はじめに
ONE CAREER PLUSのキャリアアナリストが、皆様のお悩みや一般的な疑問にお答えする連載企画。
今回は、「地銀の法人営業からの転職、書類審査で苦戦しています」
という相談者さんからのお悩みです。
同じ法人営業への転職でも苦戦してしまう原因はどこにあるのか。
キャリアデータを知り尽くすキャリアアナリスト佐賀が、率直にお答えします。
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本日のお便り
ONE CAREER PLUSの佐賀です。
キャリアアナリストである私佐賀が、キャリアのお悩みに答えていくこの企画。
これまでONE CAREER PLUSに寄せられた相談や、一般的に皆さんが悩むであろうテーマを取り上げ、ラジオ形式で解決していく、シンプルなコーナーでございます。
本日のお便りはこちら。
ラジオネーム、とんこつ一筋さんからのお便りです。
初めまして、とんこつラーメンが大好きな「とんこつ一筋」です。
新卒入社した福岡の地銀から転職を考えています。
法人営業の経験が5年以上あり、次は場所を変えて、IT系企業で法人営業経験を積みたいと思っています。
既に複数社へ応募していますが、なかなか書類審査に通りません。
経営者の営業経験も多く、これまで自分なりに頑張ってきたつもりではあるので、正直面食らっています。
佐賀さんからのアドバイスをいただきたいです。
この件については、確かに私のもとにも、金融系の方、地銀だけではなくメガバンクや証券の方など、いろいろな方からご相談いただきます。
銀行の法人営業を経験したのにも関わらず、別の業界の法人営業に転職しようとすると、意外に書類選考で落とされるケースを確かに私も散見しています。
こういったことが起きてしまう理由について、とんこつ一筋さんのお悩みにお答えさせていただければと思います。
書類選考で落ちてしまう理由について、先に結論からお伝えすると、
- IT系企業と銀行で営業スタイルが違うこと
- カウンターパートに対してのパワーバランスが異なっている
の2点が書類選考で落ちてしまう理由だと思います。
苦戦理由① 営業スタイルの違い
銀行を含めた金融業界の営業スタイルは、提案できるソリューションの幅が広いことが特徴です。
融資や事業承継だけでなく、最近ではいわゆるSaaS系企業やベンダーの代理店営業や、ビジネスアライアンスを繋げたり、合同でのイベントの提案をしたりなど、様々なことを提案できることが銀行の強みです。
しかも、銀行は「お金を貸す」という企業の経営にとって重要な領域を担っているため、銀行からの営業を簡単に断ることはないという側面もあります。
そのため、銀行の営業スタイルとして、具体的なビジネスの方向性が定まっていない状況であっても、将来的なお取り組みの可能性がある経営者と関係性を構築して、何か出てきた時に相談してもらうような営業スタイルをとっている方もいるのが実態だと思います。
一方で、テック系などのIT系企業には、無駄な商談はなくしっかりと案件化していくことを重視している営業スタイルで、先述したような銀行の営業スタイルとは大きく異なります。
私が過去に担当した金融業界の方で、IT系ベンチャー企業の選考でフィードバックもらった際に、
「この方の営業スタイルは関係性営業であると見受けられました」
と返ってきたことがありました。
つまり、IT系企業の方からは
- IT企業:相手の課題を見つけ、そのソリューションを初回訪問から提案する営業スタイル
- 銀行:ビジネスチャンスが来た時のために、”関係性を継続すること”に軸足を置く営業スタイル
というイメージを持たれている場合があります。
これに関しては、「課題解決もしてる」「ソリューション営業してる」と思う金融業界の営業担当の方もたくさんいると思いますし、実態とは異なる側面もあると思います。
ただ、それが外部の人からはわからないというのも実態です。
苦戦理由② パワーパランスの違い
そして、もう一つがパワーバランスという点です。
昨今は低金利だったり銀行側の融資に対する積極性などの背景もあり、昔ほどではないにせよ、やはり銀行はお金を貸す側なので、交渉力が強いです。
例えば、アポイントを取るにしても受付にも無碍にされないですよね。
私も受電対応で銀行の方からのお電話を取り次いだことがありますが、やはり受電担当者としても、これは絶対経営陣に繋がなくてはいけない案件だと勝手に判断をしてしまうところはありました。
このようにアポが取りやすいとなると、
- アポイント獲得
- 営業での提案
- 商談でのクロージング
などの点においても、銀行で培ってきた実績や課題解決・提案スタイルは、「なくても明日ビジネスが回る」IT系商材を扱う営業と比較して、難易度が低いと思われてしまうケースがあります。
これについて、IT系企業で伸びているSaaS系のビジネスを例として詳細に説明すると、
今までは紙などで行っていた経理や労務などのバックオフィスの管理業務をソフトウェアで代替し、DXするというのがSaaS系の多いビジネスモデルとなっています。
「代替」という言葉に表れているように、昨日までも紙で何とかなっていたんですね。
それに対して
「こういう課題が今後生じるからDXしなきゃいけないんですよ。 」
「こんな非効率さが実は生じてるんですよ。」
といった課題にまずは気づかせて、提案する点が、ソリューションセールスとしてSaaS系の営業には必要になってきます。
中には、課題を認知・問題視していないクライアントもいます。
つまり、このSaaSといったような商材とかIT系商材っていったものは、
「なくても明日もビジネスが回るけど、あった方が良いですよ」
と、課題を気付かせてクロージングをするという営業スタイルが必要になります。
お金は昨日も今日も必要ですね。
もちろん、「今この瞬間はお金は必要ない」というシチュエーションがあって、それを課題想起している方もいらっしゃると思います。
ただ、それがやはり、業界外の人間からはわかりづらいのが実態です。
金融業界からの転職のポイント
ここまで金融系の営業スタイルと、ITテック系の営業のスタイルの違いを話す中で、
「もちろん金融業界の方も、こういうふうに課題想起していますよね」
とか補足を入れさせていただいたんですが、いやもう本当その通りだと思うんですよ。
「金融業界の営業が劣っている」「IT系の企業の営業の方が正しい」と言うつもりはありませんし、それは間違ってます。
どちらが偉いとかではないです。
ただ、業界やビジネスモデルが異なる部分、実態が他からはわからないんですね。
「こういうような懸念があるのではないか」
「前職で培っている強みは自社の中では再現できないのではないか」
という偏見を持たれているのです。
そのため、皆さんにとって重要なのは、
「自分自身の職務経歴書・経験を紐解いた時に、相手はきっとこう思ってくるだろう」
ということを認識した上で、その懸念点を払拭できる”カウンタートーク”を用意しておくことが重要となってまいります。
例えば、
「とにかく足を運んで仲良くなって、チャンスが出てきた時にに相談してもらってそこで初めてクロージングをする『関係性営業』になってるのではないか」
という懸念を持たれているとします。
これに対しては、
「自分自身から課題を見つけ、それに対して提案を行って、短期にクロージングまで結びつけた」
という、実績を上げた経験のエピソードを整理しておけば良いですよね。
また、
「お金を貸す側の方がパワーバランスが強いため、営業スタイルとして有利に立てていたのではないか」
という懸念を持たれるとします。
これに対しては、
- お客様との関係性の作り方
- 経営者からの信頼をもらい方
- 課題解決への伴走の仕方
など、提案過程の中での相手との関係作りやビジネスチャンスの広げ方についての内容を、解像度高く話せるようになっておけばOKです。
このような準備をして職務経歴の中に盛り込んでおいたり、エージェントを通す場合はエージェントにも「自分をこういうふうに売り込んでくださいね」と理解させたりすることができて、初めてしっかりと戦える土壌が整うかと思いますので、ぜひ皆さんも意識してみてください。
地方銀行からの転職先
地銀などの金融の方々の具体的な転職先については、IT系企業やコンサルティングファームなどが人気な傾向にあります。
その理由は、成長産業だからですね。
やはり「伸びている業界の中でキャリアを築いていくこと」を考えて、成長しているTechやコンサル系の企業に転職される方々が多くなっております。
先ほど、ご相談者のとんこつ一筋さんは、「IT系企業でなかなか書類が通りません」と書いておりましたが、実はIT系企業のSaaS企業にとって、地銀はとても重要な企業であるため、ちゃんとアピールできれば通る可能性もあるのではないか、と個人的に考えております。
この理由は、地銀は現在、SaaS系企業にとっての代理店のような役割も担っているからです。
例えば、サイボウズやGREE、マネーフォワードのような、日本を代表するSaaS企業は、全国の企業に対して、より一層自社の商材を提供していきたいと考えています。
ただ、自分たちが抱えている営業人員だけでは、全国津々浦々の企業に対して商材を届けることはできません。
そのため、「代わりにこの商材を売ってくれませんか、売ってくれれば何%御社に対してバックしますよ」というアライアンスの提携先を求める中で、営業代理店だけではなく、地方銀行に特化するSaaS系企業も増えています。
この理由は、地場に対して強いコネクション持っているからです。
地場の企業さんがお金を借りるときは、「地場に根ざしている地方銀行から借りる」という選択肢を強く持っておりますね。
そのため、”コネクションの強さ”を生かして、法人営業担当の方々に自社の商材について理解していただく、そして「もしもお取り組みをしている企業さんの中でDXに課題感があったり、業務の非効率さで困っていたりすれば、ぜひうちの商材を進めてください」という流れで、契約を結んでいるところが増えてきております。
そのため、もしかすると地方銀行で法人営業をやってらっしゃる方の中にはさ、
「商材提案したことあるよ」「企業のニーズ知ってるよ」
という方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。
こういった経験を生かして、
- SaaS企業のプロダクトセールス
- SaaS企業の中で代理店に対してアプローチをする代理店営業
に挑戦してみるキャリアパスもあるかと思いますので、ぜひ模索していただければと思います。
さいごに
さあ、いかがでしたでしょうか。
このコーナーでは、皆様からのお便りを大募集しています。
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また、佐賀や他のキャリアアナリストと直接話してみたいという方は、無料のキャリア面談も受け付けております。
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それでは、また次のラジオコーナーでお会いしましょう。
さようなら!