「君は俺に似ている。大物になる器がある」
新卒研修初日、役員にそう告げられた兼頭竜矢さん。その後、キーエンス史上最年少で本社抜擢を果たし、現在は株式会社ソロモンリサーチ&コンサルティングの代表取締役を務める傍ら、登録者8.5万人超のビジネスYouTuber「AIMITSU」としても活躍しています。
成果を出し続ける背景には何があるのか。兼頭さんは、泥臭い現場主義と、顧客との関係性を深める人間力、そしてツッコミ力だといいます。
日本最大級の営業の大会「S1グランプリ」とワンキャリア転職のコラボシリーズ「トップセールスの思考法」。今回は、圧倒的な成果を生み出す兼頭さんの営業哲学、輝かしいキャリアの裏にあったターニングポイントに、S1グランプリ代表の古瀬貴大さんが迫ります。
キーエンス史上最年少で本社に抜擢された理由
古瀬:まず兼頭さんのキャリアの原点について教えてください。新卒でキーエンスを選ばれたのは、どのような理由があったのでしょうか。
兼頭:実は入社前から「独立して経営者になる」という目標が明確にありました。そのためのファーストキャリアとして、3つの条件で企業を絞り込んだんです。「裁量権がある」「めちゃくちゃ稼げる」「海外経験ができる」の3つです。この条件に合致したのがキーエンスでした。当時年収ランキング1位だったことも決め手になりました。
古瀬:入社後、史上最年少で本社の営業戦略部門に抜擢されたと伺いました。圧倒的な成果はもちろんですが、何が評価されたとお考えですか。
兼頭:大きく2つあります。1つ目は「自己表現」です。入社時から「上に行く」「ここに行く」ということを周りにずっと言っていました。出世する人って能力が高いだけじゃなくて自己表現がうまい人だと思うんです。基本的なことを高い基準でできて、数字を上げられて、自己表現がしっかりできている。出世の条件としてこの3つが揃っていることが重要だと考えています。
2つ目は「組織への貢献」です。当時、競合企業がめちゃくちゃ安い商品を出してきて、どんどんシェアを取られていました。そこで私が競合対策を考えて「これやったら勝てます」と全国の営業にCCで発信したんです。それが採用されて実際に効果を上げました。
古瀬:とはいえ、異例の出世ですよね。
兼頭:抜擢してくれた役員の人は、研修の初日に「君は俺に似ている。大物になる器がある」とみんなの前で言ってくれました。それによって周りの目も変わったし、社内政治的な効果もあったと思います。
でも、なぜそう言ってもらえたかを考えると、ポテンシャルを見込まれたのだと思います。研修1日目なので何のスキルも見せていない。そのときに評価されたのは、スキルでも能力でもなく「根拠なき自信」だったんじゃないかと今振り返って思います。
現場主義できっかけを作り、人間力で大型案件を決める
古瀬:キーエンス時代で最も印象的だった大型案件について教えてください。
兼頭:自動車メーカー向けの装置を作っている会社との取引です。かなり規模が大きくて海外にも展開している会社でした。この会社の装置に競合の商品が組み込まれていて、同じようなモデルでも向こうの方が安いという状況だったんです。
そこを全て置き換えました。全120台、1個の単価が50万円くらいなので約6,000万円の受注を獲得しました。エリアの売上目標達成に大きく貢献できた案件でした。
古瀬:成功のポイントは何だったのでしょうか。
兼頭:準備で言うと「三現主義(※)」を常に意識していました。特に現場主義ですね。もちろん決裁者の方との人間関係も構築していましたが、なぜキーエンスでないといけないかという根拠を固めるには、現場で今の競合を使って起こる問題点を発見するしかないと思っていました。
そこで、決裁者だけではなく、組み立てをやっている現場の人全員にヒアリングをしました。それをまとめて、キーエンスの商品だったらこうなるというレポートを作成しました。それを提出したことによって、少しずつ風向きが変わってきました。
古瀬:どうやって現場に入り込んでいったのですか?
兼頭:これはちょっと特殊な方法なんですが、朝から晩まで喫煙所にいました。喫煙者の人からすると、タバコ休憩に行くと毎回僕がいる状況を作りました。
その上で、相手との共通言語を作りました。親会社の情報を調べて「A161の件なんですけど、最近どうですか」みたいな話をできるようにしました。初対面の人でも「あ、なんかこいつ分かってるな」と仲間として迎え入れられました。
そこから仲良くなって、相手から「兼頭さんは何を売ってる人なんですか」と食いついてくれたときに、レポートを見せて提案につなげていく流れでした。
古瀬:最終的な決め手は何だったのでしょう。
兼頭:最後は「人間力」だったと思います。もちろん現場主義で作ったレポートも刺さったんですけど、大型案件であるほど人間力で勝ってきました。実際に決裁者の方に「なんで決めてくれたんですか」と聞いたら、「兼頭さんやったらミスしても許せるわ」と言ってもらえました。
古瀬:大型提案となると顧客と付き合う期間も長くなりますし「人として付き合いたいか」は重要なポイントですね。人間力で勝つためには、何がポイントでしょうか?
兼頭:ブランディングとラポール(信頼関係)です。「ブランディング」とは「自分はこういう人間で、将来こういうことを実現したい」と自己表現することで、お客さまから応援してもらえる存在になることです。
ラポールの構築は、プライベートでもお客さまと仲良くなることが重要です。仕事の話以外もできる関係で、お客さまからかわいがってもらえる。そうした関係性がある上で、現場レポートのような実績が乗っかかり、受注につながったのだと思います。
(※)三現主義:現場・現物・現実の3つの「現」を重視して問題の本質を見つけることで、課題の解決につなげる考え方。
営業になぜ「笑い」は必要か。センス不要の「ツッコミ力」習得講座
古瀬:その「人間力」を構成する上で、兼頭さんが提唱されているのが「ツッコミ力」ですね。なぜ営業にツッコミ、つまり「笑い」が必要なのでしょうか。
兼頭:営業において人間関係構築が一番大事だと考えたとき、笑いほど緊張感をほぐすものはないんですよね。
よくトップセールスの話で思うのは、アイスブレイクの中に笑いポイントを作る人が強いということです。心理的安全性が確保できるからだと思うんです。心理的安全性が確保できた時に本音が出てきて、本音が出てくるからこそ本当のニーズが出てくるから売れるんです。
どんなに賢くても、どんなに知識があっても、そういう人たちに勝てない理由は人間関係構築という一点にあると思います。
古瀬:とはいえ、面白い話をするのはセンスが必要で難しいと感じる人も多いです。
兼頭:ボケはセンスが必要ですが、ツッコミは再現性があります。実際に私の個人向け営業コーチングでも笑いの取れるツッコミについて教えています。S1グランプリでも、ツッコミについてプレゼンしました。
古瀬:具体的に、明日から実践できる「ツッコミ」のコツはありますか?
兼頭:「抽象化→置き換え→映像化」の3ステップです。
S1グランプリで出した例ですが、だだっ広い会議室に通されたときに「広いですね」で終わる人と、ここで笑いが取れる人では営業成果が違ってきます。
さらに・・・







