これまで数多くの人が経験してきたにもかかわらず、何かとブラックボックスの多い「キャリア」。「キャリナレ!」では、キャリアをもっとオープンにするために、経験者にしか分からないリアルを解き明かし、キャリアナレッジとして集めていきます。
今回のテーマは、地方創生に関わるキャリア。ゲストは、株式会社Another worksで地方自治体向けの複業マッチングプラットフォームの責任者を務める犛山(うしやま)さんです。
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学生インターンからそのまま正社員へ
喜多:はじめに犛山さんの経歴を含めて、簡単に自己紹介をお願いします。
犛山:私は現在、株式会社Another worksにて、複業人材と地方自治体を結びつける「複業クラウド for Public」というサービスの責任者を務めています。
Another worksには大学2年次にインターン生としてジョインし、大学卒業後そのまま正社員として入社しました。インターン時代に複業クラウド for Publicの立ち上げに関わり、事業運営に関わって現在で3年になります。Another worksにジョインする前は、営業代理店での営業のインターンなども経験しました。
喜多:Another worksとは、どのように出会ったのでしょう。
犛山:代表の大林が書いたnote記事を読んだのが出会いのきっかけです。記事の内容から、Another worksが取り組む事業は、私が兼ねてから抱いていた「地元愛を体現できる人を増やしたい」という思いの実現につながるものだと感じました。
そこで代表大林に直接連絡をしたところ、連絡の翌日に面談を組んでいただき、その後すぐにインターンを始めることになったんです。
喜多:犛山さんが「地元愛を体現できる人を増やしたい」という思いを持っていたのはどうしてですか?
犛山:私は東京都稲城市のニュータウンで生まれ、自分の成長とともに町が活性化し、親世代が担い手となって町の文化がつくられていく様子を見てきました。
私の地元では夏祭りなどの地域行事や、スポーツチームの運営などの地域活動も盛んで、いつしか地元に対して強い愛と誇りを持つようになりました。そこから「いつか地元を離れても、地元愛を体現し続けたい」と思うようになりました。
一方で、東京一極集中社会と言われる現代では、自分の地元への愛を持ちながらも、都心で暮らしているために地元との関わりが持てなくなっている方がたくさんいます。そのことに課題感を持ち、誰もが場所的な制約に囚われず、自分の地元に対して価値貢献できる社会をつくりたいと思うようになったんです。
喜多:複業人材と地方自治体とのマッチングが、そうした課題への良いソリューションになると考えたんですね。
犛山:それに加えて、この事業は地方創生の良い打ち手になるだろうという確信もありました。
地方において、今一番必要なのは人手です。しかし全国的に進む人口減少を背景に、現在は各地で移住者の奪い合いが起きています。その中で、複業人材とのマッチング事業は、地方への移住は難しい人にも地方と関われる機会を提供することで、関係人口の絶対値を増やすことができるアプローチなんです。
また、地元から離れて暮らしているとどうしても地元に対するプライドや愛情の意識は薄れていってしまいますが、複業で地元と関わる機会を持ち続ければ、自分の地元を誇れる人が増え、それがゆくゆくは地方創生につながるだろうとも考えています。
「複業」の特徴は、仕事の目的が金銭報酬に限らないこと
喜多:「複業」という概念について、犛山さんの考える定義を教えていただけますか?
犛山:サブワークと呼ばれる「副業」と、パラレルワークと呼ばれる「複業」の一番の違いは、仕事の目的の多様性にあると考えています。
「副業」は基本的には副収入が目的の営みです。一方で「複業」の場合は、金銭報酬に限らず、自分のキャリアアップや、新しい仕事への挑戦、地元に対する価値貢献など、人によって様々な目的を持っているのが特徴です。
複業が普及することで、地方経済を回すために必要な生産労働人口が増加し、地元愛を体現する機会が創出できるのです。
喜多:複業を行う人の総数は、増加傾向にあるのでしょうか。
犛山:そうですね。複業は、今ある環境を大きく変えずともチャレンジできるのが大きな魅力の一つです。収入は本業で担保しつつ、+αで新しい経験を積みたい、自分の地元に何らかの貢献がしたいと考え、複業を始める方は近年非常に増えています。
地方が抱える最大の課題は、圧倒的な人不足
喜多:ここからは、地方創生というテーマをさらに深掘りしていきたいと思います。そもそも地方は現在、どのような課題を抱えているのでしょうか。
犛山:地方が抱える根本的な課題は、やはり圧倒的な人不足です。例えば、現在地方で一次産業の中心を担う方々の平均年齢は65歳を超えており、今後10年、20年で担い手が現れなければ産業が衰退してしまうフェーズに入っています。
地方が施策を打つ必要があるのはもちろん、都市部に住む人々もその事実を自分ごと化して何らかのアクションを取らなければならない、抜本的な意識改革が必要なフェーズだと言えます。
喜多:そうした課題に対して、地方では現在どのような施策が行われているのでしょうか。
犛山:各地の自治体が力を入れていることの一つが、移住施策です。
ただし、「近隣からどう人を呼び込むか」という考え方で移住施策を行っている自治体も多く、近隣の自治体同士でパイの奪い合いをしているだけで、根本的な解決になっていないケースも多く見受けられます。
個人的には、移住施策を成功に導くには、マーケティングの知見のある人材を巻き込み、きちんと戦略を立てて施策を打っていく必要があると思います。最近、行政の中でもCMOを置く自治体が増えてきているのには、そうした背景もあります。
地方で仕事をする際は、地域の方々との目線合わせが必須
喜多:ビジネスの知見を持った人が加わることで、より合理的に施策を進めることができると。
犛山:ただし、ただ外から優秀な人が来れば地域が変わるのかというと、むしろ変わらないことの方が多いんです。その原因は、外から来る方のマインドにあります。
地元の方々や自治体職員の方々は、地域に対する貢献の意識を強く持っています。その中で、例えば外から来た方がお金儲けだけを目的に活動していると、どうしても馬が合わなくなってしまうんです。
そこで良い効果を発揮するのが複業人材だと、私は思っています。複業人材は金銭報酬よりも地域への貢献や新たな経験の獲得などを目的にしている場合が多いため、地域の方々とも目線を合わせやすいんです。
実際、「複業クラウドfor Public」のプラットフォーム上には金銭報酬が発生しないボランティア案件もあるのですが、そうした案件にも多数の応募が寄せられています。金銭報酬の代わりにその地域の特産品が送られてくる案件も人気です。
喜多:仕事の実績づくりという面でも、複業は効果を発揮しそうですよね。
犛山:そうですね。独立や起業を視野に入れている若い方を中心に、行政案件に関わりたいと思っている方は多数いらっしゃいます。
「行政と一緒に仕事をした」「○○市のアドバイザーを務めた」というのは、希少で価値の高いポートフォリオです。現在はまだ官と民の間の壁が厚いことが一因です。
喜多:官と民の壁はまだ厚いとのことですが、地方自治体は複業人材の受け入れについてどう捉えているのでしょうか?
犛山:行政との協業はだんだんオープンになりつつあるものの、まだまだハードルは高いですね。
行政はどうしても前例主義的で、新たな取り組みの導入をためらう傾向にあります。加えて、終身雇用の文化が未だに根強く残っているため、外部の人が入ってくることに対する抵抗感も強いんです。
また、「複業」という考え方に対する馴染みも薄く、行政職員の方の中には「募集して本当に人が集まるのか?」という疑問を持つ方も多い印象があります。
私たちのプラットフォーム上でも、現在は受け入れ先となる自治体数よりも複業を希望する方々の人数が上回っており、受け皿を増やすのが目下のミッションです。
地方で今求められているのは、ビジネスに精通した人材
喜多:続いては、複業で地域や行政に関わるためのポイントについて伺います。まずは犛山さんの考える、複業で地方創生に関わるのに向いている人の特徴を教えてください。
犛山:社会性と経済性のバランスをうまく取れる人だと思います。
地方に興味のある方や、社会的意義を重視して行動する方は近年かなり増えてきていると感じます。一方で、その思いをうまくビジネスで実現できている人は、まだまだ市場には少ないのが現実です。そのため、社会性を持ちながらも地域の経済を回すことができる、ビジネスに精通した人材が、今は求められていると思いますね。
喜多:具体的に、地方で複業をする際に高い需要のあるビジネススキルには、どんなものがあるのでしょうか。
犛山:地方自治体においては、現在、広報人材とDX人材の需要が非常に高いです。
行政職員は一般的に、情報発信に苦手意識がある傾向にあります。なぜなら行政では公平性が強く意識されるため、パーソナライズされた情報発信はこれまで一切行われてこなかったからです。
しかし情報が溢れ返り、誰もが情報を取捨選択する今の時代では、パーソナライズされてない情報は市民にも届きません。そのため、情報発信のスペシャリストを求める声は多いですね。
DXに関しては、国から全国の自治体に向けて、2026年3月までにDXを抜本的に進めるよう指令が出されており、専門知識を持った人材の需要が急激に高まっている状況です。採用の予算も下りやすいため、どの自治体も採用に力を入れています。
もちろんこの二つに限らず、ビジネスに深く関わるキャリアを歩んでいる方は、地方では大きな価値を発揮できるんじゃないかと思います。
喜多:ちなみに犛山さんご自身は、今後のキャリアについてどのようにお考えですか?
犛山:複業クラウド for Publicをさらに社会性と経済性を兼ね備えた事業に成長させていきたいと思っています。
もう少し長い目線で言えば、複業という切り口以外でも、「地元愛を体現する」ことにつながる事業を生み出し続けたいです。例えばふるさと納税で寄付をするのも地元愛の体現の方法の一つですし、地元に貢献する手段は他にもたくさんあると思っています。
官と民をつなぐ「パブリック人材」の需要は、これからますます高まる
喜多:最後に犛山さんから一言、これから地域や行政に関わっていきたいと考えている人たちにメッセージをお願いします。
犛山:行政の市場は、人口減少に伴う予算の縮小で、マーケット自体は縮小している印象がありますが、中にはブルーオーシャンと呼べる領域もあります。これから大きく変化する可能性のある、先が読めない市場です。実際、行政ビジネスに参入する民間企業は昨今とても増えていて、官と民の両方を知っている翻訳者の需要が高まってきています。
私はそうした官民両方に精通した人材を「パブリック人材」と呼んでいますが、個人的には、パブリック人材が世の中にもっと増えて欲しいと思っています。そうすることで、官と民の壁が薄くなり、政治や地方行政、ひいては日本が抱える社会問題に当事者意識を持つ方が増えるのではないかと考えているからです。
皆さんにもぜひ、複業やふるさと納税などをきっかけに自分の好きな地域と関わりを深め、地方が抱える課題を少しでも意識してもらえたら嬉しいなと思います。
喜多:犛山さん、ありがとうございました!
「キャリナレ!」では、これからもさまざまな職種を経験された方をお呼びして、経験者にしか分からないキャリアのナレッジをたくさん伺っていきます。次回もぜひお楽しみに。
ライター:高野 優海
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