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スタディサプリで市場を創った経営者に聞く「事業づくりの秘話」



近年の社会情勢に伴い、「将来会社を立ち上げたい」「新たな事業を創出したい」と考えている人もいるのではないでしょうか。事業開発と一口に言っても、さまざまなマーケットが存在し、それぞれに特色があります。一方で「マーケットに変革を起こすことの第一歩」といった共通点もあります。


そこで、今回は教育現場を変革させた「スタディサプリ」の事業成長を牽引する、株式会社 LITALICO 代表取締役社長の山口 文洋さんとモノグサ株式会社 代表取締役 CEOの竹内 孝太朗さんを招き、「マーケット変革を起こす事業作りの魅力と苦悩」をテーマにお話を伺います。



山口 文洋(やまぐち ふみひろ)/株式会社 LITALICO 代表取締役社長 :2006年に株式会社リクルート入社後、2011年受験サプリ(現スタディサプリ)を立ち上げ、2015年株式会社リクルートマーケティングパートナーズ 代表取締役社長を経て、2018年株式会社リクルート 執行役員(プロダクト統括本部 教育・学習担当)に就任。2022年4月、株式会社LITALICOに副社長執行役員として入社。同6月、代表取締役副社長に就任。その後、2023年4月に代表取締役社長に就任。
竹内 孝太朗(たけうち こうたろう)/モノグサ株式会社 代表取締役 CEO :2010年に株式会社リクルートに入社。中古車領域での広告営業に従事し、2011年に中古車領域初及び最年少で営業部門の全社表彰を受賞。2013年からは「スタディサプリ」にて高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストの開発、オンラインコーチングサービスの開発を行う。2016年にモノグサ株式会社を創業。
佐賀 駿一郎(さが しゅんいちろう)/ONE CAREER PLUSキャリアアナリスト :2016年ビズリーチ入社。転職サービス営業、新卒採用人事を担当。その後2019年、ワンキャリアへ入社。キャリアアドバイザー、イベント企画や司会を経て、現在はONE CAREER PLUS事業開発を担当。


第一部:マーケット変革を起こす新規事業開発に求められること



佐賀:お2人はリクルートでキャリアをスタートし、山口さんは新規事業のコンテスト「New Ring(現:Ring)」を通じて、スタディサプリ(当時の「受験サプリ」)を立ち上げました。新規事業を開発する際に必要な視点やスキルはありますか?


大企業で新規事業を立ち上げるには

山口投資家が誰かを考えるのが重要だと思います。当時着任した社長の峰岸さんは、講演で「リクルートは社会を変革する新しい価値をつくる会社であり、ロマンとソロバンを持った事業をつくらなければならない。その事業は破壊的イノベーションをつくるのだ」と言っていました。


その話を聞いて、私は教育環境格差を解消するべく、既存の教育プレーヤーを圧倒的に破壊する価格で教育サービスを提供したいと思ったのです。具体的に話を進めていく中で、大きな市場ポテンシャルがあるといった点が、おそらくキーマンの頭の中にシンクロし、初期で大きな投資をいただけたのかなと。


また、中途でリクルートに入社し、割り当てられた仕事に携わる中で、面白い人材だと評価を受けた時期でもありました。それが私の提案に対する信用を構築し、キーマンの頭にうまく浸透していったのだと思います。



佐賀:外部から見たとき、大企業で新規事業開発のポジションを獲得するのは難易度が高いと感じます。と同時に、その難しさがやりがいに繋がるのではないかと思うのですが、どのように考えていますか?


山口今振り返ってみると、私はたくさんの機会に恵まれており、実力だけではないと感じています。ただ、大企業で事業立ち上げの初期フェーズに大きな投資を得たからこそ、ソーシャルインパクトを生むような思い切った社会実験を行えたのかなと。


リクルートの素晴らしい点は、伸びる事業に全社のあらゆるリソースを選択し集中させるところです。BtoBで学校市場を攻めるための営業組織を作る必要があった際、当時のマーケティングパートナーズで、社内で一番の売れっ子営業だった竹内くんがスタディサプリに異動するほど、人材配置にも柔軟性がありました。



佐賀:さすがリクルートですね。先ほど組織を作る話や全社から人材を引き寄せる話がありましたが、それぞれのフェーズでどのように組織を考えてきたのか、いくつかのポイントを教えていただけますか。


山口:私は大企業に所属するサラリーマンとして働いていたものの、気持ちはスタートアップ経営者と同じ感覚でした。もしスタディサプリがうまくいかなかったら、その段階でファンディングチームごとリクルートを辞め、違う形で起業するつもりでした。


私からすると、上層部のみなさんは投資家であり株主であり、社員は優秀な仲間がいるプールだと考えていたのです。当時は全く異なる事業のトップの方に怒られることもありましたが、スタートアップ経営者にとって人材を引き抜いたり、必要な資金を調達したり、当たり前にやることじゃないですか。


大企業の事業開発になった途端、それをやらないのはおかしいと思っていました。大企業で事業開発を行うことは、マインドセットが変わるだけで機会の確率も変わるのかなと。経営者と同じような思考や行動パターンが、大企業の中で動く際にも影響を与えていたのかもしれません。


スタートアップ企業と大企業の事業経営の違い

佐賀:新規事業開発におけるリクルートの魅力について伺いましたが、今度はお2人が全く異なる上場ベンチャー・スタートアップで、事業経営に携わっている点について伺いたいと思います。上場スタートアップにおいて、会社のフェーズや組織規模の変化からくる変革についてどのような変化があったのか、考えを聞かせてください。



山口LITALICOでは事業開発フェーズにあるプロジェクトがいくつかあり、2桁%の成長率を示しています。事業領域は店舗からインターネットまで幅広いですね。最近では障害福祉、医療、介護、一般教育など、隣接する領域にも進出を考えているところです。そのためには、特定の能力や知識を持つ人材を獲得する必要があるので、M&Aも積極的に行い、複数のプロジェクトを事業開発フェーズに進めています。経営陣は0 to 1のアプローチを重視し、事業開発に十数年の経験を持つメンバーが参画しています。


佐賀:上場ベンチャーだからこその事業開発の面白さについてもお聞きしたいです。


山口上場して黒字化も進んでいるため、投資判断や規模はスタートアップよりも比較的しやすいところがあるかもしれません。赤字フェーズの企業よりは、既に利益を出しているからこそ、投資できる強みもあります。一方で、大企業になると売上が何千億以上となり、0 to 1の事業開発が難しくなるのかなと。


佐賀:事業開発について未経験の場合、大手で仕組みを理解してからのがいいのか、いきなりスタートアップなのか、どうお考えでしょう?


竹内個人的には新卒の場合、大企業で学びながら挑戦するのが良いのかなと。イネーブルメントがどれだけ提供されるかが重要で、弊社の場合、営業検定やCSの検定などが用意されています。ただし、多くのベンチャー企業はイネーブルメントに十分なリソースを割く余裕がないため、それが新卒採用に影響を与える可能性もあります。リクルートのような大企業では、結果が出なくても許容される期間があると感じるので、新卒採用の際は大企業でのスタートが良いのかもしれません。


第二部:LITALICO社、モノグサ社が目指すマーケット変革

佐賀:ここで、リクルートを卒業された経緯やその後のキャリアチェンジについてお話いただけますか?


山口私の人生で情熱が芽生えたのは、スタディサプリを立ち上げた時でした。教育環境の格差や学習の不平等など、マイノリティの問題を解消することに使命感が出てきたのです。スタディサプリを始めて10年以上が経ちましたが、リクルートのビジョンと経営理念はマジョリティ向けに良いサービスを提供するものなのかなと。


けれど私はみんなが同じではなく、違いがあっても良いと思っています。やはり学びづらさやマイノリティの支援に焦点を当てることへの思いが強く、そんな時にLITALICO代表の長谷川さんとの出会いがあって。


LITALICOは学びづらさだけでなく、働きにくさや生きづらさも解消することを使命とするビジョンを持っていると気づきました。リクルートはキープヤングであり、いろいろな事業が属人化しないところが特徴です。なので、ちょうどいいタイミングでリクルートを卒業しました。


竹内中学1年生くらいから教育格差をなくすサービスを作りたいという夢がありました。それがリクルートの中でやりたいかと思えばそうではなかった、ミッションが違った。また、共同創業者でキーマンである畔柳という者がリクルートに来てくれないこともあり、リクルートを離れる決断をしました。


「障害のない社会をつくる」LITALICOの取り組み


佐賀:LITALICOが取り組んでいることを教えてください。


山口「障害のない社会をつくる」というビジョンに共感した人が4,000人以上集まっている会社です。「障害者」という言葉は、その人自体が何か問題を抱えているのではなく、むしろ社会全体の不備や至らなさが原因で、そのように見えてしまっていることが多いと思います。社会の仕組みや仕掛けを改善することで、多様な人たちが自分らしく幸せを感じられる社会を築いていくことが重要なのです。



山口私たちは主に障害のある方やそのご家族を対象に、学びや生活、働き方などのサポートを提供する形で、お子様から成人になった際の就職支援や、自立して生活するためのサービスを展開しています。直近は、介護領域やヘルスケア領域にも事業を広げています。

自社が運営するリアル事業所において直接サービス提供をすることに加えて、社内のノウハウをプロダクト化し、業界全体に向けて提供しています。


「記憶を日常に。」モノグサの取り組み


竹内弊社は「記憶」の会社です。覚えることは多くの人が苦手だと感じるものであり、例えば「この日までに英単語を覚えないと昇進できない」と言われたら、プレッシャーや嫌悪感を抱くでしょう。一方で、昨日の夜ご飯や家族の名前など、何かを覚え、一定期間保持し、それを繰り返すことで忘れずに覚えていることは、実は苦しくないはずです。


そこで、何をどうやって覚えるかといった管理を機械に任せることで、苦痛なく記憶できる世界を提案しています。私がよく口にするのは、空気を吸うように、何かを記憶できることが誰にとっても当たり前な世界になればいいなと。このアイデアをもとに、記憶を日常の一部に取り入れ、事業を展開しています。


竹内具体的には、「解いて憶える記憶アプリ」を開発・提供しています。覚えるには、読む、写すなどさまざまな方法がありますが、実は問題を解き、思い出し続けることが長期的な記憶につながると言われているのです。なので、ユーザーの記憶状況に合わせて、出題の形式や難易度を自動で最適化したり、忘れた頃に反復したりできる機能も提供しています。


事業を通して社会の当たり前を変える


佐賀:現在どのようにマーケットを変革しようとしているのか、その取り組みについて教えていただけますか?


竹内「頭が良い悪いという価値観をなくすこと」に近いです。現在の社会では、学力や頭の良さが重視され、その基準で評価されていると感じられる状況があります。例えば、生徒たちが自分よりも偏差値が高い学校に通う子たちは頭が良く、逆に低い学校の子たちは頭が悪いと単純に思っている傾向があるのです。


誰でも何でも覚えられて当たり前にできるようになれば、頭の良さで判断する価値観は不要になると思います。頭が良い悪いといった考えを超えて、誰もが自由に学び、成長できる環境を提供したいです。


山口私がスタディサプリでの経験を経て、現在どんな世界を築きたいのかというと、個の異なりを尊重し、それが当たり前である社会です。日本ではみんなが同じとされ、それに合わない人がマイノリティや障害のある人として分離されてしまう。


ですが、そもそもみんなが同じということ自体が疑問で、全員が異なる存在であると思っています。21世紀が多様性を尊重する社会であるならば、全ての人が異なる存在であるという考えを育んでいく必要があると考えています。LITALIOという会社がいろいろな人と連携し、変革を起こすような行動ができたらいいなと。抽象度が高いからこそ30年、50年かかるかもしれませんが、着実に進めていきたいと思っています。


事業開発を成功させるパターン

佐賀:事業開発パターンや成功確率向上の仕組みについてお話しいただけますでしょうか?


山口:よくシードラウンドやゲート方式、事業のプロセス管理の手法などが挙げられますが、あくまで手段であり本質的なものではないと考えています。結局、最も重要なのはマーケットの現場での顧客ニーズです。彼らが本当に欲しがっているもの、必要としているもの、困っていることを理解し、それを解決する方法を真剣に考えることが大事なのかなと。



竹内課題が解決された場合にお金が動くのかどうかなど、売り買いの温度感をキャッチアップできる現場の人間が事業開発マインドを持っていることが大切だと思います。


そのうえで、弊社はソフトウェアの会社なので、もう一つの重要な要素はエンジニアの強さです。CTOが元Google出身であることも含め、優秀なエンジニアを採用し続けています。強力なエンジニア組織と現場にいる営業やカスタマーサクセスの力を合わせて、一緒に事業開発を進めていることが、弊社の強みであると考えています。


佐賀:同じ領域で成功した経験から異なるマーケットに進出する場合、これまでの成功体験が通用しない可能性もあると思います。それでもうまく機能する背景などについても聞いてみたいです。


竹内やはり営業力が重要になりますね。既存のニーズに気づいていれば、問題が解決されているケースが多い。なので、まだ解決されていないニーズを見つけることは大切です。ただし、その時に難しいのは、ニーズが顕在化するのを待っているとタイミングを逃してしまう可能性があるということです。顕在化した時には手遅れな場合もあります。


そのため、少しでも潜在的に存在する可能性が確からしい場合、それを顕在化させるスキルが重要です。新規事業開拓においては、もちろんエンジニアリングのスキルが不可欠ですが、同様に営業力や共感獲得力も欠かせません。相手に自分の困りごとやニーズを理解してもらい、少なくとも初期の段階で共感を得るための営業力は、当社の事業変革や新しいマーケットへの挑戦において、非常に重要な要素となっていると感じています。


おわりに:一緒に働きたい仲間とは?


佐賀:事業経営にはさまざまな観点があり、一概に言えるものではないかもしれませんが、今求めている理想の仲間、一緒に働きたい方、あるいは自社に適していると感じる人材についてのお考えを伺えますか。


山口弊社はさまざまな事業が順調に展開しており、多岐にわたる職種の採用を行っています。これまでの経験から言えることは、20代から30代前半までに大企業でもスタートアップでも、ある程度の規模の事業、ビジネス全体がどのように回っているかを理解し、感じることが重要です。


そうすることで、数十人から数百人ぐらいで行われる事業において全体を俯瞰できるようになります。誰がどんな仕事をしているか、それを理解することで、自分がどのように他のメンバーと連携し、昇進した際にどうリーダーシップを発揮するか、また会社をどのようにデザインしていくかといった視点を持つことができます。


好奇心を持ち、妄想や創造を交えながらビジネス全体を把握できる環境であれば、パフォーマンスが向上し、具体的な行動が可能になるのではないかと考えています。現在の各事業も、数十人から100人、200人ぐらいのメンバーで構成されており、これらの経験は非常に価値があると思います。ですので、もし興味がある方がいれば、ぜひおすすめします。何か質問があればお気軽にどうぞ。


LITALICOの求人一覧はこちら


竹内基本的にはミッションに共感してくださる人が理想的だと考えています。モノグサは記憶を取り扱っており、この分野では弊社が世界でも唯一の存在かもしれません。弊社では選考過程で技術面接を各職種で実施しています。全員があらゆる職種でスキルを向上させることにこだわっている企業であり、その姿勢が魅力の一つなのかなと。ミッションに共感した先に、事業開発能力を築きたい人など、もしご興味があれば、ぜひ一緒にご参画いただけたらと思います。


モノグサの求人一覧はこちら


佐賀:ありがとうございました。

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