コンサルキャリアで最も特筆すべきことは、「ネクストキャリアを見越した入社」の方が多いことでしょう。
そして、コンサルに入社した方の多くが直面するのが、以下のような問いです。
- いつファームを去るべきか
- コンサルを経由したからこそ行けるネクストキャリアはどこか
- 年収の増減をどう捉えるか
本シリーズでは、実際にコンサルを卒業してネクストキャリアを歩まれる方々にインタビューをし、ポストコンサルキャリアの実録を集めていきます。
実録:センターピン思考とCxO直轄経験が導いた新たな挑戦
新卒でNTTコミュニケーションズに入社し、海外市場の開拓やサービス開発に携わった野上さん。
戦略コンサルティングファームへ転職し、アーサー・ディ・リトル、A.T. カーニーとキャリアを重ねる中で「センターピン思考」という思考法や、「相手の琴線を見抜く力」を養ってきました。戦略コンサルタントとして、順調にステップアップを重ねながらも、心の奥には「もっと社会に直結するインパクトを生み出したい」という思いが募っていきます。
そして2021年、コンサルティングの次に選んだのは医療スタートアップUbie。製薬会社や医療機関、患者に直接価値を届ける事業に身を投じる決断でした。「ワクワクできるかどうか」を基準にキャリアを選び、今では製薬企業のCxOやグローバルな医療機関と共に新しい挑戦を進めています。
野上さんの歩みは「収入」や「安定」といった尺度だけでは測れない、「自分にとって本当に大事なこと」を軸にしたキャリアの在り方を示しています。コンサルを経て次の道を模索する人にとって、多くの示唆を与えてくれるはずです。
海外での市場開発/法人営業から戦略コンサルへ
2012年、野上さんは大学卒業後にNTTコミュニケーションズへ入社しました。担当したのは海外での市場開発や法人営業。東京を拠点にしながらロンドンやフランスを行き来し、海外進出を図る日系企業の支援にあたりました。
いわゆる法人営業や新サービスの開発をやっていました。東京と海外を行ったり来たりして、日系のお客様向けにサービスをつくっていました
海外で活躍する仕事でやりがいはあった一方で、次第に物足りなさを覚えるようになり、2016年に戦略コンサルティングファームのアーサー・ディ・リトル(ADL)へ転職します。
製造業に強みを持つ同社で、通信・IT・ハイテク領域を軸に、新規事業戦略やビジネスDD、新規事業の立ち上げ等を担当しました。ちょうど自動車メーカーがデジタル領域に力を入れ始めた時期でもありました。
当時はコネクテッドカーや、自動運転といったテーマが一気に増えていました。従来の自動車業界の議題というより、デジタルを軸にした新しいプロジェクトが多かったです
野上さんが特に印象に残っているのは、新規事業の複雑な論点に挑む中で培ったセンターピン思考でした。
ADL時代には、上司からは常に「結局何が大事なんだっけ?」と問われました。新しい技術を使った事業を考えると論点は無限に広がりますが、だからこそ最も重要な「センターピン」を見定めて思考する。これは、新規事業開発や新技術を活用するようなケースが多い、ADLらしい頭の使い方だったと思います。
A.T. カーニーで手にした相手の琴線を見抜く力
2019年、野上さんはADLからA.T. カーニーへと転職します。理由は明確でした。
ADLでは本当に恵まれていました。ただ、案件の多くは部長レイヤー事業部単位のテーマが中心でした。もっと『CxOレイヤーの経営アジェンダ』に挑戦したいと思ったのです
A.T. カーニーではその想いがすぐに現実になります。大手通信グループの社長直轄案件や、大手SIerの経営アジェンダなど、会社全体の方向性を左右するテーマに携わるようになりました。
経営トップの視点に立って、意思決定を支援する。これをADL時代には得られなかったスケール感でできたことは、まさに自分が望んでいた経験でした
特に印象に残る経験は、CxO向けの営業活動です。プロジェクトの合間に2〜3人のチームで約1週間という短期間で提案資料を仕上げ、見込み顧客の経営陣に直接プレゼンテーションするというもの。
当時の上司(パートナー)にお願いして営業活動の提案だけに専念させてもらいました。当時は1.5か月で7〜8本の提案をやり切りました。短期間で論点を見定め、インタビューや調査を重ね、迫力ある資料にまとめ上げる。その密度の濃い経験が血肉になりました
この過程で学んだのは、経営層の「琴線に触れる」ことの重要性でした。
提案活動なので、相手のキーマンに信頼してもらうことがすべてです。そのためにはいかに相手の琴線を見抜けるか、が鍵になります。上司からは『その人の眼鏡をかけて景色を見ろ』とよく言われましたね
相手の視点に立ち、相手のキャラクターに合わせた説得方法を考え、どうすれば案件を発注したくなるのか、徹底的に想像する。野上さんはこの営業経験を通じて、エグゼクティブ層の琴線を見抜く力を磨いていきました。
ADLではセンターピンを見極める力が鍛えられました。A.T. カーニーではそれを経営トップに響く形に翻訳する力を得たと思います
そう総括する野上さんにとって、両者の経験はキャリアの土台を得た重要な期間だったと振り返ります。
社会インパクトを求めてUbieに転職した背景
戦略コンサルタントとして6年間、メディアに掲載されるほどの大規模案件を次々に手がけてきました。しかし、心の奥には常にある感覚が残っていました。
大きな案件をやっているのは事実なんですが、どこかで「最終的には他人事だな」という気持ちがぬぐえなかったんです
経営にインパクトを与える仕事をしても、それが自分の生活や社会に直接返ってくる感覚は薄かったといいます。
さらに・・・



