要があったからです。
この時、私は社内制度を利用して事業案を提案し、機能部長からいったんBizDevに戻りました。そこで現場の顧客に会い、自らプロダクトやマーケティング設計を行い、成果を出すことができた結果、印刷事業全体を背負う事業部長になることができました。
印刷事業部長は2年ほど経験し、会社がM&Aを推進する中で新たなチャンスが生まれ、ダンボールワンのCEOとしてPMIを成功させました。こうして現在はこれらの事業全体を統括しています。
佐賀:機能部長から、BizDevの新しい領域に未経験で挑戦するのはとても勇気がいることと感じましたが、どのように意思決定したのでしょう。
渡邊:もちろんリスクは感じましたし、成果を出せずに失敗した可能性もあったと思います。ただ、事業を伸ばすためにオーナーシップを持って、いろんな手を総合格闘技的に打ち続けていたら最終的にはなんとかなるという考えがありました。私自身のそれまでのキャリアも目の前の事業を伸ばすことに集中し、コミットした結果としてチャンスに恵まれてきたので、不安はあまりありませんでしたね。
田部:実際、渡邊さんの事業へのオーナーシップは圧倒的です。これは6年程前に、渡邊さんと一緒に飲みに行った時の話なのですが、22時ごろに帰ると言われたので理由を聞くと「仕事があるから会社に戻る。自分がいまちょっと作業をすれば、粗利が1%変わるので」と言ったのです。
精神論のように聞こえるかもしれませんが、事業家になるうえで一番重要なのは「今、自分がこれをやって売上や利益が上がるのであれば、やる以外の選択肢がない」と言えるマインドです。
渡邊:やはり自分には責任がありますし、粗利は事業の根幹ですから。事業をキレイにしたり、仕組みを整えたりすることが先に来る人は多いですが、私たちにとってはインパクトが先に来ます。そのため、「最初は人力で泥臭くても、インパクトが出るならそれをやらない理由はない」という考え方を大切にしています。
Case2:「早く事業責任を負いたい」との思いから新たな挑戦に踏み切る
佐賀:続いて、田部さんのキャリアについても教えてください。
田部:私は新卒で入社した会社でマーケティングの仕事を始めました。2社目にはマーケターとして入社し、26-7歳で事業全体を見る立場になりました。ラクスルには33歳のときにマーケティング部長として入社しました。ただし、当時のマーケティングの機能部長は、いわば売上の責任者だったのです。
以降、ラクスルでCMOをやるかたわら、その経験を生かしてノバセルの事業を立ち上げ、現在はそこのCEOも兼任するという、ちょっと珍しい立ち位置の仕事をしています。
佐賀:田部さんのなかで、事業家というキャリアを意識し始めたきっかけはどのあたりにあったのでしょうか?
田部:CxOや事業家といった言葉は私にとって、あくまでラベルであって、事業家を目指したいと思ったことはないです。ただ、早く事業責任を負いたいという思いがずっとあり、1社目を辞めた理由もそこにありました。
当時の自分の強みはマーケティングでしたが、例えばマーケティングが良くてもプロダクトが悪ければものは売れません。局所最適した機能ひとつの力があっても意味がなく、全部噛み合って初めてうまくいくにもかかわらず、若い頃はひとつのレバーしか持っていなくて辛い。そう思うことが多くありましたね。
また、2社目で創業者の近くで働けた経験もかなり大きかったと思います。その方に稟議を持っていくと、中身については何も触れずに「それ、自分のお金ならやるの?」と必ず問われるのです。そこで立ち止まってじっくり考えるようになったことが大きいと思います。
事業家・CxOを目指す上でBizDevが磨くべきスキル
佐賀:おふたりのキャリアから事業家になるためのマインドセットが学べました。ここからはスキル面についてもお聞きします。ラクスルが社内で設定しているCxO・事業家を目指すうえで磨くべきスキルについてご説明をお願いします。
渡邊:当社は事業を伸ばすうえでBizDevと事業部長/機能部長に磨いて欲しい領域を定義しています。具体的にはBizDevは「Product」「Marketing/Sales」「MD」「SCM」「Operation」の5つの領域、事業部長/機能部長には「採用」「育成」「目標設定」「チームビルド」と「Economics」「PL」「BS」「M&A」の8つの領域です。
BizDevは、5つの能力のうちいずれかを複数磨きながら、事業部長やCxOに従って自分のミッションを動かしていきます。事業部長/機能部長には大きく組織に関わる領域と、財務に関わる8つの領域を全て磨き、1つの事業/機能全体を統括する役割が求められます。
組織を動かすうえでは、「目標設定がいかにシャープか」はとても重要ですし、目標設定だけでは人は動かないので、いかにチームにビジョンを示して、成果を上げていくのかということが求められます。また採用・育成も非常に重要なため、当社では事業部長やBizDevにチームメンバーの採用権限を渡しています。
財務領域においては、特に「Economics」を使うことが多いです。事業を伸ばすうえで、どれだけ投資をしたらどれだけ企業利益につながるのか、ということ考えて効率的な投資をする力のことです。PLや事業の責任を背負ううえで非常に重要ですし、BSやM&Aには最近力を入れ始めています。これら全てができるようになれば、かなりレベルの高いCxOになれるはずです。
佐賀:全てのスキルを持っている方は少ないようにも感じましたが、ラクスルに入社するうえで、最低限満たすべき入学要件はあるのでしょうか?
渡邊:私たちは機会提供ファーストの考え方なので、機会をつくって「まずは自らやってみてください」というスタンスです。私自身、組織づくりの経験はないところから、スカウトメールを送ってみるなど自然とやらざるを得ない状況の中で経験を積んでいきました。
CxOにつながる成長機会がラクスルにある理由
佐賀:他のスタートアップでの経験もある田部さんからみて、ラクスルの特に魅力的な点はどこだと考えていますか。
田部:磨くべきスキルの中でも特に重要な「採用」「育成」に力を入れている点ですね。ラクスルの中でもチームを率いるビジョンを語るのが上手な人や、チームにふさわしい人を採用できる人は経営者ステップを上がっています。
「自分より優秀な人を採れるかどうか」は執行役員クラスを目指すうえでの評価の基準にもなっているぐらいです。自分より優秀な人を口説くには、事業の解像度が高いことやビジョンを語れることが必要ですし、「場合によっては自分が降格するかもしれないけど、それを受け入れてでも事業を伸ばそう」と思えないとできないことだからです。
佐賀:確かに、自分のポジションを守りたければそれはできませんよね。
田部:主語が「自分」ではなく「事業」になっているから、できるんですよね。
佐賀:最後にぜひお2人の言葉でCxOキャリアを目指す環境としてのラクスルの魅力を教えていただければと思います。
田部:私はCxOとして成長するには、修羅場経験の数をどれだけ踏んだかが重要だと考えています。事業だけでなく、キャリアにおいてもJカーブを乗り越えた経験はつらいですが、必要です。
もうひとつ重要なのは、失敗を許容できる会社かどうかという点です。比較的アーリーフェーズであれば、任せられないということも起こり得ます。一方で当社ほどの規模であれば、失敗のコントロールが一定できるので、そういう意味でも若手に機会提供がしやすい環境だと考えています。今、成功してる若手の中でもやっぱり何回か失敗している、壮絶な失敗している人が多いんですよ。そこを乗り越えた人たちが活躍しているので、そういった意味でラクスルは、まだまだ大きな成長率を目標として掲げている分、とても大きな成長機会を提供できると思います。
渡邊:私は「成長機会があり、それを提示してくれる環境、実際にチャレンジすることでしか成長できない」と考えています。ラクスルではこれが事業を伸ばすことと直結しているので、積極的にチャンスを求めている人にはとても良い成長の場になるはずです。当社としても、是非CxO・事業家として成長していきたい方にジョインいただきたいです。
佐賀:おふたりとも、ありがとうございました。
キャリナレ!では、今後も様々な職種を経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。
次回もぜひお楽しみに。
【次読むなら】