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33歳未婚、家を買う。自由でいるために、私は働く【かつて、バリキャリだった私たちへ(3)】

有名大学を卒業してから、20代を仕事に捧げてきた。定時で帰れる日なんてなかったし、眠れないほど悔しい思いも、涙ぐむほどの達成感も、必死に打ち込んだ仕事がくれたものだった。たまに友達と集まった夜は、「私たちバリキャリかも」なんて茶化しながら、仕事の愚痴をアルコールで流した。


気付いたらあっという間に30代。


ライフイベントや心身の変化のなかで、キャリアに迷うことが増えてきた。変わらず仕事に打ち込む人、家庭に比重を置く人、人生をガラッと変えた人も。みんなそれぞれの道を歩き始めた。


かつて、バリキャリだった私たちへ。


ねえ、今どんな暮らしをしてる?

何に悩んで、何と戦ってる?

これから、どんな未来にしたいと思ってる?

乾杯して、飲み込んできたホンネを教えてよ。


女性の「キャリアの交差点」をリアルに描く連載コラム、今日のお相手は?




都心から30分ほど電車に揺られ、駅前の商店街を抜けた静かな住宅街。築年数は経っていそうだが、きれいに管理されたオートロックのマンション。


その一室のインターホンを鳴らすと、スピーカー越しにサキが明るく答える。


「どうぞ。うふふ、ついに買っちゃった」

「お邪魔します」


玄関に上がると、ほのかに良い香りがする。引っ越しの片付けがようやく落ち着いたという部屋は、日当たりの良い1LDK。リノベーションされた白い壁に囲まれた、こだわりの詰まった「城」だ。


キッチンから現れたサキは、MHL.の洗いざらしのシャツに、ラフにのせたRMKのリップがよく似合っていた。

彼女の指には、結婚指輪も、それを連想させるようなリングもない。けれど、その横顔は、私が知っている20代の頃の彼女よりずっと自信に満ちて、穏やかに見えた。


「これ、パートナーのおみやげ。ギリシャのだって」


グラスに注がれた白ワインは、太陽をたっぷり浴びたようなフルーティーな香りがした。サキは瓶詰めのオリーブを、イッタラの器にころんと移した。オリーブの豊かな塩気がワインとよく合う。


ひとしきり近況報告が終わったところで、私は切り出した。

 

「で、どうなの? ほんとのところ」


サキはワイングラスを夕日に透かして、楽しそうに目を細めた。





うふふ、マンション買っちゃった。


どうなのって、見ての通り。すっごく快適!


ここは都心からちょっと離れてるけど、リモート勤務もできるから不自由しないし、物価もそんなに高くないんだよね。今の稼ぎなら、デパコス買うのも、近所をふらっと飲み歩くのも、気兼ねなく楽しめる。それなりに自由に、気分良く暮らせてるんだよね


それで、ついにマンション買っちゃったってわけ。 中古の1LDKだけど、2人暮らしならこの広さで十分。ローン審査に通ったときは、嬉しくてちょっと震えたな。


このテーブルも、あの棚も、ぜんぶ自分で選んだ。誰の許可もいらない。 自分の稼いだお金で、自分の住みたい場所に、自分の好きなものと暮らすって、こんなに満たされることなんだなーって。


今の私にとってこの家は、結婚指輪よりもずっと確かな「お守り」みたいなものなんだ。この暮らしを続けるには、私が働き続けられることがすべてなんだよね。






きっと、この先も、結婚は選ばない


パートナーとは、相変わらず仲良くやってるよ。


彼はフリーランスのカメラマンだから、スケジュールに融通きくし、こうやってふらっと海外のお土産を買ってきてくれたりもしてさ。自分とは考え方が違って面白いし、友達の輪も広がるから、彼と一緒にいると刺激になるんだ。


でも、彼とはこの先も「結婚」っていう形は選ばないと思う


たぶん私、誰かに縛られるのが、根本的に好きじゃないんだよね。相手がいくら稼いでようが、何時に家に帰ってこようが、正直どうでもいい。その代わり、私の暮らしにもあれこれ言われたくないっていうか。


今のパートナーは男性だけど、極端な話、気の合う女友達とルームシェアする暮らしだって全然アリだと思ってる。






両親の「幸せの辞書」を刷り込まれて


うちの実家は都内のニュータウン。いわゆるサラリーマン家庭で、パパが大黒柱で、ママは専業主婦。職場恋愛だったんだけど、ママは社内でも有名なマドンナだったって。「早くいい相手を見つけて仕事を辞めたかった」って、ずっと言ってたな。


私や妹にも、「結婚はいいよ」「早く仕事はやめたほうがいい」って、それが人生のゴールみたいに刷り込まれて育った。でも、なんでか同じ道を選びたくない自分がいたんだよね。


だって、ずっと「働くこと」が好きだったから。


大学生のときに塾講師のバイトをやってたんだけど、生徒や保護者に感謝されて、その対価にお金までもらえるなんて、仕事ってなんて楽しいんだろう!って思ったんだよね。でも、それって両親の価値観とはちょっとズレていて。彼らは「仕事は一時的なもの、家庭が本番」って感覚だったから、どこかでモヤモヤしてたんだ。


両親の辞書に書いてある「幸せ」は、私の辞書には載ってないって、どこかで分かっていたんだと思う。






結婚は、私にはハマらなかった


そうは言っても、やっぱりどこかで「結婚しなきゃ」みたいな焦りはあってさ。 25歳を過ぎたころ、アプリで婚活っぽいこと、やってみたんだ。


そしたら、もうひどくて!

アプリで会う男たちって、なんであんなに高圧的なんだろう。 ルックスを値踏みしてくるし、女子大卒ってだけで私を家庭的だと思い込んでさ。


「家事は手伝うよ(お前も主体的にやれよ!)」

「子どもは2人ほしいんだよね(私が子どもを望んでるか一言も聞いてこないくせに!)」


って、平気で言ってくるからびっくりするよね。家事も育児も押し付けられて、キャリアも趣味もどこかで妥協して

――そんな未来が透けて見えて、一気に冷めちゃった。こんなやつらに寄りかかって生きていきたくないって、むしろ働くモチベが上がったよね。



その頃かな、最初の結婚ラッシュが来たのは。 友達の結婚式でドレスアップして、幸せそうな二人を見て、もらい泣きしちゃう。そういうのは、今でも大好き。


でも、それが「自分ごと」には、どうしてもならなかった。 なんていうか……私にはハマらなかった、って感じかな。






自分たちのために選んだ今の暮らし


そんな中で出会ったのが、今のパートナーだった。


仕事で知り合ったクリエイターさんのパーティーで、たまたま喋ったのが最初。お酒が進むうちに、彼の話し方や間合いの取り方が心地よくて。何より、私の仕事の話にじっと耳を傾けてくれたんだ。


これからも自立して生きていくために、キャリアを積んで昇進したい。」そんな私の野望も、バカにしたり卑屈になったりせずに「サキは格好いいよ」って言ってくれた。こんなに対等な会話ができる人、久しぶりかもって思った。


そこからは、どちらからともなく、週末に展示会に誘ったり、映画を観に行ったり。気づけば一緒に過ごす時間が日常になっていて、「この関係が心地いいね」って、籍を入れないままの暮らしが始まった。


親に報告したときは、さすがに少し緊張したなー。世間的に少数派って自覚はあったし、反対されるかもって覚悟してたよ。でも、パパもママも拍子抜けするくらいあっさり受け入れてくれた。友達も「それ、いいね!」って言ってくれてびっくりしたな。


制度的な不便さはあるけれど、ふたりで都度話し合って決めていけばいい。そうやって選んだ暮らしは、誰のためでもなく、私たち自身のためのものだから。






ワーママの尻拭い?別にそんなことないよ。


仕事はね、今、すごく楽しいんだ。 


制作ディレクターの経験も10年目になって、大きな仕事を任されるようになって毎日ワクワクしてる。部下の子たちの成長を見守るのも励みになるよね。


そりゃ、20代はしんどかったよ。  新卒で小さい広告代理店に入ったときは、とにかく食らいつくので精一杯。企画書と修正指示に追われて、終電逃してタクシーで帰って、シャワー浴びてまた出社、みたいな感じだったな。オフィスビルのコンビニに通い詰めて、おにぎりの種類にめっちゃ詳しくなったもんね。まあ、仕事が忙しすぎたお陰で、実家の「結婚しないの?」を跳ね除けられたのは良かったけど。


今は大手に転職したから、そこまでブラックじゃないんだ。お子さんがいる人も多いし、業務委託のクリエイターさんとやりとりする機会もけっこうあるから、世の中にはいろんな働き方があるんだなーって思う。


たまに「ワーママの尻拭いとか大変?」って言われるけど、別にそんなことないよSlackで即レスくれたり、寝かしつけ終わってから作業してるママさんもいる。逆に、残業しまくってるのに全然仕事が進まないおじさんとか、びっくりするほど納期を守れないフリーランスさんもいっぱいいるし。マジで「人による」としか言えないよね。






今が好きだから、変わりたくない。でも.......。


もうちょっと年収上がったら、犬飼いたいんだよね。 もふもふの、大きい子。 この家なら飼えるし、パートナーも犬好きだから、次の目標はそれかな。


子ども? うーん、欲しいなって思う気持ちがゼロかと言われれば嘘になるけど。


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ビストロちゃん

都内在住のミドサー。趣味はレストラン開拓とサシ飲み。とりあえずレバーパテを頼みがち。

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