「1年間契約ゼロで『長期無実績社員』として支店に名前を貼り出されました」
そう振り返るのは、株式会社Omoitsuki代表のせら課長。現在はX(旧Twitter)を起点に累計1.5億円以上を売り上げるSNSコンサルティング会社の経営者として活躍しています。
しかし、その輝かしいキャリアの原点には、新卒で入社した不動産会社での壮絶な営業経験と、その後の製薬会社で経験した再度の”どん底”がありました。
「才能もなければ、話すのも本当に苦手だった」というせら課長は、いかにして2度の逆境を乗り越え、トップセールスへと駆け上がったのか。そして、営業で培ったスキルをキャリアにどう活かしてきたのか。
日本最大級の営業の大会「S1グランプリ」とワンキャリア転職のコラボシリーズ「トップセールスの思考法」。豊富な経験・実績を持つ営業のエキスパートから、成果を出すためのノウハウやキャリアづくりの秘訣を伺います。
第4回は、「どうしたらできるか」思考で道を切り開いてきたせら課長のキャリアに、S1グランプリ代表の古瀬貴大さんが迫ります。
原点は1年間契約ゼロ。新卒で味わった"どん底"
古瀬:まず、せら課長のキャリアの原点について教えてください。どのような経緯で営業の道に進まれたのでしょうか。
せら課長:実は、特に強い意志があったわけではないんです。大学を卒業するとき、やりたいことも特になく、就活も全然やってなくて。大学4年生の12月という本当に卒業間際のタイミングで、まだ募集していたのが、新卒で入った会社です。
不動産営業の仕事で、求人には「新卒でも年収1000万狙える」と書いてあって。「1年目で1000万はさすがに無理だろう」と思いながらも「チャンスがあるなら挑戦してみたい」と希望を胸に営業の世界に飛び込みました。
古瀬:実際に飛び込んでみて、その環境はどうでしたか?
せら課長:めちゃくちゃハードでした。8時半から朝礼が始まるんですが、5分、10分で終わる日もあれば、3時間続く日もある。支店の数字が悪ければ、支店長が「お前ら全員並べ」と。そこから「1件ずつ目標言ってみろ」「今日の見込みは?」「それで本当に取れるのか?」「取れなかったらどうするんだ?」「1時間後に報告しに来い」みたいな詰問が延々と続くんです。
古瀬:それは厳しいですね…。
せら課長:でも、よくも悪くも社会人1社目だったので「営業って、仕事ってこういうものなんだな」という先入観もなく、目の前の現実をそのまま受け入れていました。
評価軸が「結果が出てるか、出てないか」だけだったので、非常にシンプルでした。結果が出ていなければ悔しいから「もう絶対取ってやる」と自分を奮い立たせる。逆に契約さえ取れていれば何をしても許されたので、ある意味自由でした。
古瀬:契約は順調に取れていたのですか?
せら課長:最初の1年間、僕は契約が1件も取れなかったんです。正真正銘の最下位でした。「長期無実績社員」という不名誉な称号で、支店に名前がドーンと貼り出されて。
そんな中で、夜9時や10時から再び飛び込み営業に行ったり、夜中までかかって手紙を何十枚も書いて、翌朝一番でポスティングしに行ったり。手紙には「〇〇様の土地の件で、ぜひお話したく、本日夕方18時頃に改めてお伺いします」といった訪問予告を書いて、とにかく接点を持とうと必死でした。今思えば、本当にいろんなことを試していましたね。
全社トップへ。成果を最大化した「探偵」のような関係者営業
古瀬:1年間の苦しい時期を乗り越え、そこからどうやって成果が出るようになったのでしょう?
せら課長:2年目に入ってすぐ、ようやく初契約をいただけて。そこからは嘘のように、2年間は契約に困ることがなくなりました。
6〜8半期ぐらい連続で目標を達成しました。当時、達成者には報奨旅行でグアムに行ける制度があったんですけど、もう「またグアムか」と思うくらい、行き飽きるほど旅行をもらいました。最終的には、2年目か3年目で、営業3000人中6位になり、年収も1500万円を超えました。
古瀬:素晴らしいV字回復ですね。その成功の裏には、どんな秘訣があったのでしょうか。
せら課長:毎日毎日「どうしたら契約が取れるか」しか考えていませんでした。その中で、一つの結論にたどり着いたんです。それは、「誰もアプローチしていない土地を見つけられれば、勝率は格段に上がる」ということでした。
土地の登記簿は法務局に行けば誰でも取得できます。だから、少しでも価値のある土地を持っている方の元には、毎日ひっきりなしにいろんな不動産屋から電話やダイレクトメールが届くんです。お客さまは営業に対してうんざりしていて、業者だと分かった瞬間に電話を切るのが当たり前です。
古瀬:いわゆるレッドオーシャンで戦っていたわけですね。
せら課長:そうです。そこで戦っても、僕に勝ち目はない。そうであれば、「誰もアプローチできていない人を見つけるしかない」と思ったんです。そういう土地は、登記簿の所有者の名義が大正時代から変わっておらず、現在の持ち主が誰だか分からないことが多い。
そうなると、もう地道に聞き込みをするしかない。僕は「探偵」のようになりました。
古瀬:探偵ですか?
せら課長:例えば、ある土地に目星をつけたら、1年間、出勤前に必ずその土地の前を通るんです。そうすると、夏のある日だけ、見知らぬおばあちゃんが草刈りをしている、なんてことがある。「すいません、私このあたりを1年間ずっと通っているのですが、初めてお見かけしたので、お声がけさせていただきました。失礼ですが、こちらの土地の所有者の方ですか?」と話しかけると、「いやいや、私は親戚でね、甥に頼まれて手伝っているのよ」といった情報が手に入る。
古瀬:まさに探偵ですね。そこからどうやって本人に辿り着くんですか?
せら課長:古い登記簿の名前を手がかりに、「もしかして田中さんですか?」と尋ねて、「そうそう、田中よ」と返ってきたら、さらに探りを入れて「ちなみに〇〇町の田中さんであってますか?」と聞く。
そこで「〇〇2丁目の田中さん」というキーワードを一つ引き出せたら、今度はそのエリアの電話帳を全部調べて、「田中」姓の家に片っ端から電話をかけるんです。
50件あったとしたら、49件は「違います」「何のことですか」とあしらわれる。でも、1件だけ、明らかに反応が違う家があるんです。「え……?」って、一瞬言葉に詰まる。その反応で「ここだ」と確信するわけです。
そこから初めて、「実は〇〇の土地の件でして。非常に形の良い土地なのに、なぜあのままなのかなとずっと気になっておりました。私なりにいくつか活用プランを考えてみたのですが、一度ご挨拶に伺えませんでしょうか」とアポイントを取る。
そうやってお会いすると、「実は親から引き継いで5年、10年経つんだけど、どうしていいか分からなくてね…」といった、誰にも相談できずにいた潜在的なニーズが出てくるんです。
古瀬:顧客の課題を掘り起こしているんですね。
せら課長:はい。そこから「でしたら、〇〇というお悩みはありませんか?」と1つずつ課題を言語化し、解決策を提示して、やらない理由を全て消していく。そうやって、お客さまの心理状況を検討フェーズへと丁寧に導いていくんです。
そして、このプロセスで何より重要なのが「関係者営業」です。決裁者はご主人でも、その判断には奥さま、おじいちゃん、おばあちゃん、息子さんといった家族全員が影響します。周りの人に「あんな奴はやめておけ」と言われたら終わりです。
だから、ご家族にも丁寧に接し、おばあちゃんにはお菓子を持って挨拶に行く。そうやって周りを固めながら、最終的に決裁者の懐に入り込み「君に任せるよ」と言っていただく。この泥臭いやり方が、僕の勝ちパターンでした。
エンプラセールスにも通じる「関係者営業」のポイント
古瀬:その後、製薬会社に転職され、環境が大きく変わったそうですね。
せら課長:全くの別世界でした。不動産のような新規開拓ではなく、既に長年の取引関係がある病院が相手です。そして、目の前には常に競合他社の営業が5社、10社と並んでいる。キーマンである先生が廊下を通れば、皆が一斉に「おはようございます!」と声をかける。そんな中で、僕の話なんて誰も聞いてくれない。まさに取り付く島もない状況でした。
ここでも最初の1年は全く結果が出ず、営業475人中470番くらい。再び最下位グループからのスタートでした。
古瀬:不動産営業とは全く違う環境で、ご自身の強みをどう活かされたのですか?
さらに・・・



