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【元P&G/キリン登壇】「ブランドマーケ→スタートアップキャリア」のリアルを徹底議論

ONE CAREER PLUSでは2023年7月より、顧客視点を軸にサービスやプロダクトを生み出し、多くの人々に届け、愛されるものにするための企画と実行を担う職種・ブランドマーケターにフォーカスしたイベント「ブランドマーケターのキャリア形成」を始動しました。マーケティング担当者のキャリア形成について考えたり、現役のマーケターやマーケティングに興味のある方たちが繋がる場として展開してまいります。


「スタートアップ」をテーマにした初回(2023/7/28開催)では、P&Gでブランドマネージャーとして活躍したあとにスタートアップの世界へ飛び込んだ、マネーフォワードでビジネスカンパニー 執行役員CMOを務める駒口哲也さんと、Tapitやロジレスといったスタートアップを次々と起業・軌道に乗せた西川真央さんの2人をゲストにお招きしました。


自身も大手企業からワンキャリアのマーケティング事業部へ転職した厚地峻一をモデレーターに、マーケターとしてのキャリア形成について幅広くインプットしながら、“ブランドマーケターがどのようなフィールドを活躍の場として広げているのか”、“マーケターがキャリアを作るうえで何を考えればよいか”などについてお話しいただきました。





“危機感”と“一度きりの人生”が、僕らをスタートアップへと導いた


厚地:P&Gといえば、マーケターのキャリアを積むには日本国内でも屈指の企業ではないかと思います。お二人はそこからなぜスタートアップへと進んだのでしょうか?


駒口:マネーフォワードの社長である辻庸介さんとCFOの金坂直哉さんに会って話してみたら、とても地に足がついていて、一緒に働くのが楽しそうだなと思ったのが大きな理由です。当時はスタートアップやベンチャーの知り合いがおらず、そういった勢いのある企業の人たちは夜の街でにぎやかに騒いでいる、自分とは合わない人たちだと思っていたので、めっちゃまともだなと(笑)。


厚地:めちゃくちゃ偏見ですね(笑)。





駒口:完全な偏見でしたね。もう一つの理由は、当時の自分の現状に対する危機感です。テレビCMや店頭POPなどを作ることでプロダクトの売り上げの約8〜9割が決まるような業界で働いていたので、Webマーケティングに対するコンプレックスみたいなものを持っていました。


Webマーケティングがさまざまな業界に波及していく中で、当時扱っていたプロダクトのターゲットの性質上、その波が到達するのが、全業界で最後のほうになるだろうと思っていました。いざ変わらなければいけない時代が訪れたときに、自分は世の中で一番使えない人間になっているのではないかという恐怖心を持っていましたね。


西川:僕の周囲で転職した人たちは、日本コカ・コーラや日本ロレアル、ユニリーバ・ジャパンといった自社の周辺領域を選ぶケースが多かったんです。それを見て、僕の中でそんな人生のレールがなんとなく見えてしまった気がして、そうじゃないほうを選び取りたいと思うようになりました。


これは、実家が寺であることが関係しているのかもしれません。寺は、死が身近にあるんです。なので、いずれ死んでしまうのであれば、生きている間にいろいろなことを楽しまないといけないという感覚は昔から強かったです。その結果、元々興味のあった起業に挑戦することにしました。失敗してもどこかに転職できるでしょうという楽観的な考えも背中を押した気がします。


厚地:FMCG(Fast Moving Consumer Goods:商品回転率が高い消費財。衣料用洗剤などの日用品)系の企業は長く時間をかけてキャリアを築いていくケースが多いと思うのですが、当時のP&Gでは、転職は一般的な選択肢だったのでしょうか?



駒口 哲也(株式会社マネーフォワード ビジネスカンパニー CMO)

東京大学大学院を卒業後にP&Gジャパン合同会社に入社し、日本とシンガポールオフィスにてプロダクト戦略策定やブランドマネジメントに従事。2018年に株式会社マネーフォワードへ入社。家計簿アプリ『マネーフォワードME』のPMM、『マネーフォワード クラウド』の経理財務領域事業統括を経験。現職では同社のマーケティング全体を統括。


駒口:P&GはFMCG系の企業ですが、キャリアの考え方という意味では外資系企業の色が濃かったと思います。裁量や予算規模の大きさ、短期間でのブランドマネージャーへの登用などに魅力を感じて集まった社員が多いので、仕事のスピード感も早く、その先には転職があるという考えはほとんどの人の頭の中にあったはずです。



ブランドマーケターして築き上げてきたスキルの活かし方


厚地:次にブランドマーケターとしての強みの話題に移ります。私はワンキャリアに転職してから4ヶ月が経ちました。今までマーケティングマネージャーというポジションがなかった未成熟な状態のところに入り、ないものを整備しながら事業を前進させる難しさを感じています。また、同じマーケティングといっても、キリン時代はどちらかというとフィジカルでモノを軸にした考え方でしたが、ワンキャリアではWebが軸です。マーケティングの種類やフェーズの違いなどもあり、これまで培ってきたスキルの90%以上が通用していないような肌感覚なんです。


駒口:私も似たような状況だったので分かります。マネーフォワードに入社するまで、SEOという言葉さえ知らないくらいWebマーケティングに疎かったですから。ブランドマーケティング寄りの仕事をしていたのですが、今の業界で狭義の”マーケティング”にダイレクトに通用するHOWスキルは1〜2割だと思います。


むしろブランドマネージャー、ブランドマーケター系の仕事をしている方々の一番の強みは、課題発見力とプロジェクトマネジメント力、さらには他部署の巻き込み力だと思っています。私の印象では、そこを全く活かそうとしないでキャリアを作ろうとしている方がけっこう多いです。


厚地:駒口さんはそのスキルを活用できていますか?


駒口スタートアップは仕組みができていないことが多いので、事業上必要で、かつ自分が得意な領域の業務であれば、手を挙げたらガンガンやらせてもらえます。僕はマネーフォワードに入社当初は社長室にいたのですが、プロダクトと集客の間のつなぎこみが弱く、PDCAを回せていないと気づいたことがありました。

そこをカバーしていくために、社長に「明日からPMM(Product Marketing Manager)になります」と宣言して、やらせてもらったりしていました。2018年ごろの話なのでアメリカではPMMという役割が登場しはじめていましたが、日本ではまだ「何それ?」みたいな時期だったと記憶しています。一連の行動は、これまでに培ってきたことを活かせる環境づくりの一つだと思います。


“こうあるべき”の鎖を外し、スタートアップへ飛び込もう


厚地:P&Gのマーケターから次の領域へと進まれたお二人は、これからマーケターのキャリアを作っていく若い方々にどのようなアドバイスをしますか?



西川 真央(起業準備中)

2010年にP&Gジャパン合同会社に入社。マーケティング本部にてアシスタントブランドマネージャーとして勤務。2012年に株式会社Tapitを創業し、受託開発・コンサルティング・ECなどを行う。2017年に、EC物流系スタートアップの株式会社ロジレスを創業。シリーズAまでCEOとして従事したのち、2021年末に退任。休養期間を経て、現在は次の起業に向けて準備中。


西川:今振り返ると、20代の頃は「こうならないといけない」とか「こうあるべきだ」という考え方に囚われがちだったなと思います。30代になって、給与やポジションと人生の幸せががっちりリンクしているかというとそんなことはないと思うようになりました。


もちろん限度はあります。家族が困っているけれどやりたいことをできているから良い、というのは違いますよね。スタートアップに転職するとして、伸びてる、雰囲気がイケてるという軸よりも、事業の魅力や、企業の求めている能力が自分に備わっているとか、起業家の人となりなど、いろいろな観点で企業を見ると良いと思います。


駒口:スキルの棚卸しは役に立つと思います。先ほど挙げたマーケターが磨き上げてきた課題の発見や言語化、構造化といったスキルは、皆さんの想像以上に他業界や違うフェーズの企業でも効果を発揮するポータブルスキルです。


ただ、それを面接で説明してもなかなか伝わらないのも事実。入社時のポジションや給与に固執するのではなく、入社後の取り組みや結果を通して、信頼を勝ち取る。給与・賞与やポジションを掴み取っていくには、そのプロセスが必要だと思います。


あとは、可逆性・不可逆性を意識した意思決定も大事です。例えば、スタートアップに転職するときに年収が下がることもあると思います。それをリスクとした場合、自分が今引き受けようとしているリスクは可逆性のある意思決定なのか、それとも不可逆なのかを考えてみるのもおすすめです。


可逆性のあるものならば一歩踏み出してみて、もしも思っていたものと違うと判断した場合は引くというキャリア選択もあります。私もマネーフォワードに入社した当時は給料を下げて転職したのですが、可逆性のあるものと考えていたので大したリスクは引き受けていないと気楽に考えることができました。



厚地 峻一(株式会社ワンキャリア マーケティング事業部 ブランドマネージャー)

慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2015年にキリンホールディングス株式会社へ入社。キリンビールおよびオーストラリアの事業会社にてブランドマネージャー・マーケティング戦略企画などに従事。2023年4月より現職。主に新卒領域のマーケティングを統括している。


厚地:お二人はスタートアップへの転職でリスクを取ったと感じていますか?


西川:リスクに関しては、仕事面と人生面の二つがあると思っています。仕事面は、うまくいかなかったらどうしようとか、年収が下がってしまったとかいろいろありました。当時の僕は辞めましたが、上手くいかなくてもまだ20代後半だし、外資系のマーケターとして、またどこかに転職できるのではないかぐらいの、受け入れられるリスクでした。


人生面だと、 「あのときやっておけばよかった」と一生後悔し続けるほうがリスクだと思ったので、会社を辞めて起業の道を選びました。


駒口:キャリアが見通せている中で、給料を下げてまでよく分からない会社にキャリアチェンジすることは一般的にリスクと認識されると思います。義父がちょうど上場したてのマネーフォワードについて調べて、赤字だったのを見て「本当に大丈夫?」と連絡してきたぐらいだったので(笑)。


ただ、実際にリスクを引き受けていたかというと、そもそもこのキャリアチェンジにリスクはなかったと考えています。仮に新しい会社でうまくいかなければ、戻るという選択肢もある。居続けることにもリスクはあると思っていましたから。





マーケティング担当者が中途入社先での現場解像度を上げるには


厚地:会場の方から質問をいただきました。「総合職での新卒入社の場合、セールスからマーケティングになる過程で現場の解像度を高めることができるのは良い機会だと思っています。一方、マーケターとして中途入社した場合、新しい業種の現場感をキャッチアップするのに苦労します。どのように現場の解像度を上げていけば良いでしょうか?」


駒口:私は今、約200名程の労務領域の組織の責任者を担っているのですが、人生でセールスもカスタマーサクセスも開発も1回もやったことはなく、SQLすらろくに書けないですし、社労士資格も持っていません。


けれども、本当に解決すべき課題を見極める力だったり、情報収集して整理し、概念化する力、そのアクションに向けて動くうえで障壁を取り除く力などはP&Gでとても学ばせてもらったと思っています。


それを踏まえて、自分にドメインの知識がないならば、頼れるメンバーと共に一緒に動くとか、チームで解決していけば良いんじゃないかなと思います。


もちろんヒアリングを通じてユーザーへの解像度を高めていますし、そこから課題が見えてきたり、マーケ的な嗅覚が反応することもあります。ただ、「これだ」と思い込まないことが大事です。自分が一番分かっていると思っているのはよくない。チームで本当の課題を深掘りできるような仕組みを作るように気をつけていて、今のところある程度うまくできています。


厚地:ありがとうございます。私は今、学生向けに新卒採用のマーケティングに取り組んでいますが、解像度では部下に歯が立ちません。部下は大学を卒業して時間がそれほど経っていなかったり、さらには大学生のインターンもいるので、ユーザー理解の解像度の高さや現場感では到底勝てないと思っています。


それに加えて、消費材のモノの世界からWebに飛び込んできたので、スキルも全く通じない中にいると感じています。しかし、唯一自分が発揮できるバリューは、組織やチーム全体を俯瞰して課題を発見する力と、仕組みや構造を把握する力だと思っています。


もう1問届いています。「入社4ヶ月の新卒1年目です。マーケティング領域のSaaSの営業をしています。仲間数名が学生起業したり、新卒で起業したり、同世代がその道に進む一方で、自分は起業しようかと思いつつもどうしても踏み切れません。一旦マーケティングの知識を学ぶために仕事に専念していますが、いずれは起業したいという思いがあります。その思いに、どのような要因が加わると起業につながるのでしょうか?」


西川外部要因が加わると起業のきっかけになると思います。僕の場合は、海外転勤の話が出たことが起業に踏み切るきっかけになりました。ただ、外部要因がきっかけではあるけれど、長年の蓄積がなかったら起業していないと思います。



2人の未来 〜日本の生産性向上への寄与と再びの起業〜


厚地:最後にお二人の今後のキャリアについて教えてください。


駒口:マネーフォワードクラウドをバックオフィスに導入すると、特に中小企業などでは生産性が10〜20%ぐらい向上することもあります。仮に日本にある中小企業・中堅企業の全てに導入されたら、結果として日本の生産性が10%くらい上がるなと。これくらいのインパクトを出せる会社はほとんどないですし、今マネーフォワードでそういった大きなチャレンジができている実感があるので、これをやりきりたいと考えています。


西川:また起業しようかなと思っています。起業するのはキャリアとして大変な道なのかもしれませんが、企業に属してマーケティングに携わるのは違うなと思っています。マーケティングという専門性が自分の中でだんだん薄まってきていてその役割は僕ではないという感覚がありますね。



「ブランドマーケターのキャリア形成」にご興味のある方へ


vol.2の開催を今秋(冬)に予定しております。開催情報は以下のページにてお知らせします。なお、参加をご希望の方のお申し込みは「ONE CAREER PLUS」への登録が必要です。



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