これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
「キャリナレ!PR編」の第1回では、ビビッドカーデンでひとりめ広報として会社の急成長を牽引した後、株式会社しんめの代表として、数十社のPR支援を行う下村彩紀子さんにお話を伺います。
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「ひとつの施策の反響が時空を超えてバイラルする」PRの魅力
喜多:まずは、下村さんのご経歴について教えてください。
下村:学生時代に保険などの営業をやっていたこともあり、営業からキャリアをスタートしました。新卒で入社したネオキャリアでは、法人営業を2年経験した後、採用部に異動し、2年半ほど新卒採用に従事しました。
その後2019年に、当時社員10名規模のビビッドガーデンに入社をし、責任者としてPRの立ち上げを行いました。そこで4年程勤務し、現在はPR支援事業を営む株式会社しんめの代表をしています。
喜多:営業や人事も経験した後、PRとしてキャリアを築こうと決めた経緯について教えていただけますか。
下村:最初は、ネオキャリアの新卒採用担当時代に、採用広報・採用マーケティングの文脈でPRに触れたのがきっかけです。
その後、自身のキャリアを見つめ直すために、実績あるクリエイティブディレクターや、PR経験者、マーケティング経験者など様々なプロの方に会いにいったのですが、その時に「コミュニケーション領域で社会との接続点になりたい」「新しい価値観をどうやって根付かせて、どのように関係性を維持していくのかに興味がある」という話をしていたら、「君のやりたいことはPRだよ」と周りの方に言ってもらって気づいたんです。
喜多:具体的にはPRのどのような点に魅力を感じていますか。
下村:ひとつの施策の反響が、360度いろんなところから返ってきて、バイラルして増えていくのがすごく面白いと思っています。
営業の頃は1対1でお客様に何かを売ることがメインでしたが、PRになると「より多くの方に知ってもらうには?」「より多くの方に買ってもらうには?」と考えるようになります。そこで企画したひとつの施策が購買、採用、問い合わせにつながることはもちろん、「母親がテレビで見た」と従業員から言われるなど、思わぬところから反響がくることもあるんですよね。
PR施策はストックされていくので、時には時空を超えることもあって、4年前に公開した記事がアクションにつながる、ということも珍しくありません。これは広告ではなかなかないですし、PRならではのやりがいだと思いますね。
「PR」「広報」って、結局何をするのか?
喜多:「PR」や「広報」はよく耳にするものの、定義や役割をよく知らない方も多いと思います。「そもそもPRとは・広報とは」から教えていただけますか。
下村:まず、PRは「Public Relations(パブリックリレーションズ)」の略で、「公共との関係作り」という意味です。この大きなPRという概念の中に、「広く報せる=広報」と、(あまり知られていませんが)「広く聴く=広聴」という機能が内包されているイメージを持っていただくとわかりやすいと思います。
「広報」は「より多くの方に知っていただくこと」で、「広聴」は、例えば「消費者・自治体・競合が市場や自社のことをどのように認知しているか」や「会社の代表や事業責任者が、いま事業をどう捉えているのか」を聞くことを指します。
これら広報・広聴を掛け合わせて、社内外のステークホルダーに正しく認識をしてもらったり、応援してもらったりすることを通して、自社サービスの購買や自社の採用エントリーといった企業価値の向上に最終的に繋げていくのがPRの役割と捉えています。
喜多:具体的にはどのようなことをするのでしょう?
下村:これは企業フェーズによってもかなり異なります。スタートアップの場合は、そもそも「知られていない」ことが課題であることが多いです。そのためSNS・オウンドメディア・プレスリリースなどでの情報発信を通じて自社を知ってもらう広報活動が多くなります。
例えば、私がスタートアップ企業のPRとして最初に注力していたのは「いかにメディアに取り上げてもらうか」ということです。より多くの方に知ってもらうためには、やはりオウンドメディアと自社SNSだけでは限界があり、数十万・数百万のリーチが狙えるメディアに掲載されることが重要です。そのためのニュースやネタを企画していました。
具体的な施策をあげると、物価高騰のトレンドがあれば、その文脈で報道に載るために、物価高騰への見解や生産者の生の声を発信するとか。また、密着系のバラエティに取り上げてもらうために、番組企画のオーナーと相談しながら代表のストーリーを作りこむとか。
喜多:既にあるものを取り上げてもらうイメージがありましたが、PRが積極的にコンテンツを作ることもあるのですね。
下村:スタートアップの場合は、そもそも発信するネタがないことも多いのでそうなります。一方で大企業だと、社内にネタはたくさんある場合が多いので、発信できる情報を収集しにいったり、ネタが上がってくる仕組みづくりをしたり、それらをどんな優先順位で発信すべきかを考えたりする仕事が多くなりますね。
また、会社が大きくなればなるほど、理想のイメージと実態に乖離が生まれやすいため、「あるべき認知を獲得するためにはどうすべきか?」を考え・実行していくことが重要になります。
PRは成果が見えにくい?自ら意義を立証しにいく重要性
喜多:PRは「やったほうがいい」と誰もが思う一方で、事業インパクトが見えづらく成果が測りづらいという側面もあるように思います。この点について下村さんはどうお考えですか?
下村:インパクトがわかりやすいのは、マスメディアに掲載された時ですね。テレビやラジオで流れると、そのタイミングで、瞬間風速的に問い合わせが増えたり、アクセスが集中したりするので、それを観測しています。長期視点でいえば、会社やサービスへの印象調査を定期的に行い、同じ問いに対する認識がどのように推移しているのかを測ることもあります。
これらは定量的な話ですが、定性面で状態ゴールを設定し、成果を自ら拾っていくことも大事です。
例えば、スタートアップの営業で、最初のアポにおいて「既に御社のことを⚪︎⚪︎で拝見して知っています」といってくださるお客様を増やすことを目標にします。事前情報がない状態と、お客様が既に前提知識を持っている状態で打ち合わせを実施するのでは、後者の方が受注確度や受注単価が上がりやすくなるはずです。
採用でも似ていて、採用候補者との初回面談時に自社を知ったきっかけを聞き、「PR記事を見た」や「知っている会社だったのでスカウトに返信しました」という回答があればそれはPRの成果と言えます。
他にも、「テレビ出演をきっかけに、家族が『この会社ってすごいんだ』というイメージを持ってくれて応援してくれた。その結果働きやすくなった」という社員の声を聞くこともありますね。
喜多:営業や採用の事例では、営業担当やスカウト担当の成果と思われがちですが、その背景にはPRの力もあるということですね。
下村:おっしゃる通りです。もちろんPRだけではなく他のチームと掛け算した結果ですが、自分たちが行った施策がどのような成果に繋がっているのかを、細かくキャッチアップしていくことはPRのアクションとして非常に重要です。
未経験でもこれがあれば活躍できる!PRに求められるスキル
喜多:ここからはPRの目指し方について伺います。そもそも下村さんのように、未経験からPRに挑戦する方は多いのでしょうか?
下村:多いと思います。PR経験者の人数が市場に少なく、未経験でも採用している企業が多くあるので、やりたいと思ったらチャレンジしやすい職種であると思いますね。
喜多:PRになる前の経験職種に、なにか傾向はありますか?
下村:スキルセットが似ているので、営業・人事出身でPRになる方は多い印象です。
まず営業であれば、逆算思考や人間関係構築力や突破力が活かせます。PRでも、ゴールから逆算して考えることや、初めましてのメディアに突然電話やメールをして、そこから掲載に繋げていくということがよくあるからです。
人事であれば、社外の人に向けて発信することが多いのはもちろん、採用候補者の興味・関心への解像度が高いので、その感覚は採用広報にダイレクトに活かせます。
ただ、それらに限らず、ライター出身の方やエンジニア出身の方などもいるので、「この職種だからPRになれない」ということはないと思います。
喜多:では、PR職についた後に活躍できる人に何か特徴はありますか?
下村:PRとして成果をだすうえで重要なのは、会社・事業への愛と客観的に会社を見る力を両方兼ね備えていることだと思います。
喜多:会社愛と客観視...。相反することのようにも聞こえますが、どういうことでしょう?
下村:「その会社や事業が世の中に広まるべきだ」と心底思えているかが重要なのは、みなさんも想像がつきやすいと思います。ただ、PRが本来やるべきことは「全く興味がなかった人に対して、良い印象を持ってもらうためのコミュニケーション構築」です。
好きなアイドルの話を懇々と語られても、興味がない人からするとつまらないのと同じで、前提の愛を持ちつつ、自社が「興味のない人たちからどう思われているのか」を冷静に理解できている必要があるんです。
他に、強いてスキルで重要なことを挙げるなら、「初めましてに臆さないこと」と「調整力」があります。
多くの人に会い、時には断られることも多い仕事なので、臆さずに行動できる方は相性が良いと思います。
また、優先順位が日々目まぐるしく変わるので、そこにスピーディーに対応する調整力も役立ちます。例えば、「突然テレビ番組から問い合わせが来て、2時間後に収録が入るかもしれない。
今日予定していた仕事より、そちらの方が優先度が高い」という状況になれば、全ての仕事を入れ替えて、社内の役職者クラスや経営メンバーを巻き込みながら、2時間後の収録にむけた調整を一気にかける、みたいなこともよくあるんです。
PR初級|とにかくプレスリリース&メディア関係構築に努めよ
喜多:未経験でPRになった場合、どんな仕事からスタートするのでしょうか?
下村:最初は発信屋さんとして「プレスリリースを打つ・SNSを運用する・メディアとの関係構築をする」に取り組むことが多いです。
私もそうでしたが、最初の半年は「とにかくプレスリリースなどで発信を行い、どうやってメディアに取り上げてもらうかを考える」ことがメインでした。始めた当時は、メディアとの関係値がゼロなので、メディアが多く集まるイベントの受付ボランティアスタッフに応募して、そこで出会った方と名刺交換をして、アポイントにこぎつけ、自社のサービスを知ってもらうことをやっていました。
メディア担当者との繋がりができたら、「どんなネタであれば興味をもってもらえるのか?」「こういうネタを作れば取り上げていただける可能性あるか?」ということを聞き、その情報をもとに、数ヶ月から半年かけて実際にネタを作って持っていきます。もちろん当たらない企画もあったので、こうしたことをトライアンドエラーで繰り返して、メディア担当者の解像度をあげていったのが初期のころです。
これを続けていくとだんだん「これは事業にどう活きるんだっけ?」「事業への貢献度はどうやって測れるんだろう」という議論になるので、私の場合はそこで初めて、SNSをウォッチしてUGCをチェックしたり、お客様の声を地道に集めたり、アクセス解析をしたりと段階的に分析にも手をだすようになりました。
もちろんこれは、スタートアップの初期フェーズのひとりめPRだった私の場合なので、既に会社の中でPR専任者がいたり、ある程度PRの基盤が整っている会社であればこの限りではないと思います。
PR上級|レベルアップするためのポイント3選
喜多:その後、PR上級者へとレベルアップするためにはどうすればいいのでしょうか。
下村:意識すべきポイントは3つあります。
下村:まず、「ハブになる」ことです。これは「この話題なら代表に」「この話はお客さんに語ってもらった方が説得感がますよね」というように、話題や意図によって話者をマネジメントするイメージです。
最初はPR自身が発信することも多いのですが、話者や切り口を変えて表に出ることで興味を持ってもらえる方の幅が広がります。それにPRが誰かからインプットしたエピソードを5で語るより、実際に経験した人が10で話す方が面白いですよね。
ただ、その取材をとりつけるためには、10のうち5は最低PRがしゃべれる必要があるので「社内の誰がどんなエピソードを持っているか」をきちんと理解することが大事です。
2つ目は、「発信するコンテンツを自分で作る」ことです。
PRの仕事から外れるように聞こえるかもしれませんが、PRが企画に滲み出すことで、「どういう発信をしたらどういう人がどんな反応をしてくれるのか」の解像度があがり、PRとしてのレベルアップにつながると考えています。
3つめは、経営者・事業責任者・事業メンバーに対して、「相手の村の言葉でしゃべる」ことです。
PRは専門性の高い職種なので、経営者や事業責任者であってもその理解度はまちまちです。そのため、相手が「普段追っているKPIは何か?KPIで使っている言葉は何か」を理解した上で、相手の目標達成に向けて「PRとしてどんなバリューが出せるか・どんなアシストができるか」を語るように気をつけています。
ただ「メディアに露出しています」と言うだけでなく、経営や事業の観点でのバリューを経営者や事業責任者クラスと対等に議論できる方は多くありません。だからこそ、このマネジメント・推進ができるとPRとしてはかなり上級者と言えると思いますね。
全職種を横断して動くからこそ、あらゆる領域で経験が活かせる
喜多:ここからは、PRからのキャリアの広がりについて伺います。PRからのネクストキャリアはどんなパターンがあるのでしょう。
下村:まず、最高コミュニケーション責任者であるCCOや、広報役員といった縦のキャリアがあります。PRは突き詰めていくと経営に近くなる感覚があります。先ほど上級者の例であげたような、「経営・事業視点でのPRのバリューを対等に議論できる力」がついてくると、経営者・経営陣という道も目指せると思いますね。例えばブルーボトルコーヒージャパンの取締役の方は、PR出身の経営者として有名ですね。
他の職種でいうと、マーケターや人事にキャリア転換している方は多いです。また、クリエイティブ要素を強めて、クリエイティブディレクター、コピーライター、編集者などにチャレンジしている方もいます。
(参考)ONE CAREER PLUSに集まる、広報・PRからの類似の転職体験談
【PR職での転職】
【営業・マーケ・企画などビジネス系職種への転職】
【クリエイティブ系職種への転職】
喜多:下村さん自身は、今後のキャリアをどのようにお考えですか。
下村:私は「PR視点で事業づくりができる人になりたい」と兼ねてから考えていたので、経営に近い領域に興味が強いです。そのため、独立をした今は、toB/toC、スタートアップ企業/老舗企業といった様々な会社の経営者と伴走してPR支援を行っています。この経験を通じて「事業に活きるPR」の解像度をもっと上げていきたいと考えています。
喜多:「PR視点の事業づくり」とはどういうことでしょうか。
下村:「社会にこういう価値を届けたい」から逆算して、プロダクトを考えていく」と捉えています。もちろん事業作りは、エンジニアやPdMといったプロの方もいますが、そうした方達と協業しながら、PRとしては「社会の変化や市場のニーズを捉えて、プロダクトやマーケティングのあるべき姿を考える」ことで事業側に入り込んでいく。これが理想のキャリアの歩み方だと考えています。
喜多:最後に、下村さんから読者にメッセージをお願いします。
下村:PRは全職種を横断して動き、影響範囲も広いので、とても面白い仕事です。「ピエロみたいな職種で何にでもなれるからこそ、色んな領域のアシストができるし、何にでも貢献できる」と私は考えています。飽き性な方や、自分で定義を考えて動いていきたいという方にはすごく向いている仕事だと思うので、興味を持った方にはぜひチャレンジしてほしいと思います。
喜多:ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?キャリナレ!では、今後も様々な職種を経験された方をお呼びして、経験された方にしかわからないキャリアのナレッジをたくさん聞いていきます。次回もぜひお楽しみに。