NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの通信大手3社が、2025年度(2026年3月期)の連結決算を相次いで発表した。
3社いずれも売上高は増収を確保した一方、利益面ではドコモが減益、KDDIとソフトバンクが増益と明暗が分かれる結果となった。ドコモは販促強化とネットワーク投資の前倒しで「先行投資の年」となり、KDDIは前中期経営計画の最終年として実力ベースのEPS目標を達成、ソフトバンクは売上高・営業利益・純利益・プライマリーFCFのすべてで過去最高を更新し、営業利益はついに1兆円の大台を突破した。
通信主力事業ではモバイル収入の回復基調が3社共通の現象となったが、ARPU(1契約あたり月額収入)やMNPの動向には濃淡がある。さらに3社とも、決算の主役を「通信」から金融、DX、AI、エネルギーといった「非通信領域」へと急速にシフトさせている点が、今回の決算の大きな特徴だ。本稿では、ビジネスパーソンに必要な論点を業績、通信主力事業、非通信・新規事業の3軸で整理した上で、ワンキャリア転職に寄せられた社員クチコミから3社のカルチャーや処遇のリアルにも切り込む。
- 1.売上・営業利益の比較――「3社増収・2社増益」の構図
- 2.通信主力事業の動向――モバイル収入は「反転」「成長加速」「KPI開示の刷新」
- 2-1.ドコモ:MNP下期プラス化と「モバ通収入の底打ち」
- 2-2.KDDI:モバイル収入は4年ぶりに「2兆円台」へ
- 2-3.ソフトバンク:通信は「安定成長」、KPI開示を全面刷新
- 3.非通信・新規事業――「金融」「AI」「DX」「エネルギー」の四つ巴
- 3-1.ドコモ:スマートライフが営業利益+29.6%、住信SBIネット銀行を取り込み「金融事業」を中核に
- 3-2.KDDI:金融CAGR二桁、DXも二桁成長、ローソン取り込みでお客さま接点拡大
- 3-3.ソフトバンク:「Activate AI for Society」――1.7兆円営業利益・1兆円バッテリーへ
- 4.2026年度業績予想と中期展望
- NTTドコモ
- KDDI
- ソフトバンク
- 5.社員クチコミから見る通信3社――決算では見えない「現場の温度差」
- 5-1.年収と評価制度――KDDIが3社中トップ、ドコモは「評価納得度」に課題
- 5-2.企業文化――「安定の組織人ドコモ」「フィロソフィのKDDI」「挑戦のソフトバンク」
- 5-3.強み・将来性とキャリア観――非通信シフトを「現場」はどう見ているか
- 5-4.成長環境――ソフトバンクが20代の成長実感で頭ひとつ抜ける
- 6.まとめ――投資の年か、収穫の年か、変革の年か
- ワンキャリア転職のご紹介
1.売上・営業利益の比較――「3社増収・2社増益」の構図
まずは3社の連結業績を一覧で確認する。会計基準はいずれもIFRSであり、決算期もそろっている。
※1 KDDIの実力値は、架空循環取引に伴う外部流出額(25.3期105億円、26.3期171億円)と契約コスト減損(26.3期482億円)を除いた数値。
注目すべきは、売上規模でソフトバンクが7兆円台に到達し、3社中トップに浮上した点だ。ソフトバンクは「過去最高」を売上高と純利益、プライマリーFCFの3指標で記録しており、営業利益も初の1兆円超え。同社の宮川潤一社長CEOは前中期経営計画(2023年5月発表)の財務目標を2度の上方修正を経て上回って達成したと総括した。23年5月公表時の営業利益目標9,700億円に対し、実績は1兆426億円と700億円超のオーバーシュートである。
KDDIは、3月期決算で連結売上高6兆円超え、営業利益1兆1,000億円超えという通信業界トップクラスの水準を維持。実力ベースでの当期利益は7,567億円(前年比+13.6%)と二桁成長を達成し、前中期経営計画で掲げた「19.3期比EPS1.5倍(=194.38円)」を実力ベースで上回り、最終EPSは196.46円となった。報告ベースの数値には三井物産との架空循環取引の外部流出影響や契約コスト減損が混じるものの、本業の事業成長による稼ぐ力が確実に増していることを示した格好だ。
一方、ドコモは増収減益となった。営業収益は6兆4,581億円(前年比+2,450億円、+3.9%)と確実に伸長したが、営業利益は9,421億円(▲785億円、▲7.7%)に着地。さらに2026年度業績予想でも営業利益9,430億円(+0.1%)と、ほぼ横ばいの計画にとどまる。当期利益は2025年度6,602億円、2026年度予想6,270億円とむしろ減益見通しだ。ドコモは2024年6月の前田義晃社長就任以降、「販促強化」と「ネットワーク強靭化」の2軸に戦略的なリソース集中投下を続けており、コンシューマ通信では販促費用の積極投下によって対前年で大幅減益(▲1,665億円、▲35.3%)となった。短期的な利益を犠牲にしてでも顧客基盤を建て直すという、攻めの先行投資が業績に表れたかたちと言える。
総括すると、「3社増収・2社増益」という構図のなかで、ドコモが踊り場、KDDIが着実な成長、ソフトバンクが過去最高――と、各社の置かれているフェーズの違いがくっきりと浮かび上がる決算であった。
2.通信主力事業の動向――モバイル収入は「反転」「成長加速」「KPI開示の刷新」
2-1.ドコモ:MNP下期プラス化と「モバ通収入の底打ち」
ドコモはここ数年、楽天モバイル参入後の値下げ競争で苦戦してきたが、2025年度にはMNP(番号ポータビリティ)の下期プラス化とARPUの対前年プラス定着を達成した。新料金プラン「ドコモMAX」は2025年6月の開始以降、わずか9カ月で300万契約を突破し、2026年度は500万契約以上を目標とする。これによりARPUは4,100円(前年+20円)まで上昇しており、2026年度は対前年+50円を計画している。
モバイル通信サービス収入の減収幅も急速に縮小しており、2025年度の減収幅は▲299億円、2026年度は▲153億円と「底打ち間近」(同社)の局面に入った。コンシューマ通信は短期的には減益(25年度▲1,665億円)だが、2026年度は▲466億円まで減益幅を圧縮する計画。ネットワーク面では2025年度に5G基地局を6,800局(+15%)増強し、4G周波数の5G転用も加速。Sub6エリアの拡大、主要都市中心部の96%で100Mbps以上を記録、主要鉄道路線の通信品質改善(山手線で23年度比+77%のスループット向上)など、体感品質の改善を全面に押し出している。
2-2.KDDI:モバイル収入は4年ぶりに「2兆円台」へ
KDDIのパーソナルセグメントベースのモバイル収入は、23.3期1兆9,623億円、24.3期1兆9,566億円、25.3期1兆9,727億円と踊り場が続いていたが、26.3期に2兆54億円へと一気に押し上げた。アクセスチャージ(AC)影響を除いた実質ベースでも前年比+約500億円の増収であり、構造変革の成果が数値に表れている。
KDDIが他社に先駆けて取り組むのが「価値創出」型のモバイル戦略である。Opensignalの直近評価で「つながる体感No.1」を獲得(一貫した品質と信頼性エクスペリエンスで国内主要MNO4社比、2026年4月時点)したほか、KDDIはイーロン・マスク氏のSpaceXと組んだ衛星直接通信「au Starlink Direct」を展開し、接続数400万人を突破、累計利用者数は約250万人に達した。ARPUは4,440円(YOY+100円)と国内トップクラスの水準を維持しつつ、スマートフォン稼働数は3,323万契約(YOY+36万)と着実に増加した。
2-3.ソフトバンク:通信は「安定成長」、KPI開示を全面刷新
ソフトバンクのコンシューマ事業の通信サービス売上は、23年度1.52兆円、24年度1.57兆円、25年度1.59兆円と毎年着実に増加。営業利益はコンシューマ事業で5,508億円(前年比+4%)を確保した。
さらに2026年度から開始する新中期経営計画では、事業セグメントの開示を「通信/ソリューション/クラウド・AI」へ刷新する。これまで「エンタープライズ事業」のなかで一括開示されていたAI計算基盤やAIデータセンターは、新たに「クラウド・AI」セグメントとして切り出され、企業価値評価がしやすい構造へと変更される。エンタープライズ事業の売上は2025年度1兆29億円。2030年度に向けては、クラウド・AI領域(2025年度2,437億円)を倍増、ソリューション等を年平均成長率10%で成長させ、事業全体としても倍増を目指す――と、明確な成長路線が示された。
3社に共通するのは、(1) モバイル収入の反転・回復、(2) ARPUの上昇、(3) ネットワーク品質の前面押し出しの3点だ。値下げ競争に終止符が打たれ、各社とも「価値を上げて稼ぐ」フェーズへ転換しつつある。
3.非通信・新規事業――「金融」「AI」「DX」「エネルギー」の四つ巴
今回の3社決算で最大のテーマは、収益ドライバーが「通信」から急速に「非通信」へ移っている点である。それぞれの新規事業の進捗を見ていこう。
3-1.ドコモ:スマートライフが営業利益+29.6%、住信SBIネット銀行を取り込み「金融事業」を中核に
ドコモのスマートライフセグメントは、2025年度に営業収益1兆4,327億円(前年比+16.7%)、営業利益3,027億円(同+29.6%)と高成長を実現した。けん引役は金融事業で、収益は4,483億円から5,965億円へ+33.0%の急成長。住信SBIネット銀行の連結化影響(営業収益+918億円、営業利益+88億円)と、dカード PLATINUM(2024年11月開始、2025年10月に100万契約突破)、dカード契約数および単金の拡大などが寄与した。
ドコモは2026年7月に金融事業を再編し、「NTTドコモ・フィナンシャルグループ」として事業を開始する予定だ。住信SBIネット銀行は同年8月に「ドコモSMTBネット銀行」へ商号変更予定で、決済(d払い・dカード)、銀行、証券(マネックスHD)、保険、融資を一気通貫で提供する陣容を整える。長期目標として、2030年度にスマートライフ事業の営業収益を2.4兆円(うち金融は1.2兆円)へ、25年度比で金融収益を倍増させる計画である。
法人事業も着実に拡大しており、営業収益は1兆9,027億円→2兆246億円(+6.4%)、特にインテグレーション/プラットフォーム領域は9,920億円→1兆1,238億円(+13.3%)と二桁成長。大企業向けDX/セキュリティビジネスや、中堅中小層のGIGAスクール案件などが収益を押し上げた。「docomo business」ブランドを冠した4サービス(RINK、SIGN、APN Plus、ANCAR)も2025年9月以降に相次いで投入され、2030年度の法人売上2.6兆円を目指す。
3-2.KDDI:金融CAGR二桁、DXも二桁成長、ローソン取り込みでお客さま接点拡大
KDDIは前中期経営計画(23.3期-26.3期)の振り返りで、金融事業(auフィナンシャルホールディングス)のCAGR二桁成長達成を成果として強調した。金融営業利益は23.3期195億円から26.3期432億円へと2.2倍に拡大しており、通信とのシナジーで顧客基盤を着実に広げている。
DX(ビジネスセグメント)の営業利益は、23.3期1,915億円→26.3期2,639億円(+290億円、想定通り)と二桁成長で推移。セキュリティや堺AIデータセンターといったケイパビリティ拡充も並行して進めており、次期中計に向けた事業基盤が整いつつある。エネルギー事業についても、燃料費変動に強い構造への転換を進め、ローソン連結化(24年に三菱商事と共同出資)でお客さま接点が大幅に拡大した。エネルギー+ローソン領域は前期比+286億円の二桁増益となり、価値創出のベースとなっている。
KDDIは前中計のEPS目標を「実力値で達成」した一方で、通信障害や不適切取引(架空循環取引)について再発防止を全社で徹底すると松田浩路社長CEOが表明した。「グループガバナンス推進本部」を新設し、CFOが本部長を兼務するなど、ガバナンス体制を一新する。グループ全体での実効性ある統治を強化し、戦略子会社14社への経営トップ訪問や対話セッションを27.3期上期に計画している。
3-3.ソフトバンク:「Activate AI for Society」――1.7兆円営業利益・1兆円バッテリーへ
3社のなかでもっとも「非通信」シフトが鮮明なのがソフトバンクだ。同社の新中期経営計画は「Activate AI for Society」を掲げ、2030年度に連結営業利益1.7兆円(年平均成長率10%)、連結純利益7,000億円を目指す。配当は26-30年度に継続的な増配を目指し、純利益7,000億円達成時には1株当たり配当10円を目線とする方針だ。
セグメント別の成長ぶりも目を見張る。ファイナンス(PayPay等)の営業利益は417億円→863億円と前年比+107%の倍増を達成。エンタープライズも1,703億円→1,924億円(+13%)と二桁成長を続け、コンシューマも5,304億円→5,508億円(+4%)と安定的な伸びを示した。一方、メディア・EC事業は2,588億円→2,404億円(▲7%)と踊り場にある。
AI領域では、国産大規模言語モデル「Sarashina」を業界・個社別モデル(金融特化、電力特化、自動車特化、政府・行政特化)に展開して収益化を狙う。さらに2026年サービス開始予定の「Crystal intelligence」は、社長・役員から営業・運用・経理に至るまで企業内のAIエージェントを束ねる「AIオーケストレーター」と位置づけ、企業経営そのものを変革する商材として打ち出した。
インフラ面では、シャープ堺工場跡地を活用した大阪堺AIデータセンターを中核拠点に位置づける。AIデータセンター、次世代メモリ/GPUサーバー、AI-RAN、HAPS/衛星といったハードを担う「AXファクトリー」と、革新型バッテリーや太陽光パネルを製造する「GXファクトリー」を併設する構想だ。
GXファクトリーでは、COSMOS LAB(韓国発・亜鉛ハロゲン化物バッテリー技術)、DeltaX(CCS設計・CTP技術)と協業し、2027年度に量産開始、2028年度にギガワット時規模の量産を目指す。国産バッテリー事業は2030年度に1,000億円以上の売上を見込む。決済領域ではVisaと2026年2月に戦略的パートナーシップを締結し、PayPayカード・PayPayカードゴールド・PayPay銀行ボードの3機能をVisaに集約。NFC・コード決済両対応のデジタルウォレットでグローバル展開を狙う。
非財務目標も注目される。実質再生可能エネルギー比率(自社使用電力)は2025年度に54%となり、当初目標の50%を前倒し達成。2030年度100%目標は新中計の非財務目標として置き換えられる予定で、AI時代の電力インフラと脱炭素を両立させる戦略の本気度がうかがえる。
4.2026年度業績予想と中期展望
NTTドコモ
2026年度の業績予想は、営業収益6兆8,210億円(+5.6%)、営業利益9,430億円(+0.1%)、当期利益6,270億円(▲5.0%)。スマートライフ+2,573億円、法人+954億円という「成長領域」での増収が、コンシューマ通信の踊り場をカバーする構図だ。中期財務目標(2030年度)はスマートライフ+法人で合計5兆円、EBITDA2兆円、ROIC(金融除く)11.4%を掲げる。
KDDI
KDDIは決算発表と同時に新中期経営計画を策定中で、ローソン連結化、堺AIデータセンター、Starlink Directなど次の成長ドライバーが揃いつつある。前中計で構築した事業基盤を起点に、次期中計でいかにAI/DCシフトを加速できるかが論点となる。
ソフトバンク
ソフトバンクは新中計「Activate AI for Society」で、AIインフラ、AIサービス、ファイナンス、メディア・ECの4領域を成長ドライバーに据える。配当方針も増配を明示し、株主還元と成長投資を両立させる姿勢を打ち出した。
5.社員クチコミから見る通信3社――決算では見えない「現場の温度差」
ここまでIR資料に基づく定量的な分析を見てきたが、3社の事業戦略は最終的には「人」が動かす。ワンキャリア転職に寄せられた現役・元社員のクチコミからは、財務数値の裏側にあるカルチャー・処遇・成長環境の違いが浮かび上がる。
さらに・・・



